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知らないことを「ググる人」は時代遅れ…東大教授が毎日使っている「無料で高性能の検索サービス」 202411

2024-11-16 10:54:00 | 気になる モノ・コト

知らないことを「ググる人」は時代遅れ…東大教授が毎日使っている「無料で高性能の検索サービス」
  プレジデントOnline より 241115  池谷 裕二


 生成AIの開発競争が激化し、高性能なサービスが次々と登場している。
東京大学薬学部の池谷裕二教授は「私が毎日のように利用しているのはAI回答エンジンだ。 
 従来型のインターネット検索では、表示されたホームページのリストから自分が求める情報を探さなくてはいけないが、回答エンジンならたった一回の検索で欲しい情報にたどり着くことができる」という――。
※本稿は、池谷裕二『生成AIと脳 この二つのコラボで人生が変わる』(扶桑社)の一部を再編集したものです――。

⚫︎仕事以外でも役立つ「回答エンジン」
「Perplexity」や「Genspark」や「Felo」を使っているでしょうか。
私は使わない日はないというほど、よく利用しています。
これらは「回答エンジン」と呼ばれます。質問を投げかけると、生成AIがインターネット上のコンテンツを効率よく要約してくれます。
便利で、仕事はもちろん、勉強や趣味にも大いに役立っています。
 とくにGensparkは高性能なだけでなく、全サービスが無料で利用できます(いずれ有料化される可能性は十分にあります)。
 また,和製の回答エンジンであるFeloも高性能で,この2つが二大巨頭になるかと思います。

 2024年10月末には、「ChatGPT search」という回答エンジンが実装されました。
これに対抗するように、同日にはGoogleも「Grounding」という名称で、新たな回答エンジンを出してきて、熾烈な争いをしています。エンドユーザーである私は急に便利になって喜んでいます。

 回答エンジンには、回答の正しさを確保するために、偽情報かどうかを確認しやすいように、根拠となる文献を提示してくれるという特徴があります。
 また、最近では、AI側でも自動でダブルチェックする機構を備えていることもあります。

⚫︎ネット検索と違い、最短で情報にたどり着く
 結果的に、従来型のインターネット検索を使う機会が減り、一部では「ググるのは時代遅れ」と言われるようにもなりました。
 インターネット検索で表示される結果は、関連のあるホームページのリストです。
利用者は、そのリストのうちから「これぞ」と思ったURLをクリックして、該当するホームページを読み、また検索結果のリストに戻っては、別のホームページに飛ぶ、といった作業を繰り返します。
 つまり、検索したとしても、その後に、何度もクリックする必要があり、それ自体が面倒なわけです。
 一方、回答エンジンは、そのリストの先のホームページの内容をまとめてくれるため、欲しい情報に一回の検索でたどり着くことが多いのです。
 この簡便さに慣れてしまうと、もはや古典的な検索エンジンに戻ることはできなくなります。私はまさにこれです。

⚫︎Googleはオリジナルサービスで対抗
 ただ、回答エンジンの利用が広がれば、困るのは企業です。
要約で事足りてしまえば、自社サイトへの訪問者が減少するのは目に見える話。
そのため、現在、世界のトップ企業の約35%が、回答エンジンによる自動検索(スクレイピング)をブロックしているそうです。
こうなると、回答エンジンの万能性は下がってしまいます。
 もちろん、当のGoogleにとっても、回答エンジンの登場は大問題です。
自社の主力サービスである「インターネット検索」が脅かされることになります。
 危機感を抱いたのか、同社が2024年に発表したのが、自社オリジナルの回答エンジン「Search Labs」です。これも無料で利用できるサービスです。

 Search Labsの設定をオンにしておくと、いつも通りGoogle検索をするだけで、画面上部にコンテンツの要約が表示されるため、便利です。
 要約部だけで必要な情報が得られるため、わざわざオリジナルのウェブサイトを閲覧する機会が少なくなりました。

⚫︎企業のインターネット戦略は転換期にある
 Googleが回答エンジンに参入したことは、ちょっとした事件です。
なぜなら、企業側としては回答エンジンをブロックし続けるのは得策ではなくなるからです。
 多くの企業はGoogle検索で上位表示されることを目指してSEO(Search Engine Optimization、検索エンジン最適化)対策を行っています。
 しかし、もしGoogleの回答エンジンによる利用をブロックすれば、当然ながら、グーグル検索の結果にも表示されなくなるリスクがあります。

 Search Labsの登場によって、企業はインターネット戦略を大きく変える必要性に迫られています。
 インターネット検索の上位表示ではなく、回答エンジンに効果的に要約されるように、自社コンテンツの作成を工夫する必要が出てくるかもしれません。

⚫︎「どの生成AIを選ぶか」が求められる時代
 生成AIは、開発企業のポリシーが反映され、それぞれに個性があり、特徴があります。「GPT-4o」、
「GPT-o1」、
「Gemini 1.5 Pro」、
「Claude 3.5」、
「Grok-2」
などの優れた生成AIが並ぶ中で、自分が何を生成AIに求めるかが大きなカギとなります。
 加えて、フランスの「Mistral AI」のように、コード生成に強みを持つAIもあります。
また、Meta社が提供する「Llama」のように、研究者が独自のAIを開発するうえで転用しやすいものもあり、幅広い選択肢があります。
 自分がどのような仕事をしているのか、どのような用途で生成AIを使いたいのか。
場面に応じて、どのAIを使うべきかを判断することは、今後の我々が求められるスキルの1つになるでしょう。

 どのAIがリアルタイムで性能が良いのか。
それを比較するために、私の場合、1つの質問に対して、
  ChatGPT、Gemini、Claude、Meta
 が提供するLlamaの4つのモデルが同時に回答してくれる独自のシステムを開発し、研究室のメンバーに提供しています。
 私自身も日々利用しています。

⚫︎長い文章の要約はGeminiが優れている
 どのAIが一番適した答えを返してくれるかがわからなくても、4つ同時に共通の質問を投げかけて、4つの回答を比較しながら、自分が求める最適な答えを探すことができます。
 同時に入力すると、どのモデルの回答速度が一番速いか、どのモデルが最も精度の高い回答を提供するかも見えてきます。
 たとえば、「あなたは大学の薬学部の教授です。このテーマで薬理学の期末テストの問題を作ってください」と入力すると、それぞれがテスト問題を作成してくれます。

 個人的には、問題文の作成はClaudeが最も得意だと感じています。
一方、長い文章の要約はGeminiが最も優れていると感じます。
また、論理的な思考や、数学的な思考は、o-1が圧倒的に優れているようです。

⚫︎小学生レベルの算数が正しく解けないことも
 たとえば、次の質問を読んでみてください。
「マラソンで4位の人を追い抜いた。今何位になったか?」

📗池谷裕二『生成AIと脳 この二つのコラボで人生が変わる』(扶桑社)

 皆さんの答えはどうでしたか? 以前、この質問を投げかけた際、
 Gemini、Claude、Llamaは「3位になりました」と回答したが、
唯一「4位になりました」と回答したのがChatGPTです。
正解は、ChatGPTが回答した「4位」です。
 人間でも「3位」と答えそうになるかもしれませんが、前に4位の人が走っているということは、あなたは現在5位にいるわけで、目の前にいる人を抜いたということは、現在は4位に上がったことになります。
 一般的に、この問題では文系の人ほど「3位」と答える傾向があることが知られています。生成AIは文系的な性質を持っているといわれ、このような小学生レベルの算数を正しく解くことも、ときに難しいのです。
 ただし、生成AIの精度は日々向上していて、2024年9月の時点では、Gemini、Claudeでも、この問題を解決できるようになっていることを確認しています。

⚫︎生成AIそれぞれに「個性」がある
mほかにも生成AIには回答が難しいとされる問題は、
「strawberryという単語にrはいくつあるか(正解:3つ)」
「6頭の馬のうちどの馬が一番早いかを調べたい。どうしたらよいか(正解:6頭で一斉に競争させればよい)」などがあります。
 このように生成AIが間違いやすい問題を調査した論文があるほどです。

 いずれにしても、ある問題を解決したい場合、「どの生成AIに質問すべきか」を事前に知っていると作業効率は大きく向上することは言うまでもありません。

 私が研究室のメンバーに提供している「生成AI比較システム」のようなサービスを、有料で提供している会社もあります。
 そのなかでも「チャットハブ(ChatHub)」は性能が高く、安心して推薦できます。
検索画面の一例を示します。
ChatHubを用いてOpenAI(左)、Claude(中)、Gemini(右)に当時質問をしたときの回答(出所=『 生成AIと脳』)


 ここでは「日本で一番有名な観光地はどこですか?」と質問したときの、ChatGPT4o、Claude 3.5、Gemini 1.5 Proの回答を比較した画像を載せておきます。
 それぞれに個性があります。皆さんはどの回答が好きでしょうか。



▶︎池谷 裕二(いけがや・ゆうじ) 東京大学薬学部教授 1970年生:静岡県藤枝市出身。
薬学博士。2002~2005年にコロンビア大学(米ニューヨーク)に留学をはさみ、2014年より現職。専門分野は神経生理学で、脳の健康について探究している。
主な著書はに『 海馬』(糸井重里氏との共著 朝日出版社/新潮文庫)、『 進化しすぎた脳』(朝日出版社/講談社ブルーバックス)、『 ゆらぐ脳』(木村俊介氏との共著 文藝春秋)、『 脳はなにかと言い訳する』(祥伝社/新潮文庫)、『 のうだま』『 のうだま2』(上大岡トメ氏との共著 幻冬舎)、『 単純な脳、複雑な「私」』(朝日出版社)、『 脳には妙なクセがある』(扶桑社新書/新潮文庫)、『 脳はみんな病んでいる』(中村うさぎ氏との共著 新潮社)、『 メンタルローテーション』(扶桑社)、『 脳は意外とタフである』(扶桑社新書)などがある。
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⚠️ 「6メートル以上の揺れ」が「10分以上」続くかもしれない…近畿圏を襲う「巨大地震」のすさまじさ 2024/10

2024-10-31 22:43:00 | 気になる モノ・コト

「6メートル以上の揺れ」が「10分以上」続くかもしれない…近畿圏を襲う「巨大地震」のすさまじさ
 現代ビジネス より 241031 
 山村 武彦(防災システム研究所 所長・防災・危機管理アドバイザー)


⚫︎タワマンや高層オフィスに「飛ばされ防止手すり」
 東日本大震災の時、震源から約700km離れた大阪府咲洲庁舎(愛称:さきしまコスモタワー)を周期6~7秒の長周期地震動が襲った。咲州庁舎は大阪湾に面した大阪市住之江区南港北(咲洲)の人工島にある。高さ256m、地上55階・地下3階建ての超高層ビル。
 大阪府の調査によると、地上の最大震度は「震度3」だったにもかかわらず、咲州庁舎の大揺れは約10分間続き、最上階の52階では短辺方向片側に最大1.37m、長辺方向に0.86mの揺れ幅だった。
 咲州庁舎・咲州コスモタワーの主な被害は、内装材や防火戸等の一部で破損が合計360ヶ所。内訳は「中央廊下の防火戸のゆがみ49ヵ所」「消火栓上部鉄板のへこみ33ヵ所」「事務所・テナントの天井の落下・床の浮き59ヵ所」「階段室の壁面ボードのゆがみ・亀裂・落下72ヵ所」「階段室床面の浮き・亀裂・はがれ8ヵ所」「中央廊下・居室内の壁面ボード亀裂・パネル落下110ヵ所」「電気室吹き付け材の落下4ヵ所」「トイレ洗面台の排水トラップの損傷・その他25ヵ所」。また、エレベーター全32基が停止。うち25基は地震時管制運転装置が正常に作動したものだったが、4基でロープの絡まりにより男性5人が閉じこめられ、全員救助まで5時間近くかかった。24時間以上過ぎた12日夜になっても、エレベーター8基がすぐに復旧しなかったという。
 咲州庁舎に近い天保山では約60cmの津波が到達している。これが、南海トラフ巨大地震だったら……。

 令和6年能登半島地震の約8か月前、23年5月5日14時42分、石川県能登地方で地震が発生。震源は能登地方で震源の深さは10km、マグニチュードは6.3で、石川県珠洲市で最大震度6強が観測された。
 私は何度が珠洲市に調査に行っているが、この地方では数年前から群発地震が発生していたが、今回はいつもより少し大きな地震だった。この地震による被害は、死者1人、重軽傷者34人、建物被害は354棟、土砂災害も数十件発生している。

 驚いたのはその後である。震源地石川県能登地方から約300km離れた大阪の「あべのハルカス(地上60階、高さ300m)」で、エレベーター4基のうち3基が地震発生4分後に緊急停止した。そのうち60階展望台までのエレベーター2基も緊急停止している。あべのハルカスのある大阪市阿倍野区は震度1だったのに……。
 ビル管理者によると、エレベーターは地震時管制運転装置が揺れを感知して、最寄り階に緊急停止し扉を開いて利用客を下し利用客に大きな影響はなかったという。つまり、エレベーターの安全装置が正常に働いたことになる。エレベーターの感震装置が捉えた揺れは長周期地震動であろう。短周期の揺れは距離に反比例して地震波が減衰し弱くなっていく。

 一方で東日本大震災の咲州庁舎の時と同じように、長周期地震動は減衰することなく、地震波が遠くまで伝播するのが特徴だ。ただ、この日の地震では、大阪市内のほかの高層ビルでエレベーター緊急停止は起きていない。
 通常、エレベーターは短周期地震動で震度4~5程度で緊急停止するように地震時管制運転装置が設定されている。あべのハルカスだけが緊急停止したということは、あべのハルカスビルの固有周期と、伝播してきた長周期地震動がたまたま共振して緊急停止したか、長周期地震動に関する感震停止装置の設定が過敏だったものと思われる。
 いずれにしても、長周期地震動のすごさを再確認した事例だった。

 国のモデル検討会では、近畿圏の一部では揺れ幅6m以上の長周期地震動が10分以上続く可能性があると推計している。とくに00年以前に建てられ、長周期地震動対策ができていない超高層建物では、激しい揺れが襲うと思われる。
 超高層ビルの上層階が6m以上揺れるとすると、高層オフィスやタワーマンションの上層階でも、揺れ幅4~5m以上の揺れになる可能性がある。固定していない家具類が吹っ飛んだり、倒れたり、大きく移動する可能性がある。人が立っていられない揺れで、何かにつかまらなければ飛ばされる危険性がある。
 こうした過去に経験したことのない大揺れに備えるために今やることは、当然、事前にすべての家具や電化製品をしっかり固定すること。そして、人が大揺れで飛ばされないように安全ゾーンを設定し、そこの堅固な壁や床などに「飛ばされ防止手すり」を複数個所設置する必要がある。
 長周期地震動対策については、前述した<じつは「南海トラフ巨大地震」では「東京」も大きな被害…その具体的な想定の数値>、<名古屋を「とてつもない揺れ」が襲う…「南海トラフ巨大地震」発生時の「愛知県の凄すぎる被害想定」>の項を参照。

 さらに関連記事<「南海トラフ巨大地震」は必ず起きる…そのとき「日本中」を襲う「衝撃的な事態」>では、内閣府が出している情報をもとに、広範に及ぶ地震の影響を解説する。
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読書好きあるあるは「本棚が足りない」「帯は保存」  楽天ブックスが「読書に関する調査」結果を発表

2024-10-26 11:00:00 | 気になる モノ・コト

読書好きあるあるは、「本棚が足りない」「帯は保存」  楽天ブックスが「読書に関する調査」結果を発表
 OVO より 241026 


 読書の秋。楽天ブックス(楽天グループ・東京)の調査では「食欲の秋」には負けているものの、多くの人が秋の読書を楽しむようだ。
 10月27日~11月9日までの「秋の読書週間」(読書推進運動協議会)に先がけた調査では、読書好きあるある、など思わずうなずく面白いエピソードが出てきている。

 全国の楽天ブックスユーザーに9月13日に調査、1万96人が回答した。
   本を毎日読む人は28.5%、
     週に3~4回が17.1%、
     週に1~2回が15.8%で、
6割は週に1回以上読書をしている。
 どんな時に本を読むのかたずねると、
「休日のゆっくりしている時」(57.9%)、
「就寝前の時間帯」(57.4%)が多い。

 「◯◯の秋」といえば「読書」と答えた人も6割。「食欲の秋」(74%)に少々負けている。
 でも4割の回答者が「秋の読書週間」を知っているとし、期間中に読書をする予定がある人は51.3%と半数を超えた。
 ちょっと意外だったのは、本を選ぶ際に参考にするものを世代別で聞いた結果。20~30代では「書店」が1位で、本を実際に手に取れる書店で本を選びたいというニーズが高い。若い世代の方がネットを多用するというのは偏見のようで、逆に40代以上のユーザーの間で「インターネット検索」が多く、ネットを使って手軽に読みたい本を探す傾向が見られた。

 週に1回以上読書をすると答えたユーザーに「読書あるある」を聞いたところ、
  1位は「本棚のスペースが足りない」(54.5%)、
  2位は「帯は捨てずに大事に保存する」(50.1%)、
  3位は「読みたい本が多すぎて積読(つんどく)状態になっている」(46.6%)など。
ほかにも「作品の中に登場する場所に行ってみたくなる」「食事を忘れて読書に没頭してしまう」「気に入った作者の本は片っ端から読む」など、さまざまなエピソードが寄せられた。
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このままでは"落とした財布が戻る日本"が失われる…「安全大国」でじわじわ進行している"想定外の犯罪" 2024/10

2024-10-20 21:22:05 | 気になる モノ・コト

このままでは"落とした財布が戻る日本"が失われる…「安全大国」でじわじわ進行している"想定外の犯罪"
  プレジデントOnline より 241020  大橋 牧人


 日本の治安悪化が深刻化している。ジャーナリストで元日本経済新聞編集委員の大橋牧人さんは「山間部にポツンとある一軒家で強盗が多発している。
 かつては事件の発生数も少なかったが、そのことに安心した不用心な家庭が狙われるという“盲点”を突かれてしまった。犯罪の国際化も進んでおり、いままでは考えられなかった凶悪事件も発生している」という――。(第2回)

※本稿は、大橋牧人『それでも昭和なニッポン 100年の呪縛が衰退を加速する』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

⚫︎山間部で次々と起きた“ポツンと一軒家強盗”
 栃木、長野、群馬、福島の4県で、2024年4月末から5月中旬にかけて、山間部の住宅の少ない地域にある民家を襲う緊縛強盗事件が相次いで起きた。被害に遭ったのが、いずれも周囲から孤立する民家で、“ポツンと一軒家強盗”とも呼ばれるこれらの事件。

 犯行は、同一犯による可能性が高いとみられる。普段はのどかな場所で起きた突然の凶行に、住民は「この辺りで、こんな事件は初めて」と慄(おのの)いていた。

 4件の緊縛強盗事件で、最初に起きたのは、4月30日。栃木県日光市で、一人暮らしの75歳の男性が就寝中に襲われた。男性は、手足を縛られ、暴行を受けた上、現金3万円余りの入った財布を奪われた。押し入ったのは、20代くらいの2人組の男で、片言の日本語で金を要求した。
 続いて、5月6日には長野県松本市で、8日には群馬県安中市で、さらに、14日には福島県南会津町で、民家に押し入った複数の男に住民が現金を奪われる事件が起きた。共同通信によると、栃木、群馬、長野3県警の合同捜査班は、同月16日、栃木県で起きた強盗事件の被害者名義のキャッシュカードで現金を引き出そうとしたとして、窃盗未遂の疑いでベトナム国籍の男(25)を逮捕。出入国管理・難民認定法違反(不法残留)容疑で同国籍の男(23)を逮捕した。

 最近、都市部では、防犯カメラがあちこちに設置され、何か事件が起きても、短時間で犯人の足跡が追えるようになった。しかし、人通りが少なく、防犯カメラもあまりない地方の山間部は、一種の盲点だ。むしろ、強盗犯に狙われやすい危険地帯になりつつある。

⚫︎自治体や警察の“盲点”を突かれている
 事件が起きた現場近くの住民が嘆いたように、従来、こうした地域では、あまり凶悪な事件は起きなかった。それが危険な場所になったのは、高齢化と過疎化が進み、コミュニティーの交流も減っていることが原因だ。

 それでも、過疎地の多くの住民の安全に対する感覚は、平穏だった昭和の頃とあまり変わらず、自宅に鍵をかけない住民も多い。住民の意識に加えて、自治体、警察もこうした犯行について、あまり留意してこなかった。今、悪い奴らにその盲点を突かれている。

 2023年には、関東地方などの閑静な住宅地で、いきなり刃物や鈍器で住民を襲う強盗事件が続発し、殺された被害者も出た。実行犯を操っていたのが、東南アジアに潜む複数のグループだった事実も世間を驚かせた。世界のデジタル化が犯罪の姿を変えつつある。

⚫︎要人テロの危険性はアメリカ並みになっている
 治安の盲点を突かれたといえば、2022年、23年と続いた元首相、現首相へのテロ行為も忘れるわけにはいかない。

 2023年4月15日、岸田文雄首相が衆院補選の応援に訪れていた和歌山県内の演説会場で爆発事件が起きた。和歌山県警は、この事件で、木村隆二容疑者(24=当時)を威力業務妨害容疑で現行犯逮捕した。まるで再現劇のような出来事だった。岸田首相が襲われた爆発事件は、その状況が、前年7月、奈良市で参院選の応援演説中に安倍晋三元首相が銃撃された事件と、そっくりだったからだ。

 国政選挙の地方遊説で、支持者らに紛れた被疑者が手製と思われる“武器”を使って襲った。岸田首相は難を逃れたが、その後の捜査で、爆発物の殺傷能力は予想以上に高いことが分かった。和歌山県の鄙(ひな)びた漁港で起きた衝撃的な事件は、要人が一般市民に触れ合う現場での襲撃だった。
 岸田首相が無事だったこともあり、メディアはほとんど報じなくなったが、問題の深刻さは少しも減じていない。

 2024年7月13日には、米国のドナルド・トランプ前大統領が東部ペンシルベニア州で演説中に銃撃を受けた。トランプ氏は右耳を負傷しただけで、命に別状はなかったが、ほんの少しの差で、暗殺という最悪の事態に至るところだった。米国では、過去4人の大統領が暗殺されている。要人テロという点で、日本は米国に近づいているようだ。

⚫︎日本の「安全神話」は崩壊しつつある
 日本で相次ぐ凶悪な事件に共通するのは、近年のSNSやネット情報の急拡大だ。

 手製の銃器や爆発物は、その気になれば、ホームセンターやネット通販で入手した材料で簡単に作れる。資産家の個人情報も、以前に比べずっと入手しやすくなっている。犯行の指示は、スマホさえあれば海外からでも簡単だ。昭和の高度成長期に形作られ、平成、令和と引き継がれてきたはずの「安全神話」は、目に見えて錆びついてきた。

 それにも拘らず、社会全体の構えは、ほとんど変わっていない。日本社会の強さの象徴だった安全・安心は、成功体験のぬるま湯に浸かっているうちに、少しずつだが、確実に根腐れしつつある。

 安倍元首相暗殺事件の後、首相や閣僚、首相経験者ら要人の遊説については、警察庁が直接、警備計画を管理していた。以前に比べれば、警護体制は強化しているようにみえたが、それでも、事件は起きた。

 会場で手荷物検査は行われず、パイプ爆弾をバッグに隠し持った若い男が易々と群衆に紛れ込み、首相からわずか10メートルの距離まで近づいていた。現場で木村容疑者を取り押さえた地元漁民の一人は「みんな手ぶらで来ているのに、あんな大きなバッグを背負った人間は場違いだった」と証言している。一般人が違和感を覚えていたのに、木村容疑者は、事前に警察官や関係者に誰何(すいか)されることもなかった。

⚫︎警護計画に不備はあったが、事前審査で指摘できなかった
 もし、爆発物が地面に落下した直後に爆発していたら、首相の生命に危険が及ぶ可能性もあった。幸い、爆発までに時間があったが、現場の映像では、首相の足元に爆発物が落ちた直後、SPの一人が足で蹴っている。これは、欧米の要人警護の常識からみれば、危険の大きい動作だ。

 爆発物が、これに誘発されて爆発する可能性もあった。現職の首相や一般市民をこれほどの危険に晒したことは、警察にとっても、選挙関係者にとっても、大失態だった。事件後、県警は容疑者宅から鋼管のようなものや工具類、粉末を押収したが、粉末の鑑定で、黒色火薬の主成分が含まれていたことを確認し、容疑者が自作したとの見方を強めたという。

 日本経済新聞によると、2023年6月1日に警察庁が公表した事件に関する報告書は、次のように指摘している。和歌山県警と主催者側との侵入防止策の調整が不十分で警護計画の内容に不備があったが、警察庁も事前審査で指摘できなかった――。なぜ、こんなことになったのだろう。

 安倍元首相の事件を含め、現行犯逮捕された容疑者について、マスコミは、家庭環境や政治的背景を大きく報じた。しかし、優先すべきは、これまで安全・安心が当たり前と思われていた日本社会の治安状況の再点検ではないか。

⚫︎「手製の凶器」の作成が容易になってしまった
 昭和の昔から、定職に就かず、家庭に引きこもる若者は少なからず存在した。その中には、金属バットや刃物で家族や周囲の人間を襲う者もいた。しかし、銃や爆弾を自作して、要人を襲撃する犯罪はほとんどなかった。

 地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教の摘発以降、政治や宗教の過激派による組織的なテロ事件も影を潜めた。戦後の混乱期などには、要人へのテロはあったが、遠い過去の出来事だ。

 まして、銃や爆発物の規制が厳しい日本では、長い間、一般の個人がこうした武器を入手するのは困難だった。だから、選挙となれば、より多くの聴衆の動員や触れ合いが優先される。首相や閣僚、政党幹部の遊説現場での警備は米国などに比べて、緩いままだ。

 しかし、実態をみれば、ネット情報の急拡大で、銃や爆発物を手作りすることは難しくなくなった。その状況の変化が、安倍元首相や岸田首相襲撃事件で、「ローンウルフ(一匹狼)」と呼ばれる個人による犯行を可能にした。ネット社会の影の部分がテロ行為などの重大犯罪を助長しているのに対し、治安当局も政党の側も、まだまだ「日本の社会は安全だ」という思い込みから抜け切れていないのではないか。

 要人を守る側の対応は、昭和時代からあまり変わっていないのが実情だ。

⚫︎これまでになかった凶悪犯罪が多発
 岸田首相襲撃事件から1カ月余り後の2023年5月に開かれたG7広島サミットでは、厳重な警備体制が敷かれたが、一部の参加国からは不安の声も上がっていたという。
 2025年には参院選がある。「選挙には、政治家と有権者の触れ合いは欠かせない」という政党の論理に押し切られれば、重大な事件がまた起きないという保証はない。

 ここ1、2年前から、全国各地で、これまでにはなかったタイプの凶悪犯罪が多発している。見ず知らずの他人をいきなり刺殺したり、家族連れで賑わうショッピングセンターに車を突っ込ませて死傷者を出したり、といった不条理な殺傷事件が頻発。
 日本の安全・安心の象徴である新幹線も通勤電車も安全な場所とは言い切れなくなった。

 街に増えている無人販売店では、代金を払わずに商品を持ち去る窃盗事件が後を絶たない。回転寿司などの外食チェーン店では、湯呑みや醤油瓶を舐めて戻したり、他人が注文した皿に唾をつけたりする「外食テロ」事件もなくならない。

 無人販売店の窃盗事件と回転寿司チェーン店などでの「外食テロ」からみえてくるのは、「性善説」に立った店の仕組み、システムである。
 たいていの無人店には誰でも入店できる。商品ケースに鍵はかかっていない。客は、そこから商品を取り出して、自己申告で入金し、買い物を終わる。日本以外の国の常識なら、これでは、盗んでください、という店のしつらえだ。

 実際、こんな店を海外で出したら、あっという間に店内の商品ケースは空になり、ついでに、入金ボックスも壊されて現金も盗まれるに違いない。

⚫︎犯罪認知件数は2年連続で増加している
 外食テロについても、無人化の影響がないとは言えないだろう。昨今の回転寿司チェーンは、予約から、入店、着席、注文、勘定まで、全てスマホやタブレット端末で済ますことができる。

📚大橋牧人『それでも昭和なニッポン 100年の呪縛が衰退を加速する』(日経プレミアシリーズ)

 確かに、お客にとっては、一々店員を呼ばなくても、好きな時に好きな品を注文できて、便利で気軽になった。だが、店員とのコミュニケーションがないということは、直接、監視されないということでもある。
 だから、ちょっとした悪戯や悪のりで、醤油瓶の口を舐めたり、回っている寿司に手を付けてレーンに戻したり、という悪質な行為に走る者も出てくる。さらには、その様子をスマホで撮影して、SNSにアップして自慢する連中もいる。

 店側が無人化に突き進む理由は、人手不足の緩和とコストダウンだ。しかし、一度、窃盗や外食テロに遭うと、直接の被害にとどまらず、風評被害も小さくない。個人店では、廃業に追い込まれかねない。

 日本では、財布を落としても、ほとんど警察や駅などに届けられて、無事に返ってくることが多い――ネット上には、「戻ってくるなんて思わなかった。こんなことは我が国では考えられない」といった外国人観光客らの感激、称賛の声があふれている。

 確かに、かつてそれは、日本の常識であり美点だった。だが、貧すれば鈍するとも言う。もう、日本人の正直さを当てにしたビジネスのあり方は通用しないのかもしれない。
 警察庁が2024年2月に発表した「令和5年(2023年)の犯罪情勢」によると、23年の刑法犯認知件数は70万3351件で、前年に比べて17%増加した。
 刑法犯認知件数は、02年の285万4000件をピークに、戦後最少となった21年の56万8000件まで、19年連続で減少したが、22年から2年続けて増加している。

 安全・安心ニッポンに黄色信号といったところだ。
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熊本地震、北海道地震、能登半島地震・・・なぜ発生確率の低い地域ばかりで大地震が起こるのか? 202410

2024-10-13 01:40:00 | 気になる モノ・コト

熊本地震、北海道地震、能登半島地震・・・なぜ発生確率の低い地域ばかりで大地震が起こるのか? 【科学ジャーナリスト賞・菊池寛賞・新潮ドキュメント賞 トリプル受賞で注目の新聞記者が語る】
 よみタイ より 241013


 熊本地震、北海道地震、能登半島地震・・・なぜ発生確率の低い地域ばかりで大地震が起こるのか? 【科学ジャーナリスト賞・菊池寛賞・新潮ドキュメント賞 トリプル受賞で注目の新聞記者が語る】
「30年以内に70〜80%」とされる南海トラフ地震の地震発生確率が、実は20%かもしれない ――。そんな衝撃の事実を明らかにした『南海トラフ地震の真実』。
 本書は、科学ジャーナリスト賞、菊池寛賞、新潮ドキュメント賞のトリプル受賞で瞬く間に話題の書となった。執念の調査報道でその事実を突き止めた東京新聞の小沢慧一記者に話を聞いた。


⚫︎「南海トラフ地震臨時情報」の科学的根拠は薄弱
――2024年8月8日、宮崎県の日向灘で最大震度6弱の地震が起き、その日のうちに気象庁は「南海トラフ地震臨時情報」を出しました。2019年の運用開始から初めてのことでしたが、この臨時情報の問題点について、すでに『南海トラフ地震の真実』でも書かれていましたね。
 はい。臨時情報については、以前より地震学者らから科学的に疑義が呈されていました。名古屋大学の鷺谷威教授(地殻変動学)によれば、臨時情報の根拠となっている統計自体に問題があると。「内閣府が検討のために寄せ集めたデータで、学術的意義はほぼない」と言っています。もともと私も疑問視していたので、8月8日に臨時情報が発令されたときから、その問題点を指摘する記事を準備していました。

 しかし、もし本当に巨大地震が起きたらどうするのか。多くの人々に油断を与えることになるかもしれないと、東京新聞の社内でも掲載するかどうか議論になりました。
 そのため、発令から1週間後の呼びかけが終了したタイミングで記事を出しました(東京新聞8月15日付「南海トラフ臨時情報の疑わしさ…地震学者が語る「科学的にあまり意味はない」とデータごちゃまぜの内実」)。

小沢慧一氏
――特に問題だと思われる点は?
 科学的根拠がほとんどないにも関わらず、政府は危機感を煽る情報を出しただけで、その対策やコストを自治体や企業、個人に丸投げしたことです。だから過剰な対応が生まれた。夏休みシーズンということもあり、ビーチを閉鎖した和歌山県の白浜町では5億円の損害となり、JRでも一部運休や減速運転をしました。ホテルや旅館もキャンセルが相次ぎ、花火大会も中止に。さらに水や米の買い占めも起きた。
 この件で政府は被害総額を調査しないと言っていますが、野村総研によれば、旅行関連支出への影響は約2000億円に及ぶと試算しています。(※)

 ただし、科学的には問題があったとしても、地震に備えることは必要です。だからこれは、あくまで防災の問題として捉えるべきで、科学的な正当性があって出されたものではないと認識することが重要です。

 加えて言えば、臨時情報が発令された1週間という期間も、科学的に安全性が確保されたから終了したわけではありません。これは、制度をつくった当時、社会的に許容できる期間を住民にアンケートしたところ、1週間という結果が出たのでそうなっただけです。いわば政策的な判断です。1週間が過ぎても注意しなくていいというわけではありません。

⚫︎科学と防災を混同してはいけない
 なぜ科学と防災を切り分けて考えることが大事なのか。それは低い確率だったとしても、一たび巨大地震が起きれば、命に関わるからです。科学的にはあまり起こらないだろうと言われていても、防災の観点からは対策が必須です。低確率地域のほうが、高確率地域よりも先に地震が起きるかもしれない。
 野球で言えば、選手の打率だけ見ても、高打率のバッターと低打率のバッターで、ある試合でどちらが先にヒットを打つかわからないのと同じです。事実、能登半島地震の震源地となった石川県は大部分が地震発生確率0.1~3%でした。

 他にも問題はあります。臨時情報で「空振り」が続けば、次第に信用されなくなるでしょう。あるいは、大きな地震が起きるときには、臨時情報のように何らかの事前情報が出されるはず、という誤解が生まれる可能性がある。
 逆に言えば、警戒する情報がなければ、準備しないという行動につながってしまう。

 こうした情報が出されれば、その時は一時的に防災意識が高まるかもしれませんが、大地震の前に予兆となる地震が起きないことのほうが圧倒的に多いのです。
 つまりほとんどの地震は突然起こる。臨時情報がなくても、いつ地震が起きてもいいように備えておくことが必要なのです。

 これと似たような状況として、地震発生確率が高い地域では、普段から警戒していることもあり、防災意識が高くなりやすいかもしれませんが、低確率地域では油断が生まれやすいということがあります。
 図1は政府の特別機関である地震調査研究推進本部が出した「全国地震動予測地図」の上に、1979年以降10人以上の死者を出した地震の震源地を落とし込んだものですが、熊本地震、北海道地震、能登半島地震など、確率が低い地域ばかりで大地震が起きていることがわかります。


図1 「全国地震動予測図」に1979年以降10人以上の死者を出した地震の震源地を落とし込んだ図(小沢氏提供)。

 地震保険の加入率を調べると、愛知県、徳島県、高知県など南海トラフ地域で高い加入率となっていますが、能登半島地震の震源地となった石川県の加入率は全国平均以下でした。
 また、低確率地域の自治体は、そのことを理由に安全性をアピールし、企業誘致活動を行っていました。発生確率を公表することで、低確率地域にとっては、それが「安心情報」になっているのです。

⚫︎「30年確率」は無理がある
――なぜこれほどまで予測が外れるのでしょう。
 それは、数十年から数百年ごとに起きるとされる海溝型地震と、数千年、数万年単位で起きる内陸の活断層型地震を30年という短い期間に当てはめて予測しているからです。

 数千年スパンで起こる地震を、30年というものすごく短い期間に圧縮して確率を出すことに無理がある。ではなぜ30年なのか。これも科学ではなく、防災の観点から決まったことです。
 どういうことかというと、30年というのは、人が人生設計をするときにちょうどいい長さだからです。地震学的な意味はありません。住宅ローンも約30年、一世代も約30年。防災に携わる人たちからの強い要請で、30年くらいにしておかないと危機意識を持ちにくいということで決まったのです。

――ここでも科学と防災の対立構造がありますね。
 そうです。南海トラフ地震だけ、他の地域では用いられていない予測モデルによって確率が導き出されています。南海トラフでも他の地域と同様のモデルで計算すれば――多くの地震学者が現在の科学ではそれが一番妥当だと考えているのですが――70~80%ではなく、20%まで下がってしまうのです。

 ではなぜ20%よりも70~80%という数字が出回っているのか。それは科学よりも防災が優先されたからです。
 確率を低くすると防災意識が低下する、さらには莫大な防災予算が削られるなどの懸念が、防災関係者の間に強くにありました。

⚫︎誰も「一次情報」に当たっていない
 南海トラフだけに適用されている予測モデルは、「時間予測モデル」と呼ばれるもので、これは1980年に島崎邦彦東京大学名誉教授(当時は助手)が論文で発表したものです。確かにこのモデルを適用すると、過去に起きた地震の発生時期をうまく説明することができた。
 しかし、この「時間予測モデル」は高知県の室津港の水深データなどを根拠につくられているのですが、室津港の水深データは1930年に旧東京帝国大学の今村明恒教授が発表した論文に掲載されたものを引用していて、その出典をさかのぼってみると、江戸時代に書かれた古文書に行き当たります。

 さらに取材を進めると、その古文書のデータは、また別の人物が記した「手鏡」と題された史料を引き写したもので、この手鏡に書かれたデータも、また別の文書の写しであることがわかりました。ただ、その元となった文書までは見つけることができませんでした。このあたりのことは、『南海トラフ地震の真実』に詳しく書いています。
 つまり、島崎教授が「時間予測モデル」の根拠としたデータには、原典(今村論文)の原典(江戸時代の古文書)の原典(手鏡)のさらにまた原典が存在し、大元の原典までは誰もたどれていないのです。
 転記に次ぐ転記で、写し間違いも散見され、これでは信頼に足るデータとは言えません。それに江戸時代のことですから、測量の精度にも限界があったことでしょう。これに加えて、海外でも「時間予測モデル」に否定的な論文が複数出されています。

 このように、非常にあやふやなデータをもとに「時間予測モデル」がつくられており、それが南海トラフ地震の地震発生確率70~80%の根拠となっているのです。

⚫︎確率信仰の罠
 問題は、やみくもな確率信仰にあると考えています。防災関係者は、高確率(70〜80%)でなくなると、国民の防災意識が低下したり、予算が削られると考え、低確率(20%)の公表を渋りました。

 図2を見てください。日本の面積は世界の面積の0.25%しかないにもかかわらず、世界で起きたM6以上の地震の20%は日本の周辺で起きています。マークされた部分を見ると日本は覆いつくされていますよね。
 だから日本地図だけを見て、その中で発生確率が高い、低いと論じることは、テストの点数が10点なのか20点なのかを争うようなものです。いずれも赤点です。意味がないどころか害ですらあります。日本のどこにいても大地震に遭う可能性があると思って行動したほうがいい。


 図2 世界で起きたM6以上の地震の震源地(出典/防災白書)

 現在の科学で30年発生確率を出すことは限界があり、社会的にも弊害が大きいと考える地震学者は多く存在します。確率を出すとしても、それはどのような科学的根拠に基づいて計算されたものなのか、前提となる仮説に誤りはないのかなど、政府や専門家の発表を鵜吞みにせず、きちんと検証することが欠かせないと考えています。

――「時間予測モデル」を南海トラフ地震の発生確率の算出根拠にすることは、以前から多くの地震学者が異議を唱えていたそうですね。
 はい。たとえば、先ほどご紹介した鷺谷教授は、さまざまなメディアの記者にたびたび訴えていたそうです。しかし報道されることはなかった。
 報道することにリスクがあると考えたからでしょう。東京・中日新聞でも、この事実を報道することについて、かなり議論が紛糾しました。確率が低かったとしても、もしも地震が起きれば、甚大な被害が想定されることから、この報道によって命を落とす人がいるのではないか、かえって悪影響を与えるのではないか、と。

 しかし、これまで報道されなかったことで実際に起きたことは、能登半島地震でもわかるように、低確率地域での深刻な被害です。南海トラフ地震の危険性だけをことさら大きく取り上げることで、他の地域に油断が生まれた。
 私が言いたいのは、南海トラフ地震が過大評価されているということではなく、それ以外の地域もきちんと対策をしないといけないということです。

――受賞された新潮ドキュメント賞の選評では、「地震の発生確率が、これほどまでに危ういデータに基づいていたことを告発する内容は圧倒的」(池上彰氏)、菊池寛賞の選評では、「一人でひたすら問題を追いかけた。専門家という言葉、政府の発表に、私たちが惑わされやすいことに大いなる警鐘を鳴らしている」(阿川佐和子氏)など、丹念な調査報道が評価されました。

 そのようにおっしゃって頂けるのはありがたいことですが、本来これは記者として基本的な仕事だと思います。むしろそうした当たり前のことが報道できなくなっているメディアの現状に危機感を覚えます。

 それに、これは私一人で真実を突き止めたというわけではなく、多くの地震学者が問題だと訴えてきたことです。私は追加で取材や調査をしたにせよ、その声を拾い上げたに過ぎません。今回の一連の報道で、たくさんの読者の方々から応援のメッセージを頂きました。
 やっぱり皆さんこうした報道を求めてくださっているんだなと嬉しくなりましたね。報道には自由度が必要で、その意味で東京新聞は、いろいろ議論しながらも自由に書かせてくれる風土があります。

⚫︎大規模災害に対応するには
――地震発生確率を公表することの問題点については『南海トラフ地震の真実』によって広まりつつあると思いますが、今後取り組みたいテーマはありますか?

 今後は防災の観点からの取材も強化したいと考えています。海外では、アメリカの連邦緊急事態管理局(FEMA)、イタリアの市民保護局など、防災を専門とした省庁があります。
 日本には、各省庁に防災を担う部署がありますが、縦割り行政の弊害があり連携が不十分です。国土交通省が担っている部分が大きいですが、取りまとめているのは内閣府です。
 しかし内閣府は南海トラフ地震関連の予算が国全体でどれだけあるのか、きちんと把握できていません。部署が細かく分かれているために、政策としても筋が通っていません。
 果たして、これで南海トラフ地震や首都直下地震に対応できるのか疑問です。防災担当を一元化した「防災省」の必要性を長年訴えている関西大学の河田恵昭特任教授(防災・減災学)も「今のままでは大規模災害には絶対対応できない」と言っています。

 9月の自民党総裁選で石破茂氏が選ばれましたが、9人も立候補した中で、唯一、「防災省」の創設を掲げていたのが石破さんでした。各省庁にまたがる防災関連の部署を一つに束ねるには強力なリーダーシップが必要です。
 静岡県で40年近く防災担当を務めた静岡大学の岩田孝仁特任教授は「総理クラスのパワーを持った人がトップダウンで改革しないと(防災省の)実現は難しい」と言います。

 防災は「命を守るため」という大義名分があるため、政策を批判しにくい側面があります。しかし、国民の命や生活に影響するからこそ、防災行政が一人歩きしないよう、メディアとしてしっかり監視していく必要があると思います。
 一筋縄ではいかないでしょうが、これからもこの動きを注視しつつ、私たちが知るべき情報を発信していきたいと思います。
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