遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

Ran into Nucleus?!

2012-03-30 21:50:19 | BIONEWS
遺伝研、有糸分裂時にあらかじめ紡錘体の材料を集積させていることを確認(マイナビニュース) - goo ニュース
このニュースはスルーできないです。まあ、僕よりも時々コメントをくれるせーのさんの方がプロ級に詳しいはずなのですが、僕なりに説明を試みようと思います。

PubMedでちょろちょろと調べてみると、最近Ran関係で有糸分裂に関する論文が高級誌に掲載されていたんですね。Ranというのは核内低分子量Gタンパク質でして、主に細胞核に存在するグアニンヌクレオチド(GTPやGDP)と結合する小さなタンパク質です。ひじょうにたくさんあるタンパク質で核と細胞質の間を行ったり来たりしとります。低分子量Gタンパク質というのにはいろんなものがありますが、基本的に細胞で起こる動的なイベントの制御を行っています。小胞輸送等で働くRho等では機能別に多くの種類のGタンパク質があります。非常に高度に進化したGタンパク質群といっていいでしょう。しかし、核内Gタンパク質として核・細胞質間の輸送で働くRanは1種類。RanやRasはGタンパク質でも原始的なものに属するそうで、結合するパートナーを変えることでいろんな仕事をこなしているようです。

さて、真核生物は有糸分裂の時に核膜構造が崩壊するんですが、そのイベントの前に紡錘糸を構成するタンパク質チューブリンはスカスカになった核膜を通って核内に集結している。この記事に出てくる発見は、そうやって細胞はスムーズに微小管形成を行っとるということだそうな。この核膜がスカスカになった時に核内にチューブリンを集めるのがRanの役割であります。
酵母のような下等真核生物では見かけ上、分裂期に核膜の崩壊というのは起きないんですが、アーキテクチャーは緩んでてスカスカになってると昔からいわれてきました。だから核膜構造を残したまま有糸分裂出来ると。今日のニュースを見て、そこら辺のこともたぶん正しかったんだろうなと思いました。
あ、それから、この論文の筆頭著者のHayashiさんは、親戚でもなんでもないです。w

この他にもNature Cell BiologyとかPLoS Biologyとかで有糸分裂でのRanやその活性化因子RCC1の機能を解析した論文が最近出ています。そもそも分裂酵母ではRCC1の突然変異が分裂期の不完全さでとられていたり、RanGAPやRanBP2、RanBPM、そして、Crm1が中心体や動源体を構成していることが分かってたりしてましたから、別に今更ふしぎなことではないです。こっち方面でのRan研究の発展を楽しみにしております。僕は興味の中心は相変わらずクロマチンですが・・・・
まあ、とにかくですね、Ran関係の突然変異で観察される表現形質はすべて核・細胞質間の輸送系の破綻で説明できるんだとか昔ゆーてたトランスポート屋の連中には、てめえの観察可能な生命現象だけがそのタンパク質の機能だと思い込んでると後で恥かくぞと申し上げておきます。
(`・ω・´) キリッ
コメント
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