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だからダスティンは死んだ/ピーター・スワンソン

2023年05月08日 | もう一冊読んでみた
だからダスティンは死んだ 2023.5.8

だからダスティンは死んだ 』を読みました。
話のはじめから、どのような殺人事件が起こり、誰が犯人かが知らされる。
今後、物語はどのような展開となるのか、興味を持って読み進めていくと終盤に向かって、怒濤の如く衝撃の結末になだれ込んでいく。
本書の邦題は『 だからダスティンは死んだ 』だが、原題は『 BEFORE SHE KNEW HIM 』。
原題のほうが、より内容にかなっているとぼくは感じたのだが。

 彼らには----ふたりには秘密がある。そして、秘密の共有以上に、友達になるのによい方法はない。



 コートニー・シェイが、フェンシングの試合でセントルイスに行っていたときダスティンにレイプされたと訴えて以来、マシューはずっとダスティンを殺すことを考えていた。当時いた教師のなかには、あろうことか、ダスティンの肩を持つ者もいたが、ほとんどの教師は双方の話を聴く必要があると言い、態度を保留した。しかしマシューは、一年生のアメリカ史の授業でダスティンを教えたころから、あのくそ生意気なチンピラに軽蔑の念を抱いており、やつが有罪であることはわかっていた。また、いつの日か自分が正義を行うことも、マシューにはわかっていた。

 「いい考えかただと思います」ヘンは言い、マイラを好きになりだしている自分に気づいた。
 それはヘンの癖、自慢にならないやつだ。彼女は苦しみをかかえた人にばかり興味を抱きがちなのだ。


 コンピューターをシャットダウンする前、彼はもう一度、“ヘンリェッタ・メイザー”で検索をし、彼女に関する報道記事が何かないか調べた。八年前の画廊による告知が一件、それから、十五年前、カムデン大学のある事件に関与したヘンリェッタ・メイザーという人物の記事がひとつあった。これは別のヘンリェッタ・メイザーだと思い、マシューはその情報をすっ飛ばしかけた。ところが、「高校時代、そのダークで魅力的なスケッチと絵画でいくつかの賞を受賞している芸術専攻生、ミズ・メイザー」という文言から、それが彼の隣人であることがはっきりした。彼女は同学年の学生を襲ったとして暴行罪で訴えられていた。マシューは、見つかるかぎりすべての記事を読んだ。何があったのか正確なところはわからなかったが、要はヘンリェッタが精神になんらかの変調をきたし、同学年の学生が自分を殺そうとしていると思い込んだということだった。彼女は指導教授と警察の両方にこの懸念を訴えたが、その後、自らその学生を襲い、精神病院に送られたすえ。裁判を受けるはめになった。一連の記事を読み、マシューは、その若き日のヘンリェッタが現実を見失っていたのは明らかだけれども、やはり彼女は正しかったのではないか、という奇妙な感想を抱いた。記事のひとつには、相手の女子学生、ダフニ・マイヤーズの写真が出ており、ピクセル化された画像であってもマシューにはその冷たい目に何か異様なものがあるのがわかった。
 そしていま、ヘンリェッタ・メイザーは警官どもを差し向け、おそらくは監視も行って、彼を追っている。いざというとき、ヘンリェッタの前歴は自分を救うのではないか----マシューの頭にそんな考えが浮かんだ。すると突然、不安が静まった。彼は妙に平静なっており、新しい隣人が自分の正体に気づいているらしいと思うと、ほんの少し興奮を覚えた。
 その夜、弟が電話をかけてきた。


 マティーニが来た。それは、いまにもこぼれそうに縁までなみなみと注がれていた。彼女は頭をかがめ、キーンと冷えた塩からいそのカクテルを小さくひと口飲んだ。そうして変装し、完全に匿名でいられることが、なぜか心地よかった。いまの自分を見たとき、人には何が見えるのだろうか? 見当もつかないため、ヘンは本気で考えてみた。彼女は見てくれがよい。それはわかっていたが、同時に自分にどこか近寄りがたい部分、人を反発させる冷たさがあることもわかっていた。彼女はグラスを手に取って、前よりも大きくひと口飲んだ。

 何もかもが急激に変わりつつある。ロイドは彼女が思っていたような人間ではなかった。近いものですらなかったのだ。浮気ならまだわかる----人は完璧ではなく、過ちを犯すものだから。しかし平気で嘘をついていたとなると、それも、彼女だけでなく、ジョアンナにまで(急に敵ではなく被害者仲間のように見えてきたジョアンナにまで)となると、これはまったく別問題だ。ヘンは立ちあかって、左右の手を振り、これからどうしたものか思案した。小さな電線が皮膚のすぐ下で放電しているかのように、体はじんじんしている。ある面で、それは躁の時期を連想させた。だが、いまのこの状態は躁ではない。彼女のなかで起きている怒りはすべて、実生活の出来事としっかり結びついている。

 『 だからダスティンは死んだ/ピーター・スワンソン/務台夏子訳/創元推理文庫 』


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