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死刑囚 警部、窓を開けてみたら。

2021年11月01日 | もう一冊読んでみた
死刑囚/アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム    2021.11.1

  囚人が予定よりも前に独房で死ぬなどということがあってはならない。
  死刑執行まで、健康な状態で生かしておかなければならないのだ。


グレーンス警部、シリーズ第三作『 死刑囚 』 を読みました。

テーマは、重たい。 「死刑制度」についてです。
死刑については、「賛成」「反対」意見が分かれるところでしょう。
ぼくは、死刑については「反対」の立場です。
死刑制度があっても、凶悪犯罪の抑止力にはならないだろうと思うからです。
やるやつは、やる。

物語は、二つの柱から成っています。
頑なで極めて難解。個性的な警部エーヴェルト・グレーンスとアンニの愛の世界。
グレーンスはシーヴ・マルムクヴィストの歌をこよなく愛している。
物語の背景として実に生き生きと息づき、話に厚みを添える。

もう一つの柱は、看守長ヴァーノン・エリクセンと死刑囚ジョンマイヤー・フライの心の交流の物語。

この二つが絡み合うようにして、警察、裁判所、メディア、国際政治、家庭を巻き込んで、物語は思わぬ方向に進みます。



死刑囚ジョンマイヤー・フライが、スウェーデンで感じたことは。

 窓越しに見えるストクックホルムが大きくなってきた。ぼやけた輪郭が、徐々にくっきりとした建物となって現れる。歳月とともにだんだん好きになってきた、こんな冬の日。暖かな日差しが頬を温め、暗闇が訪れたとたんにまた寒くなる、ストックホルムの冬の日。これからやってくる新たな生命と、過ぎ去っていく日々とのせめぎ合い。ある桟橋のそばを通り過ぎる。その向こうに大きな家が建っている。いつもここを通るたびに眺める、あの水辺の大きな一軒家。最高の立地だ。

 “雪ごおり”。彼が知っているスウェーデン語の単語のなかでも、きわめて美しい言葉のひとつ。暖かな日差しが注がれるたびに、融けた雪が氷の上へ流れ出し、寒い夜の訪れとともにふたたび凍りつく。雪ごおり。いくつも氷の層があり、そのあいだに水の層がある。


エーヴェルト・グレーンス警部が愛した 、シーヴ・マルムクヴィスト の歌はこのような愛の歌。

 いとしのマグヌス 許してちょうだい きのうは馬鹿なことをしたわ
 手紙を書いたの あなたのもとにもうすぐ届く


 『 本気になんかならないわ


頑なで極めて個性的な警部エーヴェルト・グレーンスにマリアナ・ヘルマンソン警部補は優しくつきそう。

 マリアナ・ヘルマンソンがエーヴェルト・グレーンスのもとを離れ、彼のオフィスを出ようとしたところで、また音楽が鳴り出した。さきほどと同じ大音響だ。彼女は笑みをうかべた。エーヴェルト・グレーンスは、我が道を行く人間だ。彼女は我が道を行く人間が好きだった。

 「いつも同じ歌手の曲ですよね」
 エーヴェルトは呼吸がおさまるのを待った。ようやく落ち着いてきた。
 「ほかの歌手など認めない。少なくともこの部屋では」
 「警部、窓を開けてみたら。外の、現実の世界は、まったく別の時代になってるんですよ
 「おまえにはわからんだろう、ヘルマンソン。まだ若いからな。思い出ってもんだ。人生が終わったら、あとに残るのはそれだけなんだよ」
 彼女はかぶりを振った。


看守長ヴァーノン・エリクセンが、見たものとは。

 ここにいる連中は、みな、知っている。
 残りの時間を数えているのだ。ほかになにをすることがあろう? ただひたすら待っている。恩赦を求めたり、死刑執行を延ばすよう求めたりすることはあっても、だからといってどこか別の場所に行けるわけでもない。彼らはただ、待っている。日々が過ぎていくのを。年月が過ぎていくのを。


家族の思い。

 わかるだろう、アニータ? 家族がいちばんつらいんだ。いちばん厳しい罰を受けるのは、本人の家族なんだ。

権力を行使している者には、他人のことが分からない。

 外務次官の不愉快きわまりない、脅すような口調。ああいうのを古狸というのだろう。あまりにも長いこと権力を手にしているので、自分でそのことが見えなくなっている、それが当たり前になっている、だからあんなもの言いをするのだ。

『 死刑囚/アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム/ヘレンハルメ美穂訳/ハヤカワ・ミステリ文庫 』


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