ゆめ未来     

遊びをせんとや生れけむ....
好きなことを、心から楽しもうよ。
しなやかに、のびやかに毎日を過ごそう。

犯罪小説集/吉田修一

2017年01月14日 | もう一冊読んでみた
犯罪小説集    2017.1.14

この『犯罪小説集』には、以下の五つの短編が収められています。

  青田Y字路
  曼珠姫午睡
  百家楽餓鬼
  万屋善次郎
  白球白蛇伝

ぼくが一番面白く読んだのは、『曼珠姫午睡』です。

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曼珠姫午睡(まんじゆひめごすい)

 「そうせがむなって」
 記事にある男の台詞が、なぜか英里子の脳裏から離れない。

 結婚してすでに二十数年、夫への愛情がないかと言われれば、そうでもない。ただ、夫を思いやったり、心配したりするのは、必ず夫が不在のときで、目の前にいると、一秒でも早くどこかに出かければいいのにと本気で思っている。

 この十年近く、夫とはまったく性交渉がない。

 もちろん英里子の方でも、実際に入ってこられたら困る。もし夫の表情に男を感じたら、全身に鳥肌が立つかもしれない。

 「お客さんたちは、体が淋しいからここに来るわけじゃない。心が淋しいからここに来てくれるんです。だから、僕らは少しでもその寂しさに寄り添えればと思っていますし、僕らだって、やっぱり淋しいんです」


人妻が、若くて可愛いツバメによろめく瞬間ですね、殺し文句。

この短編は、英里子と殺人犯ゆう子の拘わり(かか)なのですが、直接的な関係が記されているのは、二人が中学三年生の時、体育の授業で軟式テニスをやったときの思い出です。
これがばっぐんに面白い。声を出して笑ってしまった。(p90~p92)

 「男の子たちは、あのときドタドタと走り回り、大きくラケットを振るたびに、体操着がはだけて脂肪のついた腹を出していたゆう子に、興奮していたのではないだろうか。
 きっと、まだ彼らもそれをエロチックだとは感じられぬまま、ゆう子が玉を打ち返すたびに洩らしていたあの声を聞いていたのではないだろうか。


 ただ、負けるはずなのに、負けないところが気持ち悪かった。
 負けていいのに負けないところが……、負けて当然なのに負けようとしないところが……、とにかく気持ち悪くて仕方なかった。


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白球白蛇伝」にこんな場面があります。

 田所はやけにはっきりとした夢を見ていた。おそらく車内で白蛇の話をしたからだが、夢の中で自分が『白蛇伝』の主人公になっていた。
 この『白蛇伝』というのは、元々中国の有名な民話なのだが、一九五〇年代に日本初の総天然色アニメーション映画として制作しており、一時期アニメーターを夢見ていたことのある田所は、この古いアニメを観たことがあった。


この東映のアニメーション映画、ぼくも大好きです。
うれしいことにインターネットでも鑑賞できます。

  東映アニメ 白蛇伝

  昭和三十三年度(1958年度)・芸術祭参加作品
  出演者は、森繁久彌・宮城まり子。

このアニメーションには、可愛いパンダ(アニメでは強くて頼もしいのだ)が出てくる。このアニメーションを観た当時の幼かったぼくは、パンダを生きている実際の動物として分かっただろうか。きっと認識していなかったはずだ。覚えがないのだ。

なぜなら、パンダが日本にやって来たのは1972年10月28日。
この年の9月に、日中国交正常化を記念して、中国政府から2頭のパンダ、カンカンとランランが日本に贈られることが決まった。

なんとなく、アニメの動物として見過ごしていたのではなかろうか。

  白蛇伝 解説/ウィキペディア

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百家楽餓鬼(ばからがき)」では、こんな実際の事件を思い浮かべてしまった。

大王製紙井川前会長告白「106億円を失ったカジノ地獄」........王子製紙事件

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 「万屋善次郎(よろずやぜんじろう)」もそうだったが、他の短編でも、凄惨な犯罪に人を駆り立てるなにか、プッツンするというか、ある時点を境にして、踏み越えてはならないところを、人をして、踏み越えさせてしまうなにかがあるような気がした。
また、「曼珠姫午睡」を読むとそれを押しとどめる何かも、また。

  『犯罪小説集/吉田修一/角川書店

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君の膵臓をたべたい  住野よる

2017年01月14日 | もう一冊読んでみた
君の膵臓をたべたい   2017.1.14

去年、本屋さんで少し立ち読みをして、そのままになっていた
君の膵臓をたべたい』を一年くらいたって思いだした。

余命幾ばくもないという設定がなければ、草食系男子と肉食系女子の自分探しの友情物語なんだろうなあ、と思う。

後から、あの時はこうだったの、本当はこう思ってたんだよ、という話を聞かされるのは、ぼくは好きでない。
この歳まで生きていれば、家族との悲しい別れや大切な人や親友に突然訪れた死のひとつやふたつ誰でも経験していることだろう。
あとに残されたぼくや君は、伝えられなかったことの無念さに、何度、臍をかむ思いをしたことだろうね。
危機的状況のなかで、伝えられる時間的な余裕があったときですら、相手があることだからと泣く泣くあきらめたこともある。
今は、近くの公園を散歩しながら天に向かって、君たちに語りかけることだけが、ぼくに出来る残された唯一のことなのだ。

天国につながる携帯電話があればいいのにと、主のきえた番号を眺める

 「もう一度、旅行したかったなぁ」

思うことは、やり残したことのあきらめか。

 『 君の膵臓をたべたい/住野よる/双葉社 』

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