保津川下りの船頭さん

うわさの船頭「はっちん」が保津川下りの最新情報や、京都・亀岡の観光案内など、とっておきの情報をお届けします。

これが漱石の尻に刺激を与えた保津川下りの舟だ!

2011-12-14 16:13:03 | 船頭
今週から始まった冬の保津川下り「お座敷暖房船」

奥嵯峨・嵐山で開催されている「京都嵐山花灯路」の影響と天候にも恵まれ、
冬の保津川下りも順調な滑り出しをしてものと喜んでおります。

冬舟は前回も書きましたように、船内に柔らかい絨毯を敷き詰め、これまでの
椅子腰掛け式ではなく直接、舟床に座っていただくスタイルです。

1907年(明治40)、かの文豪・夏目漱石は保津川下りへ乗船し、
その体験を職業作家として執筆した第一作『虞美人草』で紹介しています。
その当時の舟は、今の椅子腰掛け式ではなく、すべての舟が舟床へゴザを
敷いて座ってもらう形、つまり現在の冬舟と同様のスタイルだったのです。

漱石はその時の感触を
「傾(かた)むいて矢のごとく下る船は、どどどと刻(きざ)み足に、船底に据えた尻に響く。」
(虞美人草から)と描写しています。

川の形状が生む、流れの浮き沈みや荒瀬での落差の振動と衝撃が、漱石の「尻を響かせた」です。

保津川下りの乗船体験に感動した漱石は、小説の中に多くのスペースを割いて
「保津川下り」のことを書いています。
その中には保津峡の自然風景はもちろん、舟の操船方法や船頭の姿も紹介しています。

「真っ先なるは、二間の竹竿(たけざお)、続(つ)づく二人は右側に櫂(、そかい)、左に立つは同じく竿である。
 ぎいぎいと櫂(かい)が鳴る。粗削(あらけず)りに平(たいら)げたる樫(かし)の頸筋(くびすじ)を、
太い藤蔓(ふじづる)に捲(ま)いて、余る一尺に丸味を持たせたのは、両の手にむんずと握る便りである。
握る手の節(ふし)の隆(たか)きは、真黒きは、松の小枝に青筋を立てて、うんと掻(か)く力の脈を
通わせたように見える。藤蔓に頸根(くびね)を抑えられた櫂が、掻(か)くごとに撓(しわ)りでもする事か、
強(こわ)き項(うなじ)を真直(ますぐ)に立てたまま、藤蔓と擦(す)れ、舷と擦れる。
櫂は一掻ごとにぎいぎいと鳴る。」(虞美人草から)
これほど見事に保津川下りの操船風景を描写した文を私は知りません。さすが漱石ですね!

船頭についても「船頭は至極(しごく)冷淡である。」(虞美人草から)
という短い文で、見事に当時の船頭の雰囲気を描写をしています。

冬シーズンに運航している保津川下りの冬舟では、漱石が受けた衝撃と同じ感覚を
味わえることができ、古き日本の文学にも触れられる旅を味わえます。

この冬ならではのお座敷暖房船は、春~秋までのオープン船(通常船)とは
また一味違う保津川下りの魅力を発見していただけることでしょう。

是非、この冬シーズン(12月~3月10日まで)に体験してみてください。

お待ちしております。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿