ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

物乞いを禁止するフランスの都市・・・目的は?

2011-10-28 20:26:47 | 社会
先日、子どもに物乞いをさせていた父親が大阪で逮捕されました。子どもだと、哀れに思って恵んでくれる人も多いだろうという計算なのでしょうが、その子どもの心にどのような影響を残すのでしょうか。父親は、近くに停めたクルマの中で見張っていたとか・・・

物乞いと言えば、バンコク。今は大変な洪水でさまざまな分野への影響が心配されていますが、この時期は雨季末期。毎年大雨になりますが、今年は例年以上に、異常に雨量が多かったのでしょうね。多くの観光客を惹き付けてやまない、この微笑みの国にも、物乞いは多くいます。それも、身体障害者の物乞いが多い。身体が不自由になると、他に働き口がないからだろうと思ってしまうのですが、実際には、子どものころに誘拐され、物乞いをするために、意図的に不自由な体にされてしまう場合も多いと、駐在時代に聞いた記憶があります。組織的商売・・・

そして、花の都パリにも。最初に住んだ、メトロ1号線のサン・マンデ(Saint-Mandé)駅近く。スーパー“FRANPRIX”の前の歩道に、こちらは五体満足、立派な体格のアラブ系男性が座り込んで、小銭が入った空き缶をじゃらじゃらと音をさせながら、恵みを催促していました。彼はスーパーの店員とは顔馴染みで、仲良し。私は1ユーロ・コインをたまにあげていたせいか、物乞いと仲の良いレジ係からは愛想の良い対応を受けました。しかし、パリでも、物乞いは組織的商売。彼が何かの都合で来ることのできない日は、別の人がきちんとカバーしていました。

また、凱旋門に近いシャンゼリゼには、多くのロマの女性たち。外国人観光客と見ると、近寄ってきます、“Do you speak Ebglish ?”と言いながら・・・

もちろん、フランスで物乞いがいるのは、パリだけではありません。多くの街にいますが、その中には、物乞いを一掃したいと考える自治体もあります。その一つ、マルセイユ市は、物乞いをはじめとする、公共の場での公序良俗に反する行為を禁止する条例を承認しました。

どのような内容で、各界の反応は・・・18日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

マルセイユ市は17日、公序良俗に反する行為、特に物乞いを取り締まることを目的とした市条例を承認した。条例文には、「市中心部の多くのエリアにおいて、歩行者の往来、道路や公共の場における利便性、建物へのアクセスなどを妨害し、あるいは公序良俗、治安を侵害するような懇願や要求を行うことを禁ずる」と書かれている。一時的なものではなく、しかもカバーエリアも広いこうした条例を導入することは市にとって初めのことだ。何しろ、ヴェロドローム競技場(Stade Vélodrome:サッカー・チーム「オリンピック・マルセイユ」のホーム・スタジアム)から、サン・シャルル駅(Saint-Charles:マルセイユの陸の玄関口)、ヴュー・ポール(Vieux-Port:旧港、観光地としても有名)まで含まれるのだから。

17日午後の記者会見で、治安担当の助役、カロリヌ・ポズマンティエ(Caroline Pozmentier:UMP所属の市議会議員)は、「この条例は、この夏起きたさまざまな出来事に対する市当局からの明確なメッセージであり、公共の場に平穏を取り戻すことを目的としている」と語った。彼女は、“anti-mendicité”(反物乞いの)という形容詞を使うことは避け、公共の道路でアルコール類を飲用することを禁じることも含むこの条例の幅の広さを強調した。警察は、この条例の違反者に38ユーロ(約4,000円)の罰金を科すことができる。

数年前、マルセイユ市はすでに、攻撃的行為、特に赤信号で停車中のクルマのフロント・ガラスを拭いて料金を強要する行為を取り締まる条例を採用した。この条例の導入後、問題のクルマの窓拭きはいなくなったという。警官組合の地域書記、ダヴィッド=オリヴィエ・ルヴェルディ(David-Olivier Reverdy)は、今回の条例は警官のパトロールを容易にするとともに、市民が感じている不安を軽減するのに役立つものだと、条例の成立を歓迎している。今回マルセイユ市が採用したような条例は、すでに他の都市、ニース(Nice)、モンペリエ(Montpellier)、シャルトル(Chartres)などでもすでに採用されている。

マルセイユ市議会の野党のトップ、社会党のパトリック・メッヌッシ(Patrick Mennucci)は、公道におけるアルコール類の飲用を禁止することには全く賛成だが、他人に攻撃を加えるわけでもない物乞いを禁ずることには反対であり、実際に施行するのは容易でないだろう、と語っている。また彼によれば、治安の改善のためには、存在するものの適用されていない夜間のアルコール飲料の販売禁止条例を実施に移したり、スナックの営業を午前2時までに制限する条例を導入する方が効果的だということだ。フランス共産党(PCF)は、最も貧しい人々を追い出そうとする条例であり、貧困はその犠牲者を攻撃すればなくなるという問題ではない、と述べている。

UMP(国民運動連合)所属のマルセイユ市長、ジャン=クロード・ゴダン(Jean-Claude Gaudin:1995年から市長を務め、同時に上院議員。閣僚経験もあり、現在はUMPの上院議員団長を務める大物政治家)は、“anti-mendieté”(反物乞い)条例、特にロマの問題に触れる条例の導入に反対する立場を表明してきた。今年の8月にも、最大限の配慮を持って人権を尊重しつつ、ロマの問題の解決にあたると述べていた。17日、市議会において、ロマの人々を永続的に受け入れるための方策について問われたゴダン市長は、ロマの追放の後、その開催を公約したものの死文と化している円卓会議を、県の対応に委ねてしまった。円卓会議担当の市助役、ミシェル・ブルガ(Michel Bourgat)は14日、県知事の方は市長からの回答を待っている、と語っていたのだが。

・・・ということで、ロマを中心とした物乞いを市の中心部から一掃しようという条例が可決されました。その一方で、ロマの人々をどうやって受け入れるのかを話し合う会議は、市と県の間でたらい回しにされてしまっているようです。

文化や習慣の異なる人々をどう受け入れるか考えるよりも、追い出してしまう方が簡単。しかし、フランスがそれでいいか。三代遡って、外国人が家系に1人もいない国民はいないと言われるほどの国で、と思ってしまうのですが、外国人といっても、基本的には、古代ギリシャ・ローマからの伝統文化、キリスト教的精神を持った人という制限が加わるのでしょう。そうでない人は、マイノリティ。その多くが外見も異なり、“minorité visible”(外見で分かる少数民族)として、有形無形の差別を、感じる感じないという個人差はあるにせよ、受けることになります。

異なる人をどう受け入れるのか、違いをどう受け止めていくのか・・・差別するのは簡単ですが、共生への道は険しいようです。

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