ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

セクハラで閣僚辞任・・・推定無罪は? フェミニズムは?

2011-05-30 21:13:48 | 政治
ドミンク・ストロス=カン(Dominique Strauss-Kahn)が性的暴行、強姦未遂の疑いで起訴され、IMF専務理事の職を辞したことは今でもまだフランス人、特にフランス政界にとっては大きなショックになっているようですが、そこへもう一件、現職の公務員担当大臣がセクハラで辞任に追い込まれるという、まるでフランス人男性政治家の評判悪化に追い打ちをかけるような出来事が起こりました。

辞任したのは、ジョルジュ・トロン(Georges Tron)。1957年生まれの53歳。パリ西郊、富裕層の多く住むヌイイ(Neuilly-sur-Seine)の、御多分に洩れず裕福な家庭で育ち、公法で修士号を取得。パリ市長のジャック・シラク(Jacques Chirac)、次いでバラデュール(Edouard Balladur)の近くで働き、バラデュールの首相就任に伴い、その秘書官に。1993年からはエソンヌ県(Essonne)選出の下院議員(内閣に入った2010年春まで議席を有していました)。1995年からはエソンヌ県にあるドラヴェイユ(Draveil)の市長(現在でも在職中です)。2010年3月からこの5月29日の辞任まで、公務員担当大臣として閣内に。与党UMP(国民運動連合)内では、“villepiniste”(ド・ヴィルパン:Dominique de Villepinに近い政治家)と見做されてきました。

辞任の背景は、ドラヴェイユ市役所に以前勤めていた二人の女性から、セクハラで訴えられたことでした。担当大臣としての職務をしっかり果たし、市長としても申し分のない市政運営を行っていれば、以前であれば大目に見られたかもしれないのですが、さすがのフランス社会もDSKの起訴・辞任の直後だっただけに、フランス国内だから問題なし、とは言えなかったようで、野党、メディア、フェミニズム団体など、多方面からの攻撃にさらされ、ついに辞任に追い込まれました。タイミングが悪かったという、相変わらず下半身に寛大なフランス的感想もあるようですが、いずれにせよ、担当大臣辞任に至りました。しかし、市長職は辞さないと、今のところは語っています。

ジョルジュ・トロンの辞任を、フランス政界はどう見ているのでしょうか。与党は、DSK辞任の突風に巻き込まれた社会党は、来年の大統領選挙を目指す他の政党は・・・29日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

ジョルジュ・トロンの辞任を多くの政治家が歓迎している。トロンはセクハラ(harcèlement sexuel)で訴えられているが、一部には推定無罪が形骸化してしまうことを危惧する声も聞こえる。トロンは、この1年弱の間にスキャンダルで辞任する5人目の閣僚となった。

与党UMP所属で現労働大臣のグザヴィエ・ベルトラン(Xavier Bertrand)は、難しい決定をよくぞしてくれたと、辞任を歓迎している。しかし同時に、推定無罪が政治家には適用されなくなっているのではないかという問いかけもしている。そして、「ジョルジュ・トロンが語ることに耳を傾けることも大切だ。彼なりの説明もあることだろう」と、多くのメディアを前に述べている。

社会党(PS)の大統領候補を目指す、前第一書記のフランソワ・オランド(François Hollande)も、辞任は最も良い決断だったとし、「大臣の職にある政治家にとって推定無罪や自己弁護を主張するには困難さが付きまとう。閣内にポストを有している政治家が司法に影響力を行使するのではないかという疑惑が常に持たれるからだ。数年前、取り調べを受けた大臣は辞任すべきという規則が取り決められたが、今では不十分なのではないかと思われる。ジョルジュ・トロンはまだ取り調べを受けていないが辞任に追い込まれた」と、テレビ局“France5”の番組で語っている。

来年の大統領選を目指す極右・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首は、ジョルジュ・トロンの辞任をいち早く求めた一人だが、その辞任については半ば満足、半ば不満と言ったところだ。「同時に市長のポストも辞するべきだ。告発した二人の女性は市の元職員であり、トロンが市長のままではその影響力を直接行使することも可能だろうから」と述べている。

ドラヴェイユ市議会の野党勢力も同じく市長辞任を要求している。元職員の訴えによるセクハラ訴訟に関する取り調べで、証言にプレッシャーがかけられる恐れがあると指摘している。

イゼール県(Isère、フランス南東部Rhône-Alpes地方圏)選出の社会党議員、アンドレ・ヴァリーニ(André Vallini)は、「辞任は政府にとってもジョルジュ・トロンにとっても唯一の解決策だった。もちろんトロンにすれば推定無罪に反していると思えるだろうが」と、ラジオ局“RTL”の番組で語っている。

司法問題の専門家であるアンドレ・ヴァリーニはまたテレビ局“LCI”の番組で、「こうした問題を抱えると、良い解決策はない。大臣の職を辞すれば、政治キャリアの終焉を意味し、評判も地に落ちる。たとえ後になって無罪が証明されてもだ。一方、推定無罪を根拠にポストに居座っても、それは大臣としての行動や政府の活動にとって大きな障害となる」と状況を説明している。

共産党の全国書記であるピエール・ロラン(Pierre Laurent)はさらにはっきりと「今回の辞任は当然の帰結だ。司法は政治からの影響を受けず、あくまで独立してその任に当たるべきであり、女性差別は断固として糾弾されるべきだ。このような事件が頻発しており、もううんざりだ。政界を乱しているこうした状況については、ニコラ・サルコジがまずは責任を負うべきだ。この4年、取り巻き政権を作り、大臣の指名にしても、その能力や倫理観ではなく、従順さや付き合いの深さで選んでいる。与党はトロンの辞任により自らを守ろうとしたが、それは結局、DSK問題に悩む社会党に塩を送ったようなものだ」とコミュニケの中で表明している。

大統領選に出馬すると思われる左翼党(Parti de Gauche)の共同代表であるジャン=リュック・メランション(Jean-Luc Mélenchon)は、「ジョルジュ・トロンの辞任の裏では、フィヨン首相(François Fillon)が個人的信念に基づいて行動したに違いない。そうでなければ、トロンが辞任した理由が見いだせない。誰かを告訴することは容易であり、そのことによって起訴された側は失脚するが、もしその告訴内容が真実でない場合はどうするのだろう。かつては誰もが推定無罪を語っていたが、今や消え失せてしまったようだ。大きな様変わりだ」とメディアに対して述べている。

ヨーロッパ・エコロジー・緑の党(Europe Ecologie-Les Verts)の大統領選候補を目指すエヴァ・ジョリー(Eva Joly)は、DSKの件に引き続き、こうした女性への性的暴行が政界で起きたことに関し、「このような嫌疑をかけられれば、職にとどまれないことは当然なことだ。DSKの件と同じく、男性中心主義の痕跡を今回の件にも見ることができる。すでに時代は変わったと思っていたフェミニズムは、苦々しい思いで目を覚まされた」と、通信社“AFP”に語っている。

ジャン=ルイ・ボルロー(Jean-Louis Borloo)が党首を務める急進党(Parti radical;中道右派)の副党首、ドミニク・パイエ(Dominique Paillé)は、ジョルジュ・トロンの辞任を歓迎し、「今回の辞任は単なる驚きというわけではなく、賢明な決断だ。辞任により、ジョルジュ・トロンは自分を守ることに専念できる。今回の件は、その根拠がどのようなものであれ、政府の活動に汚点を残した」と、テレビ局“LCI”の番組で述べている。

・・・ということで、立場が違えば、当然見え方、意見も異なってきますが、男性政治家の性的事件にうんざりしていることと、推定無罪の危機を訴える声が大きいようです。

ジョルジュ・トロンの事件も、もしDSKの件がなかったらどうなっていたでしょうか。またDSKにしても、もし事件がフランス国内で起きていたらどうなっていたでしょうか。かなり変わった展開になっていたのではないかとも思えますが、それにしても、プライバシーの尊重も行き過ぎると、性差別まで見逃してしまうことになりかねません。この点は、フランス男性も考えないといけないのではないでしょうか。セクハラでは人後に落ちない日本人男性としては、あまり大きな声では言えませんが。

『世界の日本人ジョーク集』(早坂隆著)から、一節。

 会社からいつもより少し早めに帰宅すると、裸の妻が見知らぬ男とベッドの上で抱き合っていた。こんな場合、各国の人々はいったいどうするだろうか?
 アメリカ人は、男を射殺した。
 ドイツ人は、男にしかるべき法的措置をとらせてもらうと言った。
 フランス人は、自分も服を脱ぎ始めた。
 日本人? 彼は、正式に紹介されるまで名刺を手にして待っていた。

こういうイメージのフランス人、実際にも異性好きとは言われていますが、それでも自分の立場、権力を利用しての関係は、もはや許されない時代になっているようです。そのきっかけが、アメリカでの起訴という、まるで外圧のようなものであったとしても。また、たとえアルプスの向こう側では、まだ政治家がやりたい放題だとしても、です。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。