ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

政治家の妻・・・フランスの場合は?

2012-01-24 22:30:10 | 政治
武士もいわば政治家だと考えれば、その妻で有名なのは、まずは山内一豊の妻、見性院(千代、まつ)。嫁入りの持参金で名馬を買ったり、その賢夫人ぶりは今に伝えられています。千代紙の由来になったという一説まであります。

そう少し歴史を遡れば、源頼朝の正室、北条政子。頼朝亡き後は、尼将軍として幕政を担いました。そして、今日では、民主党三首相の夫人が、それぞれのキャラクターを見せてくれています。

アメリカでは、ファースト・レディ。ケネディ大統領夫人、ジャクリーンやクリントン大統領夫人、ヒラリーが特に有名ですね。フランスでは、大統領夫人は“première dame”。サルコジ大統領夫人は元トップ・モデルにして歌手のカーラ・ブルーニ。その華やかさにスポットが当てられています。

大統領や首相ではなくとも、政治家の妻には、選挙区を守る役目や、さまざまな付き合いなど、やることが多く、責任も重いようです。しかし、それでも、政治家の妻はセレブだとその座を目指す人もかなりいるようです。

さて、最近、『ル・モンド』(電子版)が二人のフランス人政治家の妻について、報道していました。誰で、どのような報道だったのでしょうか。まずは、22日の記事から・・・

警察の発表によると、国民教育相(ministre de l’ éducation nationale)リュック・シャテル(Luc Chatel)の妻、アストゥリッド・エレンシュミット(Astrid Herrenschmidt)が22日朝、自殺した。リュック・シャテル自身も、その死を通信社・AFPに送った文書で認めている。

「リュック・シャテルは、今朝起きた個人的悲劇を確認するとともに、子どもたち、家族そして自分自身のためにも故人のプライバシーに対する配慮をお願いする次第です」と、その文書に記している。

南米の仏領ギアナに滞在中のサルコジ大統領は、個人的な出来事であり、リュック・シャテルとは電話で直接話をし、子どもたちの世話をするために時間を割くよう伝えたと、『ル・モンド』の取材に対し述べている。

・・・という短い記事ですが、自殺したのが政治家の妻。何か政治的背景があるのかと疑ってしまいますが、あくまで個人的出来事ということで、詳細は公にされていません。政治家といえども、プライヴェートには深入りしないのがフランス流。かつて隠し子について記者から質問を受けたミッテラン大統領は、“Et alors ?”(それが、何か?)と一言。それ以上、マスコミも世論も追及しませんでした。大統領として、あるいは政治家として、その職務を全うしていれば、プライヴェートについては問わない、というのがフランスの伝統で、今回の悲劇も詳細には報道されていません。

しかし、そういう伝統を持たないアメリカ、大統領はよき夫、よき父親でなければならないアメリカでは、もう少し詳しい報道がなされていました。しかも、リュック・シャテルはアメリカのメリーランド州生まれ。アメリカや英語に愛着があるようで、フランスでの英語教育を早めるような政策も推し進めていますから、アメリカのメディアも関心を寄せているようです。

アメリカでの報道によると、リュック・シャテル(47)とアストゥリッド・エレンシュミット(45)は1991年に結婚し、4人の子どもを儲けています。アストゥリッドは名前から分かるように、アルザス出身のドイツ系。アルザスで自らビジネスも立ち上げていたそうです。それが1月22日早朝、パリ郊外、ブーローニュの森に近いBoulogne-Billancourtの自宅で、首を吊った状態で実母に発見されました。その時、リュック・シャテルは不在だったと伝えられています。その死の背景にあるものは・・・それ以上の情報は、さすがにまだないようです。

こうした悲劇の前日、21日の『ル・モンド』がスポットを当てていたのは、社会党の大統領選候補、フランソワ・オランド(François Hollande)の現パートナー、ヴァレリー・トゥリエルヴェイエ(Valérie Trierweiler)です。どう紹介されていたのでしょうか・・・

オランド陣営のスタッフを不安がらせるには、パリ市セギュール街(avenue de Ségur)に置かれたフランソワ・オランドの選挙本部の3階にある部屋のドアに“Valérie Trierweiler”と書かれたプラカードを吊るすだけで十分だった。「2007年の大統領選の時、我々社会党はセシリア・サルコジ(Cécilia Sarkozy:当時のサルコジ夫人。後、離婚)が果たしている役割を批判したが、今や社会党も候補者夫人の役割について批判されかねない」とスタッフの一人は溜め息をついている。

2007年にセシリアは口出ししたり、アドバイザーを遠ざけたりするなど、あちこちに顔を出していたが、オランドのパートナーはそこまで表に出ているわけではない。しかし、それでも会議の席に加わったり、ネットで発信したりしている。ヴァレリーは、週刊誌“Paris Match”の政治記者だったので、今ではオランドの周りに集まっている社会党の有力議員たちが、かつてオランドについてどんな噂をし、どう蔑んでいたかをよく知っている。

周囲を不安がらせているオフィスの名札を彼女は取り外した。「私がくつろぐ場所が必要じゃないかということでフランソワが決めたことなのですが、そこにはたまにしか行きませんし、実際、そこは会議室として活用されていますから」と述べている。彼女は、第二のセシリアになるのではないかという周囲の心配に対しも、「ニコラ・サルコジは実際、その当選のかなりの部分をセシリアに負っていたのではないかと思われます」とうまくかわしている。

大統領選キャンペーンの序盤から、アドバイザーやジャーナリストたちは彼女の言動を目撃している。1月8日、フランソワ・オランドがジャルナック(Jarnac)にあるミッテラン元大統領の墓前に参った際、ヴァレリーが元大統領の娘、マザリヌ(Mazarine)と話しこんでいるのを目撃している。

社会党支持者を集めた大集会の際には、オランドとの間に4人の子どもを儲けた前パートナー、セゴレーヌ・ロワイヤル(Ségolène Royal:2007年の社会党候補)の隣にヴァレリーが間違っても座ることのないように、広報担当者たちがせわしなく動き回っているさまが目を引いた。オランドが地方遊説から帰るクルマの中では、アドバイザーたちはオランドのスマートフォンの画面にヴァレリーからの電話であることを示す“Mon amour”という文字が現れるのをひそかに待ち構えていた。その文字が現れるや、彼らはオランドから離れなければならないからだ。

ヴァレリーの影響力は、実際どれほどなのだろうか。オランド陣営の広報担当でもある党の実力者、マニュエル・ヴァルス(manuel Valls)は彼女に何かと相談をし、オランドのより親しみのあるイメージをどう作るかに関して、彼女の意見に耳を傾けている。なにしろ、ヴァレリーは『パリ・マッチ』誌で政治家を厨房に立たせるなど親しみを演出するやらせのシーンを幾度となく作ってきたからだ。

1月15日の夜、『ル・モンド』は、フランス国債がAAAから引き下げられたことに関するオランドとのインタビューの返事を待っていたのだが、驚いたことにヴァレリーのメール・アドレスから返事が返ってきた。彼女はすぐさま、「フランソワはパソコン入力をせず直筆で書きました。それを私が秘書のようにパソコン入力したまでです」と、彼女が替わりに返事したのではないかという疑いを払拭した。

『パリ・マッチ』誌は、ヴァレリーが情報を社会党に漏らすことを恐れ、編集会議に加わらないよう彼女に求めた。「まるで罰せられ、自宅謹慎になっているような気分です」と彼女は残念がっている。しかし、彼女の気に入らない記事が出たあと、彼女から怒りの電話をもらった編集長は一人や二人ではない。「ジャーナリスト何人かに電話したのは事実ですが、私に関する記事についてで、フランソワに関するものではありません」と彼女は語っている。

ヴァレリーは長年務めてきた政治コメンテーターとしての役割から離れようと懸命に努めている。彼女の友達は、ナディーヌ・モラノ(Nadine Morano:与党・UMP所属、職業訓練・職業教育担当大臣:フランソワ・オランドがサルコジ大統領を批判した一部の言葉、失敗した大統領(président en echec)と汚い奴(sal mec)がメディアに流れた際、モラノ担当大臣が「許し難い暴言であり、謝罪すべきだ」と非難。それに対して、ヴァレリーが反論しています)やメディアに対してツイートするのを止めるよう勧めたが、彼女はそれを拒んだ。

1月13日、左翼戦線(Front de gauche)の大統領選候補、ジャン=リュック・メランション(Jean-Luc Mélenchon)は、テレビ局・France 2に出演した際、彼が極右・国民戦線(FN)の候補、マリーヌ・ルペンに微笑んで挨拶したと彼を罠にかけるような報道をヴァレリーがテレビ局・Direct 8の番組でしたと批判。それに対し、ヴァレリーはツイッターで、「カメラの前でメランションさん、あなたがルペン女史に対して愛想の良い顔をしているのを見れば、罠にかけるなどと言うことはできない筈」と反論している。

数週間前から、コミュニケーション会社“EuroRSCG”の元社員、ナタリー・メルシエ(Nathalie Mercier)がヴァレリーのアドバイザーに就いている。1月25日、Direct 8で彼女がキャスターを務める新しい文化番組についての宣伝のため、同系列のテレビ局・Canal+のトークショー“Grand Journal”に出演した際、彼女は番組の後半にしか出演しないで済むよう交渉した。政治担当の編集者たちは前半で席を立つからだ。

・・・ということで、政治ジャーナリストとしての経歴ゆえ、その言動がいっそう注目されてしまうヴァレリー・トゥリエルヴェイエ。彼女なりに、目立たないように気を使ってはいるようなのですが、長年の習慣か、つい意見を公表したり、反論してしまったりしているようです。なかなか習性は抜けないのでしょうね。

一口に「政治家の妻」と言っても、その人の経歴や、夫(パートナー)の立場によって、一概にどうあるべきかを決めることはできないようです。それぞれが、それぞれの立場でベストな行動を取る必要がある。それだけに、その人の人間性なり、能力が現れてしまう。批判されることも多い・・・政治家の妻、決して楽なセレブ稼業でないのは、洋の東西を問わないようです。

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