ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

Chaque region a son gout・・・サルコジ大統領を支持するオート・サヴォワ県。

2012-02-19 21:39:51 | 政治
ずいぶんと更新の間隔が開いてしまい、アクセスしていただいた方々には、ご迷惑をおかけしました。

流行のインフルエンザ、というわけではなく、引っ越しをしておりました。24年前に郊外に建てた家、と言っても海外暮らしが長くなり、実際に住んでいた期間はそれほど長くはないのですが、それでも築24年。少しずつ傷んできましたし、あと数年で60歳。そろそろクルマなしでも生活できるようにしたいと、都心に近い、地下鉄の駅近くのマンションに引っ越しました。

♪♪雪が解けて川になって流れて行きます
  つくしの子がはずかしげに顔を出します
  もうすぐ春ですね

と、キャンディーズが『春一番』で歌っていましたが、今年の2月は厳冬。春はまだまだ先といった気候で、早咲きで知られる河津桜もまだつぼみのまま。引っ越しの日も寒い雨が降っていました。

♪♪春一番が掃除したてのサッシの窓に
  ほこりの渦を躍らせてます
  机本箱運び出された荷物のあとは
  畳の色がそこだけ若いわ
  お引っ越しのお祝い返しも済まないうちに
  またですね

と、これまたキャンディーズが『微笑がえし』で歌っています。昨春に契約した物件ですので、急な引っ越しというわけではないのですが、それにしても大学入学以降、海外も含めると18回目の引っ越しになります。引っ越しが趣味というわけではもちろんないのですが、結果としてこれだけの回数になってしまいました。しかも、今回は戸建てからマンションへの引っ越しなので、かなりの荷物を処分しました。キザに言えば、思い出に寄り添う品々にさよならを言いました。しかし、思い出はいつまでも心の中に・・・やはり、キザで似合いません。

さて、引っ越しをあたふたとしている間にも、さまざまな出来事が起こりました。サルコジ大統領がついに、再選を目指して、正式に立候補を表明。犬猿の仲と言われるキャメロン英首相にまで応援を頼んだようですが、世論調査では、相変わらず社会党のオランド候補の後塵を拝しています。しかも、与党内からも批判の声が上がるなど、厳しい状況のようですが、はたして、4月22日の第1回投票、そして5月6日の決選投票までに、形勢逆転はできるのでしょうか。

そのサルコジ大統領、地域によっては、大歓迎されているそうです。まるでスターのように迎えられているのは、例えば、南東部、スイスと国境を接するオート・サヴォワ(Haute-Savoie)県。どのように支持されているのでしょうか。17日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

ニコラ・サルコジは選挙キャンペーンの最初の集会を、2月16日、オート・サヴォワ県のアヌシー(Annecy)で行ったが、まさに征服地にいるようだった。伝統的に右派支持者が多く、実際2007年の大統領選でもニコラ・サルコジへ投票した人が多いこの地の有権者と再会するためにやって来たのだ。

76歳の退職者、アンベール(Hambert)に左派支持者かと問うと、すぐさま、「何だって。馬鹿にする気かね」という答えが返ってくる。この地方には地主が多く、人びとは敬虔なカトリックで、保守主義者であり、右派に投票することはつねに変わらぬ投票行動となっている。選挙キャンペーンのスタートを始めるのにここオート・サヴォワ県を選んだニコラ・サルコジを見に、多くの人々が集まった。2007年の選挙キャンペーンをこの地方で締めくくったニコラ・サルコジにとって、ここグリエール台地(le plateau Glières)は幸運を運んでくれたようなものだ。そこで、5年前に圧倒的多数で支持してくれた人々の中で活力を取り戻すためにやって来たのだ。

午前中、アヌシーの街で人びとの喝采を浴び、10ほどの店に立ち寄り、有権者と直接接した後、午後には30kmほど離れたヴァリエール村(Vallières:人口1,300人余)にあるチーズ製造所、シャベール(Chabert)へと向かった。

ヴァリエール・スポーツ・クラブのメンバーであるギー・ボキュース(Guy Beauqus)とその友人たちは、午後2時半からサルコジ候補を待っていたが、彼は1時間半遅れでやって来た。今は退職している元銀行員のギーはスポーツ・クラブで会計を担当しているが、ニコラ・サルコジを歓迎するには個人的な理由があると言っている。3年前、サルコジ大統領は自閉症の子どもたちへの支援を行っている施設に対し、そのサービスを向上させるための融資を受けることを容易にしたということだ。ギーの8歳半になる孫もその施設に通い、今では症状もずいぶん改善したという。「ハンデを抱えた人々を支援するのは国家の専権事項だ。サルコジ大統領には感謝している」とギーは語っている。

4人の子どもの母である学校の事務員、ベアトリス(Béatrice)は尊敬するサルコジ大統領への支持を表明するためにやって来た。「彼の率直な物言いが好きなんです。オート・サヴォワでは、直接的で、あるがままに話す人が好かれています。私たちもみんなそうなんです」と語り、左派のサルコジ大統領への攻撃はスキャンダラスのものであり、そのやり方は子供じみていると考えている。彼女にとって、「サルコジ大統領は経済危機の中でやれることはやった。決して失望はしていない」ということだ。アンヌ・マリー(Anne-Marie)も「こうした状況で、他に何がやれたというのでしょうか。サルコジ大統領のお陰で、フランスはうまく行っています。きちんと食べ、働くことができ、悲惨な生活を送っているわけではありません」と語っている。

ヴァリエール村では、サルコジ大統領の5年間の実績だけでなく、与党・UMPの候補者としてのその公約も支持されている。例えば、ニコラ・サルコジによって提案された国民投票がなぜ議論の的になっているのか、よく分からないという。「国民の意見、特に失業のような問題に関して国民の声を聞くことはむしろ良い施策だと思いますよ。大統領の改革案は適切なものだと思います。私の実家にもいるんですが、仕事を探そうともせずに失業手当の恩恵を受けている人たちを知っていますから」と、5歳の娘の手を引いてやって来た、33歳のイザベル(Isabelle)は語っている。

ヴァリエール村、アヌシー市やその周辺の町々から多くの人々がニコラ・サルコジとその公約への支持を表明しにやって来た。彼らは、今日、サルコジ大統領だけがフランスのために戦っているという深い信念を抱いている。

人々は候補者、ニコラ・サルコジをスターのように出迎えた。彼と挨拶をし、握手をし、運が良ければ言葉を交わすことができると、殺到したのだ。彼の勝利を確信している人も多く、25歳の青年は、フランソワ・オランド(François Hollande:社会党候補者)にはカリスマ性がなく、フランスを統治することはできないと語っている。47歳のセールスマン、エルヴェ(Hervé)も同じ意見で、「大統領に対する批判は知っているが、ニコラ・サルコジだけが大統領の地位にふさわしい候補者だ。左派の提案は、実現性のないものばかりだ」と述べている。

チーズ製造所の中では、人びとが熱狂していた。「大統領と握手したんだ。人生で記念すべき特別な日だ」と、ある従業員は夢中になって語っている。社長のリュック・シャベール(Luc Chabert)も、大統領の訪問は光栄なことであり、家族経営のチーズ工場にとって、特別なことだと述べ、ニコラ・サルコジに投票するかという問いに対しては、「そうすると思う。私は実務的な人間であり、同じような人を支持する」と答えている。

60歳で、書店で働いているカトリーヌ(Catherine)は、失業に関する国民投票は最良の解決策ではなく、用心深く扱うべき課題だと考えている。社会保障の将来に不安を抱いており、医療に関してはこの5年の間に状況はかなり悪化したと見做している。彼女の声が唯一のネガティブな意見だった。

・・・ということで、オート・サヴォワ県では、サルコジ大統領はヒーロー。もともと保守色の強い地域とはいえ、大統領と会えるだけで狂喜、お祭り騒ぎになったようです。こうした報道が、他の地域にプラスの影響を与えるのではないか、という期待があってこその選挙キャンペーンなのでしょうが、うまく行くでしょうか。

“Chacun a son goût.”・・・蓼食う虫も好き好き、という言葉があるように、“Chaque région a son goût”(表題は、アクサン記号を付けると文字化けしてしまうので、省略いたしました)、地域によって支持する政策や候補者も異なることでしょう。アメリカで行われている共和党の予備選挙でも、州ごとに強い候補者が異なっていたりしますね。日本でも保守王国とか、民主王国と言われる県があったりします。

さて、フランス国民の声や、いかに。国民の声にさらに耳を傾けるために、国民投票をより多くの機会に実施したい、というサルコジ大統領の提案ですが、人気取り、という意見も出ています。確かに、“Vox populi vox dei”・・・「民の声は、天の声」というラテン語もあり、朝日新聞のコラム、天声人語の由来になったとする説もあるほどですから、国民の声に真摯に耳を傾けることは大切ですが、さらに大切なことは、耳を傾けた後に、どのように政治に反映させるか、ですね。パフォーマンスや人気取りだけのポーズでは困ったもの。このことは、特に日本の政治に求められるのではないでしょうか。支援者を集めての集会やバス旅行が大切なのではなく、その声をいかに政策に反映させるか・・・その実績で、私たち有権者も政治家を評価したいものです。

2 コメント

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Unknown (souheki1009)
2012-02-20 22:03:06
「サヴォア」という地名の懐かしさにコメントさせて頂きます。

今から四半世紀ばかり前の或る夏、オート・サヴォア県の南にあるサヴォア県のシャンベリーに2週間ほど滞在したことがあります。
当時は、シャンベリーも短い目抜き通りがすぐ終わってしまったらもう「何も無い」町でした。近隣の温泉地エクス・レ・バンは湯治に来ているご老人ばかりだったのを覚えています。
サルコジ氏が第一声をあげたオート・サヴォア県の湖畔の町アヌシーには、モンブランに行った帰りに立ち寄りました。シャンベリーよりは洗練されていた印象がありますが、やはりここも同じく嘗ては「サヴォア公国」だったのですよね?
実際パリよりもスイスやイタリアとの国境の方が遥かに近く、住民もフランスに帰属している意識が薄い、と当時聞いた気がするのですが、今はどうなのでしょう?
こんな辺境で重要な第一声を上げたサルコジ氏の意図は何なのでしょう?

実は4年前のフランス大統領選挙の時に私はヨーロッパにいまして(残念ながらフランスではないのですが)、習っていたフランス語の先生に、大統領候補者のパンフレット(ロワイヤル女史が美しかったです・・・)を渡されて色々と解説して貰ったり、例のサルコジVSロワイヤルのテレビ討論もリアルタイムで見ました。その先生は若くリベラルな方でしたが、
「サルコジは今までのフランス大統領のどのイメージともそぐわない。彼は軍人でも国父でもない。しかもまだフランスはユダヤ人の大統領を認めるほどリベラルになっていない。」
とのことでした、結果はサルコジ氏が当選だったのですが。
サヴォアは保守的だということですが、サルコジ氏の出自についてはどう思われているのでしょうか?
私はヨーロッパではユダヤ人差別というのが、日本では想像がつかないくらい確かにあると感じたのですが・・・。

以前よりブログ拝読しております。
私も昨秋、都心のマンションに引っ越しました(但し賃貸)。郊外の家には思い出やら海や山やらがありましたが、何と言ってもマンションは一軒家に比べて暖かい!特に今年の冬はその恩恵に与っています。仮住まいのはずのマンション生活が長くなりそうです。
お引っ越しのお疲れが出ませんように。
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温度差 (take)
2012-02-21 20:32:04
souheki1009さん

コメント、ありがとうございます。

おっしゃる通りで、マンションは暖かです。戸建てだとどうしても隙間風などが入りこんでしまうのですが、マンションの密閉性は大したもの。しかも上下左右の入居者が暖房していると、コンクリートも温まるのでしょうね。結果として、昼間は暖房なしで過ごせます。

さて、antisemitismeですが、今でも根強く残っているようです。サルコジ大統領の母方はスペイン~ギリシャ~フランスと移り住んだユダヤ系。父方はハンガリーの旧貴族ですが、一部にはロマ系という説もあります。それでも、大統領に。従来の大統領にはない、若さ、行動力、歯に衣着せぬ発言に多くの国民が期待したのでしょう。期待の大きさが、反ユダヤ的感情を上回ったのではないでしょうか。そして、今の支持率の低さは、その反動、裏切られたという気持ちの表れなのではないかと思います。

それと、machisme。フランスの男女給与格差の大きさや企業のトップなどに女性が少ないことは良く知られています。2007年の対立候補がセゴレーヌ・ロワイヤルだったことも、サルコジ大統領誕生を後押ししたのかもしれませんね。

シャンベリーやアヌシーには語学学校もあり、留学している日本人もそれなりにいらっしゃるようです。次回、フランスへ行く際にはぜひ訪れてみたいと思っています。

今後とも、弊ブログへのご訪問、よろしくお願いします。
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