ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

「フランス」対「コカコーラ」、1サンチームをめぐるバトル。

2011-09-09 21:22:41 | 経済・ビジネス
フランスの伝統的文化を守ろうとする人々と、フランス社会へ侵入するアメリカ文明。両者の、『文明の衝突』とも言えるような戦いが、フランス国内において行われてきたことは、改めて紹介するまでもないですね。

例えば、対「マクドナルド」の戦い。

「1999年8月12日、農民同盟と市民のデモが「欧州が米国のホルモン肥育牛肉の輸入を禁止したことへの報復として、米国がフランス産のロックフォールチーズに対する制裁関税を課したことへの抗議」として、マクドナルドを「多国籍企業による文化破壊の象徴」に見立てて、ミヨー(Millau)に建設中だった店舗を破壊する。」(「ウィキペディア」)

主導したのは、ジョゼ・ボヴェ(José Bové)。1953年生まれの58歳。遺伝子組み換え作物への反対運動で注目を浴びるようになり、その後、マクドナルドの店舗破壊で、世界的に有名になりました。両親は、国立農業研究センター(INRA:Institut national de la recherche agronomique)の研究員で、ジョゼが3歳の時から3年間、カリフォルニア州立大学バークレー校に研究員として招聘されたため、ジョゼもアメリカに暮らしています。その影響か、英語は今でも流暢。バカロレアに優秀な成績で合格すると、グランゼコール進学クラスへ。しかし、アナーキズムに傾倒し、良心的兵役拒否の運動にかかわり、その後、農業の道へ。そこでは、農民組合活動に加わり、アメリカの遺伝子組み換え作物(OGM:organisme génétiquement modifié)に反対するようになりました。2007年の大統領選挙に立候補し、2009年からはヨーロッパ・エコロジー所属の欧州議会議員です。

ジョゼ・ボヴェ本人は反アメリカという気持ちはないのかもしれませんが、アメリカ企業がリードする遺伝子組み換え作物に反対し、アメリカ文化のシンボルの一つとも言えるマクドナルドを襲撃したことで、反米的な立場を取っているとどうしても見られてしまうことが多いようです。

他にもフランスでは、「英語」の侵略に対する戦い、アメリカ音楽や映画に対する戦いなど、さまざまな抵抗運動が行われてきました。結果は、言うまでもありませんが・・・

そして、今、「食」の分野で再び、対アメリカの戦いが行われています。

アメリカの「食」と言えば、マクドナルド以上にシンボリックな存在かもしれないのが、コカコーラ。アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)の作品に描かれている、あの赤いカン、そしてペットボトルが世界中に行き渡っていますね。そのコカコーラとフランスの戦い・・・どのようなバトルが展開されているのでしょうか。8日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

8日、コカコーラの1,700万ユーロ(約18億5,000万円)の投資を停止するという決定に対し、労働組合のCGT、国会議員に続き、予算省が反対の声をあげた。コカコーラの決定は、フランス政府が発表した財政赤字対策の一環としての加糖飲料(boissons à sucres ajoutés)への増税に対する反発によるものだ。

8日午後、予算省は「コカコーラの決定は、経済的に残念なものであるが、加糖飲料1本当たり1サンチーム(約1.1円)の増税に伴う決定ではなく、国民の健康に資するために下されたものであろう。1サンチームの増税が飲料業界を危機に陥れるはずがない」と判断している。

フィヨン(François Fillon)首相が8月24日に発表した緊縮財政策の一環として、加糖飲料への新たな課税が含まれているが(アルコール飲料、タバコへの増税も含まれています)、その政策への反対をシンボリックに示そうと、コカコーラは8日、ブーシュ・デュ・ローヌ県(Bouches-du-Rhône:地中海に面した南仏、県庁所在地はマルセイユ)にあるコカコーラの工場における2012年の大規模投資を再検討することになったと、発表した。

1,700万ユーロの投資は、カンの生産ラインの改修に使われる予定で、ブーシュ・デュ・ローヌ県ペヌ・ミラボー(Penne-Mirabeau)市にある工場の40周年式典の行われる9月19日に公式に発表されるはずだった。「投資が取り消されたわけではない。ただ、増税によって不安定となった状況を再検討する必要がある」というコミュニケを、コカコーラは発表している。増税は、ここ数週間のうちに、社会保障の財源を確保する法改正案の一環として議会で検討されることになっている。コカコーラとしては、議会での採決結果を注意深く見守るつもりだ、と広報が語っている。

8日午後、ブーシュ・デュ・ローヌ県選出の二人の下院議員(与党・UMP所属)が、コカコーラの決定に反対する声をあげた。その一人、ヴァレリー・ボワイエ(Valérie Boyer)は、「コカコーラのまるで恫喝するかのような対応にひどいショックを受け、眉をひそめるばかりだ。その決定は、国民の健康問題と混同するべきではない。コカコーラは砂糖を含まない飲料の売り上げを伸ばす努力に集中することだってできるはずだ」と、述べている。

もう一人のベルナール・レイネス(Bernard Reynès)は、この脅しは到底受け入れ難い、と語っている。

労働組合、CGT(Confédération générale du travail)のコカコーラ支部は、不安な面持ちで状況を見つめている。「従業員たちは不安になっている。投資の再検討ということは、工場の将来にとって良いことではない。心配の種になる」と、コカコーラ組合の南仏代表は語っている。

コカコーラの決定は、7日夜、社内の会議で発表された。経営陣は、増税が正式に決定されるかどうか、議会での投票結果を待っているようであり、組合側は、その発表内容について自問自答をしている、「投資は増税案にプレッシャーをかけるために、単に延期されただけなのだろうか、それとも、本気で再検討する気なのだろうか」と。工場の40周年式典にはコカコーラ本社からジョン・ブロック(John Brock)会長が来ることになっていたが、それもキャンセルされており、従業員たちはいっそう不安に駆られている。

コカコーラの経営陣は、投資再検討という決定を次のように正当化している。「わが社を制裁し、わが社の製品を公然と非難するような税に対して象徴的に抗議したいと思っている。加糖飲料への批判、タバコなど他の製品との同一視に対する毅然とした反対を明確に表明したい。」

首相府は、太り過ぎへの戦いに必要不可欠だという理由から、今回の増税を正当化しており、1997年から2009年までに、フランス人の平均体重が3kg以上も増加したと背景を説明している。増税は2012年から実施に移される予定だが、実施されれば国庫にとって1億2,000万ユーロ(約130億円)の増収をもたらすことになるだろう。業界筋によれば、平均して1カン当たり0.01ユーロの値上がりになるだろうということだ。

第一次と第二次の両大戦間にフランスに進出したコカコーラは、フランス国内にある5か所の工場で合計3,000人の従業員を雇用している。ブーシュ・デュ・ローヌ県の工場は生産規模で第2位であり、203人を雇い、3つの生産ラインを稼働させている。コカコーラの発表したコミュニケによれば、向こう5年間で4,500万ユーロ(約49億円)の投資対象になっているとのことだ。

・・・ということで、にらみ合ったまま、フランス議会での投票結果を待つことになるものと思えたのですが、上記記事がアップされたのが、8日の17時58分。それから4時間余り、続報が掲出されました。「コカコーラ、投資の停止を否定する」・・・何があったのでしょうか。

「コミュニケーション・ミスだ」と、コカコーラは、財政緊縮案の一環としてフランス政府が計画している加糖飲料に対する増税に抗議するため、フランスにおける投資を再検討するとした8日午前発表の声明を打ち消し、それによって引き起こされた論争に慌てて終止符を打とうとした。テレビ局LCIとのインタビューで、コカコーラ・ヨーロッパのユベール・パトリコ(Hubert Patricot)会長は、コカコーラ・ヨーロッパはフランスにおける投資を計画通り実施する予定でおり、フランス市場に注力していくつもりだと、「コカコーラは社会的責任のある企業であり、フランスでは投資を引き続き行っていく」と述べた。

コカコーラのフランスにおける子会社は、8日朝、2012年にペヌ・ミラボー市の工場に予定していた1,700万ユーロの投資を再検討すると発表していた。

ユベール・パトリコ会長は、フランス政府による増税に感情的になったフランス法人が行った対応だと説明したが、かれ自身、改めて、加糖飲料に対する増税には反対だと語った。しかし、投資計画には何ら影響しないことも強調した。また、午前に発表されたコミュニケとは異なり、工場の40周年セレモニーは9月19日に予定通り行われ、コカコーラ本社のジョン・ブロック会長も出席すると、明言した。

・・・ということで、コカコーラ・フランスが引き起こした騒動は、たった1日でコカコーラ・ヨーロッパによって幕引きがなされました。コカコーラとして増税には反対であることを強調はしていますが、投資計画の再検討などは行わないと明言。企業としての経営判断なのか、裏で何らかの政治的力学が働いたのか・・・いずれにせよ、投資は行われ、工場閉鎖や工場移転といった心配は払拭されたかに見えます。

国内の雇用を守るためには、政・官・組合、一体となった反対運動を繰り広げるフランス。昨年だったでしょうか、ルノーが新工場をトルコに建設すると発表するや、なぜフランス国内ではないのかという批判の嵐。最後は、サルコジ大統領がカルロス・ゴーン会長を呼び付けて、フランス国内に建設することにさせてしまった、ということもあったと記憶しています。

個人主義でありながら、その連帯は強固であります。ここで、思い出すのは、「一に雇用、二に雇用、三に雇用」という台詞です。わずか1年ほど前に日本の首相によって発せられた言葉ですが、今や紫煙のように消えてしまったようです。

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