ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

AAAからAA+へ・・・フランスは、EUは、ユーロは?

2012-01-15 23:17:46 | 経済・ビジネス
14日の『ル・モンド』(電子版)です。

フランスの長期国債は、その格付けを最上位のAAAからAA+へと1段階引き下げられ、見通しはネガティブとなった。13日夜、格付け会社(agence de notation または agence d’evaluation)のStandard & Poor’s(S&P)が発表した。その影響は・・・

●フランスはいつからAAAを保っていたのか?

フランスの格付けは、S&Pが30年以上の中断を経て国債格付けを再開し1975年6月25日以降、常に最高位のAAAを保ってきた。この1975年は、偶然にもそれ以降フランスの財政が均衡を保てなくなった年に当たる。

アメリカが2011年8月5日にそのAAAを失って以降、フランスはS&Pの格付けで最も長く最上位を保っていることを自慢してきた。しかしその地位は、フランスの格下げにより、1975年7月9日からAAAを維持しているノルウェーに移った。

他の二つの主要格付け会社の評価では、フランスは依然として最初の格付け以降、現在でも最上位のAAAをキープしている。ムーディーズ(Moody’s)では1979年から、フィッチ(Fitch)では1994年からだ。これら二つの格付け会社はフランスの格付けを最上位で継続しているものの、フランスへ圧力を強めている。ムーディーズは、フランスのAAAにネガティブな見通しを加える可能性があり、その場合、2年以内に50%の確率で格付けが引き下げられることになる。フィッチはすでにフランスをネガティブな見通しとしているが、2012年に引き下げが行われることはないだろうと見ている。

●格付け会社による評価はどうしてこれほど重要視されるのだろう?

格付けは金融界の要求に答えるものだ。つまり、どこの債券が他と比べてリスクがあるのか、あるいは銀行、保険会社、ファンドといった投資機関が最も安心して購入できる債券はどこのものか、リスクが高いのはどこのものなのかを知りたいというリクエストだ。

巨大な投資機関は、信用リスクの評価を格付け会社に委ねており、その結果、格付け会社はあたかも公的な機関であるかのようになっていると、EUも認めている。法律や規制の担当者は、格付け会社による格付けを銀行の自己資本や、金融機関が中央銀行から融資を受ける際の信用度を測るのに利用してきた。

●格下げは金利の上昇を意味するのか?

理論的には、ことは至ってシンプルだ。つまり、格付け会社がある国の国債の信用度についての判断を公表する。投資家が国債を購入する際に、その格付けによって金利が上昇したり下降する、ということだ。

20点満点の試験で20点を取るようなものであるAAAを得ていることは、低い金利で資金を調達する絶対的な保証になるはずである。しかし、実際には、必ずしもそうなるものではない。例えば、アメリカのケースだ。S&Pがアメリカの格付けを2011年8月5日にAAAからAA+(22段階の上から2番目)に引き下げたが、アメリカはそれ以降、格下げ以前よりも低い金利で資金を借り入れている。

国債の格下げは金融市場に動揺を与え、投資家をインフレヘッジとなる金融商品へと走らせる。それがアメリカの国債というわけだ。問題は、ユーロはまだドルと同じような外貨準備通貨としての地位を獲得していないことだ。

他のケースとしては、日本がある。財政赤字はGDP(仏語では、PIB=Produit intérieur brut)の233%にも達しており、S&Pの格付けもAA-(22段階の上から4番目)でしかない。しかるに、日本の国債金利は非常に低い。それは、国債の90%が国内投資家によって保持されているからだ。一方、フランスでは逆で、国債の65%が外国の投資家によって購入されている。

また、金融市場は格付け会社よりも判断や行動が早い。それは、市場は毎日変動しており、新たなニュースに反応しているからであり、格付け会社の判断を読もうとしているからでもある。それゆえ、同じユーロ圏でAAAを持っていた国々でも、最近の金利が大きく異なっていたのだ。

●格下げは、フランスの財政、国民の生活にどのような影響を及ぼすのか?

フランスは2012年に、発行済み国債の償還、それもGDPの4.5%に達する額の返済に際し、市場で1,780億ユーロ(約17億4,500億円)の調達を見込んでいた。

ここ数カ月、フランス国債の金利がドイツやオランダ、フィンランドといったユーロ圏の他のAAAの国々のそれとかなり乖離してきた。それは同じAAAの国でも、市場が格下げ以前にすでに差別化を行っていることを物語っている。フランスとドイツの10年もの国債の金利の違い、つまり金融界が専門用語で「スプレッド」(spread)と呼ぶものだが、それが昨年11月中旬には2ポイントに開いた。その後は1.3ポイント前後になっているが、昨年5月の0.3ポイントに比べれば大きな差になっている。

市場の大きな不安にも関わらず、昨年のフランス国債の平均金利は2.8%でしかなく、2010年の2.5%に次いで過去2番目の低さだった。このパラドクスは、より危険だと見做される株やその他金融商品ではなく、最も確かだと判断される金融商品、つまり国債への投資額の多さによって説明される。2011年、転売市場における10年ものフランス国債金利は3.3%に達した。10年もの国債が金利のバロメーターの役割を果たしているのだが、2012年予算に見積もっている3.7%を辛うじて下回っている。

フランス国債はAA+に引き下げられたが、それは昨年11月末までのベルギーと同じランクだ。しかるに、ベルギーの10年もの国債の平均金利は平均4.24%だった。フランス国債より1ポイントも高かったことになる。アセット・マネジメント会社“Amundi”(アムンディ:欧州2位、世界9位の金融資産管理会社)の分析によれば、金利が1ポイント上がると、フランスは初年度に追加費用として30億ユーロ(約2,950億円)必要になる。国民への影響は、国が資金調達するための金利を上げれば、不動産金利や消費者物価を押し上げることになるということだ。それは、国債金利が他の融資の金利を決めるベースになるからだ。

●企業、自治体、欧州金融安定基金への影響は?

「さまざまな組織をその存在している国の影響を無視して評価することはできない」と、格付け会社の元役員は述べている。それゆえにこそ、マイクロソフトやエクソン・モービルなどアメリカ企業4社のまれなケースが起きるわけだ。それらの企業の社債格付けはアメリカ国債よりも良いが、その格付けを活用できないでいる。国債金利の影響は特にサブ・ソブリン債発行者へ大きく現れる。つまり、自治体や公共事業体は国の保証を暗黙のうちに享受しているのだ。

フランス国債に格下げにより、多くの債券発行機関のAAAも引き下げられることになるだろう。例えば、預金供託金庫(CDC:la Caisse des dépôts et consignations)、社会保障負債償還金庫(Cades)、Unedic(union nationale interprofessionnelle pour l’emploi dans l’industrie et le commerce:全国商工業雇用協会連合)、フランス鉄道線路事業公社(RFF:Réseau ferré de France)、パリ病院公共援護会(Assistance publique – Hôpitaux de Paris:AP-HP)、パリ市、全国高速道路金庫(la Caisse nationale des autoroutes)などだ。フランス国鉄(Société Nationale des Chemins de fer français:SNCF)もAA+から引き下げられるだろう。国が株を保有している企業もまたその社債格下げになるだろう。例えば、フランス郵政公社(La Poste)、EDF(フランス電力公社)、フランス・テレコム、パリ空港公団などだ。

国際機関では、市場で資金を調達して金融危機にあるユーロ圏諸国に融資する欧州金融安定ファシリティ(EFSF:仏語では、le Fonds européen de stabilité financière=FESF)がAAAを失う恐れがある。この組織はユーロ圏でAAAを保有する6カ国の保証の上にのみ立脚している。その6カ国とは、フランス、ルクセンブルク、ドイツ、オーストリア、オランダ、フィンランドだ。しかるに、フランスとオーストラリアの国債が格下げされ、4カ国になってしまった。しかも経済力の大きさから、フランスはこの組織を支える主要二カ国の一つだった。

S&Pはしかし、欧州金融安定ファシリティは最高位の格付けを維持するだろうと述べている。そのためには、AAAを維持している4カ国のさらなる金融支援が求められるだろう。

●AAAを取り戻した国はあるのだろうか?

AAAを失えば、それでおしまい、ということではない。しかし、それを取り戻すには、長い年月が必要となる。デンマークは1983年にS&PからのAAAを失ったが、取り戻したのは2001年だった。オランダがその後AAAを維持している秘訣は、2011年においても財政赤字を対GDP比44.33%という低いレベルに保っていることであり、その結果、10年もの国債金利は2%以下に抑えられている。S&Pの格付けでは、4カ国がAAAを失った後に回復している。カナダ(1989年に失い2002年に回復)、フィンランド(1992年、2002年)、スウェーデン(1993年、2004年)、そしてオーストラリア(1986年、2003年)。いずれも回復後、そのAAAを維持している。

逆に、アメリカ、アイルランド、日本、ニュージーランド、スペインはAAAを失った後、取り戻すことはできずにいる。アメリカはAAAを長期にわたって保有していたが、他の国々がキープしていたのは数年だった。アイルランド、スペイン、日本にとっては、取り戻すことなど願うべくもない状況だ。

●AAAを維持している国はいくつあるのか?

S&Pは格付け対象の127カ国・地域のうち18カ国・地域にAAAを認めていた。そのうち6カ国がユーロ圏内だ。しかし、今や16カ国・地域になり、ユーロ圏内はルクセンブルク、ドイツ、オランダ、フィンランドの4カ国となった。

ユーロ圏以外では、シンガポール、カナダ、イギリス、ノルウェー、スイス、デンマーク、スウェーデン、オーストラリア、マン島(イギリスとアイルランドの間にある島)、ゲルンジー(英仏海峡にある島々)、香港、そしてリヒテンシュタインだ。これらの国々のうち、シンガポールの財政赤字はGDPの98%に達しており、唯一、フランスの86.67%を上回っている。

●格付けをしてもらうために、フランスはS&Pに支払っているのか?

格付会社のビジネスモデルは、「支払者格付け」に反する原則だ。「支払者格付け」の場合なら、借り手側が企業経営に透明性をもたらし、投資家を安心させ、資金を有利な条件で借りるために自ら評価を提供するものだが、フランスのような大きな国は例外的ケースになる。ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカと同じように、フランスは1サンチームたりともS&Pに支払ってはいない。S&Pは対象の国々に資金援助を頼まず格付けを行っている。

格付け会社にとって、大国を格付けすることは避けて通れない。それはイメージの問題だけでなく、投資家にとって格付けが投資の目安になるため、費用を支払ってでも評価を得たいからだ。「ソブリン債の格付けは売り上げの10%以下だ」と、三大格付会社の一社はこっそりと情報を与えてくれた。しかし、だからと言って収益が悪いわけではない。昨年度の9か月間のS&Pの営業利益は42.99%に達しており、ムーディーズは41.8%になっている。

●格付会社の重要度を削ぐにはどうしたら良いのか?

欧州と同じようにアメリカでは、金融危機以降、かなりの見直しが行われ、格付け会社に多くの非難が浴びせられている。アメリカでサブプライム・ローンという劇薬を含んだ金融商品にAAAを与えてバブルを膨らませたとか、突然の格下げでソブリン債の信用危機を深刻化させているとか、さんざんに糾弾されている。アメリカでもヨーロッパ同様、当局は格付けへの言及を削減、あるいは廃止できないものか検討している。EUも三大格付会社が90%のシェアを持っている現状に競争原理を導入し、より多くの物差しを用意することによって、格下げによる衝撃を弱めようとしている。

欧州委員会は、困難な状況にある国の場合は、動揺を大きくしないためにも、その格付けを延期できないか検討してきた。しかし、こうした対策は悪い情報を隠すためのものだと市場が結論付けてしまうことを恐れるあまり、対策を実施に移せずにいる。

・・・ということで、私企業である格付会社の判断に、世界金融が振り回されているようです。特に、中華意識の強いフランスにとっては、最上位から格下げされたことは、いかんともしがたい侮辱のように思えるのではないでしょうか。

バロワン財務相は、格下げによる影響は小さいと、火消しに躍起になっていますが、サルコジ大統領は昨年、「トリプルAを失えば自分はおしまいだ」と漏らしていたといいますから、そのショックはいかばかりでしょうか。ただでさえ、世論調査で社会党のオランド候補の後塵を拝しているわけですから。第1回投票まであと3カ月ちょっとの時点での、格下げ。もうこれまで、アウト!、でしょうか。

 「大統領選に立候補している中道派のフランソワ・バイル氏はテレビ番組で『わが国の評価に悪影響を及ぼす国家主権の格下げであり、ドイツと比較した格下げでもある。欧州におけるわれわれの状況は象徴的にも政治的にも悪化することになる』と語った。」
(1月14日:ロイター)

というのが、フランス国民の感情に最も近いのではないでしょうか。欧州の中心を任じてきたフランス、それが今ではライン川の向こう側(ドイツ)や海峡の向こう側(イギリス)がAAAを保っているのに、どうしてフランスが・・・どうやって、この現実を受け入れるのでしょうか。格付け会社を批判して溜飲を下げ、それでおしまいでしょうか。格下げされたフランス、特にその政治への影響、そしてフランスの反応が楽しみです、たかがAA-の国の国民が何をほざくと、叱られそうですが・・・
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2 コメント

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同じ格下げ、フランスと日本 (julian)
2012-01-16 22:41:05
フランス人には格下げが相当ショックなようですね。ところが日本はというと「格下げ?あっそう、ふ~ん、へ~。で、何で円高?てか、毎日、日本国債の利回り下がって相変わらず人気ですが?」この反応の違いに笑ってしまいますw意外に日本人って楽天家なのかも(笑)
楽天家 (take)
2012-01-17 21:01:43
juliannさん

コメント、ありがとうございます。

頂いたコメントで、思い出したのが・・・

“A pessimist sees the difficulty in every opportunity ; an optimist sees the opportunity in every difficulty.”

イギリスのチャーチル元首相の名言で、訳すまでもないですが、「悲観主義者はあらゆる機会の中に問題を見出す。楽観主義者はあらゆる問題の中に機会を見出す」。

問題を認識したうえでの楽観主義であれば、日本の未来は明るい! そうであってほしいと思います。

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