ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

自転車の、「自由を我等に」。

2010-07-18 22:18:10 | 社会
『自由を我等に』と聞いて、あのルネ・クレマン監督の名作映画(“A nous, la liberté”)を思い出す人は、中高年でしょうか。何しろ、1931年の映画。フランス映画に憧れる人が多かった時代、今から30年ほど前までは、しばしば称賛された作品です。今は、どれくらいの人が知っているでしょうか。昔の映画は良かった・・・歳です。

さてさて、今、自由を求めているのは、自転車。ヨーロッパでは、以前からスポーツに、レジャーにと、人気の高かった自転車ですが、200年以降は環境に優しい移動手段としてさらに脚光を浴びています。特にパリでは、3年前に“Vélib’”(ヴェリブ、le vélo en libre-serviceの略)という名のセルフサービスのレンタサイクルが登場。通勤や日常の暮らしでも自転車がいっそう気楽に利用されるようになっています。もちろんパリジャンだけではなく、観光客にも利用されているようです(ヴェリブに関する詳細は、ブログ『50歳のフランス滞在記』(blog.goo.ne.jp/take_uu2004)の2007年7月17日分をご参照ください)。

こうした時代の流れをさらに後押ししおうと、パリ市では市内の自転車専用レーンを、現在の総延長440kmから今年中に700kmにまで伸ばそうとしています。7月16日のル・モンド(電子版)が伝えています。

パリ市内で700km・・・すごい距離ですね。自転車の人気のほどがうかがえます。しかも、単に延長するだけでなく、四輪自動車に合わせて一方通行だった道路も、自転車には双方向通行を認めることを半年前に決定。すべてのクルマの最高制限速度が30km/hという、いわゆる「ゾーン30」を通る1,000本以上の道路をその対象とし、すでにそのうちの90%で実施にこぎつけているそうです。

この自転車の双方向通行と自転車専用レーンの延長、2008年7月、ボルロー環境大臣(Jean-Louis Borloo)の発案で政令化されました。交通の流れを良くし、渋滞を緩和することを目的とし、既存の交通網を生かしつつ、自転車の走行できる道路を増やすことによって実現しようとする施策だそうです。

もちろん、標識も充実させなければなりませんし、利用される自転車が増えれば、それだけ駐輪場も拡充しなくてはならない。それでも、四輪自動車がわがもの顔で走り過ぎる、無秩序極まりない幹線道路を走るよりは、ゾーン30の道路のほうが自転車にとっても安全だろうとも考えられています。確かに、ハンドル握ると人間性が変わるフランス人って、多そうですよね。シャンゼリゼ通りのF1レーサー・・・

しかし、「我思う、ゆえに我あり」の国。どんな案にも反対意見は必ず出てきます。この双方向への変更で、かえって交通事故が増えるかもしれない。なぜなら、スクーターが自転車にまぎれて双方向で走ってしまう恐れや、駐車場と走行レーンが混在しているところで、自転車が双方向から走ってくるとぶつかることも増え、いっそう危険になるに違いない!

また、ボルロー環境大臣と同じ政権与党UMP(Union pour un mouvement populaire:国民運動連合)所属の、パリ17区の区長は自転車の双方向通行に起因する危険な交通状況を写真パネルで展示し、問題を指摘していますし、パリ市のUMP市議団は、双方向通行の実施から1年後、この施策と交通事故に関するレポートを作成し、検証することにしているそうです。

地方分権と言うべきか、党議拘束に縛られないと言うべきか、政府の政策を同じ与党の党員であっても、おかしいものはおかしいと言えるシステム、あるいは国民性。長いものに巻かれろ、では決してない生き方。一人ひとりが自立している国民。だからこそ、ある極端な方向に、国全体が盲目的に突っ走ってしまうこともないのかもしれないですね。誰かがブレーキの役割を果たす国。

いや、ちょっと待て。みんなで渡っても、赤信号は、赤信号。こう言える人が、日本にもっと増えるといいですね。進む人がいれば、止まる人もいる。プラスがいれば、マイナスもいる。その方が、バランスが取りやすいのではないでしょうか。日本に伝統的な、長いものに巻かれろ、寄らば大樹の陰。それはそれで一つの生き方、処世術。否定できるものではありませんが、それとは異なる生き方をしたい人が自由に生きていける社会。そうなれば、日本ももう少し度量が広くなり、より多くの人がさらに生きやすい国になるような気がしてなりません・・・我等の社会に、もっと自由を!

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