ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

原発には反対、予備選には賛成・・・ニコラ・ユロ。

2011-04-29 20:53:59 | 社会
環境保護運動に携わり、国民の間で大きな人気を誇るニコラ・ユロ(Nicolas Hulot)。彼が先日(4月13日)、来年の大統領選挙への出馬宣言を行いました。2007年の大統領選でも出馬を期待されていただけに、満を持しての出馬と言えます。

ニコラ・ユロ。1955年4月30日、リール生まれ。30日で56歳です(因みに、私と同年生まれ)。さまざまな職業を経て、カメラマンに。世界各地の風土をフレームに収めていましたが、ラジオ番組出演が契機となり、1987年、世界の環境問題にスポットを当てるテレビのドキュメンタリー番組“Ushuaïa”(TF1の番組、タイトルは南米大陸南端の町の名)のプロデューサー兼レポーターとなり、一躍人気者となりました。番組は1995年6月まで続き、いったん中断の後、1998年10月からは“Ushuaïa Nature”というタイトルで放送を再開しています。

また、パリ市長時代のジャック・シラク(Jacques Chirac :後の大統領)と会い、意気投合。その頃から環境をテーマに、政治に近づいたようです。

そのニコラ・ユロが、ストラスブールで行われた反原発デモに参加しました。福島原発の事故を契機に広がる反原発の動きですが、大統領選への出馬宣言直後だけに、メディアも大きく取り上げています。25日の『ル・モンド』(電子版)です。

エコロジストの大統領選候補、ニコラ・ユロにとって脱原発は達成すべき命題だ。「福島原発の事故によって、原子力が将来のエネルギー問題を解決する答えではありえないことを完全に認識した」と、ストラスブールで行われたフェッセンハイム原発(la Centrale de Fessenheim:1977年に稼働開始、フランスで稼働中の原発としては最古のもの)の停止を求めるデモを前にこう語っている。

「脱原発は最優先の課題であり、価値観を変えることだ。私自身、原発推進派の科学者たちが述べる意見に賛同する一員であったが、彼らの意見は、福島原発の事故という現実を前に、信頼を失っている。私は教条主義者ではなく、一歩ずつ歩みを進めるタイプの人間だ。しかし、福島原発で起きている現実を前に愕然とし、政治家や科学者たちの狼狽ぶりに、本当の恐怖を感じている」と、こうも続けている。

ニコラ・ユロは、大統領選へ向けてのエコロジー派のライバルであるエヴァ・ジョリー(Eva Joly:ヨーロッパ・エコロジー所属の欧州議会議員)に、大統領選出馬表明の演説で原子力問題に触れなかったことを批判されたが、エコロジー陣営を喜ばすような態度を取ることは敢えて差し控えた。「エコロジスト支持者たちが聞きたいと思っていることに合わせて自分の信念を過激にしようとは思わない。そんなことはせずとも、人類が過ちを犯したことは現実が仮借なきまでに示しているのだから」と、述べている。

ニコラ・ユロによれば、急がず、プラグマティズム(実用主義)に徹すれば、脱原発は今後数十年で達成できるだろうということだ。「そのためには、いくつかのエネルギーを上手に組み合わせ、再生可能エネルギーの研究開発へ投資を誘導し、効率的なエネルギー利用を達成する必要がある」とも語っている。

一方、大統領選へ向けては、「ヨーロッパ・エコロジー・緑の党」の支援を受けずに戦うことは、みんなにとって不幸な結果となるだろうと語り、エコロジストを代表する候補者を決めるオープンな予備選挙を繰り返し提案している。すでに党指導部とともに、支持者に予備選への投票を呼び掛けるための検討に入っている。

「オープンにすることが大切だ。『ヨーロッパ・エコロジー緑の党』の基礎票は必要なのだが、それだけではなくエコロジストの意見に同意していない人たちをも説得することが大切であり、ぜひその説得に努めたい。予備選に参加することは党員になることではないということを、我々の予備選に興味を持っている人たちに明確に説明し、安心してもらうことも大切だ。彼らをだますようなことはしてはいけない」と語り、投票する際に支払わなければならない20ユーロを引き下げるべきだと訴えつつ、「党員だけで固まっている、自閉しているという印象を与えるべきではない」と付け加えている。そして最後に、党指導部との話し合いは、まさに開かれた精神で行われるに違いない、と語っている。

・・・ということで、フランスでも原発が政治問題となっています。原発を推進するのか、脱原発を押し進めるのか。脱原発の場合、代替エネルギーはどうするのか。国民の省エネに頼って、電力消費量を削減するだけで済むのか、再生可能エネルギーに転換するなら、どのようなスケジュールで変換していくのか。

ドイツでは、州の選挙結果に福島原発の事故が大きな影響を与えました。他の国々でも、さまざまな形で政治問題化しています。今後、人類のエネルギーはどうあるべきなのでしょうか。

化石燃料は、排気ガスやばい煙などで環境汚染を引き起こします。風力発電では、低周波が聴力や心理面へ与える影響があるのではないか。太陽光発電にしても、人類の経済活動をすべて賄おうとすれば、地表への熱エネルギーが不足することになりやすまいかと心配になります。地熱発電は、潮力発電は・・・私のような素人には、心配が絶えません。

「・・・日照りの時は涙を流し 寒さの夏はおろおろ歩き・・・」(『雨ニモマケズ』:石川啄木) 不安を抱えながらも、どうすべきか、明らかな指針が見えてこないエネルギー問題。素人には、自分でできる範囲で節電に努めることと無駄な消費を慎むことくらいしか、思いつきません。

今は被災地支援と原発問題の収束に全力を傾けてほしい日本の政治ですが、ある程度目処が立った時点では、今後のエネルギー政策について、政局絡みではなく、真摯な議論を行い、明確な指針を出してほしいものです。

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