ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

「レ・ブルー」はフランス代表。だから、もっと白人選手を!?

2011-05-01 20:43:47 | スポーツ
サッカー・・・ワールド・カップ、欧州選手権、アジア・カップ、チャンピオンズ・リーグ、アジア・チャンピオンズ・リーグ、Jリーグなど各国のリーグ戦。それこそ世界中で愛され、楽しまれているスポーツですね。

イギリスでは、サッカーは庶民のスポーツ。上流階級が楽しむのはラグビー。そんなふうに言われています。そうした階級による違いがほとんどない日本とはいえ、庶民の私は、言うまでもなく、サッカー・ファン。小学生の頃、より正確には東京オリンピックからのサッカー・ファンです。釜本、杉山、松本、八重樫、横山といった選手のプレーぶりを覚えていますし、テレビでは「三菱ダイヤモンドサッカー」という番組で、世界のプレーを見ることができました。ワールド・カップも1970年のメキシコ大会からテレビで観ています。ペレ、トスタン、ジャンニ・リベラ、マッツォーラ、ファケッティ、ベッケンバウアーなど記憶に残る選手は枚挙にいとまがありません。スタジアムで観戦したのも、エウゼビオ、ジーコ、ソクラテス・・・ワールド・カップではトゥールーズでの日本vsアルゼンチン、大阪での日本vsチュニジア。

しかし、こうした個人的懐旧にふけることが、今日のテーマではありません。ご紹介するのは、フランス・サッカー界のみならずフランス社会に衝撃を与えているニュース・・・フランス・サッカー連盟が育成選手に人種別の人数制限を設けようとしているという、ある情報サイトのスクープです。すわっ、人種差別だ! と、大騒ぎ。

ユニフォームの色から、「レ・ブルー」と呼ばれるフランス代表。しかし、フランス滞在時、「もはやフランス代表はない。あれではアフリカ代表だ。肌の色を見てごらん」という声をしばしば耳にしました。確かに、イレブンの中に白人選手は数人。ゴールキーパー(当時は、リヨンのクぺ選手)だけが白人、といった試合もありました。多くの選手は、サハラ以南のアフリカ、マグレブ諸国、カリブ海の海外県などからの移民・移住者やその子どもたちがほとんどでした。中には、ニューカレドニア出身者やインド系もいました。

フランス代表なら、その名にふさわしくもっと多くの白人選手に活躍してほしい。そこで、サッカーの上手な子どもたちを集め、将来の代表選手を育てようという施設やチームに、人種別の人数制限を設け、白人選手を増やしてはどうか・・・そんな決定がサッカー連盟でなされたらしいということで、大きなニュースになっています。4月29日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

そのニュースにサッカー界は揺れている。4月28日夜、ニュースサイトの“Mediapart”(メディアパート)が、フランス・サッカー連盟(FFF:la Fédération française de football)の首脳陣が各年代における代表チームに人種別の人数制限を設けようとしているようだ、と報道した。

フランス・サッカー界の最高意思決定機関であるFFFが、チームに黒人選手が多すぎる、アラブ人選手が多すぎる、白人選手が少ない、と言っているようなものだ、とメディアパートは非難している。代表チームのブラン監督(Laurent Blanc)を含め、サッカー界の上層部は、今年初め、育成組織や学校において人種別の人数制限導入を公式に決めたようだ。

FFFの複数の情報源によれば、FFFからの人種別人数制限というスキャンダラスな指示は、数週間前、若手選手のトレーニングセンター、特に将来の代表チームを担う可能性のある若手選手を集めた「クレールフォンテーヌ」(Clairefontaineという町にある育成センターの通称で、正式にはl’Institut national français。アンリ、アネルカ、ギャラスらを輩出。JFAアカデミー福島のモデルとなった施設)に伝えられた。その指示はFFFの技術委員会から出されたもので、エリート育成される有望な若手選手に占めるアフリカやマグレブ諸国出身者の割合を30%に抑えるというものだ。

クレールフォンテーヌの前センター長、アンドレ・ムレル氏(André Merelle)はラジオ局“RMC”の番組で、このテーマは以前からあったことを認めつつ、「ジェラール・ウリエ(Gérard Houllier:1988-92に代表チームの助監督、1992-93に代表監督、1994-96に18歳以下代表監督、1996-97に20歳以下代表監督。現在はイングランド・プレミア・リーグ、アストン・ヴィラの監督)が監督だった頃だ。人数制限について明確に話されたわけではないが、代表を選ぶ際に選手の出自が考慮された。フランソワ・ブラカール(François Blaquart:センターの技術委員長)など指導部にとっては、アフリカ出身の選手が多すぎると思えたのだろう。私自身は、非力な白人選手に比べ、なぜアフリカ系の選手が代表チームに多くいるのか、それは良く分からない。しかし、明らかな現実は受け入れざるを得ない。優れた選手は、郊外出身者に多いのだ」と述べている。

メディアパートの非難に対し、FFFはすかさず反応した。フェルナン・デュショソワ(Fernand Duchaussoy)会長は、この情報に驚き、ショックを受けていると語るとともに、「こうしたことが話されるのを聞いたことがない。本当に驚いている。こうしたことが起きるとはまったく異常なことだ。自分が知っていたら、決して認めはしないだろう。事実は事実としてあるが、人数制限など考えてもいない」と述べている。

代表監督のロラン・ブランもこうした措置を認めたという報道を否定し、メディアパートの批判は非難されるべきものだと語っている。ブラン監督の広報担当、フィリップ・トゥルノン(Philippe Tournon)は、「人種や肌の色に基づく選手選考を認めたという報道を、ブラン監督は公式に否定した。こうした考えは彼の人生哲学に反するものであり、ロラン・ブランはいかなる人種差別にも反対している」と述べている。

フィリップ・トゥルノンによれば、「ブラン監督は二重国籍の選手に関する問題に取り組んでいる。二重国籍の選手は、若いころフランスの育成システムで鍛えられるが、その後自らのルーツのある国の代表選手になってしまう。こうした事実を『黒人選手が多すぎる、アラブ人選手が多すぎる』という見出しの記事と重ねれば、めまいを起こしてしまうほどだ」ということになる。20歳以下代表チームのフランシス・スメレッキ監督(Francis Smerecki)も同じく二重国籍選手の問題を取り上げ、「この問題は目新しいものではない。FFFでも検討されてきた課題で、若手選手を育成しても、その中の一定部分の選手はフランス代表の一員になろうとしない」と語っている。

スポーツ大臣のシャンタル・ジュアノ(Chantal Jouanno)は『ル・モンド』のインタビューに答えて、「人種に基づく選手制限など信じたくはない。現在は、まだ噂の段階であり、詳細な情報を入手するまではFFFへの処分は検討できない。この事件に関わるすべての事を明白にするため、青少年とスポーツに関する調査を命じた。事実が明白になれば、処分が科されることもありえる」と述べた。メディアパートが伝えた内容は4月29日に行われるFFF評議会の議題に加えられ、会議の後、フランソワ・ブラカールが記者会見を行うことになっている。

・・・ということなのですが、真相はどういう形で白日の下にさらされることになるのでしょうか。人種別人数制限を主導したといわれるフランソワ・ブラカールが停職処分になったという報道もあります。

「フランス代表ではなく、アフリカ代表だ」というファンの声。アフリカ、中近東、アジア出身の選手への心ないファンのヤジやチャント・・・サッカー界ではしばしば人種差別が問題になっています。しかも今や、極右台頭の時代。サッカー・スタジアムから外国人選手を排斥する気運を後押ししています。

移民と接することの多い庶民階級ゆえ、反移民感情も高ぶるのでしょうか。それとも、上流階級ほどに感情を上手に隠せないだけなのでしょうか。いずれにせよ、庶民階級のスポーツ、サッカーで人種差別的動きが目立っています。明日の世界を予言しているのでなければよいのですが・・・

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