ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

2002年にパキスタンで起きた自爆テロ、今、フランス政界を激しく揺さぶる。

2011-09-25 22:18:14 | 政治
今、フランス政界を大きく揺さぶっている事件、「カラチ事件」(l’affaire Karachi)。2002年5月8日、パキスタンの都市・カラチ(アラビア海に面したパキスタン最大の都市、人口1,300万人ほど)で爆発事件がありました。14人が死亡したのですが、そのうち11人がフランス人。パキスタンで、なぜ? 

パキスタン当局は、自爆テロとして処理。しかし、9年以上経って、今、サルコジ大統領まで巻き込むのではないかと言われる、一大政治スキャンダルに発展しています。いったい、どのような経過を辿って、そうなったのでしょうか・・・21日の『ル・モンド』(電子版)がまとめてくれています。

ニコラ・バジール(Nicolas Bazire)とティエリ・ゴベール(Thierry Gaubert)に次いで、フランス司法当局はニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)にさらに一歩近づいたようだ。サルコジ大統領の第一の側近であるブリース・オルトフー(Brice Hortefeux:前内相)が、23日、事件に直接関わっていたことが明らかになったからだ。フランス政界の上層部を巻き込んでいる事件、その発端は2002年にカラチで起きたテロに遡る。

エドゥアール・バラデュール(Edouard Balladur)が首相だった1993年から95年にかけて、バラデュール元首相はパキスタンとサウジアラビアへの武器売却でフランスが契約を勝ち取れるよう、合法的なコミッション制度を設けた。仲介者たちは2カ国へのロビー活動の見返りに報酬を得たのだが、その仲介者の一人がレバノン人のZiad Takieddineだ。今までのところ、その活動に違法性は見つかっていない。しかし、司法当局は、仲介者たちに支払われたコミッションの一部が、1995年の大統領選におけるバラデュール陣営の選挙資金とすべく、違法にバラデュール元首相の元に還元されたのではないかと疑っている。これが今、話題の“rétrocommissions”(見返りコミッション)だ。1995年の大統領選挙で勝利したジャック・シラク(Jacques Chirac)は、就任するや、政敵であるバラデュール陣営の資金の出所を抑えるため、このコミッション制度を廃止した。

2002年5月8日、パキスタンのカラチで自爆テロが起き、フランス人11人を含む14人が犠牲となった。11人のフランス人は、フランス海軍の造船局に勤めていた。パキスタン司法当局は、テロリスト・グループによる事件として処理したが、フランス司法当局は約束されていたコミッションを受け取れなかったパキスタン上層部による復讐だったのではないかという仮説を立てている。

事件の資金面での情報を握っているのではないかと見られるZiad Takieddineが、今年9月14日、公金横領の共犯罪と横領された公金の隠匿罪で、取り調べを受けた。

今日の関心は、テロが復讐によるものだったかどうかよりも、バラデュール陣営の選挙資金を解明することに移っている。元首相は、次第に不正の影を濃くしてきている。元首相の選挙資金会計報告が当時、憲法評議会によって承認されたとはいえ、いくつもの証言が不正、特に出所が不明な巨額な現金について物語っている。この夏の盛り、選挙資金は当時の首相府によってもたらされた秘密資金だったという見解を否定する証言が飛び出した。この証言はもうひとつの可能性、つまり、選挙資金は見返りコミッションだったという仮説を裏付けることになった。

今、この事件が大きな波紋を投げかけているのは、ルノー・ファン・リュインベク(Renaud Van Ruymbeke)判事が、新たに得られた証言をもとに一連の取り調べを行うことにしたからだ。仲介者だったTakieddineがまず14日に取り調べを受け、21日には、サルコジ大統領のヌイイ市長および予算相時代の側近だったティエリ・ゴベールが横領した公金の隠匿罪で取り調べを受けた。そして翌22日には、第三の男が公金横領の疑いで取り調べられた。それが、バラデュール内閣の官房長だったニコラ・バジールだ。

事件は、大統領府へ近づいたのだが、それは、バジール、ゴベール両氏がニコラ・サルコジに近い、あるいは近かったというだけでなく、サルコジ大統領自身、当時、バラデュール首相の報道官を務めていたからだ。サルコジ大統領は疑われる闇資金について一切知らなかった、ということを信じるには無理がある。カラチでのテロ事件による被害者家族の弁護を担当しているモーリス弁護士は、「事件はニコラ・サルコジの責任の方へと向かっているのであり、彼が現在、大統領でなかったなら、必ずや取り調べを受けていただろうということは、言うまでもなく確かなことだ」と語っている。

ニコラ・バジールは現在、“LVMH”のホールディング・カンパニーの経営にあたっており、役員会に席を占めている。また彼は、ニコラ・サルコジとカーラ・ブルーニの結婚の立会人になっていた。それ以前に、ニコラ・バジールは、バラデュール内閣の官房長を務め、1995年の大統領選でバラデュール陣営を取り仕切ったことで良く知られていた。

1995年に放送されたテレビ局・France2のレポートには、ニコラ・サルコジとニコラ・バジールがバラデュール陣営の指揮をとっている様子が映っている。一方、ティエリ・ゴベールは、ニコラ・サルコジが予算相当時、その大臣副官房長を務めていた。また、ヌイイ市長当時は、腹心の一人だった。しかし、1990年代の終わり頃、ニコラ・サルコジと距離を置くようになったが、今でもブリース・オルトフーとは非常に近い関係を保っている。週刊誌“le Nouvel Obserbateur”によれば、ティエリ・ゴベールの元妻であり(離婚調停中とも言われています)、社交界の花形でもある、旧ユーゴスラビア王室に繋がるエレーヌ(princesse Hélène de Yougoslavie)は、取調官に対して、ゴベールが1994年から95年にかけて、札束がずっしりと詰まったカバンを受け取りに、仲介者のZiad Takieddineを伴ってスイスへ行ったことを語ったようだ。

バジール、ゴベール両氏の取り調べに、大統領府は素早く、そして激しい反応を示した。中傷と政治屋による駆け引きだと非難するとともに、サルコジ大統領の名前はいかなる司法資料にも登場しておらず、証人としても関係した人物としても名前を挙げられていないと強調した。しかし、どうして大統領府は司法の資料を見ることなしにそう断言できるのだろうか。大統領にしろ大統領府にしろ、損害賠償請求人ではなく、従って進行中の予審における資料を閲覧できる根拠はどこにもない。もし見ていたとしたら、三権分立の原則が問題となる。しかも、大統領府が公表したコミュニケは事実に反する事柄を含んでいる。実際には、捜査資料にサルコジ大統領の名前が登場し、その名は事件の中で幾度となく引用されている。

そして、今、新たな中心人物が登場した。ブリース・オルトフーだ。23日に『ル・モンド』が暴露した情報によれば、オルトフーは9月14日にティエリ・ゴベールに電話をかけ、彼の妻・エレーヌが、「カラチ事件」と言われる一連の出来事の予審を担当している判事に、かなり多くのことをしゃべってしまったようだと伝えた。ファン・リュインベク判事は、エレーヌの証言をできる限り長く隠しておきたかったのだが、オルトフー氏はすでに多くのことを知ってしまっている。そして、オルトフー前内相は、予審の機密保持を無視し、友人に彼の妻が取り調べを受けたことを伝えたのだった。

・・・ということで、2002年5月にカラチで起きたテロは、9年半近く経って、フランス政界を揺さぶり、司法の捜査の手は来年に大統領選挙を控えるサルコジ大統領の周辺に迫っています。

なお、見返りコミッション、つまりリベートとしてバラデュール元首相側に渡った金額は、24日の毎日新聞(電子版)によると、100万ユーロ(約1億400万円)以上になるそうです。

大統領選へ向けてトップを走っていた社会党のDSK(Dominique Strauss-Kahn)が女性問題で党の公認候補を選ぶ予備選にすら立候補できなくなりましたが、今度は、与党・UMP(国民運動連合)の候補者となる現職のサルコジ大統領周辺に金銭疑惑が・・・カネと女です。

リベートや裏工作資金の絡む事件・・・造船疑獄やロッキード事件(田中元首相が受収した金額は5億円と言われています)など、日本の政治史に連綿と続いているようですが、何も日本の専売特許ではなく、フランス政界にもあるようです。政治にはどうしてもカネがかかる。それも表に出せないカネが必要になる。人間は、カネで動く動物なのでしょうか。カネさえ包めば、票になる。買われた票で、世界は動いているのでしょうか。

フランスよ、お前もか、という気もしますが、それが現実なのでしょう。しっかり、両目を開けて、見詰めねばなりません。
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