ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

KANからNODAへ。フランス・メディアが伝える、日本の首相交代。

2011-09-02 22:05:42 | 政治
首相の親任式、閣僚の認証式が終わり、野田内閣が正式に発足しました。もともと外交面では影の薄い日本の首相、そこに頻繁な内閣の交代が加わり、名前も覚えてもらえないことさえあるようです。日本の首相はこれで何人目か、という質問に答えられない海外の報道官もおり、また、あなたで何人目よと外国のパートナーに言われた外相も少し前にいました。

「これでは外交にイニシアチブが持てない」と語る『イタル・タス通信』の記者、「日本の政治記事を出稿しても、読者の反応が鈍い」と述べる『タイムズ』誌の記者・・・では、フランスのメディアは日本の首相交代をどのように伝えているのでしょうか。

『ル・モンド』(電子版)の8月26日、29日、30日に出ていた記事を読んでみましょう。それぞれに重なる部分、全く同じ文章も出てきますが、そこがフランス人記者の重視している部分、強調したい点なのかもしれません。

まずは、菅前首相の退陣報道(26日)から。

日本の菅直人首相が26日、政権与党である民主党(PDJ:Parti démocrate du Japon)の代表を辞任することを発表した。その辞任は、同時に、首相の座から降りることも意味している。

「新代表が選出されたなら、速やかに退陣し、内閣も総退陣する」と、民主党の議員たちを前に述べた。岡田幹事長は、後任の代表を選ぶ選挙を29日午前に行うことを確認した。新代表が翌30日、国会で新首相に選ばれることになる。

日本では、現在のように参議院で野党が多数派であっても、衆議院の多数派の党首が首相に選ばれることになっている。

菅氏(64歳)は、2010年6月に首相に就任したが、長期にわたり野党からはもちろん、与党内からも批判を受け続け、ついにタオルを投げたことになる。東日本沿岸に甚大な被害を及ぼすとともに、福島原発の重大な事故を引き起こした3月11日の巨大地震と津波による災害への対応が遅く、効率的でないと批判を受け、世論の支持率は最低水準にまで落ち込んでいた。

菅氏はついに辞任に追い込まれたわけだが、すでに6月、自らの手で成立させたい重要三法案が成立したなら辞任すると約束していた。その三法案、被災地復興のための二次補正予算は7月に成立し、赤字国債の発行を認める特例公債法案と再生可能エネルギー固定価格買い取り法案も26日に成立した。

後継候補としては、世論調査で最も人気の高い前原前外相(49歳)、現在5%の消費税率をアップさせることに賛成の野田財務相(54歳)が挙げられている。

菅首相の辞任発表を受けて、東京証券取引所の株価平均は0.29%変動しただけで、パニックに陥ることはなかった。

二つ目の記事(29日)は、野田氏が民主党の党代表に選ばれたことを伝えています。

財務相の野田佳彦氏が29日、民主党の新代表に選ばれ、30日に国会で首相に選出されることになる。野田氏は財政規律を重視する54歳で、党代表選の決選投票では392票のうち215票を獲得し、177票だった経産相の海江田万里氏を破った。

日本では、下院(衆議院)の第一党党首が首相になる。従って、野田氏が30日に正式に首相に選ばれることになる。野田氏は財政赤字の問題を解決するために痛みを伴う改革を行うことを公約に掲げており、その新代表選出は市場に好感をもって受け止められている。野田氏は演説で、3月11日の地震と津波により大きなダメージを受けた日本の課題を解決するために党内一体となった支援を期待すると述べた。「福島原発の問題を解決し、被災地を再興し、円高とデフレと闘うためには、全員野球で取り組む必要がある」と、語っている。

東北地方の再興は後れをとっており、福島原発の危機はまだ解消されておらず、数万人の被災者は避難施設や仮設住宅でどうにか日々を過ごしている状態だ。今回の災害は、GDPの二倍にも上る債務、行き過ぎた円高、高齢化に伴う社会保障費の増大に苦しむ日本経済を再びリセッションに陥れている。

格付け会社ムーディーズ(Moody’s)は、日本の長期国債格付けのAa3への引き下げの一因が政治の不安定にあることを認めている。この格下げは、永田町から忘れ去られていると思っている被災者たちをも憤慨させている。

そして、最後は、組閣についてです(30日)。

日本の野田佳彦新首相は、財務相に仙谷由人氏または岡田克也氏を指名しようとしているようだと、民主党内の情報源が伝えている。仙谷氏は元官房長官であり、岡田氏は元外相だ。

前財務相である野田氏は、財政規律重視派であり、辞任した菅氏に代わる新首相に国会で指名された。

54歳の野田新首相は、この5年で6人目の首相であり、民主党が第一党である衆議院で475票中308票を獲得して、首相に指名された。

参議院は自民党を中心に野党が多数派を占めているが、憲法の定める衆議院議決優越により、衆議院多数派の党首が首班に示されることになる。野田氏は29日、2年前から権力の座位にある中道左派・民主党の新党首に選ばれており、国会で首相に指名されることは既成の事実であった。

一方、最低の支持率に陥っていた菅内閣は、30日朝、総辞職した。退任した前首相は、東日本で2万人以上の死者・不明者を出し、福島原発の大惨事を引き起こした3月11日の地震と津波への対応を批判されていた。

新首相は、第二次世界大戦以降、最も悲惨な災害に直面し、大きな赤字を抱え、高齢化が社会保障費に大きな負担となっている国の運営を任されたのであり、容易ならざる課題に対応することになる。

野田氏は、課題に取り組むにあたって、民主党全員の支持、野党の協力を求めたいと述べた。「日本は存亡の機にある。原発問題を解決し、震災地を再興する必要があり、しかも重大な経済危機に直面している」と、語っている。世界第三位の経済大国は、再びリセッションに陥り、円高が輸出の足を引っ張っている。

・・・ということで、原発問題、被災地の再興、大きく膨らんだ債務、高齢化による社会保障費の増大、そして円高。こうした問題に野田新首相は取り組まねばならず、その前途は厳しいものがあるようです。しかし、少なくとも党内融和をカタチの上では実現することができたようで、後方から弾を打たれることは、しばらくはないようです。

また、野党側も、公明党など矛を収めつつ党もあり、船出は順調なようです。しかし、ここまでは、腰の低さと、人事の成果で無難な船出となっていますが、先行きには、消費税率、TPP、マニフェスト見直し、円高対策、靖国問題など、対応を誤れば火を噴きかねないテーマが待ち受けています。

一年後、6年で7人目の首相とならないよう、ぜひ慎重に、それでいて果断な政権運営を行っていただきたいと思います、というか、願わずにはいられません。国内の混乱はもちろんですが、外交で日本の影がこれ以上薄くなるのを見るのは、つらいものがあります。
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