ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

失業者の子は学校の食堂を利用するな・・・フランスの学校。

2011-09-16 20:51:59 | 社会
数年前から、日本では、給食費の滞納がモンスター・ペアレント問題と共に指摘されています。リーマン・ショックなどによる経済危機により、払いたくても払えない親が増えているのも事実ですが、同時に、「払えるのに払わない親」も増えているそうです。

 学校給食費の滞納問題で、文部科学省は24日、初の全国調査結果を公表し、2005年度の小中学校の滞納総額が22億円超にのぼることを明らかにした。
 児童・生徒数で見ると、100人に1人が滞納していた計算だ。滞納があった学校の6割は、「保護者の責任感や規範意識が原因」としており、経済的に払えるのに払わない保護者の存在が改めて浮き彫りになった。文科省は同日、「滞納が目立つ市町村や学校があり、給食の運営に支障が生じる可能性がある」として、問題の解消に取り組むよう各自治体に通知した。
 (略)
各学校に滞納の主な原因をたずねたところ、「保護者としての責任感や規範意識」をあげた学校が60.0%、「保護者の経済的な問題」をあげた学校は33.1%だった。
 滞納が「増えた」と感じている学校は49.0%で、「変わらない」(39.2%)、「減った」(11.8%)を上回った。
(2007年1月25日 読売新聞)

教育の現場ではかなり前から問題になっていたようです。その対応策として、電話や文書での説明・督促、家庭訪問などを行っているものの、その効果はまだ一部に留まっているとか。そこで、例えば、3カ月以上滞納した場合には、その家庭の子供への給食を停止するなどの対応を検討している自治体もあるそうです。そして、さらには・・・

 厚生労働省は8日、10月~来年1月分の子ども手当(来年2月支給)から導入される保育料や給食費の天引きについて、過去の滞納分すべての天引きを認める方針を示した。ただし親の同意を条件とする。地方自治体の担当者を集めた会議で明らかにした。
(略)
 また、滞納額が多い場合に、滞納している子どもの兄弟・姉妹分の手当からも天引きできるか、という自治体側の質問に対し、厚労省側は、親の同意があれば徴収を認める方向で検討する考えを示した。
(2011年9月8日:朝日)

と、国を挙げて給食費滞納問題に取り組むことになったようです。この学校給食、日本でのルーツは、1889年、山形県(今の)鶴岡市、私立忠愛小学校が貧困家庭の子供におにぎり・焼き魚・漬物を昼食として提供したのが始まりだとか。給食と聞いて脱脂粉乳を思い出す世代もあるでしょうが、これは1949年にユニセフから贈られたのが始まりだそうです(『ウィキペディア』参照)。

一方、世界のルーツは、フランスだという説があります。1720年に私立学校で始まり、1849年には法制化。1925年にはフランス全土で実施されていたとか(川崎市・『世界科見学』参照)。

そのフランスの学校給食ですが、今日では、一律ではなく、学校の食堂で給食を食べるか、家に帰って親と共に昼食を取るか(親の送迎が必要)、選択できるようになっています。学校で食べる給食の中身はと言えば、そこは「美食大国」、前菜・メイン・チーズ・デザートが付いているそうです。充実していますよね。そういえば、学生支援機関“CROUS”が運営している学食(レストU)でも、前菜・メイン・デザートにパンで3ユーロほど(3年ほど前の料金。今ではもう少し値上がりしているかもしれません)。テーブルや食器など、雰囲気に目をつぶれば、十分、美味です。

さて、前置きが長くなりましたが、フランスの学校給食で、親が失業している子どもは、食堂で給食を取ってはいけない、という決まりを作っているところがあり、問題になっているようです。どうして、そのような規則があるのでしょう、社会の反応は・・・13日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

「学校の食堂は、その自治体に住む、両親ともに働いている家庭の子供に優先的に使わせる」という一文が、教育現場の規則の中に見られる。しかし、こうした両親の就業状況や居住エリアに基づいて子供の食堂での給食に制限を加えることは法の精神からは差別と見做される。自治体によるそうした決定は、地方行政裁判所(les tribunaux administratifs)から公共サービスにおける平等の原則に反していると厳しい反論が加えられている。

ネット上で急ぎ調べたところ、多くの学校で座席数が十分でないことを理由に食堂の利用に制限を加えていることが分かった。“L’Humanité”(『リュマニテ』、左派系新聞、かつてはフランス共産党の機関紙)は、そうした決まりを持つ学校70校を特定したと発表している。

例えばボルドーでは、ボルドー学校給食内部規則に、次のような食堂利用の制限が記載されている。「市のサービス活動である学校給食は、両親ともに就業している家庭の子供に優先的に供される」。

食堂利用に関する規則や条件をより詳細に見てみると、親の失業をはっきりと指摘しているものもある。オート・サヴォワ県(Haute-Savoie:スイスとの国境沿い)にあるトノン・レ・バン市(Thonon-les-Bains:人口3万人余)は、親が求職中の子供に認める食堂利用を週に数回に制限することを規則化する書類を準備するよう提案している。しかも、親が職を失ってから「1カ月だけにその利用を制限する」と言う。一方、セーヌ・エ・マルヌ県(Seine-et-Marne:パリの東郊)のカンシー・ヴォワザン町(Quincy-Voisins:人口5,000人ほど)では、求職中の人は就業者と同じ立場と判断することにしている。

しかし、多くの場合は、食堂はすべての子供に開かれているのが原則とは言うものの、席が十分でないような場合には、家庭状況によって優先順位を決めている。そして実際、両親ともに働いている家庭の子供に優先権が与えられている。その理由づけとして、失業中の親のいる子どもは、家に帰って昼食を取ることがそう困難ではないということが語られている。

PTA連盟(la Fédération des conseils de parents d’élèves:FCPE)会長のジャン=ジャック・アザン(Jean-Jacques Hazan)は、『ル・モンド』からの問い合わせに、地方行政裁判所の非難内容を法律にも反映させるよう議会に働きかけていると述べた。FCPEはそうした内容を12日に要望書として発表した。

FCPEはまた、地方行政裁判所では常に勝訴していることも述べている。そして、違法であることを承知しながら、件の規則が市町村議会で可決されるに任せている県知事たちの不作為を嘆いている。

ジュラ県(Jura:スイスと国境を接する)、ロン・ル・ソニエ市(Lons-le-Saunier:人口2万人弱)の市長で、全国市長村長会会長(l’Association des Maires de France:AMF)のジャック・ペリサール(Jacques Pélissard:与党・UMP所属)は、そこまで過激な発言は控えている。「誰かを排除するような法律は、必ずや失敗に終わることだろう。より建設的な方法を取るべきだ」と述べ、問題の規則を実施している学校食堂の数を明らかにし、解決策を見出すために、現状の入念なチェックを行うと語っている。

FCPEのジャン=ジャック・アザン会長によれば、座席数が足りないと言うのは理由にならない。利用制限が排除されれば、席の問題はなくなり、すべての子供に利用してもらえるようになるそうだ。

考え得る解決策の中で、全国市長村長会のジャック・ペリサール会長は、住んでいる自治体の食堂だけでなく、他の自治体の食堂も利用できるようにする拡大策の提案を考えている。市町村長会のワーキング・グループが想像力を発揮し、平等の原則とリアリティの原則を共に満たす解決策を見出すことができるだろう、と自信を持って語っている。

・・・ということで、学校食堂の座席数が十分でないという理由で、両親、あるいは片親が働いていない家庭の子供の給食利用を制限しているフランスの学校。少なくとも、片親が家にいれば、家に帰って親と一緒に食事できるはずだというのも、理由の一つになっています。確かに、両親が共に働いている家庭では、それはできない相談ですからね。ただし、子どもができても働き続ける女性が多いフランス。共働きだからと言って、受け取る給与が低いわけではありません。それどころか、働きたくとも働く場所がない親のいる家庭の方が可処分所得は当然、少なくなっています。どちらの家庭の子供を、学校給食において優先させるべきなのか・・・

失業が多いのは、移民や移民にルーツを持つ家系の人たち。そうした家庭の子どもに学校給食を制限する。どこか、差別的な匂いがします。給食だけに、差別的な味がする、と言うべきでしょうか。これも、内向き、右傾化するフランス社会の象徴的な一断面なのかもしれません。
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