『もしよろしかったら、お茶でも飲みにいらっしゃいませんか』と、ご近所の奥さんからお誘いがありました。 お互いに夫婦で夕方散歩していたので、ご主人とも顔なじみです。
9月に突然夫が病院へ救急搬送された時、救急車に乗り込もうとしている私に、そこのご主人がわざわざ家から出てきて、声を掛けて下さったそうですが、私はその声に全く気付かない程気が動転していたようです。
夫はそのまま入院となり、一人で帰宅しぼんやりしていた時、ご夫婦で訪ねてきてくれた時のご主人のはっきりとして力強い呼びかけに驚いたことを思い出します。 『どんな様子ですか。 私達に何か手伝えることがあったら、何でも言って下さい。』との言葉に、思わず涙がこぼれてしまいそうでした~~ いつも挨拶する時の静かな口調とはまるで違う、きっぱりした頼もしい口調はまるで別人のような趣でした。 内心、あ~この方は社会で働いていた時にはこんな感じだったのだな・・・と思ってしまったほど。 いつもご主人の前に出ている奥さまは、その時は後ろで静かに立っておられました。
お言葉に甘えて、自分の力に余る力仕事など、遠慮なくお願いしたりしているうちに、我が家でコーヒーブレイクしたり、あちらに伺って、奥様の手作りケーキを頂いたりする交流がはじまりました。 そんな中で、ある時ろうけつ染めの素晴らしい作品を見せて頂きました。 奥さまの叔母様の作品で、日展に入賞された屏風作品だそうです。 叔母様のお名前は「野津手 和」さん。 既に故人となられていますが、宮崎県出身の作家さんです。
見出し画像はそのなかの一点で、タイトルは「牡丹」です。 絹地(?)に染め上げられた、華やかでしかも品のある大らかな作品はとても魅力的です。 日本画かと思えるような作品ですが、ろうけつ染めと聞いて更に根気のいる作業をされたのだろうと頭が下がる思いがいたします。
「潮 騒」
浜辺に打ち寄せる波の音が聞こえてくるようです・・・
「陽 春」
踊りだしたくなるような、麗らかな春の息吹が感じられます・・・
玄関を開けるとパッと目に付くところに飾られています。
立ち話が苦手で(年代が違うこともあり・・)、奥さん達の立ち話の輪に入らないまま朝夕のご挨拶程度のサラッとしたお付き合いで30年きて、ご近所の情報に疎かったのですが、夫の入院をきっかけに、こうして親切なご近所さんと親しくなれ、安心が一つ増えたような気がしています。 素晴らしいろうけつ染めからも、大きな刺激を頂きました(^-^)
(追記) ブログに載せた、と言ったら、先ほど奥様が参考になれば・・・と色々資料を届けて下さいました。
ろうけつ染めは蠟で模様を描き、乾燥させひびを作って染めていく、飛鳥、奈良時代からの古い技法だそうです。 大作になると50回以上の手間が掛かるそうです。 『不思議な変化の面白さが魅力です。 でもにくたらしいほど手間が掛かって、こちらの意思どおりに出せないのが、しゃくの種』と生前、野津手さんは仰っていたそうです。