韓国、「街頭政治」で増幅する国民分断
ソウル支局長 鈴木壮太郎
2019/10/10 23:00
- 情報元
日本経済新聞 電子版
親族のスキャンダルを抱える曺国(チョ・グク)法相は適任か――。辞任を要求する保守派と曺氏を擁護する革新派がそれぞれソウルで大規模集会を開き、動員規模を競っている。
市民が路上に立ち、世の中を変える「街頭政治」は韓国の伝統ではある。だが、激しい対立は互いの不信感を増幅させ、国民の分断をさらに深刻にしている。
「パルゲンイ(アカ=共産主義者)はここから立ち去れ!」
5日午後。ソウルの地下鉄、瑞草駅の改札で中年女性が大声を上げた。
「なんだと! もう一度言ってみろ!」。激高した中年男性が女性に詰めよって激しい口論が始まり、あたりは騒然とした。
この日は夕方から曺氏支持の大規模集会が検察庁舎前で予定され、最寄りの瑞草駅には曺氏の支持者が続々と集まっていた。
警察が駆けつけて2人をなだめ、騒動は収まったが、曺氏を巡る保守と革新の対立は市民レベルでも相当頭に血が上っているのだと感じずにはいられなかった。
「曺国を守れ!」「検察改革を!」――。9月28日に続く大規模集会となった5日は曺氏の支持者が検察前の大通りを埋めつくした。
主催した市民団体は300万人が参加したと発表した。与党「共に民主党」は6日、「検察改革に共感する国民の自発的な参加で実現した『広場民主主義』の復活だ」とたたえた。
「自発的」と強調するが、会場から少し離れた道路には与党の地盤である全羅道ナンバーの貸し切りバスが何台も止まっていた。
組織的な動員があったとみるのが自然だろう。
その2日前。韓国の建国記念日で祝日だった3日には野党「自由韓国党」など保守派が曺氏辞任を要求する大規模集会を光化門広場で開いた。
同党は300万人が参加したと発表した。羅卿●(たまへんに爰、ナ・ギョンウォン)院内代表は28日の革新系集会で主催者が200万人集まったと発表したことに反発し「あの狭いところで200万人なら、ここは2000万人だ」と叫んだ。
3日の集会では保守の地盤である慶尚道の地方都市の名前が書かれたプラカードが所々で上がっていた。こちらも地方からの相当数の動員があったようだ。
主催者発表の数字はやや誇張とも思えるが、それでも驚くべき人数が参加したのは確かだ。両陣営の政治家はそれを「民意」だとして、自らの主張を正当化する材料に使っている。
韓国でデモは「日常」だ。ソウル市中心部の光化門では週末にデモがない日はない。政党や労働組合、市民団体などが広場の一角を陣取って声を上げる。
韓国でデモが活発なのは、それで社会を変えられるとの成功体験があるからだ。1960年には不正選挙を糾弾する大学生のデモが李承晩(イ・スンマン)大統領を退陣に追い込んだ。
1987年の反政府デモは軍事政権を打倒し民主化を勝ち取った。朴槿恵(パク・クネ)大統領を弾劾・罷免に追い込み、文在寅(ムン・ジェイン)政権を誕生させたのも「ろうそく集会」という名のデモだった。
だが、保守と革新が真っ向からぶつかり、競って集会の規模を膨らませている現状には危うさを感じる。
政治の対立に市民が巻きこまれ、互いへの敵対心を募らせているように映るからだ。「韓国は間接民主主義の国じゃなかったのか? こんなんだったら国会議員なんていらないじゃないか」。デモの現場から帰路につくタクシーの車中、初老の運転手はこう吐き捨てた。
街頭政治の行き過ぎに警鐘を鳴らす声は革新勢力からも上がり始めた。
浦項工科大学の李鎮雨(イ・ジンウ)教授は革新系の京郷新聞のコラムで「討論を通じた合意と妥協の場である国会は空洞化し、広場が勢力を誇示する空間になってしまった」と指摘。
「権力のために民衆を動員するのがファシズムだ。統治者が反対勢力を受け入れるどころか対話もせず、国民と『直接』対話しようというのはファシズムの典型だ」と政権を痛烈に批判した。
同紙は社説でも「無能な政治が市民を街頭に追いやっている」と指摘。
「このまま代議制民主主義が機能しなければ市民はますます街頭に繰り出し、政治は永遠に居場所を失う」と警告した。
文氏は7日、「代議政治が十分に民意を反映していないとき、国民が直接意思表示することは肯定的だ」と、街頭政治を評価した。
一方で「政治的な意見の違いが討論のレベルを超え、深い対立の溝に落ち込むのは決して望ましくない」とも述べ、やんわりと自制を求めた。
それでも保守派は9日も集会を開いて光化門広場を埋めつくし、革新派も12日、大規模集会を予定している。
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