【ソロモンの頭巾】長辻象平 待望の高温ガス炉 次世代原発、ポーランドで開発へ
2020.1.29 09:00|コラム|その他
ソロモンの頭巾
HTTR格納容器内の中間熱交換器。ここで炉心からの高温が2次系のヘリウムガスに渡される(日本原子力研究開発機構提供)
HTTR格納容器内の中間熱交換器。ここで炉心からの高温が2次系のヘリウムガスに渡される(日本原子力研究開発機構提供)
炉心溶融も水素爆発も無縁という安全性の極めて高い革新的な原子炉・高温ガス炉が国内にある。
日本原子力研究開発機構が手塩にかけた「高温工学試験研究炉(HTTR)」がそれだ。茨城県大洗町に立地するHTTRは、開発の第1段階ながら世界最高性能の高温ガス炉。
火力発電と間違えられそうな名称だが、高温ガス炉は二酸化炭素を出さず、電気と水素を生産する能力を持っている。世界が目指す脱炭素社会実現の鍵を握るこの次世代原発が、実用化に向けて大きな「3歩」を踏み出した。
安全性が切り札
普通の原発は原子炉の熱を水で取り出す軽水炉というタイプ。これに対して高温ガス炉は原子炉の熱をヘリウムガスで取り出す。
加圧水型や沸騰水型の軽水炉でタービンを回す水蒸気の温度は300度だが、高温ガス炉の場合は950度のヘリウムガスでガスタービンを回す。
だから高温ガス炉という名称なのだ。水は使わないので砂漠にも立地可能。
燃料はウランだが、その形状も炉心の構造や材質も軽水炉とは全く異なるものになっている。
その結果、固有の安全性が備わり、配管が破断して冷却材のヘリウムガスを失っても核分裂反応は自然に止まる。停止後、炉心は操作なしで冷える。全電源喪失が起きても心配ない。これが高温ガス炉なのだ。
水素社会に貢献
実用化への“ホップ”が水素製造での躍進だ。
水素はクリーン燃料として期待されるが、天然ガスなどを原料にして生産されると副産物の二酸化炭素が発生する。
水の電気分解で作ればエネルギーロスとコストが問題。水の熱分解でも水素と酸素が得られるが、4千度の超高温が必要だ。
これに対し、ヨウ素と二酸化硫黄を循環的に使う化学反応(IS法)なら900度で水から水素を生産できるので、高温ガス炉の出番なのだ。
IS法は反応液の強い腐食性などで利用が難しかったが、原子力機構の高温ガス炉研究チームは昨年1月、毎時30リットルの水素作りに成功している。プラント用の通常の配管類を用いた設備で世界最長の150時間連続運転を達成したのだ。
このブレークスルーで、真の水素社会への入り口が見えてきた。
燃料を高性能化
第2歩の“ステップ”は高温ガス炉で使うウラン燃料の性能向上だ。
原子力機構とメーカーの原子燃料工業の共同研究で燃料のエネルギーを商用の高温ガス炉で要求されるレベルに高めた上、その量産技術も確立した。昨年9月の日本原子力学会で報告している。
黒鉛のブロックで構成される高温ガス炉の炉心にはコンパクトと呼ばれる円筒形の燃料(直径25ミリ、高さ40ミリ)が多数、整列装荷されるが、1個のコンパクト中には直径1ミリの球体燃料が約1万3千粒、含まれている。黒鉛粉末と均一に混合し、ちくわ状に焼成されたものがコンパクトだ。
球体燃料は中心の二酸化ウランの周囲を4層のセラミックスで包んだ堅牢(けんろう)な精密構造。ここに技術の粋がある。従来の3倍の燃焼エネルギーの発生負荷に微小な球体燃料が耐えるのだ。
海外に活路出現
“ジャンプ”に相当する躍進が原子力機構とポーランド国立原子力研究センターの間で、昨年9月下旬に締結された「高温ガス炉研究開発協力の実施取り決め」だ。
ポーランドは工場などの燃料に石炭を多用しているため、二酸化炭素の排出削減に苦慮している。
そうした事情を背景に、2016年にはエネルギー省の副大臣らがHTTRの視察に訪れるなど、高温ガス炉に強い関心を示してきた。
現在、同国では高温ガス炉の研究炉と商用炉の建設計画が始動している。ここに日本の技術が共同研究の形で提供されるのだ。
日本のHTTRは高温ガス炉の第1段階。熱出力3万キロワットで発電機は備えていない。次の段階に進みたいところだが、福島事故以来、国内での新規計画は今のところ難しい。
政府はこうした状況を背景に、現行の「エネルギー基本計画」では、国際協力による高温ガス炉の開発推進を打ち出している。
だから、ポーランドでの高温ガス炉開発への協力は日本にとっても渡りに船の好機なのだ。
高温ガス炉は、分散型電源に適した小型モジュール炉の性格も備えている。福島事故後、世界の注目度は高い。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます