韓国有力シンクタンクが「驚きの警告」

日本でGSOMIAの韓国の離脱という衝撃的なニュースが駆け巡る中、韓国の文在寅政権の経済政策関係者はまた別の深刻なデータを目の当たりにし、不安にさいなまれていることをご存知だろうか。

「日韓対立がこれ以上深まると、さらに深刻なダメージを韓国経済にもたらすことになる」――。

韓国の有力シンクタンク・現代経済研究院がそう警告し始めたのだ。

彼らが公表した報告書によれば、今回の日韓対立における韓国経済と日本経済への影響を分析しところ、そのダメージはより韓国に大きく、また当初の予想よりもさらに深刻なものになるという。

なぜなら、韓国が日本から輸入する4227品目のうち、日本への輸入依存度が50%以上あるものは253品目。さらに90%以上あるものは、じつに48品目もある。

これらの多くは、半導体関連をはじめとした工業製品を製造するに欠かせない素材や部品であり、韓国の工業製品を作るのに「代替は効かない」ことを意味している。

日本との関係悪化が深まれば深まるほど、韓国の輸出主力製品に大きな影を落とすことになるわけだ。

 さらに報告書は韓国経済の厳しい現実を強調している。

韓国の産業競争力は日本に遅れており、今回の日本政府の輸出管理規制強化により、韓国経済が厳しい状況に置かれる可能性は高い旨、指摘しているのである。

実はこの報告書、発表されたのは7月26日で、もうひと月以上たっている。

それでも日韓の応酬は激しくなる一方で出口の見えない対立が、韓国の文在寅政権から経済界までを不安の底にたたき落としているかたちである。

「反日」構造不況がやってくる

もちろん現在、日本が実行している輸出管理措置の範囲内であれば、これらの素材や部品の対韓輸出が直ちにストップするわけではない。

しかし、韓国経済の日本に対する部品依存度が高いことはもはや周知の事実であり、その依存度はこの数年で際立って高くなっている点に注目すべきだ。

 

その数値は如実だ。

00年に84万件だった輸入は、18年には178.4万件と2倍以上も増加している。

 

輸出も然り。00年に47.6万件だったのが、18年には92.6万件とこちらも2倍近くも増えており、その多くは日本からの機械部品や半導体関連材料なのである。

韓国の日本向け輸出入件数の推移

拡大画像表示(出所)韓国関税庁輸出入貿易統計ホームページより筆者作成

この現実をもちろん文在寅大統領も知っているだろう。

だからこそ日本からの輸出管理規制が強化されることが発表されてから、すぐに部品や素材を国産化する脱日本依存を掲げたのだ。

しかしそれが仮に将来できたとしても、現状の韓国経済に深刻なダメージを与えることになりかねない。

なぜなら韓国は貿易依存度が極めて高く、また輸出に占める半導体の割合も高いからだ。

韓国の対GDPの貿易依存度は17年で68.8%と日本の28.1%の2倍以上である。

とくに総輸出金額の半導体が占める割合は18年で20.9%と最も高い。2位の石油製品は7.7%しかないのでこれもまた2倍以上の開きがある。

また、ご存知の方も多いと思うが、韓国は大企業依存度が極めて高い国である。

売上高上位10社の売上高を合計すると、対GDP比で44.2%を占める。

これは日本(24.6%)や米国(11.8%)と比べてみれば一目瞭然だ。

このように大企業を中心とする韓国経済で輸出が激減すると、当然、韓国経済全体が失速することになるのである。

ましてや、この現実を放置したまま日韓対立を深刻化させては、文在寅政権がとっている経済政策と真逆の結果をもたらすことにもなりかねない。

 

裏腹の格差増大

文在寅政権は発足以来、家計の賃金と所得を増やすことで消費につなげる「所得主導成長論」に基づいて、労働政策と社会保障政策に力を入れてきた。

19年度の「保険・福祉(社会保障)・雇用関連予算額」は、162.2兆ウォン。

前年比12.2%の増加であり、「福祉(社会保障費)」に限れば、前年比14.6%も増加している。

日本の一般会計予算の社会保障費増加率は3.3%にすぎないから、いかに文在寅政権が再分配政策にまい進しているかがわかるだろう。

こうした政策はたしかに必要ではある。

韓国社会は大企業依存度が高く、それとは裏腹に若年層の失業率も高い。

極めて格差の大きい社会であり、これが出生率の低下を招いていると指摘されてきた。

これを是正することが喫緊の課題であることは理解できる。

しかし、である。

文在寅政権の「経済失政」

そもそも文政権の「所得主導成長論」に基づく政策は、韓国でも「絵に描いた餅」と酷評されているのが現実である。

 

まずは労働政策を見てみよう。17年に6470ウォンだった最低賃金は2020年までに8590ウォンに引き上げられる。

また「週52時間勤務制」を柱とする勤労基準法(日本の労働基準法)を改正して、残業時間を含めた1週間の労働時間の上限を68時間から52時間に制限した。

これにより韓国の労働者のワーク・ライフ・バランスを図り、余裕のある生活を提供しようとしたのだ。

しかし、その結果は意図したものとは真逆のものだった。

 

2018年11月、韓国統計局が発表した「2018年7~9月期家計動向調査(所得部門)」は、韓国国内の世帯間の所得格差が過去最高水準に広がったことを示していた。

所得最下位20%世帯の1か月平均名目所得は前年同期比で7%も減少。かたや所得最上位20%の世帯は前年同期比で8.8%も増加したのである。

所得最下位20%世帯の名目所得が減少したのは3期連続だが、所得最上位20%世帯は、11期連続で増加したのである。

不満のマグマ

この結果に付き従うように、合計特殊出生率も減少の一途。

18年は前年比を割り込むどころか、統計史上初めて1を割る、0.98%まで低下するとされている。

こうした無残な結果の要因は最低賃金の引き上げや労働時間の規制があまりにも急激すぎ、結局、体力の伴わない中小企業の経営を圧迫したからに他ならない。

しかも経済政策がうまくいかない中、昨年来、韓国を取り巻く環境は悪化の一途をたどってきた。

折からの米中貿易摩擦の長期化や、中国の景気減速等の影響で、すでに7月の韓国の輸出金額は前年同月比で11%も減少しているが、これは8ヵ月連続の減少だ。

輸出に頼る韓国経済の足元は大きく揺らいでいる中で、そこにまた日韓の対立が加わったのだから、その影響は深刻だ。

 

IMGグループ、IHSマーケット、モルガン・スタンレーなどは、

日本政府の韓国の輸出管理規制強化などを原因として、今年の韓国の経済成長率が2%を下回ると予想しているが、

日韓対立に伴う経済的なダメージが広がると、福祉政策の財源までもがおぼつかなくなってしまう。

韓国国内の格差をさらに広げかねず、これを韓国の国民はどこまで看過し続けることができるのだろうか。

かたや日本への経済的ダメージも対立が深まれば深まるほど大きくなるので注意してほしい。

 

とくに顕著なのは観光業だが、日本製品の不買運動の影響も見逃せない。

民間調査によれば、地域ごとにその勢いに差が出ているので紹介しておこう。

7月31日現在の日本製品の不買運動に参加している人は、64.4%に上っているが、これは7月10日に実施された一次調査よりも、約16%も高かった。

不買運動は対立が長引けば、さらに盛り上がりかねない状況だ。

地域別に見ても済州道で江原道で、80%に迫る高い数値となっており、ソウル市でも56.4%に上っている。

性別で見れば男性が65.7%、女性が63%であり、年齢階層別で見れば40代が76.3%と最も高い。

ちなみに与党である民主党支持者の参加率は80.9%だが、野党の自由韓国党の支持者でも39.5%の人が不買運動に参加している。

相対的に現政権の日本への強硬策は支持される傾向にあることは頭に入れておきたい。

 

中国のプレゼンスが高まる韓国

さらに注意したいのは韓国に対する日本やアメリカの貿易関係のプレゼンスは、年々低下しており、中国の貿易依存度が高まっていることだ。

韓国は日本からの輸入が増加傾向にあると先述したが、中国の勢いはそれをはるかに凌駕していることも忘れてはならない。

2018年、韓国は約1621億ドルを中国に輸出し、その割合は26.8%を占める第1位。

輸入においても約1065億ドルあり、これも約2割を占める第1位である。

輸出入ともに2位はアメリカで、日本は輸入においては第3位だが、輸出においては第5位の国である。

韓国に対する日本のプレゼンスは他国に比べてさほど大きくないのである。

韓国の主な輸入国、輸出国の貿易額(2018年)

拡大画像表示(出所)韓国関税庁輸出入貿易統計ホームページより筆者作成

韓国の総輸入金額に占める日米中の割合の推移

拡大画像表示(出所)韓国関税庁輸出入貿易統計ホームページより筆者作成

こうした現状が文在寅政権の強気の背景にあるとみられる。

しかし言うまでもなく、良識ある方なら、日本人、韓国人問わず、ここで日韓が決別することが、経済的に何の意味もないことは承知していることだろう。

盛り上がる民間交流

日韓は隣国だからこそ対立するが、隣国ゆえに切っても切り離せない関係だ。

現状の政府同士の日韓対立を補うのはやはり民間交流だろう。

韓国の貿易依存度が中国に傾斜する中でも、2018年に来日した韓国人観光客は754万人に及んでおり、過去、右肩上がりに増加してきている。

韓国では寿司やラーメンなどの日本の食べ物が流行し、日本のアニメに親しむ若者も多い。

 

日本でも韓流が人気だが、18年に訪韓した日本人観光客は18年に295万人とこちらも増加傾向にある。やはり経済的ダメージを最小限にとどまらせるのは、民間交流ということになるだろう。

日韓の経済人や一般消費者は、政治の枠組みから離れて、互いの交流をぜひ、楽しんでほしい。