『やさしい鮫』は松村正直さん(塔短歌会)の第二歌集。
2006年9月14日ながらみ書房発行。定価2940円(税込み)。
この歌集の装幀は花山周子さん。カバーをはがすと、また一味違うすっきりとした表情があって、いいなあと思う。
*
松村正直さんの歌は、読者をあまり裏切らないとても素直なところがあって、
安心して読むことができる。
かといって決して作品上に工夫がないわけではなく、着眼点や切り取り方がとても上手い人だと思う。
たとえばこんな歌がある。
・待ち合わせ場所へと向かう黄昏のこんな所にある本能寺
「黄昏」と「本能寺」の取り合わせが絶妙だが、何しろ「こんな所にある」という発見や実感がすんなりと表現されている。
この歌集、一見何でもないようでいて(派手な言葉や奇を衒った表現ではなく)読者を振り向かせる歌が多いと思う。
・ふるさとへこのまま続いていきそうな道を歩めり熊蝉が鳴く
・まだ骨を納めていない骨壺の軽さがわれの手の中にあり
・眼をつむり赤子に乳を吸われいる妻あり遠く飛行機がゆく
・野に遊ぶ子らのひとりが駆けてきて大人のわれに時間を訊けり
・くちびるの離れしのちをつやめきて牛乳びんのくちは濡れたり
・さるすべりの花季の長さに比べれば短かりけり青春というもの
・大分の力士と青森の力士ひのくれるころ対戦をせり
・ちょっと目を離したすきに少年に変わりたるかな赤子なりしが
・人づてに、なぜ人づてに届きたる言葉であるか夜道をくだる
このように日常から丁寧に掬い上げられた実感をともなう歌に出会うと、ほんとうに短歌とは、そして短歌を詠むことも読むこともいいものだと、つくづく思えてくる。この『やさしい鮫』は、そんな気持ちにさせてくれる歌集だと思う。
・子とふたりならんで用を足すときの何だろうこのかなしみのごときは
多くの方々にこの『やさしい鮫』を味わって読んでほしいと思う。
2006年9月14日ながらみ書房発行。定価2940円(税込み)。
この歌集の装幀は花山周子さん。カバーをはがすと、また一味違うすっきりとした表情があって、いいなあと思う。
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松村正直さんの歌は、読者をあまり裏切らないとても素直なところがあって、
安心して読むことができる。
かといって決して作品上に工夫がないわけではなく、着眼点や切り取り方がとても上手い人だと思う。
たとえばこんな歌がある。
・待ち合わせ場所へと向かう黄昏のこんな所にある本能寺
「黄昏」と「本能寺」の取り合わせが絶妙だが、何しろ「こんな所にある」という発見や実感がすんなりと表現されている。
この歌集、一見何でもないようでいて(派手な言葉や奇を衒った表現ではなく)読者を振り向かせる歌が多いと思う。
・ふるさとへこのまま続いていきそうな道を歩めり熊蝉が鳴く
・まだ骨を納めていない骨壺の軽さがわれの手の中にあり
・眼をつむり赤子に乳を吸われいる妻あり遠く飛行機がゆく
・野に遊ぶ子らのひとりが駆けてきて大人のわれに時間を訊けり
・くちびるの離れしのちをつやめきて牛乳びんのくちは濡れたり
・さるすべりの花季の長さに比べれば短かりけり青春というもの
・大分の力士と青森の力士ひのくれるころ対戦をせり
・ちょっと目を離したすきに少年に変わりたるかな赤子なりしが
・人づてに、なぜ人づてに届きたる言葉であるか夜道をくだる
このように日常から丁寧に掬い上げられた実感をともなう歌に出会うと、ほんとうに短歌とは、そして短歌を詠むことも読むこともいいものだと、つくづく思えてくる。この『やさしい鮫』は、そんな気持ちにさせてくれる歌集だと思う。
・子とふたりならんで用を足すときの何だろうこのかなしみのごときは
多くの方々にこの『やさしい鮫』を味わって読んでほしいと思う。
5年ぶりに歌集をまとめてみて、自分の歌の傾向や足りない部分というものが、よく見えてきたように感じています。なかなか急には上達しませんが、毎日こつこつ続けていきたいと思います。
第一歌集から第二歌集へ着実に深まりを増しているのがわかります。
多くの方々に読んでいただけるといいですね。
ほんとうに、毎日こつこつ・・・私も続けたいと思います。