1988年の春にスタートしたテレビ朝日系列の『はぐれ刑事純情派』がヒット&ロングランした事により、刑事ドラマ業界はにわかに人情路線へと傾いて行きました。
それまでの主流だったアクション路線が視聴者に飽きられてしまった事と、バブル崩壊による製作費の削減が、その傾向に拍車をかけたものと思われます。
だけど、結局はどれも成功しませんでした。石原プロが『ゴリラ/警視庁捜査第8班』をアクションから人情へと路線変更し、続けて『代表取締役刑事』『愛しの刑事』と押し進めても、視聴者を呼び戻す事は出来ませんでした。
そもそも『はぐれ刑事純情派』が当たった理由は、主演=藤田まことの魅力と実力、そしてターゲットを年輩層に絞った戦略の勝利であって、別に世間が人情路線の刑事ドラマを求めてたワケじゃ無いんですよね。
当時の舘ひろしファン(若い世代)は人情ドラマなんか観たくないし、人情ドラマのファン(年輩層)は舘ひろしに興味が持てない。皆がそうとは限らないにせよ、企画としては見当外れだったと言わざるを得ません。
じゃあ、松方弘樹さんならどうだろう? 好評だった『刑事貴族』シリーズの視聴者(若い世代)と、時代劇や任侠映画ファン(年輩層)の両方を呼び込めるんじゃないか?
……っていう発想から生まれたのかどうか分からないけど、日本テレビ系列・金曜夜8時『刑事貴族3』の後番組は、松方弘樹の連続主演による人情刑事ドラマになりました。東映の制作で1993年4月から9月までの放映、全30回でした。
先に結果を言えば、やっぱりコケたみたいですw 視聴率は振るわず、テコ入れとして今度はアクション路線に戻って行くという、前述の『ゴリラ』とは真逆の経過を辿る事になりました。それなら最初から『刑事貴族4』にすれば良かったのに!
松方さんはともかくとして、もう1人の主役が世良公則さんですからね。舘さんと同様、世良さんの人情刑事なんか誰も見たくない。だけど舘ひろし→郷ひろみ→水谷 豊→世良公則っていう『刑事貴族』の流れなら、少なくとも私は食いつきました。
まぁしかし、アクション路線に戻ったとは言え『刑事貴族』レベルで銃を撃ちまくったり、カーアクションを見せたりするだけの予算は、残念ながら無かったのでしょう。だから『刑事貴族3』は予定より早く終わっちゃったワケだし。
とにかく人情路線としてスタートした『はだかの刑事』に私は興味が持てず、当時は完全にスルーしてました。観たのは近年CATVで放映されたのを、ほんの2~3話だけ。
私が観たのはちょうど1クールが過ぎてアクション路線にシフトしつつあった、中期のエピソード。これより前はもっと地味な人情路線で、これより後は爆破シーンもある派手めのアクションになるんだそうです。だから言わば過渡期なんだけど、私にとってはちょうど良いバランスだったかも知れません。
率直に言って、石原プロの『代表取締役刑事』『愛しの刑事』より、この『はだかの刑事』の方がずっと楽しめました。
理由は明白です。人情路線の刑事物なんて、設定の違いは多少あれども、やる事はどの番組も一緒ですから、何が見所になるかと言えば「キャストの魅力」に尽きると私は思います。
『はだかの刑事』のレギュラー陣は、松方弘樹&世良公則を筆頭に、橋爪 功、室井 滋、七瀬なつみ、勝村政信、野々村真、そして樹木希林と、地味ではあるけど以後も息長く活躍される実力派揃いです。
一方、石原プロの2作品は、確かな演技力を持ったレギュラーキャストが(言っちゃ悪いけど)ほとんどいませんでした。この差はやっぱり大きい。めちゃくちゃ大きいですよ。
やってる事はだいたい同じでも、『はだかの刑事』の場合はキャスト陣の演技を観てるだけで惹き込まれます。ほんと当たり前の事だけど、ドラマは良い芝居があってナンボなんやなあって、あらためて認識させられます。
石原プロは「演技力なんか無い方がスターは大成する」なんていう昭和の都市伝説を、本気で信じてたんでしょうか? 意図的に演技力の弱い人ばかりキャスティングしてましたよね。ひたすらドンパチやってる内はそれで通用しても、人情ドラマとなるとそうはいきません。
なんだか最近、石原プロの悪口ばっかり書いてる気がするけどw、これも愛着があればこそ。無視出来ないから色々言いたくなっちゃうワケです。今さら言っても仕方がないんだけど。
一方、東映制作の『はだかの刑事』は、女性刑事コンビ=室井さん&七瀬さんの掛け合いや、勝村さん&野々村さんのヘタレぶり、そして松方さんがうだつの上がらないヒラ刑事役というミスマッチぶりが実に楽しいです。それも演じる俳優さん達の力量があればこそ。
あと、なんといっても世良さんの銃さばき(みんなニューナンブを使ってるのに世良さんだけガバメントw)がやっぱり絶品で、しつこいようだけど『刑事貴族4』として観たかったなあ……
私は見逃しましたが、日本の刑事ドラマとしては極めて珍しい「女性刑事の殉職」が描かれた事もトピックかと思います。第20話で室井滋さんが刺殺されました。
代わって翌週から登場するのが布施 博さんでw、ますます「だったら最初から『刑事貴族4』にしてよ!」って思わずにはいられません。
この『はだかの刑事』終了をもって、1972年スタートの『太陽にほえろ!』から実に21年間続いて来た、日テレ金曜夜8時の刑事ドラマ枠も消滅する運びとなりました。同時にアクション路線の刑事ドラマも、引いてはフィルム撮影によるTVドラマ自体も、いよいよ絶滅の時が近づきます。
日本のテレビ業界は熱い青春期を終え、良く言えば円熟、悪く言えば老化の一途を突き進む事になるのでした。