☆第36話『別れる前に抱きしめたい!!』(最終回)
(1980.9.17.OA/脚本=鎌田敏夫/監督=馬越彦弥)
おちこぼれラグビー部のキャプテン=水野(井上純一)が、実家の事情により急きょ故郷への転校を余儀なくされちゃいます。
別れを惜しみ、最後に何かして欲しいことは無いか?と尋ねるチームメイトたちに、水野は「一度でいいから、涼子先生に抱きしめられたいんだ」と恥ずかしそうに言います。
で、ラグビーの練習中に気分が悪くなってよろけたフリを水野にさせ、涼子先生(片平なぎさ)に介助してもらえば結果的に抱いてもらえる!てな作戦を決行するんだけど、毎回いいところでハンソク先生(宮内 淳)が駆けつけw、代わりに抱いちゃうもんだからことごとく失敗。コメディーの基本ですw
「お前の気持ちはよく解るぞ、水野。よーく解るぞ!」
事情を知ったハンソク先生は、水野の望みを叶えてやるため一計を案じます。送別会の余興として水野を主役にした演劇をやり、生き別れになった母親役を涼子先生に演じてもらうことで、再会シーンで(稽古も含めて)存分に抱き合えるという、画期的なアイデアw
ところが、ハンソクが書いた台本の抱擁シーンがあまりに大袈裟で長すぎることから、女子テニス部の長尾(藤谷美和子)たちがオンナの勘を働かせます。
「これは男の子たちの謀略よ!」
長尾は以前から水野に淡い想いを抱いており、実は彼女も「別れる前に(水野を)抱きしめたい!」っていう願望を抱いてるのでした。(男子が『抱きしめられ』たくて女子が『抱きしめたい』って考えちゃうあたりに、時代の変化が現れてますよね。ほんと1980年あたりがターニングポイントだったように私は感じてます)
で、いよいよ芝居の稽古を始めようとしたら、涼子先生が急に母親役を長尾とバトンタッチすると言い出したもんだから、ハンソク先生が慌てます。
「そんな、どうして!?」
「水野くんを送別するためのお芝居だったら私達にもやらせて欲しいって、長尾さんたちから申し入れがあったんです」
「それじゃ意味がない!」
「あら、どうしてですか?」
「どうしてって……」
「私がやらなきゃ意味のない芝居なんですか?」
「…………」
「答えられないところを見ると、長尾さんたちが言ったことは本当なんですね」
その上、アホアホなこの作戦を提案したのもハンソク、誤字脱字だらけの台本を書いたのもハンソクと聞いて、涼子先生は呆れ果てます。
「あなたは教師なんですよ? よくもこんな不謹慎で、バカバカしいことを……」
「なにがバカバカしいんだよ?」
「これがバカバカしいと思わないの!?」
「思わないよ! 水野はな、先生のことが好きなんだよ。もう会えないかも知れない、ひょっとしたら一生会えないかも知れない、だから一度でもいいから抱きしめてもらいたい……その気持ち、解るよ。オレだって昔そう思ったもん。そうしたいと思ったよ!」
「あなたは生徒の気持ちが解れば何でもしてやるんですか?」
「出来ることならしてやりたいよ! 自分がしたいと思ったことなら、させてやりたいよ!」
「それで教師としての任務が果たせると思ってるんですか?」
「教師としての任務って一体なんだよ?」
「先生は先生なんです、生徒じゃないんです! 教師として、生徒を指導するべき立場にある人間なんです!」
呆然と見守る生徒たちの前で繰り広げられる、ハンソクvsタックルの「理想の教師像」を巡る激しいバトル。これでこそ『あさひが丘の大統領』です!
学園を去るのがハンソクやタックルじゃなくて水野だから、最終回の主役まで生徒に奪われたように見えるけど、真の主役はやっぱりこの2人なんですよね。
「オレはたまたま先生っていう職業に就いてる。生徒よりもちょっと高いところに立って、生徒に向かって何か喋ってる。ただそれだけだよ。あとは生徒と同じ下らん人間だよ」
「先生はすぐそうやって誤魔化すんだから」
「なにを?」
「立派な教師になる努力を怠ってることをです! 教師として、理想に少しでも近づこうと努力なさらないことです!」
「オレはそんな気は無いよ。立派な教師とか、理想的な先生になろうなんて気は全然無いよ」
「なぜですか!?」
「オレはオレだよ、こんな人間だよ! オレは生徒にそれ以外なにも言うこと無いよ!」
「それが怠慢だって言うんです!」
「あのなあ!」
どっちが言うことも間違ってないんでしょうけど、常識の観点からすればハンソク先生の分が悪い。だけど彼はどうしてそんなに、ありのままの自分を見せることに拘るのか? 実はそこにこそ、ハンソクにとっての「理想の教師像」が反映されてるのでした。
「オレが今思い出しても懐かしい先生っていうのは、オレたちの前に生身の自分をさらけ出してくれた先生だよ。たとえ下らなくても、バカらしくてもいい。生身の自分を一瞬でもさらけ出してくれた先生ほど懐かしいんだ」
「…………」
「だからオレは、そんな先生になりたいと思った。立派な先生とか、教師としての理想とか、そんなこと言う先生にろくな先公はいなかったよ。そんな先公に指導されるなんて、オレはまっぴらゴメンだったんだよ」
「だけどあなたは今、先生なんです。生徒だった頃のことはいいかげん忘れて下さい!」
「自分が生徒だった時のことをケロッと忘れて生徒を指導するのが、それが立派な先生だって言うのかアンタはっ!!」
「!!」
本当は、本音の部分では、涼子もハンソクの言い分を理解してるんですよね。実際、第2話で彼女は「あの子たちには、あなたみたいな教師が必要なのかも知れません」って言ってました。
だけどそれを認めてしまったら、涼子自身が働くモチベーションに、生きる支えにさえしてる理想像を否定することになっちゃう。だから意地でも曲げられない。
極論を言えば、両方を兼ね備えた人、ハンソクとタックルを足して2で割ったような人が理想の教師なんでしょうけど、そんなスーパーマンは存在しないって事ですよね。ハンソクもタックルも、我々と同じフツーの人間なんです。だからこそ『あさひが丘の大統領』は面白い!
さて、ハンソク先生は水野だけでなく、長尾の望みも叶えてやるべく、校庭で2人を向き合わせます。
「水野、お前だって涼子先生と別れる前に、抱きしめられたいって思ったろ? 長尾だって同じ想いなんだ。やらせてやれ」
「うん、いいよ」
「長尾、気が済むまで抱きしめろ」
ハンソクはそう言って、他の生徒たちを連れてこの場を離れます。
「ありがとう、水野くん」
「礼なんかいいよ」
「うん。それじゃ……」
ところが! いよいよ長尾が水野を抱きしめようとした時、絶妙なタイミングであの人が通り掛かっちゃう。
「あなたたち、何してるのっ!?」
「あっ、涼子先生……」
「大西先生がしてもいいって言ったんです!」
そう言って長尾は涼子の目の前で水野に抱きつき、サヨナラを言ってから走り去ります。ちなみに大西先生っていうのはハンソクの正式名称です。
「大西先生がしろって言ったの? ホントに? まったくあの人は!」
「そんなに怒んなよ、先生。先生の気持ちも解るけどさ、ハンソクはハンソクで結構いいとこあるんだよ。みんな好きだよ、あの先生を」
「…………」
水野に言われなくたって、そんなことは涼子先生が一番よく分かってる。だから余計に腹が立つんでしょう。自分がモラルやルールに縛られて出来ないことを、あのハンソク野郎は軽々とやってのけ、何の努力もしないで生徒たちに好かれてる。そりゃあ憎たらしいに決まってます。
涼子先生は学校じゅうを駆け回り、プールで泳いでるハンソクを見つけると、水中から上がろうとする彼を待ち伏せて、思いっきり突き飛ばします。
「うわっ!」
ドボン!!と水にはまったハンソクに向かって、涼子は叫びます。
「キライですっ!!」
「…………」
仕方なくハンソクが向かいのプールサイドに泳いで行くと、涼子は全力疾走で先回りし、また突き落とします。北側へ泳ごうと南側へ泳ごうと、涼子は追いかけて追いかけて、突き落とし続けます。
それを途中から楽しみ始めたハンソクは、東側へ向かうと見せかけて西側にターンしたりなどしておちょくるんだけど、涼子はあくまで真剣に、必死に走ってまた突き落とすのでした。何度も何度も……
最終的に水から上がるのを諦め、プールの真ん中で立ち尽くしたハンソクを、涼子は肩で息をしながらプールサイドから見下ろし、睨みつけます。
なのにハンソクはなぜか、とても嬉しそう。彼は真性のマゾヒストなんでしょうか? 否、ハンソク先生は多分、この時をずっと待ってたんですよね。
あさひが丘学園に着任したばかりの頃、ハンソクは無気力な生徒たちを発奮させる為にわざと挑発し、乱闘騒ぎを起こして早速クビになりかけましたw
何のために彼はそんな事をするのか? 相手を本気で怒らせて一体なにが嬉しいのか? その答えは、駅のホームでいよいよ旅立とうとする水野が、涼子先生に残した別れの言葉にありました。
「先生。こないだ、すごくキレイだったよ」
「こないだ?」
「プールサイドから、ハンソクを睨みつけたとき」
そう、水野はあのとき、プールの外から2人の様子をずっと見ていたのでした。
「あのとき先生、自分をさらけ出してた。すごくキレイだったよ」
「…………」
あのとき涼子は、モラルもルールもすっかり忘れ、恥も外聞もなく自分をさらけ出してた。ハンソクはそれが嬉しかったワケです。
「ハンソク、オレの下らない望みにつき合ってくれて有難う……そんな先公いなかったよ、今まで」
「オレだってお前とおんなじだった。初恋の人を抱きしめたくてな。でも、口も聞けないまま終わってしまった」
「…………」
「忘れんなよ、水野。若い頃に、青春の頃に思ったことは、一生忘れんなよ」
「……はい」
そして水野があさひが丘を去り、長尾はもちろんクラスメイトはみんな泣くんだけど、やがてまたいつもの日常へと戻っていく。そんな『あさひが丘の大統領』最終回でした。
いやあ~、いいですね。実にいい! 今、こういうドラマって無いですよね。謎解きもどんでん返しも一切なく、愚直なほどストレートに「人間」を描いたドラマ。そして創り手の言いたいことがハッキリと伝わってくるドラマ。
2020年代の今、そんなテレビ番組はもう創りたくても創れません。創らせてもらえない。視聴率を稼ぐために謎解き要素は必須だし、クレームを避けるために主張は一切しちゃいけない。
いや、この『あさひが丘~』だって、初期はもっとハチャメチャで尖ってて、もっと言いたい放題だったのに、途中からトーンを抑えざるを得なかった。テレビ番組である以上、数字や評判を無視することは絶対に出来ない。だから仕方ないんだけど、それにしたって現在はあまりに窮屈すぎる。この『あさひが丘~』が日テレ「青春シリーズ」の最終作となったのも、なんだかテレビの宿命を象徴してる気がしてなりません。
それでも、最後の最後で本当の『あさひが丘~』らしさを取り戻してくれました。最後だからこそ出来たのかも知れないけど、さすがは鎌田敏夫さんの脚本です。
そしてあらためて振り返れば、なんと豪華なレギュラーキャスト陣! 『太陽にほえろ!』の絶頂期を支えてた宮内淳、後にサスペンスの女王となる片平なぎさ、そして宍戸錠、高城淳一、秋野太作、樹木希林、由利徹、金沢碧、谷隼人という芸達者揃いの職員室に、トップアイドルの井上純一&藤谷美和子。
コメディーとしてのクオリティーが抜群に高いのは、間違いなくこのキャスト陣の力量あればこそ。当時の連ドラにはけっこう未熟な役者さんも多かった(それはそれで成長を見守る楽しみもあった)けど、本作には穴が見当たりません。生徒役のキャストも皆さん素晴らしかった。
これは現在でもじゅうぶん鑑賞に耐えるどころか、少なくともコメディー分野じゃ昨今の作品群に全然負けてません。もう40年も前(そんなに経つのか!)のドラマなのに、ホントに凄いことだと思います。
『あさひが丘の大統領』はやっぱり面白い! いくつかのエピソードをレビューして来て、私はそれを確信しました。
コメントする場所を、間違えてしまいました。
ハンソク先生と金八先生との対談の感想を書かせて頂いたコメントです。
結婚しないなんて仰っていますが、奥様とはどんな出会いだったのでしょうかね。
宮内さんの恋愛観も分かる楽しい対談でしたね。
ありがとうございました。
クオリティーでは『ゆうひが丘~』に負けてないし、斬新さではむしろ凌駕してたんじゃないかと思います。『ジャングル』と同じで、先を行き過ぎて時代が追いついてなかったのかも知れませんね。
その後に出られたドラマや、秘境探検の番組などは私も知りませんでした。知っててもテレビ東京とかだとウチじゃ観れなかったし。観たかったけど、観ない方が良かったかも知れませんね。
『太陽~』と『あさひが丘~』があれば充分。この2作はずっと輝き続けることでしょう。
私はプールサイドで立つ涼子先生を見つめるハンソク先生…この構図が大好きでした。
ホントは涼子先生もハンソク先生好きなんですよね。
さて、私の中でこれが宮内さんの最後の俳優としての姿です。
探偵同盟とかここまでは他人、後は寝るだけ(違っていたらすみません)は一切見ていません。
ハリソン様は全て見られました?
宮内さんがドラマに出る情報が私の所まで来なかったな〜
まだ子供だったし、今みたいにネットもない時代でしたからね。
もう少し俳優としての宮内さんを見てみたかったですね。
悪役とかね。
あさひが丘の大統領はDVDを持っていますので、また見たくなりましたよ!