2002年秋シーズン、いよいよこのシリーズが登場してしまいます。
刑事物のジャンルそのものがマンネリを通り越して化石となり、定型を打ち破った『踊る大捜査線』や『ケイゾク』等のヒットでにわかに活気づいても後が続かず、長らく冬の時代にあった中で比較的ひっそりと登場した『相棒』は、その大ヒットにより刑事ドラマを絶滅の危機から救った救世主であると同時に、以降の番組を「天才(たいてい変人)の主人公がただ突っ立って殺人事件の謎を解くドラマ」一色に塗り替えてしまった大罪人でもあると私は思ってます。
元はテレビ朝日系列の2時間ドラマ「土曜ワイド劇場」枠で水谷 豊 主演『探偵事務所』シリーズを制作してきたプロデューサーが、原作を消化してしまった同作に代わるミステリーの新シリーズを模索してた時期に、日テレの『刑事貴族』シリーズで共演した寺脇康文と二人でまた何かやりたいという水谷さん側の意向を取り入れて企画されたのが『相棒』で、言わば探偵物の延長線上に生まれたワケだから、これが謎解きメインの作品になるのは必然でした。
そして2000年から2001年にかけて単発スペシャル3作品が放映され、好評につき2002年10月から水曜夜9時の1時間枠でいよいよ連続ドラマがスタート。
合間に他の番組を挟みながら2019年現在まで続く人気シリーズとなり、2008年に公開された劇場版第1弾の大ヒットが更に高視聴率を招いて、今や国民的人気の刑事ドラマと言っても過言じゃない存在となりました。(2019年現在まで計17シーズン、劇場版4本+スピンオフが2本)
過去にも謎解きメインの刑事ドラマは勿論あったワケだけど、三谷幸喜さんの作家性を売りにした『古畑任三郎』シリーズ等を除けば比較的地味な存在で、決してメインストリームじゃなかった筈です。
なのに『相棒』が大ヒットしてしまったお陰で、屋内セット中心で安上がりな(お金も手間もかかる屋外アクションを撮らなくて済む)謎解き物が商売になると実証されてしまい、深刻な不景気も相まってほとんどの番組がそっち方向へと流れて行き、その本数も爆発的に増加し、いつの間にか刑事ドラマ=謎解きゲームの図式が当たり前になっちゃった。
決して『相棒』が悪いんじゃなくて時代のせい、もっと言えばラクな方法を取る怠慢なテレビ製作者たちが悪いんだけど、図らずもそのキッカケを作った『相棒』をつい恨めしく思ってしまうワケです。
謎解きメインのストーリーだけでなく、警視庁に警察庁、官僚たちまで絡んで来る小難しい(そして薄汚い)人間関係がやたら描かれるようになったのも『相棒』からで、そこまでリアルになっちゃうともう刑事ドラマでは理想の世界が描けない。所轄の刑事がショットガンで悪党をぶっ殺しまくるような楽しい夢も見られないワケです。
ドラマがどんどんリアルになるということは、イコール表現がどんどん窮屈になるということです。刑事ドラマから痛快さがすっかり消え失せ、残ったのは謎解きと組織内のゴタゴタと上から目線の説教と、あとはお涙頂戴の人情話だけ。
その傾向は '97年の『踊る大捜査線』からあったワケだけど、二度と引き返せない状況を作ってしまったのはこの『相棒』。それだけ凄い番組であるという事です。
警視庁の窓際部署「特命係」の2人が主役ってことになってますが、実質的には係長の杉下右京(水谷 豊)が1人で、その人間離れした洞察力と推理力でほとんどの事件を解決しており、相棒刑事はサポート役あるいは解説役。
どうやら名探偵ホームズ&助手のワトソン君がモチーフになってるようで、右京さんがかつてイギリスに住んでて紅茶が大好きっていう設定も、原典がホームズである事を示してるんだろうと思います。
相棒役はシーズン1~7(第9話まで) が亀山 薫=寺脇康文、シーズン7(第19話から) ~シーズン10が神戸 尊=及川光博、シーズン11~13が甲斐 亨=成宮寛貴、シーズン14以降が冠城 亘=反町隆史と変遷しており、私としてはマニア臭のする及川ミッチーが一番好きだけど、右京さんとのバランス(対比)を考えればやっぱり初代の寺脇さんがベストな組み合わせなんだろうと思います。
ほか、右京の元妻にして小料理屋「花の里」の女将=たまきに益戸育江、その後継者=幸子に鈴木杏樹、薫の妻となる美和子に鈴木砂羽、亨の恋人=悦子に真飛聖、雑誌記者の楓子に芦名星、警視庁刑事部長に片桐竜次、刑事部参事官に小野了、捜査一課刑事に川原和久、山中崇史、捜査二課刑事に原田龍二、第5課長に山西惇、副総監に大杉漣、杉本哲太、警務部首席監察官に神保悟志、総務部広報課長に仲間由紀恵、亨の父親である警察庁長官に石坂浩二、法務大臣に津川雅彦、事務次官に榎本孝明、官房副長官に木村佳乃、そしてサイバーセキュリティー対策本部から特命係に配属される青木に浅利陽介、鑑識係の米沢に六角精児、シーズン9で刺殺される警察庁の小野田官房室長に岸部一徳、といった歴代レギュラー&セミレギュラー陣。
現在主役を張れるようなキャストは仲間由紀恵さんぐらいしか見当たらず、『太陽にほえろ!』以降オールスターが原則だった刑事役のキャスティングがすっかり地味に(そのぶんゲストを豪華にするように)なったのも多分『相棒』からの傾向。
あらゆる部分で、それ以降の刑事ドラマのフォーマットを決定づけてしまった『相棒』は、30年前に登場した『太陽にほえろ!』以来のビッグバンだと言って間違いないと思います。
それは勿論、ハイクオリティーな脚本や演出、演技による素晴らしい作品を次々と生み出したからに他ならず、私とてなんだかんだ文句は言っても、観れば確実に楽しめる刑事ドラマとしてリスペクトしてやみません。
素晴らしいからこそ、その絶大なる影響力が恨めしい『相棒』は、水谷豊さんが辞めると言わない限り永遠に続きそうな勢いです。(すでに実年齢は刑事の定年を越えてる筈)
なお、第1シーズンがスタートした2002年秋シーズンには他に、反町隆史&押尾 学の主演による『ダブルスコア』(フジテレビ系列火曜夜9時・全11話)というバディ物も放映されてました。
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