これは名作だと思います。いつもの『ベイシティ刑事』よりシリアスなお話で、ゆえにおフザケも控えめ。それ位がちょうどイイ。
世良公則さんが単独行動に走っちゃう展開で、藤竜也さんの出番が少ないにも関わらず、ピックアップした台詞はほとんど藤さんのもの。
世良さんが走り回って愛用拳銃「マギー」をバンバン撃ちまくり、かたや藤さんが要所要所で渋いセリフを決めまくる。いかりや長介さんと石川秀美さんのバックアップも過不足なく、これは私にとって理想的なエピソードと言えそうです。
☆第8話『想い出は危険がいっぱい』
(1987.11.25.OA/脚本=大川俊道/監督=黒沢直輔)
別動班の星野(世良公則)が殺し屋に命を狙われてるという噂がヨコハマの街に広がり、星野が勝つか殺し屋が勝つか?を賭けるギャンブルがちょっとしたブームに。
そんなある夜、星野と3年ぶりに再会し、つるんで呑んでた親友の滝本(篠塚 勝)が、何者かの銃弾を受けて死んじゃいます。
そのとき二人は上着を交換しており、殺し屋が滝本を星野と間違えて狙撃した可能性が高い。つまり滝本は、星野の身代わりで殺された!?
「復讐なんて考えるな。お前はマイク・ハマーじゃねえんだ」
相棒の小池(藤 竜也)が釘を刺しますが、火が点いた星野を止められる人間はどこにもいません。
単独で動き回り……というより暴れ回り、殺し屋の正体が片桐(吉澤 健)という前科者で、かつて自分が射殺した強盗犯の兄だと突き止めた星野は、まずそいつに凶器のCOLTガバメントを渡したであろう売人のアジトに向かいます。
ところが売人はすでに撃たれて死んでおり、そこに片桐が現れてS&W M586の二丁拳銃で星野を襲撃! さらにパトロール警官が駆けつけ、売人を殺したのは星野だと思い込んじゃったもんで、事態はややこしい方向へ。
片桐は取り逃がすわ殺人容疑で手配されるわで、踏んだり蹴ったりの星野。このままじゃ親友を殺したのも星野ってことにされかねない!
もちろん、相棒がそんな事するワケないと信じる小池は、売人のアジトをこっそり探索し、口紅のついたハッカ煙草の吸い殻を1本、発見してしまうのでした。
小池は、滝本が撃たれた夜に星野と呑んでたバーを訪れます。そこには滝本の妻=みゆき(中村明美)がいました。未亡人となった彼女は、この店に星野が現れるのをずっと待っているのだと言います。
「3人でよく来たわ……空のグラスに、夢を注いでもらうの。好きだったわ、キラキラ輝いたお酒が」
「テキーラ?」
「そう、いつもテキーラ。まだポニーテールだったのに、大人のフリをしていたのね。心の中にまでハイヒールを履いて……」
ザッツ’80年代! いや、当時の感覚でも歯が浮くようなセリフだけど、それが許されちゃうおおらかさが、この時代にはあったワケです。人は余裕があれば優しくなれる。今の日本人は余裕がなさ過ぎるんですよね。
「本当の大人になれたのは、別れを想い出に変えた頃からか?」
「星野さんから何かお聞きになった?」
「いやいや、オレも同じような事してたから、このハマで。ジェームス・ディーンが華やかなりし頃だ」
そんな会話を交わしながら、みゆきが吸ってた「ハッカ煙草」の吸い殻を回収するのを、小池は忘れませんでした。
そもそも、殺し屋の片桐が使ってる拳銃はリボルバーのM586。売人からガバメントを受け取ったのは明らかに別人で、だから口封じに殺された。その現場に同じハッカ煙草が落ちてたという事は……
小池がそんな推理を巡らせてるとも知らず、星野がバーに電話をかけて来ます。どうやらみゆきに用があったらしく、小池の声を聞いて星野は驚きます。
「コウさん、オレに勝負させてくれよ」
星野はどうやら、片桐と1対1で決着をつける約束を交わしたらしい。
「……分かった。だがオレたちも行くぞ」
「勝負させてくれるね?」
「ああ、儲けさせてくれるからな」
「え?」
「オレたちの有り金を全部、お前の勝ちに賭ける!」
どうやら小池だけじゃなく、あゆみ(石川秀美)も山崎班長(いかりや長介)も本当に大金を賭けてるらしく、違法どころの話じゃありませんw ザッツ’80年代!
そして星野VS片桐の死闘が展開され、別動班の仲間たちも援護します。自分の財産が懸かってるから当然ですw
「星野、よせ。滝本殺しのホンボシはそいつじゃない」
片桐を追い詰め、マギーの銃口を向ける星野に、小池が真相を伝えます。
「彼女はな、噂を利用したんだ」
みゆきは、滝本に多額の保険金を懸けていた。夫婦の仲はとっくに冷めきっており、そんなとき星野が殺し屋に狙われてることを知り、ガバメントを入手して……
「久し振りね」
「ああ。こんな関係で会うとは思わなかったよ」
「刑事と……」
「容疑者だ」
「…………」
みゆきが例のガバメントを構え、星野は自分の懐に手を入れます。
「あなたの優しさは、天国で報われるわ」
「オレと早撃ちごっこやろうってのか? みゆき、オレはプロだ。外さないよ」
「…………」
いくら星野でもこの至近距離じゃ間に合わないと思うけど、みゆきは諦め、ガバメントを手放します。ところが、星野が懐から取り出したのはマギーではなく、滝本が撃たれたときに握ってた、赤い林檎でした。
涙をこらえ、一心不乱に林檎をかじる星野。愛銃マギーは、遠くから二人を見つめる小池の傍らにありました。
親友を失い、かつて愛したであろう人の暗黒面まで知らされて、さすがの星野も凹んだ様子。みゆきは昔から悪女だったのか、それとも……
「彼女から伝言だ。捕まえるなら、3年前にして欲しかったと、そう言ってたよ」
「…………」
「意味深ね。彼女と何かあったの?」
「大人はそういうこと聞かないもんだ」
そして小池が注文し、星野に差し出したのは、キラキラと輝くテキーラなのでした。
3人の過去が具体的に語られないのも良かったですよね。おおむね星野が身を引いたって事でしょうが、そんなのはよくある話で、推して知るべし。
みゆき役の中村明美さんは、当時28歳ぐらい。仲代達矢さんの「無名塾」出身で、'81年のNHK朝ドラ『まんさくの花』ヒロイン役で華々しくデビュー。
その直後にレギュラー出演された連ドラが中村雅俊さん主演の『われら動物家族』で、同じく雅俊さん主演の刑事ドラマ『誇りの報酬』第30話では今回と似たような悪女役でゲスト出演されてます。
童顔で見かけは清純派そのもの。だからこそ冷酷な役柄とのギャップがドラマを盛り上げたと言えそうで、それも無名塾で鍛えられた演技力あればこそでしょう。
なのに割と早くに芸能界を引退されており、刑事ドラマは他に『太陽にほえろ!』と『特捜最前線』にゲスト出演されただけ。何よりセクシーグラビアの類いを一切されてないのがあまりに残念すぎて、私は泣きそうです。😭
いかりやさんも『踊る〜』では勘違いして名優ぶった芝居をしてしまい、ちょっと痛かったです。『ベイシティ刑事』のいかりやさんの方がずっとイイ。石川秀美さんはちょっとミスキャストだけど、とにかく主役の二人が良かったですね。
あぶない刑事は私の住む地域では遅れて深夜での放送でおこちゃまは見ることが出来ずw、ベイシティ刑事から先に見ました。藤竜也さん、世良公則さん、年を重ねた今でもカッコいいですよね!藤さんなんて、あんなカッコいい爺ちゃんいないだろと!
いかりや長介さんも、この頃から本格的にTVドラマに出始めたと思います、レギュラーでは初の刑事役と記憶していますが、ベテラン刑事役がハマりこれが後々の爆発的ヒット刑事ドラマ(私は苦手ですが)に繋がると思えば、ベイシティ刑事はとても意義のある刑事ドラマかもしれません。