ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#251

2019-09-01 00:00:23 | 刑事ドラマ'70年代









 
ボン(宮内 淳)が刑事になって以来最大の試練を迎えると同時に、それを乗り越えることで「ひよっこ」からいよいよ一人前の刑事へと脱皮する、ターニングポイントとなった重要エピソード。

ボンがこれほど魅力的に描かれたのは初めてで、本作をきっかけにボンのファンになった視聴者は少なくないんじゃないでしょうか? 何しろ私自身がそうでした。


☆第251話『辞表』(1977.5.13.OA/脚本=小川 英&杉村のぼる/監督=吉高勝之)

金融会社強盗の容疑者である武井信夫(田中正彦)は、妹の洋子(麻丘めぐみ)と一緒に買い物中、ボンに任意同行を求められ、すぐさま逃走。

そしてボンに追われ、建築中のビルに逃げ込んだ武井は、足場が崩れて高所から転落、即死しちゃいます。

ボンは複数の目撃証言から武井に容疑を絞ったワケだけど、妹の洋子はそれを真っ向から否定、事件当日は風邪を引いて寝込んだ自分を兄は付きっきりで看病していた、つまり武井には確かなアリバイがあると主張します。

「何もしてない兄を犯人扱いして……あなたが殺したのよ! あなたが殺したのよっ!!」

ボンは大きなショックを受けながらも、先の目撃証言を確認するため奔走しますが、目撃者たちの記憶はいずれも曖昧で、武井のアリバイを崩す決め手にはなりません。

洋子が言う通り、武井はシロなのか?

だったらなぜ逃げたのか?という疑問も、過去に武井はあらぬ疑いで取り調べを受けた経験があり、ひどく警察を恐れていたという事実で説明がついてしまい……

任意同行を求めたボンの捜査に問題は無いとしても、無実の人間を死なせてしまったとなれば、話は別。

「ボスだって、ただじゃ済まんかも知れんぞ」

捜査一係室でゴリさん(竜 雷太)と殿下(小野寺 昭)が交わしたそんな会話を、ドアの外で聞いてしまったボンは、部屋に入れなくなっちゃいます。

「あなたが殺したのよ!」という洋子の叫びと、「ボスだってただじゃ済まない」というゴリさんの言葉が何度もリフレインし、涙を浮かべ、まるで魂が抜けたように夜の街をさまようボン。

そして深夜、誰もいない一係室に戻って来たボンは、ボス(石原裕次郎)の机に警察手帳と手錠、拳銃、そして辞表を置き、ひっそりと去って行くのでした。

翌朝、驚いたゴリさんはボンを探しに行こうとしますが、ボスに止められます。

「今のボンを助けてやる事など誰にも出来ん。ヤツがヤツ自身で乗り越える他はないんだ」

それよりも今やるべき事は、強盗の犯人を一刻も早く挙げること。藤堂チームは捜査を再開します。

すると、死んだ武井が賭け麻雀で多額の借金を背負っていた事実が判明し、再び容疑が濃くなって来ます。そして……

1日じゅう街をさまよった末に、洋子が兄と一緒に住んでたアパートにやって来たボンは、いかにも悪そうな男2人組に彼女が襲われてるのを目撃します。

「何すんだっ!?」

ボンの出現で襲撃を諦めた2人組は逃走、洋子は部屋に引き籠っちゃいますが、彼女が襲われたという事実には重大な意味がありそうです。

嫌な予感を覚えた洋子は、部屋に残された兄の持ち物を調べ、コインロッカーの鍵を見つけてしまいます。

「まさかお兄ちゃん……本当に強盗を?」

一方、ボンは襲撃犯2人の正体を掴むべく、2日振りに捜査一係室に顔を出し、ゴリさんや長さん(下川辰平)を喜ばせます。

もし洋子を襲った2人が強盗犯なら、その目的は金融会社から奪った現金、つまり武井も共犯だったことがほぼ確定する。前科者カードを隈無く調べるボンを見て、長さんは「良かったな、ボン」と眼を細めます。

が、当人は浮かない表情のまま。どうやらボンは、事件がどう転んでも刑事に戻るつもりは無いようです。

「ボン、一体お前は何を考えてんだよ! 武井が犯人なら、お前は刑事として何ひとつ間違ったことはしていないんだよ! だから辞表なんか出さなくたってお前!」

長さん渾身の説得も空しく、ボンはそれらしき前科者を洗い出すと、ただの証人みたいにそのまま帰路に着くのでした。

すると今度は山さん(露口 茂)が、アパートの前でボンの帰りを待ってました。部屋に上がり、襲われた後の洋子がどんな様子だったかをボンから聞いた山さんは、恐らく彼女も兄が強盗犯だったことに気づいていると推理します。

「いずれにしろ、死んだ武井信夫が強盗犯の1人であることは、これでほぼ確実になったと言える。そうなればお前だって……」

山さんも結局、捜査にかこつけて長さんと同じことを言いに来たワケだけどw、やはりボンの表情は曇ったまま。

「でも、武井が死んだことには変わりありません。武井が犯人かどうかということは、関係ないんです。死んだのは容疑者じゃない……人間なんです」

「…………」

「そんなことは百も承知で捜査してきたつもりです。でも、刑事でなくなってみると違うんです。ものの見方が、どっか違うんです。そこに何か、大事なものがあるような……そんな気がするんです」

「…………」

山さんは、淡々と語るボンの眼に、なにやら力強い光のようなものを見て、少し驚きます。

「考えてみたいんです。刑事でもなんでもない、ただの男になって、よく考えてみたいんです」

ボンは今、脱皮しようとしている。この試練さえ乗り越えれば、きっと彼は戻って来る。以前よりもひと回り大きくなって…… と、思ったのかどうか分からないけど、山さんは何だか安心したような顔で立ち上がり、「お茶、ごちそうさん」とだけ言ってアパートを出ていくのでした。

翌日から、ボンは再び襲われる可能性のある洋子をガードすべく、彼女について回ります。夜になって雨が降り出しても、ボンはびしょ濡れになりながら彼女のアパートを張り込むのでした。現在なら「きもっ!」とか言われてストーカー扱いされちゃいますけどw、昭和の時代においてはこれが最も効果的な説得術。

すると今度は殿下がやって来て、ボンを車に乗せてやります。先輩たち全員にここまで心配してもらえる新人刑事って、歴代でもボンぐらいしかいなかったかも知れません。

「今のお前には、拳銃も手錠も無いんだぞ。分かってるのか?」

「分かってます。でも、1人の女性が、凶悪な連中に狙われてる……僕はそれを見たんです。刑事じゃなくたって、男ならそばにいて守ってあげたいと思うのは、当たり前じゃないでしょうか」

今のボンは、あくまで1人の男として、信念を持って動いてる。そんなボンの力強さに、殿下も安心したような表情を見せます。

これまでずっと「ひよっこ」として描かれて来たボンが、もうすぐ毛むくじゃらの後輩を迎えるにあたって、ようやく一人前の刑事になった瞬間かも知れません。

翌日、洋子はボンをまいて強盗一味と密会し、現金が隠されてるコインロッカーの鍵と引き換えに、兄が共犯であることを秘密にするよう交渉しますが、当然ながら殺されそうになります。

そんな愚かな洋子を、駆けつけたボンは命懸けで守り抜きます。拳銃も手錠も持たない、ただの1人の男として……

「洋子さん、逃げろ! 早く逃げろっ!!」

自分は縛られた状態でフルボッコにされながら、犯人たちに体当たりして時間を稼ぎ、洋子だけは逃がそうとするボンの姿に、私は泣きました。

やがてゴリさんと長さんが駆けつけ、犯人たちは逮捕されます。

「どうして……どうして私のために……どうしてですか?」

そんな洋子の問いに、なぜかボンは返事をしません。彼女の安全が確保され安心したボンは、そのまま寝落ちしちゃったのでした。そりゃ丸3日ぐらい一睡もしてないでしょうから、無理もありません。

「見て下さいよ、この顔……嬉しそうなこの顔!」

ボンの幸せそうな寝顔に、キュン!と来た女性視聴者が全国に一体どれほどおられた事でしょう。男の、しかも小学生のガキンチョだった私でさえ、ここでノックアウトでしたからw

数日後、ボンのアパートを訪ねた洋子は、「刑事に戻って下さい」と懇願します。

洋子が兄の犯行を隠し通そうとしたのは、結婚を間近に控えた恋人にそうするよう指示されたから。まぁ、その気持ちも解らなくはありません。

でも、ボンの必死な姿を見て、2人は変わりました。

「私たち、もう何があっても逃げないで生きていこうって話し合ったんです。私たちにそういう決心をさせてくれた田口さんが刑事を辞めるなんて、おかしいと思います。間違ってると思います!」

「しかし……」

「辞めないで下さい。お願いします!」

言いたい事だけ言って走り去った洋子と入れ替わりに、今度はボスが現れます。

「断っておくがな、彼女が此処まで来たのは、彼女のたっての希望だ」

つまり、ボンを説得してもらうよう洋子に頼んだワケじゃないんだぞって、ボスは言いたいワケですね。

「俺はお前に、デカに戻れとも戻るなとも言わん。それはお前が決めるこった。もう一度、じっくり考え直すんだな」

「…………」

「逃げ出すんじゃねえぞ。ん?」

「……はい!」

このラストカットでボンが笑顔を見せることで、彼が刑事に戻ることを創り手は暗示したと思うんだけど、当時ガキンチョだった私は「えーっ、これで終わり!?」ってw、「結局どっちなの!?」って、かなりビビった思い出があります。

でも、その後に流れた次回の予告編にボンが普通に映ってるのを見て「なんや、おるやん」ってw、拍子抜けしつつも安心した視聴者は、きっと私だけじゃなかった筈です。

通常ならレギュラー刑事が辞表を出しても「どうせ辞めないでしょ」って思うけど、今回のボンに限ってはその凹み方が尋常じゃなかったし、いつもならボスは辞表を破いちゃうのに、今回は破らずボンに返すだけだったしで、本当にそのまま番組から消えてもおかしくない雰囲気がありました。

刑事が容疑者を深追いし過ぎて死なせちゃうエピソードは定番ではあるんだけど、それでここまで刑事が苦しむのって、たぶん他には無かったんじゃないかと思います。

普通なら、死んだ男がやっぱり犯人だったと判る瞬間がクライマックスになるんだけど、本作の場合はそこからが本筋=ボンの成長ドラマになって行くんですよね。そこが『太陽にほえろ!』の本当に凄いところだと思います。

妹を看病していたという武井のアリバイは洋子の嘘だったのか?とか、色々と疑問が残ったままだし、そもそもボンが単独で武井を連行しようとする冒頭からしてリアルじゃないし、細かいアラが少なくない回ではあるんだけど、新人刑事の脱皮と仲間たちのフォローをこれほど丁寧に描いたエピソードも珍しく、私は『太陽』屈指の名作だと思ってます。

洋子を演じた麻丘めぐみさんは、当時21歳。『芽ばえ』や『わたしの彼は左きき』を大ヒットさせた、'70年代を代表するアイドル歌手の1人ですが、元々は子役からスタートされた女優さんで、さすがしっかりした演技をされてます。

'77年は本作に加え『新・夜明けの刑事』にもゲスト出演、再び女優業に力を注ぐと思われた矢先に結婚され、芸能界を一時引退。

'83年の離婚を機に本格的に女優復帰され、刑事ドラマも『部長刑事』『西部警察PART III』『特捜最前線』『はぐれ刑事純情派』『ゴリラ/警視庁捜査第8班』『刑事貴族』『はだかの刑事』など多数ゲスト出演、2000年代には歌手活動も本格的に再開されてます。セミヌードは'83年の復帰時に撮られたものですね。
 
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『太陽にほえろ!』#250

2019-08-31 00:00:07 | 刑事ドラマ'70年代





 
☆第250話『民芸店の女』

(1977.5.6.OA/脚本=小川英&柏原敏行/監督=竹林 進)

出勤途中の山さん(露口 茂)に、野間美保と名乗る淑やかな着物美女(上村香子)が声を掛けて来ます。美保は、亡くなった山さんの妻=高子とかつて料理教室で一緒だった仲で、線香を供えに訪問させて欲しいと言うのでした。

そこに居合わせたボン(宮内 淳)によって、すぐ「山さんの前に美女現わる!」の噂が捜査一係室を駆け巡り、すわ再婚か!?とゴリさん(竜 雷太)や長さん(下川辰平)は色めき立ちますが、アッコ(木村理恵)だけは不満、というより不安そう。

高子が亡くなってから約1年、まだ早いのでは?っていう女心もあるでしょうし、アッコは高子の最期を看取った唯一人の身内ですから、きっと複雑な想いがあるんでしょう。

そんな折り、自動車修理工場に勤める広瀬道夫という男が遺体で発見されます。盗難車で2度に渡って轢かれており、現場の状況から見ても計画殺人だろうと山さんは睨みます。

その捜査が進む中、美保が約束通り山さん宅を訪れて来ます。仏壇に線香を上げ、経営する民芸店の酒器を山さんにプレゼントした上、「またお邪魔してもいいですか?」と積極的なアプローチを見せる美保。山さんも満更じゃなさそうなご様子。

ところが、これも哀しい刑事のサガなのか、美保が去った後にふと「なんで私に?」と疑問を抱いた山さんは、机の上に置きっぱなしだった警察手帳に気づくのでした。そこには、捜査中の事件に関する情報が色々と書き込まれてる……

何かが引っ掛かって仕方がない山さんは、聞き込みの帰りに美保の民芸店を訪れます。そんな様子を見て、長さんは「だいぶ山さんも本気になって来たな。うひひひ」なんて言って喜びますが、実は山さんの目的は美保の身辺調査。怪しいことが何も無いことを祈りながら、店の片隅に置かれた駐車場の領収書に、本能的に眼を光らせちゃう山さんなのでした。

そんな事とはつゆ知らず、美保は山さんの来訪を喜び、一緒に食事をしながら、他愛もない身の上相談を持ちかける等、どんどん距離を縮めていきます。

「主人が亡くなってから私、ずっと独りぼっちでした。いつも1人、いくら話したいことがあっても誰もいない……心細い時も、楽しい時も……でも今は、相談出来る人がいる。頼れる人がいる。何だかそれがとっても嬉しくて……すみません」

「謝ることはありません。そういう相手がいないのは私も同じですから」

山さんとしても、高子の知人を疑いたくはないし、あわよくばチョメチョメしたい下心だって、男なんだから無いワケがありません。チョー生真面目な岡田プロデューサーに叱られるから顔に出さないだけでw

しかし、美保は車を持っていません。じゃあ、店にあった駐車場の領収書は、いったい誰の物なのか?

調べてみると、駐車場を使ったのは不動産会社の社長である笠山(小笠原弘)という男で、どうやら美保とは深い関係にあるらしい。

そして、その笠山こそ、いま捜査中の殺人事件における最有力の容疑者だった!

山さんは再び美保をデートに誘い、ミステリー小説が大好きという理由でやたら捜査のことを聞きたがる彼女に、事件の顛末を語って聞かせます。

捜査中の容疑者は、3ヶ月前に浪人学生を轢き逃げして死なせ、それを隠蔽すべく車を修理に出し、恐らく血痕を見つけた修理工の広瀬に脅迫され、今度は盗難車を使って計画的に彼を轢き殺した。証拠は残してない筈だけど、犯人は自分に捜査が及ばないか不安で仕方がなかった筈。そこで……

「幸い犯人には、所轄署の刑事を間接的に知っている女性がついていました。……あなたです」

「…………」

そう、美保は笠山の為に、捜査情報を聞き出すべく山さんに近づいた。ボンなら騙し通せたでしょうけどw、こりゃ相手が悪すぎました。

「ご主人に死なれて、ずっと寂しかったというあなたの気持ちに、嘘は無いだろう。だからあなたは、笠山をどうしても失いたくなかった……その気持ちは私には解る」

「…………」

「しかし、轢き殺された浪人学生と、広瀬道夫のことをほんの少しでも考えたことがありますか? 彼らだって、寂しくても一生懸命に生きてきた」

「…………」

口調はクールでも、言葉の端々から山さんの怒りが伝わって来ます。

「私が……どうにも我慢出来ないのはね、美保さん。私が利用されたからじゃない。やり口の問題でもない。どうしてこんな考え方しか、あなたには出来なかったのか? それが無性に腹が立ってね。1人の刑事としても……1人の男としても」

1人の男として……それはつまり、あの山さんも、美保を女性として意識せずにいられなかった、あわよくばチョメチョメしたかったという事でしょう。チョメチョメ。山さんがチョメチョメ。

この後、山さんはわざとスキを見せて、笠山に自分を襲わせます。

「笠山が犯人だという証拠は、まだ何も無かったもんでね」

もう一度書きますが、利用するには選んだ相手が悪すぎました。つくづくボンにしておけば良かったw

とは言え、さすがの山さんも、美保の美貌や淑やかさに僅かながらグラついたのは事実。高子と親しかったという前提にも油断させられた筈で、最終的には全て見抜き、事件を解決させたにせよ、その心中は決して穏やかじゃないでしょう。

そんな山さんを、ボス(石原裕次郎)が無邪気にからかいます。

「山さんよ、そろそろ新しい人生考えたらどうなの? 独りでいるから、こんなややこしい事件が起きるんだよ」

「ボス、それは無いでしょ。だいたいボスが独身でいて……」

「ああ、そこまでそこまで」

すぐに負けを認めちゃうボスがお茶目ですw

孤独に耐えられず、相手が悪い男と知りつつも尽くしてしまう女の犯罪は『太陽にほえろ!』の……というより昭和ドラマの定番。言わば演歌の世界ですよね。

昨今のドラマで描かれる女性はずっとドライで、逆に男が女に溺れて犯罪に走るパターンの方が圧倒的に多い気がします。無論、それは現実社会を如実に反映してる事でしょう。

上村香子さんはテキサス時代の第166話『噂』に続く2度目のゲスト出演。プロフィールはその回のレビューに書きましたので、今回は割愛します。

その第166話は、先入観に惑わされて無実の上村さんに容疑をかけてしまう、とても人間臭い山さんの一面を描いた作品でした。今回の第250話も、刑事である前に1人の男である山さんの心情が描かれており、いずれも相手役が上村香子さんなのは偶然じゃないかも知れません。

つまり山さんをも惑わせてしまう女を演じられる稀有な女優さんとして、岡田Pあるいは露口茂さんに見込まれておられたのかも?
 
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『太陽にほえろ!』#248

2019-08-30 00:00:07 | 刑事ドラマ'70年代






 
☆第248話『ウェディング・ドレス』

(1977.4.22.OA/脚本=小川 英&四十物光男/監督=斎藤光正)

繁華街ど真ん中の歩道橋で、若い主婦が男にナイフで刺され、病院に担ぎ込まれます。刺された光子(新海百合子)は命に別状ないものの、なぜか犯人について何も語ろうとしません。

長さん(下川辰平)は光子の過去に何か秘密があると睨み、彼女の故郷である沼津へ飛び、どうやら元カレの古川(高木門)が犯人であることを突き止めます。

古川は、光子が勤め先で上司に乱暴されそうになったのを助けようとして、その上司を死なせてしまい、5年の刑期を終えて出所したばかり。その間に光子が他の男と結婚してしまったワケです。

「奥さん、そうやって黙っているのは、古川への愛情がまだあるからですか? ご主人にそのことを知られたくないからですか?」

古川の名前を持ち出しても黙秘を続ける光子に、長さんは思わず声を荒立てます。

「どっちなんですか奥さん? いや、一体あなたはどういう気持ちで古川を捨てたんですか? 今になってそんなに苦しむぐらいなら、どうして結婚なんかっ!?」

長さんが感情的になるのには理由がありました。翌日に愛娘の良子(井岡文世)が、気象予報士の市村(柴 俊夫)と結婚式を挙げる予定なのです。

恋人だった古川を見捨てて結婚したクセに、自分を刺した古川を庇う光子の気持ちが、長さんにはサッパリ理解出来ません。そして、娘の良子は本当にこのまま結婚して大丈夫なのか?と、マリッジブルーに陥る長さんなのでしたw

「良子。お前な、市村くんと結婚しても一生後悔しないだろうな?」

「あなた! 結婚式の前日になんてことを!」

自宅で、もう寝床に就いてた良子をわざわざ起こし、突拍子もないことを言い出す長さんに、奥さんの康江(西 朱実)が眼を丸くします。

「お前は黙っていなさい! 良子の口からハッキリと聞きたい」

「やだなあ、そんなこと今さら。後悔なんかしません」

あっけらかんと答える良子だけど、長さんは今でも交流があるという良子の「元カレ」が気になって仕方ありません。

確かに、嫌いになって別れたワケじゃない。彼が北海道に転勤してから、何となくしっくり行かなくなったんだと説明する良子に、長さんはますます不安を募らせます。

「なんとなく? 良子、お前そんないい加減なことでいいのか? その人との気持ちも整理がつかないまま結婚するなんて、市村くんにすまないと思わんのか?」

「お父さん、そんなんじゃないんだけどなあ……そんなんじゃないのよ。北海道の彼だって同じ気持ちだと思うの。そうやってだんだん離れていく人もいるし、昨日知り合ったばかりなのに凄く気持ちの通じ合う人もいるわ。そういうものでしょ? 人間って」

「…………」

「私は私なりに、自分の気持ちを確かめて、進さんと結婚することにしたの。心配しないで、お父さん」

「そうか……分かった」

なにも言い訳せず、正直な気持ちを淡々と語る良子に、長さんはかえって安心するのでした。

「あの子も立派な大人になったなぁ……教えられたよ。良子がここまで育ったのも、母さんのお陰だ。俺は何もしてやれなかった」

「いいえ、それは違うわ。良子も俊一もいつも文句は言ってるけど、本当は誰よりもお父さんを一番信じてるのよ」

口喧嘩が絶えない野崎家なのに、見ていて嫌な気分にならないどころか、いつもホッコリさせられるのは、そういうワケなんですよね。

下川さん、西さん、井岡さん、そして長男=俊一役の石垣恵三郎さんと、皆さん素朴なキャラでありつつ芸達者で、野崎ファミリーのエピソードはいつも安心して見てられます。理想的な家族として描かれながら、嘘っぽさを感じないんですよね。特に下川さんと石垣さんはルックス的にも本当の親子にしか見えませんw

さて、翌日。ボス(石原裕次郎)は捜査のことを忘れて結婚式に行くよう命じますが、長さんは光子と古川のことを放っておけません。

こんな時に限って事態は悪化するもんで、古川が警官を襲って拳銃を奪ったという事実を知り、長さんは光子のいる病院から離れられなくなります。

「俺たちに任せてはくれないか?」と山さん(露口 茂)が説得しても、長さんは動きません。昨夜、良子と話して、長さんは光子の気持ちがなんとなく理解出来たのでした。だからこそ、古川にこれ以上罪を重ねて欲しくない。

「ほんの少しの不運が、古川を凶悪犯にしてしまった。その古川の人生を、なんとか立て直してやりたい。今の俺なら、それが出来ると思うんだ……そんな気がするんだよ」

そんな長さんを、奥さんが危篤になっても捜査を優先した山さんに止められるワケがありませんw

良子の披露宴には代わりにボスが出席し、祝辞を述べることになりました。

「新婦のお父さん、野崎刑事がこの席にお見えにならないことは、全て私の責任です」

ボスのスピーチは、いきなり謝罪からスタートしました。

「野崎さんは、立派な刑事です。有能という事だけで言えば、あるいは野崎刑事よりも優れた刑事がいるかも知れません。しかし、他のどんな刑事にも真似の出来ないものを、野崎さんは持っています」

確かに、並外れた推理力の山さんや、射撃の腕前No.1のゴリさん(竜 雷太)、メカや女性心理に強い殿下(小野寺 昭)等に比して、長さんにはこれと言った特徴がありません。そんな長さんが、誰にも負けないものとは……

「それは、優しさです。立派な家庭を築き、良子さんのような聡明なお嬢さんを育て上げた事でも証明されてます。しかし、野崎刑事が優しいのは、家族や仲間に対してだけじゃありません」

長さんが、なぜ娘の結婚式すらすっぽかして捜査に打ち込むのか? その理由を良子は、そして康江や俊一も、口には出さずとも理解していました。ボスのスピーチを聞きながら、彼女らは静かに涙を流します。

「野崎刑事は、事件の被害者のお父さんでもあり、犯人の父親でもあるんです。そういう気持ちで刑事を続けるのが、どんなに苦しく、難しいことか……そしてそれが、どんなに素晴らしいことか、解って頂くために私はやって来ました」

このスピーチには私も泣かされました。これこそ七曲署イズム、『太陽にほえろ!』という作品の揺るぎない基本スピリッツなんですよね。今の時代には通用しないかも知れませんが……

さて、長さんが危惧した通り、拳銃を持った古川が病院に押し入ります。しかし光子は銃口を向けられても逃げずに、古川と向き合います。

「私、変わったの……気持ちが変わってしまって、もうどうすることも……」

「そうだったのか……前科者にはもう用はねえってのかっ!」

逆上して引き金を引こうとする古川に長さんが飛び掛かり、古川は病院の屋上へと逃げ込みます。同僚たちに止められても、長さんは説得を諦めません。

「山さん、話をさせてくれ! 頼む! それが出来ないなら、一体なんのために俺は此処にいたんだっ!?」

長さんは丸腰で、銃を構える古川と真摯に対話しようとします。

「うるせえーっ! デカなんぞに何が解る!?」

「それは違う。デカにだって解るんだよ古川。彼女の気持ちの中に、汚いものがあるかどうか位はね。ちゃんと解るんだよ」

「…………」

「何も、変わったことがあったワケじゃない。裏切りがあったワケでもないんだ。ただな、ただ、彼女が独りぼっちで、一番つらい時に、彼女を労ってくれたのは、夫の石田さんだったんだよ。お前じゃなかったんだ、古川。ただそれだけの事だ」

良子と同じように、光子も古川が嫌いになって別れたワケじゃない。女性の心変わりがドラマで描かれる場合、大抵は明確な理由がつけられるもんだけど、本作ではあくまで曖昧なスタンスなのが、かえって新鮮だしリアルだと思います。

「あのとき光子さんはお前に対して、なんの弁解も救いも求めなかった。いや、かえって自ら身を晒し、正直に告白して、解ってもらおうとした。あのときの眼には、どんなやましさも無かった筈だ」

「…………」

「まだ分からないのか? 光子さんはな、お前に撃たれてもいいと思ってたんだ。もし心の中にやましさがあれば、あんな行動は出来なかった筈だ」

ナイフで刺された時も、光子がまったく逃げる素振りを見せなかったことを、古川は思い出します。

「それはな、光子さんが、弁解すればするほど、嘘になると思ったからだよ」

「……解りたくねえよ、そんな話! 解りたくねえよ! 解らねえよ!」

そう言いながら古川は膝をつき、泣きながら拳銃を手放すのでした。

「だがな、古川。お互いそれを解り合わない限り、本当に立ち直ることは出来ないんだよ。光子さんも、お前もな」

事件を解決させる為じゃなくて、二人を立ち直らせる為にこそ銃口の前に立った、長さんの本気の「優しさ」が古川にも伝わったことでしょう。

こうして事件は解決しましたが、良子の披露宴はとっくに終わっており、せめて新婚旅行への出発を見送るべく東京駅に向かう長さんですが、新幹線も待ってはくれませんでした。

「幸せにな、良子……」

あっという間に遠ざかる新幹線を涙眼で見送った長さんは、独りトボトボと七曲署に帰り、同僚たちには「ギリギリ間に合ったよ」と嘘をつきます。けど、なぜかボスたちは信じてくれません。

「長さんな、まだ終わっちゃいねえんだ。披露宴はこれからだ」

「は?」

長さんが振り返ると、そこにはウェディングドレス姿の良子と市村が! 二人は出発予定を1日遅らせ、長さんが署に戻って来るのを待っていたのでした。

「良子……」

「お父さん……」

泣きました。事件関係者の心情と刑事のプライベートを無理なくリンクさせた脚本も素晴らしいけど、それに加えて我々ファンはずっと以前から、野崎ファミリーの歴史を見守って来ましたからね。これは涙なくして観られません。

良子が初登場し、娘の反抗期が描かれたマカロニ時代の第22話は、長さんの初主演作でもありました。こうして嫁に行った良子に代わって、これからは俊一の進学や就職問題が長さんを悩ませることになります。良子の出産、すなわち長さんに孫が出来るエピソードも見たかったですね。

光子を演じた新海百合子さんは、第206話『刑事の妻が死んだ日』ほか『太陽にほえろ!』には通算7回ご出演の常連ゲスト女優さん。『Gメン'75』や『特捜最前線』『相棒』等の刑事ドラマにもゲスト出演され、脇役一筋ながら現在まで息長く活躍されてます。

良子役の井岡文世さんはプロフィールが見当たらないんですよね。セミレギュラーとして10年近く出演された『太陽にほえろ!』が代表作であることは間違いないと思われます。

余談ですが、画像をご覧の通りボン(宮内 淳)のおでこが出て来ましたw 分け目は6対4ぐらいで、センター分けに行き着くまでの過渡期です。

横にいるゴリさんはスコッチ編の中盤あたりから髪が短くなり、お馴染みのヘルメットヘアが定着しつつあります。
 
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『太陽にほえろ!』#245

2019-08-29 00:00:05 | 刑事ドラマ'70年代









 
☆第245話『刑事犬 対 ギャング犬』

(1977.4.1.OA/脚本=田波靖男&四十物光男&小川 英/監督=竹林 進)

スコッチ(沖 雅也)が山田署へと転勤した、その翌週に放映されたエピソード。つまりレギュラー6人体制=ボン(宮内 淳)単独活躍期の幕開けですが、まだボンの人気も実力も信用してない制作陣は、ゲストの顔ぶれを強化することでスコッチの抜けた穴を埋めようとした、ような感じがします。

その第1弾が大好評「警察犬シリーズ」の再開で、かつてテキサス(勝野 洋)の良き相棒だった警察犬ジュンが、新たにボンとコンビを組んで大活躍します。

結局、ボンは常に誰かとコンビを組まされる運命なワケですw 翌週の第246話『赤ちゃん』には麻薬Gメンの村岡房江(浜 美枝)が、そして第252話『鮫島結婚相談所』には元刑事の鮫やん(藤岡琢也)が再登場し、入れ替わり立ち替わりボンの相棒を務めます。

おまけにこの245話には、後にボンと2年間もコンビを組む毛むくじゃら男=木之元 亮さんがカメラテストでプレ登場するんですよね。

冒頭、ボンがジュンに会いに行く警察犬訓練所のトレーナー役で、髭なのかモミアゲなのか髪の毛なのか判んないモジャモジャの爆裂したビジュアルに加え、独特な野太い声と滑舌の悪さでインパクトは絶大。後にロッキー刑事として七曲署に現れた時も「あれ、あの時の爆裂モジャモジャ男やん!」って、クラスで話題になったもんです。

それはともかく、確かにこの時点じゃボンも頼りないイメージがまだ払拭出来てないし、ビジュアル的にも精悍さが足りてません。ボンが本当に格好良くなるのは、爆裂モジャモジャ男の先輩格に昇格し、とっくりセーターを着なくなり、髪をセンター分けにしてオデコを出すようになってからです。

そしてボンだけじゃなく、他の七曲署レギュラー刑事たちも以前より垢抜け、どんどん格好良くなって行きます。ほんと男前揃いです。

スコッチがいた頃はそれこそ太陽みたいに丸かったボス(石原裕次郎)のお顔も、程よく贅肉が落ちて来ました。万人が抱くボスのイメージに落ち着きましたよね。

ゴリさん(竜 雷太)は金八先生みたいにしょっちゅう指でかき上げてた髪を短くカットし、竜さんが教師を演じられたデビュー作『これが青春だ』の頃に戻った感じ。ロッキー加入後は更に髪が短くなります。

殿下(小野寺 昭)だけはルックスがほとんど変化しないんだけど、歳を重ねて精悍さが増し、やっと刑事らしく見えて来ました。

長さん(下川辰平)もボスと同じで、丸かったお顔がシュッと引き締まって男前になられました。もっと後期になると頬が痩けて老いを感じちゃうので、この時期のルックスがベストかも知れません。

そして山さん(露口 茂)の、誰にも真似出来ない唯一無二の格好良さ! 角刈りのべらんめえ親父から刑事コロンボ(ピーター・フォーク)期を経て、大学教授的イメージの山さん像がついに完成した感じです。

ボン単独活躍期は、ルックス的にもキャラクター的にも、メンバー全員がそれぞれのイメージを完成させた時期とも言えます。

良くも悪くも、ほとんど変化しない『太陽にほえろ!』の長期安定時代が、これから数年に渡り続くことになります。
 
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「木村理恵 in 太陽にほえろ!'76~'77」

2019-08-18 12:00:13 | 刑事ドラマ'70年代









 
ボン(宮内 淳)の時代は、アッコ(木村理恵)の時代とも言えます。アッコが七曲署の庶務係を務めた3年間は、ボンが在籍した4年間と完全に被ってます。

テキサス、ボン、スコッチ、ロッキーという視聴率が絶好調だった頃のお茶汲みさんって事で、お茶の間における認知度は歴代でも一番かと思われます。

また、前任のチャコ(浅野ゆう子)やクミ(青木英美)みたいに、歳上の刑事に対してタメ口を聞くような勝ち気キャラじゃなく、控え目で穏やかで、そこそこ可愛く適度に地味な存在感は、後続の刑事ドラマ群における事務員女子たちのスタンダード、良いお手本になってたような気がします。

毎週レギュラーで出演していながら、ほとんど台詞も与えられない事務員役が多い中で、『太陽~』のマスコットガールたちは一言~二言とはいえ台詞が用意され、アップも綺麗に撮ってもらえて、ごく稀にだけど主役回までありますから、恵まれてましたよね。視聴率が高く、言わば余裕のある番組だからこそ出来た事かも知れません。

特にアッコの主役回(#284『正月の家』)は'78年の新春1発目で、ゲストが柴田恭兵さん、ラストシーンはボス(石原裕次郎)とのツーショットという厚待遇。

勤務3年目という長いお勤めへのご褒美でもあったでしょうし、また木村理恵さんがしっかり芝居の出来る女優さんだからこそ実現したエピソードだろうと思います。
 
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