源氏物語と共に

源氏物語関連

手習 浮舟の心理

2008-12-03 08:56:37 | 登場人物

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閨のつま近き紅梅の、色も香もかはらぬを、春や昔のと、
異花よりも、これに心寄せあるのは、飽かざりし、にほひのしみにけるや。

後夜(ごや)にあ伽(あか)たてまつらせ給ふ。
下の尼の、少し若きがある、召し出でて、
花おらすれば、かごとがましく散るに、いとど匂ひくれば、

『袖ふれし人こそ見えね花の香の
       それかと匂ふ春の夕暮れ  』 (手習)




横川の僧都に助けられ、妹尼が亡くなった娘の身代わりだと思って
必死に介抱した結果、浮舟は意識を回復した。


何と宇治八の宮邸に住む物の怪が、浮舟に取り付いていたのである。
しかも、調伏された物の怪は、宇治の大君にもとりついて殺したという。


そこまで八の宮邸を恨みに思う物の怪とは、何だろう。


さて、冒頭の浮舟出家後の歌であるが、解釈は2説あるようだ。
「袖ふれし人」は、新潮日本古典集成は匂宮、岩波文庫山岸徳平は薫、
玉上源氏は2説あるとし、匂宮のようだ。



匂宮との2夜の逢瀬で閨近くに紅梅があったのかと
浮舟の巻を見たが、その描写はなく、
浮舟が次の日に紅梅かさねの着物を着た描写があった。


その事をさすのであれば匂宮である。


しかし、紅梅といえば、紫の上をさし、後に中の君が同じ二条院にひきとられ、
まさしくヒロインの位置となった庭にもあった。
また宇治の八の宮邸にも紅梅はあって、薫が両方を訪ねている事も思い出す。
浮舟は両方の紅梅を知っているだろう。


しかも、この歌の前で、出家前の浮舟の半生を返りみた文章には
ことごとく匂宮に契ったことを後悔している。


そして薫のことを思っているから、薫と思うこともできる。




親と聞こえけむ人の御かたちも見たてまつらず、
はるかなる東を、かへるがへる、年月を行きて、たまさかにたずね寄りて
嬉し頼もしとと思ひ聞こへしはらからの御あたりにも、思わずにて、たえ過ぎ、

さる方に、思ひ定め給ひし人につけて、やうやう身の憂さをも慰めつつ際目に、
浅ましう、もてそこひたる身を、おもひてゆけば、

宮をも少しもあはれと思ひ聞えむ心ぞいと怪しからぬ。

ただ、この人の御ゆかりに、さすらへぬるぞと思へば、
小島の色をためしにちぎり給ひしを、などてをかしと思ひけむと
こよなくあきにたる心地す。

はじめよりうすきながらも、
のどやかに物し給ひし人は、この折、かの折など思ひいづるぞ、こよなかりける
     (手習)




「宮をあはれと思ったのはけしからない、この人のゆかりで身をさすらってしまった。
どうして小島の色をちぎった人をすてきだと思ったのであろう」と、後悔している。


そして薄きながらものどやかな薫のことを思い、
ちょっと生きている事を知られるのを期待しているような文章もその後にあった。


しかし、ここではかごとがましい(恨みがましい)花同様に匂宮と考えよう。


雪という事で、それを思い出す新春に、出家して吹っ切れた浮舟の
まさしく美しい青春の残像歌としよう。


画像は源氏物語図屏風 浮舟より


コメント
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