以前の私は、相手に対して「ノー」と言えなかった。
「ノー」という言葉は、否定する言葉である。
もし、私の口から「ノー」を発せば、相手を否定することになると考えていた。
そのために、職場においては、ある時期まで「ノー」という言葉を言うことができなかった。
●以前の私
若い頃、こんなことがあった。
昼食時、Y先輩と偶然街中で出会った時のことである。
「おっ!A君、久しぶり!元気か! 」
「Y先輩、ご無沙汰しています」
「ちょうど昼時だ。飯を食いに行こう。このそばにトンカツの旨い店がある。
A君はトンカツ好きだったよな。行こう!!」
「あっ、ハッ、ハイ」
ということで、トンカツ屋に誘われ、トンカツを食べたことがあった。
実は、その前に私は昼食を食べていたのだ。
用事に託けて昼食を早めに食べたのである。
なのに、私はY先輩に、「すでに食べた」と言うことを言えずに、ついて行ったのである。
結果は、楽しいはずの出会いが、悲惨であった。
すでにお腹が一杯な状態である。
そこに、トンカツを食べるのであるから、半分も食べられなかった。
当然Y先輩も「どうしたのだ?」と怪訝そうな顔をしていた。
今更、「実は・・・」とも言えない。
このように何も言えない自分に対して惨めであった。
●20年ぶりに解決
このことが、ずーっと心の奥底に眠っていた。
そこで今回、アサーティブを学ぶことで、心のわだかまりがすっきりした。
アサーティブに「ノー」を伝えるときはどうすれば良いのだろうか?
ポイントは、はじめに、何に対して「ノー」なのか、「「ノー」の的を絞ることである。
この段階で私は失敗したのである。
Yさんとお話しすることはOKなのである。ただ食事は「ノー」なのである。
当時、この区別ができなかったのである。
「ノー」と言う言葉を、全面否定と考えていた。
「ノー」を言えば、Y先輩との人間関係を否定することだと考えていた。
そのために「ノー」と言う言葉を言うことができなかった。
今、考えてみれば、容易にわかることである。
Y先輩との関係で「100」あるうち、「今日の昼食」という「1」だけが「ノー」である。
つまり「ノー」は全面否定ではなく、部分否定なのである。
この「1」に対して「ノー」を言えばよかったのである。
それも簡潔に率直に言えば、Y先輩も気を悪くすることはなかったはずだ。
そして、代替え案も提示すれば、さらにOKである。
●アサーティブで、再現
昼食時、Y先輩と偶然街中で出会った時のことである。
「A君、久しぶり!元気か! 」
「Y先輩、久しぶりです。お元気そうですね。その節には大変お世話になりました。ありがとうございました。あの経験が今になって役立っています。本当にY先輩には感謝しています。」
「A君!飯でも食べながらゆっくり話そう!A君はとんかつが好きだよな」
「はい、今でもとんかつが大好きです。
実は、言いにくいのですが、今食事をしたところなのです。コーヒーでも飲めるレストランに行きませんか?」
「食べたのか?そうか残念だな。レストランでもOK,OK。それではあそこのレストランに行こう!」
最初に感謝の念を示すことである。
次に、自己責任で理由を具体的に明確に話す。
さらに、代替え案を示す。
このような3ステップを踏むことで、「ノー」をいうことができる。