新聞3紙の社説を比較すると面白いことが分かった。
首相のトルコ訪問について、どのような切り口で論説を書くか、正反対の結果がでている。
どちらが、良い悪いというつもりはない。
このブログを読む人が判断してほしい。
高校時代に、先生から言われたことを覚えている。
もう40年以上前のことだが、はっきり覚えている。
「真実と事実」
似たような言葉であるが、中身は違う。
事実であるが、真実でないケースが多々ある。
特に、TVや新聞などは、一つのポイントに焦点を当てて報道することがある。
事実かもしれないは、真実ではないケースが多々ある。
視聴率を稼ぐ方法としては良いかもしれないが、社会の公器としては問題が残る。
あるポイントだけに焦点を当てることで、内容が正反対になる。
今回の記事の扱い方がその事例と考える。
では、新聞3紙の社説を読み比べて考えていただきたい。
●首相トルコ訪問 インフラ輸出に弾みつけたい(2013年10月31日付・読売新聞社説)
インフラ(社会基盤)輸出を成長戦略の柱に据える日本にとって、経済成長著しいトルコなど新興国の魅力は大きい。
官民一体となった取り組みを強化することで、輸出に弾みをつけるべきだ。
トルコを訪れた安倍首相は、エルドアン首相との会談で、三菱重工業などの企業連合がトルコ政府と原子力発電所建設で合意したことを歓迎した。
「福島第一原発事故の教訓を共有することにより、世界の原子力安全の向上を図っていくことはわが国の責務だ」とも表明した。
トルコでは、経済成長に伴い拡大する電力需要をまかなうことが重要な課題だ。原発建設は国家的なプロジェクトと言える。
国際的な受注合戦の末、日本企業が受注に成功したのは、5月に続いて再訪した首相の「トップセールス」の効果もあろう。
原発技術で国際貢献を目指す首相の姿勢は評価できる。原発を輸出することは、中長期的な原子力の技術者の確保にもつながる。
首脳会談では、トルコに科学技術大学を共同で設立することでも合意した。原子力分野の専門家育成も目的としており、日本からの技術支援の拠点としたい。
原発だけでなく、鉄道をはじめとした交通インフラでも日本の協力は進んでいる。
安倍首相は、アジアと欧州を結ぶボスポラス海峡の海底トンネルを通る地下鉄の開通式に出席した。大成建設などが工事を担当し、総工費約3900億円の4割を円借款でまかなった。
地理的な要衝に位置するトルコは、現地に進出した日本企業にとって、欧州などへの輸出拠点となる。トヨタ自動車などがすでに進出している。
日本とトルコの経済連携協定(EPA)交渉を加速させる必要がある。貿易や投資を促進するための環境を整えることで、さらに協力関係を強化すべきだ。
トルコは内戦が続く隣国シリアのアサド政権と対立している。難民支援や化学兵器廃棄で、日本とトルコが協力する意義もある。
気がかりなのは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコが、中国製防空システムの導入に向けて交渉を進めていることだ。中国と軍事的に協力することになれば、NATOの軍事機密が中国へ流出する恐れもある。
NATO加盟国の間に中国企業との交渉の再考を促す声が広がっている。トルコには、慎重な対応が求められよう。
●原発輸出―後の責任が取れるのか (2013年11月1日朝日新聞社説)
日本政府が、途上国への原発輸出に血道をあげている。
安倍首相は今週、トルコを訪問し、三菱重工業を中心とした企業連合による原発受注を「成果」に帰国した。
しかし、福島第一原発では放射性物質による汚染水の流出が続く。除染も遅れ、事故は収束のめどがいっこうにたたない。
先の見えない避難生活を強いられている住民から「よく原発を売れるものだ」と怒りの声があがるのは当然である。
国内では脱原発への転換を求める多くの国民に背を向け、原発政策をあいまいにし続ける。一方、海外ではあたかも事故の経験が日本の原発技術を高めたかのように売り込む。
考え違いではないか。
トルコのエルドアン首相との共同記者会見で安倍首相は「原発事故の教訓を世界で共有することにより、世界の原子力安全の向上を図っていくことは我が国の責務だ」と述べた。
目標としては正しいが、場当たり的な事故対応で世界の不信を招いているのが実態だ。
津波の前の地震が事故に大きな影響を与えたかどうかも、十分にわかっていない。有数の地震国であるトルコに売り込む自信は、どこからくるのか。
事故の賠償責任も心配だ。
米カリフォルニア州の原発をめぐって、廃炉を決めた米電力会社は損害が数十億ドル(数千億円)にのぼると主張。原因となる放射能漏れを起こした蒸気発生器を納入した三菱重工グループに、契約上の上限を超えて賠償するよう求めている。
以前のように引き渡した後は知らない、とはいかなくなっている。首相自らの売り込みは、大きな事故が起きても日本政府が賠償を保証してくれると受け止められてはいないか。
途上国は多かれ少なかれ、政情が不安定でもある。原発テロや核物質の核兵器転用リスクを日本政府がどこまで真剣に考えているのか。疑問である。
エルドアン首相は共同会見で「事故があるからといって、自動車や飛行機に乗らないわけにはいかない」と述べた。
だが、福島の事故は原発の危険性が車や飛行機と同列には扱えないことを見せつけた。活断層に関する論議や周辺住民の広域避難計画づくりを通し、地震国が原発を持つ困難さもよくわかってきた。
使用済み核燃料の最終処分は前から暗礁に乗り上げている。
安倍政権は原発輸出を成長戦略の柱に据えるが、山積する問題に口をつぐんで売り込むのは商倫理にもとる。
●トルコを首脳外交の先例に (日本経済新聞2013/10/31)
安倍晋三首相が5月に続いてトルコを訪問し、エルドアン首相と会談した。日本の技術・資金支援で建設した海底トンネルの完成式典に出席し、政府が後押ししてきたトルコでの原子力発電所の受注も、三菱重工業などの企業連合に正式に決まった。
国会開会中の平日を使った首相の外国訪問は珍しいが、トルコは中東の大国であり、歴史的な親日国でもある。トルコでの相次ぐ大型受注を、官民連携によるインフラ輸出のモデルにしたい。
首脳会談では原子力の専門家など科学技術分野の人材育成に日本が協力する共同宣言に調印した。シリア情勢やイランの核開発問題での連携も確認した。
完成した「ボスポラス海峡横断地下鉄」は、トルコ最大の都市であるイスタンブールをアジア側と欧州側に隔てるボスポラス海峡の下にトンネルを掘り、鉄道を通す大プロジェクトだ。大成建設が建設を請け負い、日本政府が1533億円の円借款を供与した。
海峡は深く、流れも速い。建設には箱形のコンクリート構造物を海底に沈め、つなぎ合わせる工法を採用した。海外のライバル企業が尻込みする難工事の成功は日本の技術力を示したといえる。
日本はボスポラス海峡にかかる大型橋も建設した。トルコの成長を支えるインフラ整備で日本が果たしてきた役割と、技術への信頼が親日感情をより深め、新たな大型受注へとつながっている。
安倍政権はインフラ輸出を成長戦略の重点に位置づけている。首脳レベルで関係を深め、企業が持つ技術力への評価が次の受注をもたらすトルコでの成功を、他の新興国にも広げていきたい。
シリア内戦など中東の混乱収拾に、日本が単独で影響力を行使するには限界がある。イスラム教と民主主義を調和させながら、経済成長を続けるトルコの経験は他の中東諸国にも参考になる。トルコとの緊密な関係をいかし、日本が中東の安定や経済開発で存在感を高めていくことも大切だ。
さて、3紙を読み比べて、どうように思われましたか?