環境と体にやさしい生き方

環境の悪化は生物系全体に大きな影響を与えています。環境と体にやさしい健康的な生活を考えるための新鮮な情報を紹介します。

ついに遺伝子組み換えの畜産飼料に変更!!

2008年06月29日 | 食生活等
鹿児島県を中心に編集・発行されている南日本新聞の6月26日付(2008年)朝刊で、『畜産飼料変更へ コープかごしま 産直豚、鶏、卵』が掲載されました。

日本が輸入トウモロコシのほとんどを依存している米国で、遺伝子組み換えの比率が73%(2007年実績)に急拡大した結果、遺伝子組み換えでない飼料トウモロコシの入手が難しくなったため、『生協コープかごしま』が畜産飼料を遺伝子組み換えのものに変更するというものです。

変更の時期は、下記のとおりです。
 ・卵:2008年7月以降
 ・豚肉:2008年8月以降
 ・鶏肉:2009年4月以降


ちなみに、『コープかごしま』の組合員数は255,000人で、産直豚8戸、鶏32戸、卵5戸の生産者が指定されています。


過去のブログでも書きましたが、世界全体の主要農産物の貿易率は極めて低く、2004年実績で、小麦17.3%、米7%、とうもろこし10.2%、大豆27.3%となっています。そしてこれらの輸出国と輸入国は特定の少数の国に限定されています。中でも、日本はとうもろこしの最大輸入国であり、その96%を米国に頼っています。(2006年実績)
なお、これまでのブログで書いてきたように、日本が輸入している穀物用トウモロコシの少なくとも50%程度は遺伝子組み換えのものと思われます。そしてこの比率は今後ますます大きくなることは確実です。

前述の新聞記事では、コープ鹿児島専務が組合員の消費者らへの飼料の仕様変更報告会で「安定した量と品質、価格で供給し続けられるか、産直生産者が再生産できるかどうか考え、やむをえない判断をした。原料事情が好転すれば見直したい」と説明したとあります。

これでも明らかなように、消費者が求めているのは非遺伝子組み換えのものであるにもかかわらず、入手困難と価格高騰で、『背に腹はかえられない』というのが実情です。また、バイオ燃料との競合などでトウモロコシの価格が高騰している上に、非遺伝子組み換えトウモロコシの価格は、遺伝子組み換えのものよりもさらにトン当たり3,000~3,500円(原料ベース)も高くなっています。(トウモロコシを主体とした配合飼料は、2008年4月現在でトン当たり約63,000円で1年半前の43,000円から50%近くも値上がりしています。また、2008年6月に米国最大の穀倉地帯の中西部で起こった豪雨で、更なる価格高騰が予想されています。)

残念なことに、穀物用トウモロコシのほとんどすべてを輸入に頼っている現状では、今後、原料事情が好転することはほとんど望めません。
遂に、消費者が好むと好まざるとにかかわらず、遺伝子組み換え食品を食べざるを得ない時代が来たということでしょう。もはや、これを回避するには、自給自足の生活しかないのかもしれません。

『人口増加』、『食糧とバイオ燃料の競合』、『自然災害の増加』等で食糧不足が深刻になればなるほど、さまざまな面で安全や安心よりも量の確保が優先される時代が来ることが危惧されます。


※※参考※※
スターチ(デンプン)最大手の日本食品化工も、本年(2008年)2月から国内の飲料メーカー等に、米国産の遺伝子組み換えトウモロコシを原料とするコーンスターチの供給を開始しています。同社では、年内に調達予定の20%程度を遺伝子組み換えのものでまかなう計画です。(産経ニュース「穀物価格高騰に対応 遺伝子組み換えトウモロコシを輸入 食料原料に供給開始」より)



関連記事
  1.遺伝子組み換え食品最大輸入国日本(2007.02.26)
  2.身近にある遺伝子組み換え食品(2007.03.05)
  3.遺伝子組み換え食品は安全か?(2007.03.11)
  4.遺伝子組み換え食品の安全性と対策(2007.03.17)
  5.遺伝子組み換え食品がはびこる時代(2008.04.14)

【参考文献】
・南日本新聞2008.6.26「畜産飼料変更へ コープかごしま 産直豚、鶏、卵」
・南日本新聞2008.5.26「農家ら畜産の窮状訴え」
・産経ニュース2008.4.18「穀物価格高騰に対応 遺伝子組み換えトウモロコシを輸入 食料原料に供給開始」


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食糧危機・食品値上げの一方で増える廃棄物

2008年06月24日 | 食生活等
世界的な食糧価格の高騰やますます深刻化する発展途上国の飢餓問題の一方で、日本では毎日大量の食品廃棄物が出ています。

2007年11月20日に農林水産省が公表した「平成19年度食品循環資源の再生利用等実態調査結果の概要」によると、平成18年度の食品産業における食品廃棄物等の年間発生量は1135.2万トンで、前年度とほとんど変わっていません。(前年度のわずか1万トンの減)
食品産業の食品廃棄物等を業種別にみると、食品製造業44%、外食産業27%、食品小売業23%、食品卸売業7%となっています。
また、年間に発生する食品廃棄物等のうちで、売れ残り(賞味期限切れ)や返品が原因で廃棄されたものの割合は、11%(外食産業を除く)となっています。

一方、家庭での食品ロス率は、農林水産省の平成18年度食品ロス統計調査によると、3.7%となっています。1人1日当たりの食品使用量1,122gのうち41.6gが食品ロス量です。
注:食品ロスとは、食品使用量(食料品・調理品)のうち、「過剰除去、直接廃棄、食べ残し」に当たるものです。なお、食品使用量には不可食部分(魚の骨や果物の皮など)は含まれません。

 食品ロス率(%)=(食品ロス量÷食品使用量)×100

平成18年度の人口から計算すると、家庭から年間で約200万トンの食品ロスが出ていることになります。食品ロス量のうち、食べ残し(27%)と直接廃棄(19%)の合計が半分近くを占め、残りが過剰除去(54%)となっています。食品の種類別では、野菜類が最も多く43.9%、次いで調理加工食品15.6%、果実類14.9%、魚介類7.4%、その他の生鮮食品(肉類含む)6.1%などとなっています。

なお、石川県立大学生物資源工学研究所の高月紘教授のグループが、2007年秋に京都市内の住宅地で約50世帯・約100袋分の家庭ごみを調査した結果では、「食べ残し」が42%、全く手をつけていない食品(直接廃棄)が28%となっています。これらの調査結果から、高月教授は全国の家庭から廃棄される食べ残しは農水省データから計算した量よりもはるかに多く、年間で456万トンに達すると推計しています。

視点を変えて農水省のデータから熱量について見てみると、平成15年度の1人1日当たりの供給熱量は2,588kcalで、摂取熱量1,863kcalとの差は約700kcalにもなります。これから計算すると、食品産業と家庭から毎日約4分の1の食品が捨てられていることとなります。


このように大量の食品が廃棄物として排出される主な原因としては、次のようなものがあげられます。

・消費者や販売店の鮮度意識が過剰なため、製造業者の食品の期限表示が短期化している。
・消費者が食品期限表示に頼りすぎている。期限表示の意味をよく理解していない。(安易に捨てすぎる。)
・消費者の購入した食品の管理等が不十分。
・偏食、飽食など、健全な食生活に無関心な層が増えてきている。
・小売店では、人気の無い(回転率の悪い)食品は返品される傾向にある。
・魚介類や野菜などで供給量が安定しないものは、流通ルートに乗りにくく、廃棄されるものもある。
・企業も消費者も食の安全・安心に過剰反応し、健康への影響がない食品トラブルでも安易な回収・廃棄が増大している。(三菱総合研究所の07年の調査では、新聞による回収告知の約4割が健康への影響のないもの)


このように、食品産業、消費者ともに原因があることがわかります。

上記原因のうち期限表示の短期化について、期限表示のある食品が「実際にいつまで食べられるのか」という研究に取り組んでいる甲南女子大の奥田和子名誉教授は、表示の短期化は販売店にとって商品の回転率が高まるメリットがあると言います。また、製造業者も賞味期限が長いと防腐剤などの添加物が多いと疑われるため、より短い期限表示にする傾向があるとも言っています。

消費者も、消費期限(食べても健康に影響がない安全性の限度)と賞味期限(おいしく食べられる目安を示す期限)の表示に頼りすぎる傾向が強く、中にはこれら2種類の表示を混同し、賞味期限が過ぎたら捨ててしまう人も少なからずいるようです。(過去ブログ「賞味期限、消費期限、もったいない」で詳しく書いています。)


大量に廃棄される食品廃棄物等を平成18年度に、肥料・飼料などの食品循環資源として利用または利用するために譲渡されたのは、食品産業全体で約59%(再生利用率)と前年度並みにとどまっています。また、家庭の生ごみの場合、飼料などに再利用されるのはわずか3%です。

ただ、個人的にはいたずらに食品廃棄物の再利用率を高めることには問題があると考えています。食品廃棄物の飼料等への利用については、特に加工品や生ごみの場合、油や塩分、添加物の問題があります。家畜への給餌を考えると、油や塩分を除去することが必要で、これには多くのエネルギーが必要となります。

また、現在ほとんど議論されていませんが、食品添加物の多く入った食品を飼料として再利用することは、巡り巡って人体への蓄積という問題もでてきます。以前、人里に下りてきた野生のキツネが生ごみを食べてアトピーになった写真を見て、あらためて食品添加物の害を痛感したことがあります。

これらのことを考えると、家庭・食品業界ともに、食品廃棄物大量発生の問題点と原因を掘り下げて分析し、それぞれの原因に対応した具体的対策を立て、食品廃棄物の発生を減らすことが最も優先されるべきです。




【参考文献】
農林水産省 平成19年食品循環資源の再生利用等実態調査結果の概要
・農林水産省 統計をみる 家庭での食品ロス、食品産業のリサイクル資源の実態
・日経ビジネス 貴重な食料がゴミと化す(2008.6.16号)
・読売新聞 食ショック第3部 飽食のコスト(2008.6.19~6.21)
YOMIURI ONLINE ニュース 「賞味期限」五感で判断(2006.9.14)


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副 題:自分自身愛する人、そして人類地球未来のために、、知っておきたいこと

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クローン食品は安全か?

2008年06月16日 | 食生活等
前回のブログで紹介したように、受精卵クローン牛については、すでに日本を含め、先進諸国で市場に流通しています。また、日本では、厚生労働省が4月1日(2008年)、体細胞クローン技術によって生まれた牛や豚とその子孫の肉や乳の食品としての安全性の評価について、内閣府の食品安全委員会に諮問しました。

それでは、クローン牛は食品として本当に安全なのでしょうか?
『農業クローン牛の食品としての安全性の研究』(厚生科学特別研究事業 平成11年度中間報告書、厚生労働科学研究費補助金研究事業 平成14年度報告書)によると、クローン牛の食品としての安全性について、次のように報告されています。

クローン牛の食品としての安全性について

1) ほ乳類や鳥類については、その構成成分であるタンパク質が一部のヒトにアレルギーを招来することはあっても、構成成分自体が毒性や病原性を発現することは知られていない

2) 国内外でこれまでに得られている知見は、生後1ヶ月以上生存した体細胞クローン牛個体は、一般牛と同程度に正常に生育し、一般牛と差異のない生理機能をもつ→ 一般牛に比べ、こうしたクローン牛個体が、ヒトを含めほ乳動物に対して生物作用をもつ物質を多量に産生したり、新規な生物活性物質を産生していることは考えがたい。

3) 肉と生乳の構成成分は一般牛と異ならないこと、栄養機能において一般牛のものと類似していること、ヒトが通常摂取している量に匹敵する量の肉または生乳をラットに給餌しても健康を害さない。

以上より、クローン牛特有の要因によって食品としての安全性が損なわれることは考えがたい。

しかし、クローン牛の死産や生後直死などの発生率は高く、農林水産省の「クローン牛について知っていますか? 早わかりQ&A集」では、その理由としてクローン動物作出技術が十分に確立されていないことなどをあげています。
また、出生時の子牛の体重が平均体重の2倍以上に達する例も散見されています。

その他にも、クローン技術に用いられる電気的細胞融合等の操作や安全性確認の試験内容等を取り上げ、クローン食品の安全性に疑問を投げかける専門家もいるようです。

「食政策センター・ビジョン21」を主宰する安田節子氏は、ウェブサイト『体細胞クローン家畜は食卓に上るか?―厚労省が食品安全委に諮問』で次のように書いています。
しかし、部分比較でよしとするのは拙速であり科学的評価とは言いがたい。通常の有性生殖を経ずに生まれる、自然界では存在し得ない人工的に生み出された実験動物であり、その安全性は全体的観察、長期的試験が必要で、長い時間をかけなければわからないものだ。

確かに、構成成分や栄養機能などの部分的な比較で安全上の問題がないと判断するのは早計ではないでしょうか?

なお、前述の報告書「クローン牛の食品としての安全性」では、研究要旨の後半部分に、次のように書かれています。
ただし、クローン技術は新しい技術であるために、クローン牛由来の食品の安全性については、慎重な配慮が必要である。クローン牛の人獣共通感染症等疾病への罹患、あるいは同牛由来の乳肉における有害化学物質の残留などによって、安全性が損なわれることのないような慎重な対応が必要である。こうした配慮の下に、その安全性を危惧させる要因が新たに検知された場合には、速やかにその要因を排除できる対応が必要である。

しかしながら、現在流通している受精卵クローン牛由来の食品のように、その表示が無い(任意)ままの販売では、安全性を危惧させる要因を検知することは不可能であり、要因を検知できなければ、それを排除することはできません。

これらのことから、私自身としてはクローン技術の安全性については疑問を抱いていますし、行政の取り組みや見解にも不安をもっています。



【主な参考文献】
・クローン牛 解禁を諮問 読売新聞 2008.4.2
農林水産省 クローン牛について知っていますか? 早わかりQ&A集
クローン牛の食品としての安全性の研究
 厚生科学特別研究事業平成11年度中間報告書
 厚生労働科学研究費補助金研究事業平成14年度報告書
 東京大学大学院農学生命科学研究科 熊谷進
農林水産技術会議/家畜クローン研究の現状について
厚生労働科学研究費補助金(ヒトゲノム・再生医療等研究事業)
 バイオテクノロジー応用食品の安全性確保及び高機能食品の開発に関する研究」
 分担報告書 クローン牛の食品としての安全性
 分担研究者 熊谷 進 東京大学大学院農学生命科学研究科

・安田節子のGMOコラム「体細胞クローン家畜は食卓に上るか?―厚労省が食品安全委に諮問」


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クローン家畜流通の時代がやってくる?

2008年06月09日 | 食生活等
米国食品医薬品局(FDA)は本年(2008年)1月15日に、体細胞クローン家畜から生産された食品について、「肉、乳製品とも従来の家畜と変わりがない」として、世界で初めてこれらの食品の販売を認可しました。

一方、日本では、厚生労働省が4月1日、体細胞クローン技術によって生まれた牛や豚とその子孫の肉や乳の食品としての安全性の評価について、内閣府の食品安全委員会に諮問しました。
この日本の動きは、米国だけでなく欧州食品安全機関(EFSA)でも安全性に問題がないと発表するなど、他の多くの国でも同様の判断がなされつつあることによるものです。そしてまた、近い将来、米国からのクローン家畜による食品の輸入問題が生じた場合に備えて、国内法を整備しておくという意味もあるようです。
(後述するように、日本でもクローン技術の研究開発は多くの研究機関で行われています。)

なお、クローン技術には、『体細胞クローン技術』の他に、『受精卵クローン技術』があります。また、一般にはほとんど知られていませんが、『受精卵クローン牛』の肉や牛乳は日本でもすでに流通しています。


【クローン技術開発の目的】
クローン技術とはどのようなもので、何を目的に研究開発されたものなのでしょうか?
クローン技術とは、遺伝的に同一な個体を作製する技術であり、次のような効果を期待して研究開発されています。

・家畜としての生産コストの低減と品質の向上
(例:少ない飼料で多くの乳量を生産する牛や肉質の良い牛を生産)
・医療分野等での同じ遺伝子を持った実験用動物の大量生産
・病気治療用医薬品(タンパク質)の大量生産
・絶滅危機にある希少動物などの保護・再生

(以上参考:農林水産省農林水産技術会議事務局・生産局「クローン牛について知っていますか? 早わかりQ&A集」)

【クローン家畜の作製方法】
クローン家畜は基本的に次のような方法で作製されます。

(1)クローンを作出したい細胞(ドナー細胞)を、未受精の卵子から核を取り除いた卵子に移植して、電気的な刺激を与えて融合させると同時に細胞分裂を誘起させる。
(2)約1週間培養した後に、別の雌畜である代理母(レシピエント)の子宮に移植・受胎させクローン個体を誕生させる。

これらの方法の中で用いるドナー細胞の種類によって、下記のように『受精卵クローン技術』と『体細胞クローン技術』に分けられます。

受精卵クローン技術
受精後5~6日目の受精卵が16~32の細胞に分裂していく時に、それらの細胞をひとつひとつの細胞(割球)に分けて、ドナー細胞として利用する技術。

体細胞クローン技術
クローンを作出したい家畜の皮膚や筋肉などの体細胞を培養してドナー細胞として利用する技術。


【国内外のクローン家畜の現状】
〈受精卵クローン家畜〉
農林水産省が公表しているデータによると、日本では1990年8月に千葉県畜産総合研究センターで受精卵クローン牛が初めて出生して以来、これまでに43の機関で716頭(2008年3月31日現在)が出生しています。その内訳は次のとおりです。

  ・受精卵クローン牛出生頭数   716頭
  ・研究機関等で育成・試験中 28頭
  ・死産 74頭
  ・生後直死 34頭
  ・病死等 102頭
  ・事故死 19頭
  ・廃用 26頭
  ・試験と殺 46頭
  ・売却がなされた受精卵クローン牛 387頭
    (食肉として処理されたことが確認された頭数 316頭)
    (農家等で飼養中 8頭)
    (不明 63頭)

これから、『死産・生後直死、病死』の占める割合は、約29%で、一般のホルスタイン種の5%と比べかなり高いことがわかります。また、食肉として処理されたことが確認されたものが316頭(44%)で、不明が63頭もいるというのは驚きです。

前述の「クローン牛について知っていますか? 早わかりQ&A集」によると、食肉として出荷されたのは1993年からで、牛乳が出荷されたのは1995年からとなっています。

日本では受精卵クローン牛の肉や乳を販売する場合、表示義務は無く任意としており、その場合「受精卵クローン牛」や「Cビーフ」と表示することになっています。(任意のため、表示する業者はまずいないでしょう。仮に表示しても「Cビーフ」で受精卵クローン牛由来とわかる人はほとんどいないでしょう。)

また、米国やカナダでは、受精卵クローン牛は一般農家で飼養され、これらの肉や乳を一般市場に出荷するのに規制や表示義務はありません。


〈体細胞クローン家畜〉
世界で初めて誕生した体細胞クローン家畜は、1996年に英国のロスリン研究所で誕生したヒツジ「ドリー」です。その後、米国やフランス、日本など数カ国で牛や豚などの作出に成功しています。

日本では1998年7月に石川県畜産総合センターで体細胞クローン牛が初めて出生して以来、これまでに44の機関で551頭(2008年3月31日現在)が出生しています。(体細胞クローン牛の出生は日本が世界で最初)また、牛の他に、体細胞クローンの豚が328頭、山羊が9頭出生しています。なお、体細胞クローン牛の内訳は次のとおりです。

  ・体細胞クローン牛出生頭数   551頭
  ・研究機関等で育成・試験中 86頭
  ・死産 78頭
  ・生後直死 91頭
  ・病死等 134頭
  ・事故死 8頭
  ・廃用 11頭
  ・試験と殺 143頭

これによると、『死産・生後直死、病死』の占める割合は、受精卵クローン牛よりもかなり高く約55%となっています。なお、体細胞クローン牛由来の食品は、これまで日本を含め世界中で市場に出荷されていません(2008年6月現在)が、前述したように米国食品医薬品局(FDA)は、本年(2008年)1月に食品としての販売を認可しています。


次回のブログで、クローン家畜、クローン食品の問題点について踏み込んでいきたいと思います。



【主な参考文献】
・クローン牛 解禁を諮問 読売新聞 2008.4.2
農林水産省 クローン牛について知っていますか? 早わかりQ&A集
農林水産技術会議/家畜クローン研究の現状について
厚生労働科学研究費補助金(ヒトゲノム・再生医療等研究事業)
 バイオテクノロジー応用食品の安全性確保及び高機能食品の開発に関する研究」
 分担報告書 クローン牛の食品としての安全性
 分担研究者 熊谷 進 東京大学大学院農学生命科学研究科

・安田節子のGMOコラム「体細胞クローン家畜は食卓に上るか?―厚労省が食品安全委に諮問」


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グローバル化と新ナショナリズム

2008年06月01日 | エネルギー・食料・資源
元通産官僚、作家で経済企画庁長官も務めた堺屋太一氏は、1975年に小説「油断!」(日本経済新聞社)で、石油輸入が平常時の3割になったと仮定した場合に日本が受ける影響について書いています。

この小説は、同氏らが通商産業省(現経済産業省)時代に、多くの客観データをもとにマルコフ過程という数学理論を適用して調査した結果に基づくもので、かなり精度の高い予測内容となっています。
注:マルコフ過程とは、未来の挙動が現在の値だけで決定され、過去の挙動と無関係であるという性質を持つ確率過程(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の「マルコフ過程」より)

この小説の中に出てくる調査報告会によると、備蓄石油が底をつく60日目以降に急激な影響があらわれ、100日目ぐらいで相当数の死亡者が発生します。その後、150日目で第二次産業の活動が底をつき、GNP(国民総生産)が34まで低下して死亡者が30万人を越えます。また、この頃からすべての貯蔵物資が無くなり、経済機能が崩壊して深刻な食料不足に陥ります。

小説の登場人物(鬼登沙和子)は、この報告会で、「200日間に、300万人の生命と、全国民財産の7割が失われるでしょう」と報告しています。そして、この一連の6ヶ月間の危機で、物価は8~10倍、失業者は顕在者のみで3,250万人、企業の76%は実質的に極度の操業短縮で倒産状態に陥ると予測しています。
小説では、関西経営協会会長が、このあまりにも大きな被害予測を「太平洋戦争3年9ヵ月と同じ被害だ・・・・・・」と表現しています。


油断! (日経ビジネス人文庫)
堺屋 太一
日本経済新聞社

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日本の一次エネルギーに占める石油の割合は、1973年度の約77%から2004年度は約48%まで低下しています。(その他の一次エネルギーは、石炭約21%、天然ガス約14%、原子力約11%、その他の水力や新エネルギーなどが約7%)(資源エネルギー庁 エネルギー白書2006年版より)
また、小説の舞台となった時代と比べて石油の備蓄も進み、国家と民間の備蓄量の合計は約半年分程度となっています。

このため、石油の供給不足という事態が生じても、小説「油断!」のような大きな影響はないように思えます。しかしなが、、これからの時代に予想される危機は、石油危機のような単純なものではありません。

予想される危機は、新興国の経済発展や世界人口の増加等に伴うあらゆる資源の供給不足、いわゆる、「複合資源断」(筆者による造語)による、極めて複雑で大きな危機です。この資源のなかには、当然ながら食料も含みます。ちなみに、日本の食料自給率(カロリーベース)は1973年の約55%から、2006年には約39%まで低下しています。また、一次エネルギーの自給率も、国際エネルギー機関(IEA)の統計によると2003年時点でわずかに16%程度であり、「複合資源断」の場合には「油断」よりもさらに大きな影響が生じることとなります。

そして、各国で、これらの「複合資源断」を加速するような動きがでてきています。それは、資源を持つ国家が、それらの資源を自国で開発・管理しようとする、「資源ナショナリズム」という動きです。その代表的なものに、2006年にロシア政府がサハリン沖の石油・天然ガス開発事業(サハリン2)の経営権を、環境問題を理由に国営企業のガスプロムに譲渡させた事例があげられます。

その他にも、ベネズエラの油田国有化、ボリビアの天然ガス国有化、ベトナムやインドのコメの輸出禁止、中国の鉱物資源の輸出規制に向けた動きなど、世界中で「新ナショナリズム」ともいうべき資源ナショナリズムの動きが活発になってきています。

資源小国日本は、資源ナショナリズムの加速によって、今後、資源や食料の供給面で厳しい立場に立たされることとなります。政府は、第4回アフリカ開発会議(TICAD4、2008年5月28日~30日、横浜)でアフリカ支援による資源開発の加速や、6月3日(2008年)からローマで開催される「食糧サミット」で生産国の輸出規制撤廃などに努力する方針ですが、その道のりには険しいものがあります。

また、このような資源ナショナリズムの加速は、グローバル化する環境問題の解決をより一層難しくする大きな要因となります。


【主な参考文献】
・「油断!」 堺屋太一著 日経ビジネス文庫
・「世界を襲うナショナリズム禍」 日経ビジネス 2008.5.19号 世界鳥瞰(THE WALL STREET JOURNAL)



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