米国食品医薬品局(FDA)は本年(2008年)1月15日に、体細胞クローン家畜から生産された食品について、「肉、乳製品とも従来の家畜と変わりがない」として、世界で初めてこれらの食品の販売を認可しました。
一方、日本では、厚生労働省が4月1日、体細胞クローン技術によって生まれた牛や豚とその子孫の肉や乳の食品としての安全性の評価について、内閣府の食品安全委員会に諮問しました。
この日本の動きは、米国だけでなく欧州食品安全機関(EFSA)でも安全性に問題がないと発表するなど、他の多くの国でも同様の判断がなされつつあることによるものです。そしてまた、近い将来、米国からのクローン家畜による食品の輸入問題が生じた場合に備えて、国内法を整備しておくという意味もあるようです。
(後述するように、日本でもクローン技術の研究開発は多くの研究機関で行われています。)
なお、クローン技術には、『体細胞クローン技術』の他に、『受精卵クローン技術』があります。また、一般にはほとんど知られていませんが、『受精卵クローン牛』の肉や牛乳は日本でもすでに流通しています。
【クローン技術開発の目的】
クローン技術とはどのようなもので、何を目的に研究開発されたものなのでしょうか?
クローン技術とは、遺伝的に同一な個体を作製する技術であり、次のような効果を期待して研究開発されています。
・家畜としての生産コストの低減と品質の向上
(例:少ない飼料で多くの乳量を生産する牛や肉質の良い牛を生産)
・医療分野等での同じ遺伝子を持った実験用動物の大量生産
・病気治療用医薬品(タンパク質)の大量生産
・絶滅危機にある希少動物などの保護・再生
(以上参考:農林水産省農林水産技術会議事務局・生産局「クローン牛について知っていますか? 早わかりQ&A集」)
【クローン家畜の作製方法】
クローン家畜は基本的に次のような方法で作製されます。
(1)クローンを作出したい細胞(ドナー細胞)を、未受精の卵子から核を取り除いた卵子に移植して、電気的な刺激を与えて融合させると同時に細胞分裂を誘起させる。
(2)約1週間培養した後に、別の雌畜である代理母(レシピエント)の子宮に移植・受胎させクローン個体を誕生させる。
これらの方法の中で用いるドナー細胞の種類によって、下記のように『受精卵クローン技術』と『体細胞クローン技術』に分けられます。
・受精卵クローン技術
受精後5~6日目の受精卵が16~32の細胞に分裂していく時に、それらの細胞をひとつひとつの細胞(割球)に分けて、ドナー細胞として利用する技術。
・体細胞クローン技術
クローンを作出したい家畜の皮膚や筋肉などの体細胞を培養してドナー細胞として利用する技術。
【国内外のクローン家畜の現状】
〈受精卵クローン家畜〉
農林水産省が公表しているデータによると、日本では1990年8月に千葉県畜産総合研究センターで受精卵クローン牛が初めて出生して以来、これまでに43の機関で716頭(2008年3月31日現在)が出生しています。その内訳は次のとおりです。
・受精卵クローン牛出生頭数 716頭
・研究機関等で育成・試験中 28頭
・死産 74頭
・生後直死 34頭
・病死等 102頭
・事故死 19頭
・廃用 26頭
・試験と殺 46頭
・売却がなされた受精卵クローン牛 387頭
(食肉として処理されたことが確認された頭数 316頭)
(農家等で飼養中 8頭)
(不明 63頭)
これから、『死産・生後直死、病死』の占める割合は、約29%で、一般のホルスタイン種の5%と比べかなり高いことがわかります。また、食肉として処理されたことが確認されたものが316頭(44%)で、不明が63頭もいるというのは驚きです。
前述の「クローン牛について知っていますか? 早わかりQ&A集」によると、食肉として出荷されたのは1993年からで、牛乳が出荷されたのは1995年からとなっています。
日本では受精卵クローン牛の肉や乳を販売する場合、表示義務は無く任意としており、その場合「受精卵クローン牛」や「Cビーフ」と表示することになっています。(任意のため、表示する業者はまずいないでしょう。仮に表示しても「Cビーフ」で受精卵クローン牛由来とわかる人はほとんどいないでしょう。)
また、米国やカナダでは、受精卵クローン牛は一般農家で飼養され、これらの肉や乳を一般市場に出荷するのに規制や表示義務はありません。
〈体細胞クローン家畜〉
世界で初めて誕生した体細胞クローン家畜は、1996年に英国のロスリン研究所で誕生したヒツジ「ドリー」です。その後、米国やフランス、日本など数カ国で牛や豚などの作出に成功しています。
日本では1998年7月に石川県畜産総合センターで体細胞クローン牛が初めて出生して以来、これまでに44の機関で551頭(2008年3月31日現在)が出生しています。(体細胞クローン牛の出生は日本が世界で最初)また、牛の他に、体細胞クローンの豚が328頭、山羊が9頭出生しています。なお、体細胞クローン牛の内訳は次のとおりです。
・体細胞クローン牛出生頭数 551頭
・研究機関等で育成・試験中 86頭
・死産 78頭
・生後直死 91頭
・病死等 134頭
・事故死 8頭
・廃用 11頭
・試験と殺 143頭
これによると、『死産・生後直死、病死』の占める割合は、受精卵クローン牛よりもかなり高く約55%となっています。なお、体細胞クローン牛由来の食品は、これまで日本を含め世界中で市場に出荷されていません(2008年6月現在)が、前述したように米国食品医薬品局(FDA)は、本年(2008年)1月に食品としての販売を認可しています。
次回のブログで、クローン家畜、クローン食品の問題点について踏み込んでいきたいと思います。
【主な参考文献】
・クローン牛 解禁を諮問 読売新聞 2008.4.2
・農林水産省 クローン牛について知っていますか? 早わかりQ&A集
・農林水産技術会議/家畜クローン研究の現状について
・厚生労働科学研究費補助金(ヒトゲノム・再生医療等研究事業)
バイオテクノロジー応用食品の安全性確保及び高機能食品の開発に関する研究」
分担報告書 クローン牛の食品としての安全性
分担研究者 熊谷 進 東京大学大学院農学生命科学研究科
・安田節子のGMOコラム「体細胞クローン家畜は食卓に上るか?―厚労省が食品安全委に諮問」
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一方、日本では、厚生労働省が4月1日、体細胞クローン技術によって生まれた牛や豚とその子孫の肉や乳の食品としての安全性の評価について、内閣府の食品安全委員会に諮問しました。
この日本の動きは、米国だけでなく欧州食品安全機関(EFSA)でも安全性に問題がないと発表するなど、他の多くの国でも同様の判断がなされつつあることによるものです。そしてまた、近い将来、米国からのクローン家畜による食品の輸入問題が生じた場合に備えて、国内法を整備しておくという意味もあるようです。
(後述するように、日本でもクローン技術の研究開発は多くの研究機関で行われています。)
なお、クローン技術には、『体細胞クローン技術』の他に、『受精卵クローン技術』があります。また、一般にはほとんど知られていませんが、『受精卵クローン牛』の肉や牛乳は日本でもすでに流通しています。
【クローン技術開発の目的】
クローン技術とはどのようなもので、何を目的に研究開発されたものなのでしょうか?
クローン技術とは、遺伝的に同一な個体を作製する技術であり、次のような効果を期待して研究開発されています。
・家畜としての生産コストの低減と品質の向上
(例:少ない飼料で多くの乳量を生産する牛や肉質の良い牛を生産)
・医療分野等での同じ遺伝子を持った実験用動物の大量生産
・病気治療用医薬品(タンパク質)の大量生産
・絶滅危機にある希少動物などの保護・再生
(以上参考:農林水産省農林水産技術会議事務局・生産局「クローン牛について知っていますか? 早わかりQ&A集」)
【クローン家畜の作製方法】
クローン家畜は基本的に次のような方法で作製されます。
(1)クローンを作出したい細胞(ドナー細胞)を、未受精の卵子から核を取り除いた卵子に移植して、電気的な刺激を与えて融合させると同時に細胞分裂を誘起させる。
(2)約1週間培養した後に、別の雌畜である代理母(レシピエント)の子宮に移植・受胎させクローン個体を誕生させる。
これらの方法の中で用いるドナー細胞の種類によって、下記のように『受精卵クローン技術』と『体細胞クローン技術』に分けられます。
・受精卵クローン技術
受精後5~6日目の受精卵が16~32の細胞に分裂していく時に、それらの細胞をひとつひとつの細胞(割球)に分けて、ドナー細胞として利用する技術。
・体細胞クローン技術
クローンを作出したい家畜の皮膚や筋肉などの体細胞を培養してドナー細胞として利用する技術。
【国内外のクローン家畜の現状】
〈受精卵クローン家畜〉
農林水産省が公表しているデータによると、日本では1990年8月に千葉県畜産総合研究センターで受精卵クローン牛が初めて出生して以来、これまでに43の機関で716頭(2008年3月31日現在)が出生しています。その内訳は次のとおりです。
・受精卵クローン牛出生頭数 716頭
・研究機関等で育成・試験中 28頭
・死産 74頭
・生後直死 34頭
・病死等 102頭
・事故死 19頭
・廃用 26頭
・試験と殺 46頭
・売却がなされた受精卵クローン牛 387頭
(食肉として処理されたことが確認された頭数 316頭)
(農家等で飼養中 8頭)
(不明 63頭)
これから、『死産・生後直死、病死』の占める割合は、約29%で、一般のホルスタイン種の5%と比べかなり高いことがわかります。また、食肉として処理されたことが確認されたものが316頭(44%)で、不明が63頭もいるというのは驚きです。
前述の「クローン牛について知っていますか? 早わかりQ&A集」によると、食肉として出荷されたのは1993年からで、牛乳が出荷されたのは1995年からとなっています。
日本では受精卵クローン牛の肉や乳を販売する場合、表示義務は無く任意としており、その場合「受精卵クローン牛」や「Cビーフ」と表示することになっています。(任意のため、表示する業者はまずいないでしょう。仮に表示しても「Cビーフ」で受精卵クローン牛由来とわかる人はほとんどいないでしょう。)
また、米国やカナダでは、受精卵クローン牛は一般農家で飼養され、これらの肉や乳を一般市場に出荷するのに規制や表示義務はありません。
〈体細胞クローン家畜〉
世界で初めて誕生した体細胞クローン家畜は、1996年に英国のロスリン研究所で誕生したヒツジ「ドリー」です。その後、米国やフランス、日本など数カ国で牛や豚などの作出に成功しています。
日本では1998年7月に石川県畜産総合センターで体細胞クローン牛が初めて出生して以来、これまでに44の機関で551頭(2008年3月31日現在)が出生しています。(体細胞クローン牛の出生は日本が世界で最初)また、牛の他に、体細胞クローンの豚が328頭、山羊が9頭出生しています。なお、体細胞クローン牛の内訳は次のとおりです。
・体細胞クローン牛出生頭数 551頭
・研究機関等で育成・試験中 86頭
・死産 78頭
・生後直死 91頭
・病死等 134頭
・事故死 8頭
・廃用 11頭
・試験と殺 143頭
これによると、『死産・生後直死、病死』の占める割合は、受精卵クローン牛よりもかなり高く約55%となっています。なお、体細胞クローン牛由来の食品は、これまで日本を含め世界中で市場に出荷されていません(2008年6月現在)が、前述したように米国食品医薬品局(FDA)は、本年(2008年)1月に食品としての販売を認可しています。
次回のブログで、クローン家畜、クローン食品の問題点について踏み込んでいきたいと思います。
【主な参考文献】
・クローン牛 解禁を諮問 読売新聞 2008.4.2
・農林水産省 クローン牛について知っていますか? 早わかりQ&A集
・農林水産技術会議/家畜クローン研究の現状について
・厚生労働科学研究費補助金(ヒトゲノム・再生医療等研究事業)
バイオテクノロジー応用食品の安全性確保及び高機能食品の開発に関する研究」
分担報告書 クローン牛の食品としての安全性
分担研究者 熊谷 進 東京大学大学院農学生命科学研究科
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