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西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

ゲルスバッハ

2008-05-17 | フィールドから
・現地検討、最終日。ホテルでIさんと待ち合わせて,ゲルスバッハへ。1時間ほどアウトバーンを飛ばす。待ち合わせ場所はドイツとヨーロッパでグランプリを取った美しい村である。絵本さながらの景観を楽しみつつ,大規模架線集材跡の現場を見せてもらう。9時半,リーガー氏と合流し,現地へ。リーガーさんは子犬を連れていて,それがまた可愛い。





・ゲルスバッハは,ローム層の地質のためにかなり成長がよく,他のシュバルツバルトとは比べにくいという。リーガーさんの話で印象的だったのは,ここはいわゆる“Plenter林”ではないという言葉である。施業自体も単木択伐というより群状択伐に近いところもある。中にはPlenter林的なサイトもあるが,既に成熟した一斉林もある。施業区を見せてもらうと,その変革がよく分かる。



・中にはヨーロッパブナの純林に近いような林もあったりして,これまたなかなか面白い。ブナの林では林道側に針葉樹がびっしりと更新し,カエデ(Acer psuedoplatanus)が実生バンクを形成し,ブナ自体もあちらこちらで更新している。そうそう,ゲルスバッハがこれまでの森林と違う点のもう一つは,カエデが少し目立つことである。



・これまでの3箇所ではヨーロッパトウヒがメインで択伐が回っているという印象があったが,ここでは,“この環境に適応している”というモミをとても大事にしているのが印象に残った。ノロジカはモミの稚樹を食害するので,それがやはり大きな問題になっているようである。モミの木の大木を見せてもらいながら,そのような話を聞く。



・お昼は,リーガーさんがハンター仲間と自分達で建築したという山小屋に連れて行っていただいて,フランスパンと地元のゲルスバッハ産のハムとチーズを頂く。最後に,ゲルスバッハはサイトによって林相が異なり,それが時間とともに変化していくが,全体としては様々な齢級が途切れることはないこと,皆伐をすると造林するためのコストがかかり,しかも成林しないリスクがあることを強調されていた。



午後からはIさんの案内で,フランスの平地ナラ林を見せてもらう。ドイツからライン川を渡りフランスへ入る。なんと普通乗用車で怪しい車でなければパスポートのチェックをされることはないらしく,今回もフリーである。平地ナラ林ではナラと燃料用のシデを同時に仕立てるという施業を行っており,シデは5-7年ぐらいで薪炭用として萌芽更新で回し,ナラは大径木に仕立てようとしているらしい。



・ナラは10m間隔で植栽し,その間にシデを植え,萌芽更新によって束状になったシデがナラの樹冠下を占めることから不定芽の発生が抑えられるという話だったのだが,肝心のナラがまばらなのと形質があまりよくなかったのが気になった。おそらく,この現場ではシデの燃料材生産に重点を置いているのであろう。こうして,スイス,ドイツ,フランスと3国をまたにかけた現地調査は完了。それにしても,当方にとっては天気に恵まれたのは奇跡というしかない。

シュバルツバルトの択伐林

2008-05-16 | フィールドから
・午前中は珍しく予定がなく,のんびりと起きた。朝食後、フライブルグを散策。一人でひたすら路地へ路地へと入り込んでいく。方向音痴のくせに,知らない街を歩くのは大好きだ。相変わらず日本人率はほとんどゼロに近い。それにしても,ドイツ語だと簡単な言葉が分からないので,各種案内が全く意味が取れない。少しは勉強してから来るべきだった。市場付近で迷っていると,不思議なことにHekkiに遭遇。駅の行き先を教えてもらう。



・2時に待ち合わせていた,フライブルグ大学のSpiecker教授の車でパーマネントプロットへ。黒い森の小さな農家にとって,“生きるため”に択伐方式は必要不可欠なシステムだったことを聞かされる。初日と同じ内容であるが,小さな農家にとっての収入源確保という経済的な目的で,このシステムが自然発生的に出来上がっていたことは、改めて当方の中では新鮮であった。



・さすがに3度目になると,森自体を見る目はかなり養われてきたようだ。ここでは樹冠を形成する高さは30m前後と富良野とあまり変わらない。林道密度は50m/haとこれまた同様である。しかし,後継樹のストックは豊富である(というか,今まででも一番多いかも・・・)。森林は見事なぐらい複雑な階層構造をしており,持続性が保証されていることが一目で分かる。この付近ではヨーロッパブナを欠くが,意図的に伐採して,Abiesとトウヒの2種の世界で択伐施業を回している。ブナがあると耐陰性が強いので他を排除してしまうというのがその理由とのこと。



・教授によれば,極相林はむしろ一斉林に近い状態で,下層には後継樹を欠く構造になっており,ブナの比率が増えるという。実はほったらかしにしてしまうと,ブナ林にモミが混じるような林になるのであろう。Spiecker教授の言葉を借りれば,こうした複層林(異齢林)は人の手によって人為的に作られたものであるという言葉が印象に残った。自然保護の人たちは,この森をみて「この森は素晴らしい森だから,手をつけるのはやめるべきだ」というという話を聞いて,さもありなん,という感じである。

・個体の健全性や将来性を考える上で,樹冠長(樹高から枝下までの高さ)が大事な指標であるとされていたのが興味深かった。調査でも実際に測定をしているらしい。アイデアとしては,樹冠長が着葉量に高い相関があり,着葉量が成長と相関するという図式のようだ。着葉量を健全度の指標とする点は富良野と同じだが,定量的か,定性的か,という点が異なる。

・雑談的に、学生への指導についてのお話も伺う。教授の場合,まず50個(!)の研究テーマを用意して,その中から学生に選ばせて研究させるとのこと。こうしないと,学生が自ら考える力が育たないという考えであるが,論文の生産性は決して高くないというのが悩みのようである。大学当局から,最近,急に成果を求められるようになってきているという話を聞く。いずこも事情はよく似ているようである。

クベェ100年

2008-05-15 | フィールドから
・列車でヌーシャテルまで行き,ETH大学の名誉教授Schutz教授にピックアップしてもらう。教授はPro Silva ForestというPlenterシステムの技術研究集会のチェアマンをされており,本システムに関する概念やモデルに関する多数の論文を書き記されている。しばらく走った後,クベェの技術者のトップOberson氏と合流。Schutz教授とObserson氏はフランス語で,我々と教授は英語で会話という図式。さて,いよいよ著名なクベェ照査法の第一試験林へ入る。クベェの照査法を体系的にまとめたのがHenry Biolleyで,林内には石碑が残されている。



・昨日訪れたエーメンタールに比べてさらに木の成長がよく,思ったよりも巨木がぽつんぽつんと分布している。後継樹も豊富だが,あちらこちらに集中分布し,スタンド全体として様々なサイズクラスが準備されている。そういう点では,まさしく択伐林型の典型といえる林である。ちなみに,50年以上択伐をしていない自然林ではヨーロッパトウヒの一斉林状態になっており,なんと蓄積は約1000m3/ha。これに対し,Plentering林は約半分である500m3/haで回している。“小さな森”で維持するというのは富良野も同じ考えなのだが,もともとのポテンシャルと目標蓄積にはだいぶ開きがある。



・ちなみに,昨年伐採したという場所では,枝条は林内に放置されている。特に処理はしないが,なんら問題はないそうだ(本当か!)。それにしても,材はサイズの大きさだけでなく,極めて通直で“勝てんなあ”という印象。Obserosn氏はしきりにPlenterシステムでは,年輪の詰まり方が最初は細かく,後から大きく均等になることを強調していた。これは富良野でもお馴染みの話ではあるのだが,とにかく150年以降の成長がすさまじい。



・樹種構成の推移グラフを見ると,これまでに徐々にであるが,トウヒが減少,ヨーロッパブナが増加している。Abies albaはそれほど変わらない。これは必然でもあるが,人為的な意図も働いている。トウヒが減少したのは,耐陰性が他よりも劣る(陽樹性が強い)ことと,生態的理由でヨーロッパブナを増やしたことによるらしい。

・生態的理由といえば,クベェではごく試験的ではあるものの,一部の倒木を残すという試みを行っている。これは別に,倒木更新を期待してるわけではなく,まさに生物多様性を高めるための手法だという。伐採で邪魔にならないのか?と聞いていみると,邪魔にならないくらい小数の倒木しか残していないらしい。なるほど,倒木は実生のセーフサイトとしてはたいして機能していなかったが,1本だけ実生を見つけて嬉しくなった(倒木ふぁん,としてはね・・・)。生物多様性維持のためであるという話だが,特に詳細な研究を行っている様子でもなく,感覚的・概念的な手法のように思える。



・第一試験林ではやはりエーメンタール同様に空中湿度が高いようで,着生植物は豊富である。着生植物の量で空中湿度を定量し,成長量や更新の多寡との関係を見たら面白いんじゃないか,と妙なアイデアが湧く。実生を探しつつ,林内をずしずしと歩く。ふと殺気がしたのでズボンを見ると,昔懐かしい(?)ダニだ(全く姿が一緒に見えた)。こんなところで食いつかれてはかなわんので,早々にお引取り願う。と,足元を見ると何か黒い塊がいる!一瞬ヒルかと思ったが,幸いにして違うようだが,これは・・・。う,ナメクジではないか・・・。でかい。くろい。気がつけばあちらこちらに泰然と“いる”。まるで,アメフラシのようである。フランス語では“Limace”というらしく,あまりにも印象に残ったのでObsersonから差し出された記帳ノートに,驚いたというコメントとイラストを書いておいた。



・クベェの第二試験林へ。第一試験林は北向き斜面だが,この試験林は南向き斜面である。距離はさほど離れていないのだが,北と南では樹種構成や更新パターががらりと異なるらしい。簡単に言えば,北向きでは針葉樹(ヨーロッパトウヒ)が優占し,南向きでは広葉樹(ヨーロッパブナ)の割合が多くなる。空中湿度はと着生植物をみると,なるほどこちらでは圧倒的に少なく,乾燥していることが分かる。それにしても,ヨーロッパブナは“わんわんと”更新しており,タカ&トシ的にいえば「ダケカバか!」とでも突っ込みたくなるほどである。ちなみに,ここでもヨーロッパブナは林業樹種としてはあまり認められておらず,あくまで生態的な理由によるようだ。また,日本のように森林のシンボル的な要素はあまり感じられなかった。



・Oさんが山林に書かれていた論文でも,クベェ照査法の成功はシステムが合理的であり,地位や更新の容易さが極めてシステムに向いていたことに加え,専門の高い技術を持ったスタッフが誇りをもって仕事に当たっていることによる,と紹介されている。トレーニングコースは3年間で,みっちりと理論,様々なテクニックを学べるようになっている。日本の場合,教育と職の乖離があり,教育は実践と必ずしも合っていないことが多く,また,実践する職人は教育よりも“目で盗め”的なところが強調されすぎているのかもしれないと感じたりした。Hekkiとも議論をしたが,この問題はもう少し具体的なトレーニングコースを知ってから考えた方が良さそうである。

・Shultz氏はPlenterシステムを持続させるにあたり,サイズ構造を安定させるための均衡モデルなるものを提唱し,それが実践でも利用されている。この原著論文はAnnals of Forest Scienceに発表されているので,一度,読んでみる必要がある。それにしても,これらのグループでは研究と現場が密接にリンクしているようで,アメリカのチャールストンでの会議を思い出させた。Schultz教授とObserson氏も二人でいつまでもしゃべっており,本当に仲が良い。



・午後から牧草地に1901-19007年に植林(ヨーロッパトウヒ)をして,ランドスケープを改変したというプロットを見せてもらう。標高は1150m程度。面白いのは,全体の3分の1程度のエリアで,10×10mのモザイク状(市松模様)に,植えた場所が今では混交状態になっていることである。最初,ストローブの格子状皆伐みたいなことをここでもやったのかと思ったのだが,そうではなく,植えるときに最初からモザイクにしたという。100年も前にそんなことを考えつくとは,スイス人は先を見通す力に長けているのであろうか。

・この森林は全体として,公園のようになっており,行きかう人たちとボンジュールと挨拶を交わす。そうそう,この地域は完全なフランス語圏である。言葉の問題には政治的な問題が付きまとう。ちなみに,植栽当時から比べて,カエデとヨーロッパトネリコがかなり増えており,ブナとハンノキは減っているということである。ヌーシャテル駅で教授と別れて,ICEでフライブルグへ。途中,Oさんと色んな話をする。久しぶりに日本語で話すと,やはりストレス解消である。もう少しレベルアップしないといかんのだけれど・・・。

・フライブルグでは,フロントのお姉さんのおススメに従って地ビールを飲みに行く。お約束のソーセージとザワークラフトとともに,フルーティな味を堪能しつつ,3人で再びエーメンタールとクベェの相違点などについて議論。とにかく,二日間の行程で分かったのは,ここの人たちはほとんど全くといってよいほど,更新を問題として捉えていないことである。そりゃそうだよねえ・・・。

・ところで,Hekkiによればフィンランドの方式は単純で,サイズ構造の逆J字型の最適曲線を推定し,曲線の上の部分を収穫するという。ちなみに曲線の下の部分は収穫できないので,その部分を担保するために,少し上のサイズクラスでその部分を残しておくらしい。また,Increment(増加)の定量とそれに基づいた伐採量の算定をする上で,どういうサンプリングデザインが適切なのかというような議論にもなる。とにかくサイトに応じたIncrementを正確に測ること,そして樹種の特性(耐陰性など)をよく考慮することが大切であることが強く印象に残った。

エーメンタールの択伐システム

2008-05-14 | フィールドから
・Oさん,フィンランドのHekkiと朝食で合流。列車でBirmensdorf駅まで移動した後,スイス連邦研究所(森林・雪・環境)のZingg氏の案内で著名なエーメンタール(Emmental)の択伐林を見る。択伐の定義でしばらく話題が持ちきりなるが,ここではドイツ語が起源である“Plenter"という用語をしきりに強調していた。同行したフィンランドのHekkiはUn-even aged standsという用語を用いており,これらの用語の定義の裏には実は色んな思いが凝縮されている。ちなみに、Zingg氏は色んな言葉を話せるらしく,最初の一言が「今日はドイツ語にする?英語にする?」であった。英語は苦手といいつつ,よどみなく流暢に次から次へと説明してくれる。当方のリスニング能力では,ついていけなくなることもしばしばだったが,こうした会話のシャワーに身を慣らすことがまずは大切である。この点、二人は何の問題もなく英語を操っており、ため息ものである。



・まず,印象的だったのは,スイスのランドスケープを紹介しながら,Zingg氏がPlenterは森林だけでなく,牧草地も含めたランドスケープ全体の持続的な経営保全を意味すること,また,このシステムが農家にとって代替のない実にシンプルなシステムだと言っていたことである。つまり,Plenterシステムは自然の法則に則っており,たとえば,森林を皆伐してしまうと土壌が流出したりして,ランドスケープそのものが維持できなくなるという問題があるらしい。Hekkiによればフィンランドでも択伐による異齢林は決してメジャーではなく,あくまで皆伐一斉更新がメジャーだそうで,この辺はスイスならではの流儀とでもいうべきものだろうか。後で聞いたところによると,農家には様々な法律(一定範囲以上の皆伐はできない)などがかなり細かく指定されているらしい。そうした背景も実際には効いているのであろう。



車でドライブしながらアルプスの田舎の風景を堪能。まさにハイジが暮らしていそうな感じである。桜,ライラック,タンポポ,アブラナなど花盛りで,こちらのテンションも上らないわけにはいかない。クライマー憧れのアイガーやユングラウフも見ることができ,つかの間の観光客気分を味う。





・ところで、この周辺の樹種構成であるが,沢沿いでは普通にタモの仲間Fraxinus excelsior(ヨーロッパトネリコ)を見ることができる。少し山地に行くと,ヨーロッパトウヒ,Abies alba(Silver fir),ヨーロッパブナが卓越する。思った以上にヨーロッパトウヒが多いと思ったら,結構の部分は植林によるものであった。しかし,そうした場所でも徐々に択伐が行われるところが増えているようだ。また,カンバ類は少なかったものの,ナラやカエデ類も普通にあり,北海道と実によく似た景観をしている。

・Emmentalのリサーチプロットでは1900年初頭から2000年までのデータが事細かに記載されている。択伐の対象樹種は前述した,ヨーロッパトウヒ,Abies alba(Silver fir),ヨーロッパブナの3種である。これは全て耐陰性が高く,それこそが択伐施業をする上での重要なポイントだという。ただし,ヨーロッパブナはどちらかといえば,ほっとくと多くなってしまう樹種という言い方をしていたのが面白かった。ちょうど,Iくんのイヌブナの更新がいかに大変かということを見ていただけに,何もストレスを受ける様子もなく更新しているヨーロッパブナには恐れ入りました,という感じであった。また,興味深かったのは,モミとトウヒではモミの方が若干耐陰性が高く,しかも,それは氷河期以降の歴史を反映している(AtlanticかContinentalか)という指摘であった。

Emmentalのリサーチプロットの林床は,ササがなく(無論!),コケに覆われており,確かにトウヒが地表から更新している。こうしたことは話には聞いていたが,やはりこの目で見るというのは大事なことだ。





・Abies albaの更新も同様に起こっているのだが,実生サイズの更新と稚樹・幼樹クラスの分布は同じではないようである。とにかく進界前の前生稚樹が豊富であることは間違いないのだが,その分布は決して一様ではなく,必ずしもギャップに対応しているわけでも,地形に対応しているわけでもないのが意外だった。結局,どうしたら,稚樹や幼樹クラスがわっと一斉に更新するのかはつかめなかった。しかし,Emmentalの森林の大部分では,これら3種の更新はほとんど問題にならないほど順調であり,伐採によって光環境をコントロールするだけで,持続性をコントロールできるということは納得できた。



・リサーチプロットでは,生データに近い値だけでなく,モデルによる解析結果も示されている。データを見てみると,サイズ構造の時系列的変化(100年!)を見ても,想像以上に安定している。このサイズ構造の時系列データの示し方はすごく参考になった。北畠ら(2003)ではわずか30年で半分のプロットではトドマツのサイズ構造が崩れてきていたのだが,Emmentalでは思った以上に安定している。まさしくこれが持続性を保証する論拠にもなっているわけで,もっとサイズ構造の保続性に注意を払う必要があると感じた。

・Zingg氏によると,大事なのは対象樹種が全て耐陰性があるということであった。つまり,陽樹ではこのような択伐施業を保続させることは難しいというのである。これを北海道に置き換えてみると,ヨーロッパトウヒはエゾマツ,Abies albaはトドマツということになり,これらは耐陰性という点からすればクリアーしていると思われるが,やはり更新の難易が全く異なる点がポイントであろう。そして,エーメンタールでは、想像以上にヨーロッパトウヒの蓄積が多く,また,後継樹のストック量がとにもかくにも多かったのが印象に残った。また,この付近は地位が高いのか、全体に樹高が高いのがすごい!と素直に感じた。最大では50mを超える樹高であり,こうしたポテンシャルがこのシステムを支えている一因であるともいえるのだろう。





・もう一つ気になったのは、ヨーロッパブナの存在である。これに対応する樹種を北海道で考えても意外と見当たらない。ミズナラもかなり性格が違いそうだし,カンバは論外,シナノキはある程度当てはまりそうだが,当方からすれば、かなり性格上のイメージが異なる。そもそも,北海道の混交林は耐陰性という点で見れば(といいつつ,耐陰性をどう定義するのか,評価するのかというのはまた別の問題があるのだけれど・・・),実は耐陰性が低い樹種もその構成員として重要な役割を果たしているようにも思える。とすれば、Zingg氏の意見が正しければ,そもそも安定した択伐を続けられる樹種構成になっている場所、とそうでない場所があり,それを峻別する必要があるのかもしれないという印象ももった。



・色々と示唆に富んだ体験をしているはずで、考えるべきことはたくさんありそうなのだけれど,思考の整理が全く追いついていない。とりあえず、印象が鮮烈なうちに書き記した(書き散らかした?)という感じで、せっかく読んでいただいた皆さんには分かりにくかったりするかもしれません・・・(すみません)。ただ,自然の理を模倣するのが天然林施業の理であるとすれば,現在の様々なトライアルが本当に模倣となっているのかどうか,もう一度,原点に立ち返って考えなければならないという思いが強くなった旅であった。気が付くと97枚もの写真を撮影していた。明日はまたもや有名なクベェの照査法試験林、想いは尽きない・・・。

フィールド・リハビリ

2008-05-07 | フィールドから
・秩父へ。Iくんの調査プロットを見せてもらいに行く。西武秩父から事務所まで歩いていける距離だということを実は知らなかったので、間抜けな電話をしてしまった。しかし、現場までは1時間半ほどかかる。Sさんの運転で調査地まで運んでもらい、現地に落としてもらう。3時半に迎えに来てもらうことにして、半日、フィールドで過ごす。



・この付近の天然林では、イヌブナ、ブナ、ツガの3種が優占している。イヌブナは萌芽するので多幹状になっているのに対して、ブナは単幹である。



・ツガも富良野におけるアカエゾ的な風貌を持っており(樹肌の印象だけだけど・・・)、これまたかっちょいい樹種である。



・この付近では下草がほとんどなく、たまにスズタケの集団が出てくると、むしろ珍しいという印象。ここまで下草がないと、もっとビシバシと樹木の更新が起こりそうなものだが、ブナ、イヌブナともに非常に稚樹密度は低く、ツガはもっと少ない。富良野のトドマツからすると、もっと出ていても良さそうなものなんだが、ここまで少ないのは不思議なくらいだ(たまにあるツガ稚樹は傘型樹形をしているので、それなりに”待つ”ことができるみたいだが・・・)。



・尾根沿いにはシカが食べないためか、アセビが繁茂している。現在、筒状の小型の花をびっしりとつけている。



・林床は思ったよりも乾燥している。倒木も北海道とは異なり、まるでセーフサイトにはならないようである。



・北海道から考えると信じられないくらいの傾斜で、当方はIくんの調査地を撹乱しないように歩くだけで精一杯である。野帳をつけながら、ただただ秩父の天然林の木漏れ日を味わう。この季節は蚊もおらず、日差しも柔らかく、ぼーっとしているだけで実に気分がよい。



・帰り際、富良野と同じセットの、ブナ産地試験地を見せてもらう。地形が平らではないので(当たり前だけど)、均質とはとてもいえない条件である。それにもかかわらず、フェノロジカルな産地順位は富良野と良く似ているようだ。右の北海道産が完全に開芽しているのに対し、左の九州産はほとんど開芽していない。



・葉のサイズもこの通りで、見事に形質は遺伝的に支配されている。芽鱗痕の残り方も同様で、実に興味深い。それにしても、たまにはフィールドにどっぷりと浸からないとダメだ。色々と発見があったような気がするのだが、体が反応するまでにかなりの時間が必要である。

若葉の頃

2008-04-21 | フィールドから
・午後から学生実習が行われるということで、概要説明の準備。こういう機会でもないと、なかなか沿革とかを覚えることができないわけで・・・。パワーポイントで資料を作成するも、改めて各所の特色を一言で語ろうとすると案外難しい。研究室も横断的になっているので、その辺りも整理しないと。2時ごろ、実習にぽつりぽつりと集まってきた学生を相手に、演習林と当試験地の概要説明。パワーポイントはもう少し改良が必要だが、やはりあった方が説明しやすい。



・20分ほどで説明終了。畑には技術スタッフが待ち構えており、既に準備万端である。学生たちは、技術スタッフ指導のもと、1時間半ほど畑と戯れる。本日は種蒔きと床替えということで、これも当試験地の歴史として刻まれていく。4時過ぎに無事終了。今日は寒くもなく、暑くもなく、風もなく・・・、絶好の日和だっただけに、のんびりした雰囲気が漂っている。

・実習終了後、試験地の半周ほど案内するのについていく。当方は今日は勉強するだけと思って(大人しくして)いたのだが、つい余計な説明をしてしまう。と、マツの種子ができるのは受精してから2年かかるという話をしたら、学生からどうしてそんなに長いのか(長くてなんかメリットがあるのか?)、という質問。

・こうした”素朴な”にあたふたするのは今に始まったことではない。マツ類の受精遅延については、色々と細かな研究例もあるようだが、どうしてかといわれると難しそうである(単に原始的だからか・・・?)。”何で?”という質問は案外深いことが多いわけだが、これも盲点であった。

・ひとしきり案内した後、それにしても、試験地内の樹木の名前自体を自分がちゃんと分かっていない、ということに改めて気づいたので、実習終了後、Sさんに低木類の樹種名を教えてもらう。どんどん進むといつの間にか20種くらいになる。最近は、言われた端からどんどん忘れてしまうので、デジカメで撮影し、忘れないうちに名前をメモする。



・印象に残った樹木をいくつか・・・。ニガキの新葉をいわれるがままに口に入れて噛んでみたら、本当に苦かった(これは鮮烈であった!)。エノキ、エゴノキ、ムクノキの見分けがかなりあやしい。常緑低木も怪しいのだが、シロダモだけは新芽が(枯れ下がっているんじゃないか?)というくらい、だらんと垂れ下がるので、この時期だけは分かりそうである。


冬眠からの目覚め

2008-03-17 | フィールドから
・65・66林班の現地検討会。平沢湿地林まわりである。平らだが、5km近くのロング・ウォークである。家を出るときには雨が降っていたので、カッパをチョイス。全身オレンジになってしまった。慌てて準備したせいか、肝心のデジカメを忘れてしまったので、本日は写真なしのフィールド報告である。

・しばらく造林地や前択伐林を見た後、いよいよ湿地林へ。K林長いわく、少しの標高差で林相ががらりと変わる。いわゆるヤチダモーハシドイ群集である。植生学的な記載も加藤亮介が1952年(だったっけ?)に行って以来、まとまった仕事が行われていないと思われるのだが、記載だけでも重要な仕事がいくつもありそうだ。

・しばらく湿地林を進むと、どでかい足跡。深く沈みこんでいることからもその巨大さが分かる。ご存知、ヒグマである。この暖かさでついに冬眠から目覚めましたか・・・。当方も、いい加減に冬眠から覚めて、論文受理の知らせを聞きたいところである。

・湿地林の取り扱いについての議論。これだけ特異な森林タイプでありながら、保存林は固定標準地の2.25haしか設定されていないので、せめてその周りも保存林に設定しようという意見を述べる。そのほか、林相区分の考え方などについても色んな意見が出て、まとまらないうちに12時を過ぎる。空腹のためか、皆、いいアイデアが出なくなったところで、いったん休憩で(?)昼食。

・その後、林班が変わって、さらに湿地林を進む。66林班の固定標準地の周りはさらにイイ(特にハンノキ大径木!)。これが春になるとエゾノリュウキンカが咲き乱れて、これまたえもいわれぬ雰囲気になるのである。保存林もある程度の面積で確保されて、当方としては希望通りであった。さらに、わがまま(?)なことに、固定標準地も拡大してもらえることになった。こうなると、平沢湿地林をフィールドにした論文をきちんと出さないといかん・・・よねえ。

・不思議なもので、部屋に戻ると、唯一、平沢湿地林を題材にしたエゾノウワミズザクラの著者校正が届いている。なんと、タイムリーなのであろうか・・・。北方林業の4月号に掲載されるそうである。

失敗は成功のもと

2008-03-04 | フィールドから
・造林と再生林の検討会参加。74林班では業者による伐採と収穫が行われている。あまり離れていないところで伐倒されるとちょっと怖い。ウダイカンバの50年生の造林地では,当地では珍しくきちんとした“森林”になっている。ウダイカンバは優良広葉樹ということでずいぶん植えられたようだが,ことごとく造林に失敗している。不思議なもので,シラカバとダケカンバは植えれば成林するのだが,ウダイカンバだけはいつの間にか消滅していることが多い。

・この試験地では,何度も補植したり,ウサギ害を減らすためにフェンスを張ったりとかなり手をかけたらしい。林学会などでも造林の失敗事例が論文になることが極めて少ないが,実はどうやったら失敗したかを明らかにしておくことは極めて重要である。成功と失敗の鍵を見極められると,ウダイカンバの育種への道も開けてくるのだが・・・。

・再生林のウダイカンバは、どの個体もよく雄花が着いている。今年のカバは豊作である。花粉症の人々には受難の年となりそうだが,今年度に地がき予定の75林班では圧倒的な更新が期待できそうで楽しみである。ところで,先の50年生の造林地ではほとんどの個体が雄花を着けているものの,個体によって雄花の着花量に相当のバラツキがある。そう考えると、ウダイカンバはおそらく30年生ぐらいから着花が始まり,50年だと個体のバラツキが大きいままで,100年生くらいになると豊作時にはいずれも大量の雄花を着けるというプロセスになるのであろう。

・ところで,再生林の中には,個体密度が仕立て本数であるha当たり30本近くまで減っているところが散見される。こうした仕立て本数に近くなった林分をどのように計画的に伐採,あるいは管理していくかというのが今後の課題となりそうである。小面積皆伐+地がきによる側方天然下種更新(焼松峠方式)で少しずつ若返りを図るというのも一案(一興?)ではあると思うのだが,いずれにしても、そろそろ展望を立てる時期になっているのかも。

・予定があった当方は途中でみんなと別れて車に戻ることになっていたのだが,一人になると行き先が合っているのかどうか急に不安になる。なにやら気配がすると思ったら、雌じかである。”ぴゃっ”という警戒音を立てられる。しかし、これだけ雪が溶けてくると,クマも出てきそうな気がして不安になるねえ・・・。と,モモンガがヨーロッパトウヒの芽をかじっている痕を発見。ウサギの足跡も縦横無尽で,野生動物の密度の高さを実感する。

体感気温

2008-02-27 | フィールドから
・直営生産チームに協力したもらい、アカエゾマツ湿地林(上と下)の樹高、樹冠幅などの調査に行く。午前中は我々だけで調査し、お昼時にKさん、Iくんと合流するという計画である。今回は平らな湿地林だけにあっという間に終わるのではないかと思われたが、なんと昨日は行けた前山ゲートまでの車道が雪の吹き溜まりによって通行不能になっている!

・麓郷方面はさえぎるものがないせいか、雪は吹き抜ける風にただただ吹き寄せられてホワイトアウト状態である。吹きすさぶ風に目が痛い。たまたま一緒になったミズナラ調査隊と顔を見合わせると、「ほんとに今日やるの?」的な視線が交錯しているような・・・。とりあえず、無理やりジープでモービル設置場所まで取りに行き、車は入り口まで戻して再びモービルで調査地まで行くことになった。ということで、前山下湿地についたのは既に10時半ごろである。

・この湿地林を冬に訪れるのはおそらく初めてであるが、相変わらず、太古の風情をかもし出している。原始の森とでもいいたくなるねえ・・・。



・湿地につくとそれほど風も気にならなくなる。確かに、樹形は他のサイトとは違うように見えるが、これを樹高や樹冠幅はうまく表現できるのであろうか・・・。時折、強い風が吹くと、樹木に吹き寄せられた雪がふわっと舞い上がり、幻想的な風景になる。



・お昼時に合流してみんなで上湿地調査をしていただいている間に、当方とKさんと二人で11林班までの道をあらかじめ踏んでおくためのモービル往復。新雪をモービルで運転するのは難しい反面、慣れてくると気持ちいい・・・かも。思った以上にふきだまっていて、トラバース的な走行をせざるを得ない場面もあったが、そこは研修の成果、なんとか”はまらず、とまらず”走りぬけることができた。




・モービル往復を終えて戻ると、既に調査は完了している。改めて上と下を比べると、林分全体の活力(健全度?)みたいなものがだいぶ違うようだ。下ではかなり更新もしているようだが、上ではほとんど認められないし・・・。

・次のプロットの蓄積調査を終えると既に3時半過ぎである。寒い中、ご協力いただいた皆さん、お疲れ様でした。しかし、今日の体感気温の低さはただものではなかった。8時半ごろから子供を寝かしつけると同時に、そのまま就寝となってしまった。

隠れテーマ

2008-02-26 | フィールドから
・庁舎前のヤチダモ大木(雌)は毎年かなりの種子をつける。現在、種子散布時期のようで種子がさかんに落ちている。何気なく眺めていると、枝先に小鳥が群がっている。よく見ていると、種子をつついているようだ。ヤチダモ種子を鳥が食するというのは初めて見た。Mくん、Fくん、Oさんたちと双眼鏡などで調べるうちに、その鳥の名前は「ウソ」であることが分かった。それだけ餌に困っているということであろうか・・・。



・13・14林班の検討会。途中までは車でポイントに寄りながらの検討。楽でいい反面、面倒だからとスキーをはかずに済まそうとすると、どうしても道からプロットを眺めることになる。思った以上に、林内の様子や穴の感じなどがよく分からないというデメリットもあるわけで・・・。



・倒木更新によって成立した一列の群。これを写真に撮ろうといつも思うのだが、なぜかうまく感じがでないんだよねえ・・・。

・この辺りは標高650mから700m程度の平らな場所であるが、エゾマツ、トドマツ、ダケカンバを主とする疎林が続く。風害を受ける前は、全然違う林相だったんだろう。ただ歩くには楽しいところだが、「更新が悪く、本数が少ない」という取り扱いの難しい森林が続く。

・その上、”湿地がかっている”上に粘土質という、地拵えも難しい場所も多いらしい。最終まとめで、自分なりの意見を述べるがうまく説明しきれずに沈没。その後、ぐるりと議論が回った後で、ベテラン職員のOさんが同じ内容のことを言うと、不思議なことに、なぜかみんな納得したようである。

・時期尚早だったのか、経験の違いか・・。言葉を生業としている当方にとっては情けない限りだが、少し引いたところから眺めると、これはなかなか面白い光景でもある。同じ内容でも人によって、受け入れられるどうかが異なるか否か、というのは司馬遼太郎が名著「竜馬がゆく」を書き綴る中での隠れテーマでもあり、当方にとっても興味の尽きないテーマである。