
「ウクレレの神様」ことオータサン
が演奏会で弾いているウクレレはこの写真にあるマーチンのタイプ3(3M)がほとんどです。
しかし、オータサンはこれまで数多くのブランドのウクレレを弾いてきて、現在でもレコーディングのときは曲にあわせて異なるウクレレを使い分けたりもしています。
さらにはたくさんのメーカーから持ち込まれるウクレレにコメントを出すなどして弾き易く、音の良いウクレレの実現にも協力してきました。
その代表例がカマカのHB-2D(オータサン・モデル)というコンサート形ウクレレです。
今から50年近い昔の1965年にオータサンが当時カマカ社長であったサミュエル・カマカに協力してこのモデルを実現させました。
このモデルのボディー形状はいわゆる「釣鐘形:ベル・シェイプ」と呼ばれる独特のもので、遠くからでも一見してわかる形状になっています。
逆にヘッドストックの形状はほかのカマカ・コンサート・シリーズHF-2**の特長である片流れではなくもっとも一般的なマーチン形?になっています。
上記の写真で上は以前の製品でチューナー(弦巻き)としてシャーラー製を使っていますが、これは極めて調整がしにくいために評判が悪かったので、最近の製品(下の写真)では最新のゴトー製遊星ギヤタイプのチューナーに変更され、さらにローG弦が標準仕様として張られています。これは主としてローGを使うオータサンに合わせたものでしょう。
その後もたくさんの「オータサン・モデル」が登場しました。たとえばフジゲン、レイラニ、ロプリンジ(下の写真)等がそれです。
このロプリンジの製作者オーギー・ロプリンジはギター製作の名工として有名でしたが、ウクレレの分野に進出するに際してウクレレ製作者のヨシ・ハザマ(私たちはレイラニさん、と呼んでいます)からウクレレつくりについてのノウハウを伝授されたことで知られています。
私がレイラニさんに会ったのはもう15年以上まえの1998年ごろのことで、オータサンに紹介されたのが最初でした。
彼の作品であるレイラニ・ウクレレを初めて弾いたときの感動は今でも覚えています。決して大音量ではないのですが、今まで聴いたことのない透明な音だったのです。オータサンもその音にほれ込んだようで、いろいろと細かい注文をつけていたのを思い出します。レイラニさんはオータサンからコメントを貰うたびにウクレレを改良して行き、一台のウクレレがレイラニさんの工房のあるフロリダとハワイの間を何度も「飛んでいた」ようです。
最終的にオータサンのお眼鏡に適った一台をオータサンはレコーディングなどで使っていましたが、あくまでもメインとしては3Mを使っているのでこの優れた楽器をもっと頻繁に弾いてくれるかたにお譲りしたいという話が舞い込みました。
このオファーに対し、真っ先に手を挙げたのが我らがshu-sanでした。
shu-sanはこのウクレレを「神様ウクレレ」と呼び、
いろいろな場所での演奏に使うとともに彼のアルバム「Ukulele Smile」の収録にももちろんこのウクレレを使いました。
それ以降、オータサンはshu-sanのことを「Mr.Smily」と呼んでいますが・・・・
一方、レイラニさんは「ジャカソロ名人」のカマテツさんと組んでジャカソロ専用ウクレレの「レイラニJSモデル」を開発しました。
JSモデルは独特のフレット線配置をはじめユニークなアイディアを盛り込んだ製品でしたが、「ジャカソロ」というひとつの分野だけに焦点を当てたこのモデルの開発は大変ユニークなものでした。
あるときNUAの友人であるRYUさんから相談を持ちかけられました。
彼はすでにレイラニのテナーを持っていたのですが、どうしてもカッタウェイのテナーが欲しいのでレイラニさんに取り次いでもらえないか、と言うことだったのです。
カッタウェイを作るに当たって、ボディーの容積が減少することがどのように共鳴に影響するかの実験が必要ですし、さらには組み立てのためのモールド(型枠)を新規に作成する必要もあるので簡単には踏み切れないのですがレイラニさんは快諾され、数ヶ月後にはRYUさん向けとしてすばらしい製品が完成いたしました。
このRYUさんのリクエストがきっかけでカッタウェイのテナーの注文がたくさん来るようになり、このウクレレはレイラニの代表的なモデルにまで成長いたしました。さらにカッタウェイ・テナーの新シリーズとして誕生したカーリー・メイプルに赤・青・緑・黄などの染色をしたウクレレもプロの演奏家たちからの注目を集めました。
いっぽう、言いだしっぺのRYUさんご自身も複数台(数はヒミツ・・・笑)のレイラニ・カッタウェイ・テナー所有者となりました。
ギターのブランドPRSに「プライベート・ストック」という製品分野があります。
これはオウナーのポール・リード・スミス
が大切に保存している極上の材料を使い、値段の制限を設けないで顧客の希望する楽器を製作するもので、世の中に二つと無い最高の楽器を提供しているのです。
レイラニさんも長年集めてきた最高の素材を使っての「プライベート・ストック」をこのカッタウェイ・テナーの形状で製作することとなりました。2005年ごろから体調を崩して入退院を繰り返していたレイラニさんは、ご自分の作業の集大成としてこの「プライベート・ストック」にそれまでの実績をすべて盛り込み、レイラニ・ウクレレを愛する人々の手に遺しておきたいと考えたのではないでしょうか。私のところにもそのうちの1台が届きました。
ふつう、ネック材料はマホガニーやサペレを2~3枚積み重ねて使うのですが、このモデルはコア材それもカーリーの強くかかった材料を積み重ねなし、すなわちワンピースのまま贅沢に使用しています。さらにはレイラニの特長でもあるネック中心部に数枚のあわせ板を埋め込んでネックの反りとねじれを防ぐ構造も採用しています。
よくネック内部にカーボンロッドを埋め込んで「反りやねじれに強い」と謳った製品がありますが、ギターのようにトラス・ロッドをネジで調節することで反りをコントロールする構造ではないので効果は期待できないと思っています。
ボディー内部のレーベルです。
このレーベルに#3とありますが当時のレイラニさんの体調から考えると、おそらくこの世の中にプライベート・ストックのレイラニ・テナーはせいぜい10台程度しか存在していないのではないでしょうか。そしてその10台ほどのプライベート・ストックがどなたの手に渡り、それらがどのような仕様で作られたのかは今となっては全く分かりません。(ちなみにRYUさんには#7が届いたとのことでしたが。)
私が2010年4月にハワイへ移住するに当たってこのプライベート・ストックを含めた6台のレイラニ・ウクレレをNUAの友人のNAOMI&TAKAご夫妻にしばらくの間預かっていただきました。お二人は所有しておられるNYAOPARAというスペースに「レイラニ・ミュージアム」として長期間展示してくださいました。
レイラニさんは2007年の8月30日にまだ50歳台の若さで他界されましたので、この「ミュージアム」は彼の作品に少しでも触れていただけるようにと設置させていただきましたが、設置期間中にはNYAOPARAを訪問されたウクレレ愛好家の皆様に存分に触れていただけたと思っております。
上記ケースの上段左はオータサン愛用であったスパニッシュ・シダー使用のスタンダードを私が譲っていただいたもので、オータサンがこの楽器を手にしている2枚の写真の前においてあります。
上段右はJSモデルのコンサート試作品、中段左はJSのスタンダードでいずれもマホガニー製です。
中段右はレイラニさんの遺作4台のうちの1台で、彼の他界後奥さんのYumikoさんが仕上げて送ってくださいました。もともとご夫婦で製作されていましたので完璧な仕上がりでした。
下段左は私が最初にオーダーしたオールコアのコンサート、そして右は上でご紹介したプライベートストックのカッタウェイ・テナーです。
・・・・・と、ここまでが「前振り」で、いつものように長ったらしい内容でごめんなさい。
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私の働いているワイキキの「ウクレレ・プアプア」ではミニチュアのギターを販売しており、コンスタントに売れています。
そして当然のことながら本来はウクレレ専門店ですので「ウクレレのミニチュアが欲しい」というお客さんも結構たくさんおいでになるのですが、現在の仕入先では扱っていないのです。
そこで今回はプアプア・オリジナル設計によるミニ・ウクレレを「数量限定」で試作し、お客さんの反応を見ることといたしました。
試作品のベースとしては上記の「カッタウェイ・テナー・プライベート・ストック」を選びました。現在販売しているミニ・ギターのスケール(縮尺)は実物の1/4ですがウクレレを同じ比率にすると小さくなりすぎるので試作品では実物の1/3というスケールに設定しました。これでもミニ・ギターよりは多少小さくなりますが・・・
ベースとなるプライベート・ストック・ウクレレの写真の上に実測した寸法を書き入れました。
ミニ・ウクレレの完成品はこの寸法の1/3になるわけです。
そして試作品が届きました。
思いのほか小さいですね。でも、スケール(縮尺)が3分の1ということは体積では27分の1になるわけですからこんなものかもしれませんね。
さすがにシェルのインレイやネック裏の合わせ板はみな白線で処理されていてそれなりのイメージを出していましたが、全体の色が明るすぎましたね。特にカーリーの掛かっているコアらしい暗さがなかったのはちょっと残念でした。
細かくいえばボディーが「ゆがんでいる」ことと「サドルが極端に傾いている」という点も気になりますが・・・・・
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レイラニさんの没後奥様ひとりでは製作続行が困難であることから「レイラニ」のブランドやロゴは人手にわたり、現在でも「レイラニ・ウクレレ」の製造・販売が続けられています。
たしかにボディー内部のレーベルのデザインは以前と同じようですが、あの特徴のあったヘッドストック形状は姿を消し、最もポピュラーなスタイルになってしまいました。そして大きく違うのはソリッド・ウッドではありますがソフトバッグつきで2万円程度という「普及型ウクレレ」になってしまったことでしょう。ちょうどオーディオ界で「サンスイ」ブランドが売られてしまったことでこのブランドのもとで安物がたくさん誕生したのと似ているかもしれませんね。
へそ曲がりなので、サウンドホールは丸い希少なものに
なりました。入手当時はおとなしい鳴りでしたが、
(不満でした)
今は、綺麗に鳴っております。
ありがとうございました。
それが原因であの台湾料理店「彩華」は廃業してしまったのかも・・・・
当時レイラニさんが「直しても良い」と言ってくれたのでしのさんにも打診したのですが、そのままでOKということでしたので実現しませんでしたね。
ちょっと今現在の姿が哀しいですけど。自分もそんな愛されるウクレレが作れるよう頑張ります!
「レイラニ・ミュージアム」はすこしでもこの楽器に触れていただきたいと開設したものですが現在は閉鎖中です。
ミニチュアもその一環でこれを手ががりにレイラニという楽器に興味を持ってくれるかたが現れれば亡くなったレイラニさんも報われるのではないでしょうか。
Honua Ukuleleも名器になる素質を持っていると思いますので、さらなる研鑽に打ち込んでくださいね。
もっとも葬式費用がないのでその時には家族が放出するかもしれませんが私のコントロールは効きませんので・・・・
友人が注文したレイラニの音が素晴らしくて私もほしくなって注文したりしているうちに7台も集まってしまいました(汗)。
とくにレイラニさんが塗装下にサインをしてくれたものはこすってもサインが消えないので私の宝物となっています。