もと配達員がすべてを語った。
商品(新聞)の上にどっかり腰を下ろしても平気な顔する配達員とは――いった
いどんな神経しているんだ?こう思ったのである人の紹介でかつての店員という
人にあっていろいろと話を聞くことができた。「店の玄関前に出された新聞の梱
包はちょうど腰掛けたくなるような高さよ。誰からともなく悪気もなく坐りこん
でそこに雑談の華が咲くんだよ。各自出発準備がすっかりすんで時間的に余裕が
あると必ず仲間同士近くの自販機で缶コーヒを買ってきて車座になって世間話で
盛り上がる。この時がとても楽しいひとときですよ。尻にしいているものが大切
な商品と考える人は少い。もし注意でもしようものなら新聞くらいでガタガタい
うなべつに命にかかわる問題でもない。そう目くじら立てるなよ、第一どこへそ
の新聞がいったか誰も知りはしないよと反撃される。場の空気がたちまちまずく
なるからだれもいわないよ、よけいなことは。」
「なるほど仰るとおりだ。きれいなものもそうでないものも配ってしまえばだれ
ひとりどこにいったかわかりゃしなわな。だけど何故玄関にたくさん残していく
んだ」
「いっぺんにバイクに積むには多すぎるからさ。チラシを組み込んだ朝刊はかなり
の厚みと重さがあるので2梱包(120部)くらいは配達区域に転送してもらうんだ。
そのほかに駅売りやコンビニやスーパー売りがある。それらも転送分といっしょに
適宜配送される。だから玄関前にはまいにちちょっとした荷物の山ができる。」
「コンビニ売りの新聞もやってるんだ。それじゃあまずいね新聞の上に坐ったりあ
まり邪険にあつかったりしたら」
「ハイエースのエンジンを暖めるのに何分もエンジンをかけっぱなしにする。その
排気口からでる煙がこれまた裸の新聞の山にずっとかかってるが、それを気にす
るそぶりもしないから大した大雑把な店だとあきれて辟易した。」
「注意したら大変なことになる?」
「その気にもならない。管理というありまえのことがあることがわかってない。」
「その配送車の運転手が?」
「そこの新聞販売店の若い所長だよ。ほとんど業界の経験もないまま、親にいわ
れるまま東京からこの地へ来たらしい。人間が未熟ではどんな企業にも管理責任
があるということ自体理解できない。管理には、商品管理、労務管理、職場の環
境管理、衛生管理、そのほかにも沢山の管理責任がある。」
「へぇ、地元の二宮ではないんだ、その人は?でもだれが店主だろうと、品
質管理はぜったいだよ」
「つい先頃までは野口新聞店といっていたが、いつのまにか店主が変わってしま
った。そこのところの事情はわたしがよく知っているから、今度またはなしてあ
げますよ。ちょっと急ぎの用事があるので今日のところはこれくらいしてくれ」
こうして話のつづきは次の機会に窺うことしてわれわれはその日はわかれた。