この映画、ものすごく評判悪くてラジー賞に何部門もノミネートされたみたい。
で、さほど期待せずに観たけど、悪くないじゃない。かなり史実に忠実に作られてる気がするし、そんなボロクソ言われるほどひどい映画じゃないよ。
かなりはっきりとした同性愛描写があるから、そこが酷評された原因みたい。映画の出来そのものよりも。アテネの弁護士グループには公開中止を求めれ、アメリカでも叩かれ。同性愛描写が気に入らないから、その他の部分にもいろいろ難癖付けられてたって可能性は大いにある。
アレクサンドロスがバイセクシャルだったのは史実で、あの映画はそれに忠実だっただけなんだけどね。そんなことで批判するのは全くお門違い。
それに、同性愛ってそこまで不名誉なこと? ものすごい差別意識だな。宗教的な問題も絡んでいるんだろうけど。
同性愛が盛んだった古代ギリシアや日本の戦国時代を舞台にした作品でも、特に映像作品ではヘテロセクシャルしか存在しなかったように描くのが一般的だ。こういうのって、差別的な上に歴史修正主義的だと思う。だから、その点をごまかさずにはっきり描いたことを私は評価する。
この映画に文句がないかといえば、それはある。例えば、親父の暗殺シーンを後ろの方に持ってきたこととか。ナレーションベースで親父が死んで、アレクサンドロスがいきなり王様になってしまったことで唐突感が出て、観客置いてけぼり。暗殺シーンは後でアレクサンドロスの回想という形でちゃんと描かれるんだけど、この手法が効果を発揮しているかといえばあんまりそうでもないような。素直に時系列通りでよかったんじゃないかな。
キャストにも不満はある。主役のアレクサンドロス大王がなんであんな冴えないおっさんお兄さんなんだ。子役は可愛らしかったのに。母親役のアンジェリーナ・ジョリーと親子に見えないよ。
アレクサンドロスは美男子だったと言われていたはずだけどな。まあこの手の話は当然ある程度美化されてるから、実際はあんなもんだったかもね。
この映画のアレクサンドロスはいつも泣きそうな顔をしていて、なんだか情けない感じ。カリスマ性はない。阿刀田高の小説「獅子王アレクサンドロス」に描かれたアレクサンドロスはもっと自信に満ちたキャラクターだったな。こんなんでよくみんながついてくるな、と思わなくもないけど、この映画のアレクサンドロスのほうが阿刀田高のアレクサンドロスよりも人間臭くて好き(ただ、もう少しイケメンだったらなおよかった)。
どちらのアレクサンドロスも、ギリシアとアジアの融和を望んでいるが部下たちに理解されないこと、少しずつ支持を失っていくことは共通している。この辺は記録通りなのかも。
情けなくてかっこ悪いアレクサンドロスでもいい、と思えるのは、そもそも自分がアレクサンドロスのことを英雄だなんて思っていないからかもしれない。アレクサンドロスはアジアにとっては残酷な侵略者だ。早く死んでくれて良かったと正直思う。こんな映画を観といて言うのもアレだけど、侵略者を英雄扱いして祭り上げるのは好きじゃない。今とは全く価値観の違う時代に生きていた人だってことは十分承知してるけど、それでも。