テレビ等で見る殺人等の犯罪捜査では、一般的にはその殺人が誰の利益となるかという観点から行われている。例え恨みからの殺人であっても、殺すことによって恨みを晴らすという利益が動機となる。
空き巣に入って家人に見つかり、殺してしまう場合も、こそ泥自身が家人に捕まらずに無事逃げるためという利益を動機とすることになる。
今問題となっている豊洲市場の埋土設計に反して4つの主要建物の地下部分を非公表で埋土せずに地下室を設けたことの利益は誰に帰すのだろうか、各マスコミ記事を参考にして考えてみることにした。
建物維持の便宜性を考えてのことなら、豊洲市場自体の利益のためとなる。あるいは市場入居者となる各業者の利益を考えてことなのか、建設費の関係からの都の利益からなのか、この利益は都税を支払っている都民の利益ともなるが、あるいは都の役人たちの自分たちの利益を考えてやったことなのか、あるいは建設を請け負ったゼネコンの利益のためなのか色々と疑うことができる。
老朽化した築地市場の移転先となった東京都江東区豊洲六丁目の豊洲市場は東京ガスの工場があった跡地で、ベンゼンなどの有害物質による土壌や地下水の汚染が確認されたことから都は平2011年8月から約850億円かけて土壌汚染対策を実施することにした。
結果的に専門家会議の提言を受け、約40ヘクタールの敷地全体の表土を約2メートル掘削して汚染土を除去した上で、左掲の画像のように新しい土を搬入して2メートル分を盛土して戻し、更にその上に高さ2.5メートルの土を盛って、元々の地表よりも2.5メートル高くする設計となった。
合計4.5メートル分の盛り土となる。
ところが主要4建物の地下部分は実際には埋土が行われず、地下室が設けられていた。しかもそのことは一部の関係者のみが承知していたことで、公には秘密にされていた。
秘密にされていたこと自体が地下室建設によって手に入れる利益は手にすべきではない対象者ではなかったか疑わなければならない。
手にすべきではない対象者の利益とは不正な利益となる。
このことは毎日新聞が伝えている都の声からも理解できる。
「3棟の下が空間になっているのは事実。ホームページで公表している図面は盛り土の上に建物があるようになっているが、誤解を招く図面だった」
さも盛土して、その上に建物を建てたかのように見せかけていたのだから、誤解の招きようはない。実際の施工と図面が異なる以上、ゴマカシていたに過ぎない。
ゴマカシて手にする利益は正当な利益であるはずはない。
青果棟の地下室の床の一部はコンクリートで覆わずに砕石を敷設(ふせつ)したのみの状態となっていて、地下水が10センチから15センチ程度湧いた状態になっていた。
その後、地下水は青果棟だけではなく、水産卸売場棟と水産仲卸売場棟、さらに加工パッケージ棟でも確認された。管理施設棟のみ、地下水の漏出を見つけることはできなかったとしている。
地下水から共産党や民進党、公明党等の調査によって基準以下のヒ素等で汚染されていることが判明した。
合計4.5メートルの埋土で覆っていないのだから、地下室の床一面を分厚い防水コンクリートで密閉状態にしない以上、地下水は湧いてくるのは当然であるが、そのことを計算に入れていなかったのだろうか。
地下室を設けた理由を都は配管設置のための空間だと説明していた。
だが、合計で4.5メートルの高さとなる埋土をしないままだと、各建物の一階床下は埋土したと仮定した場合の地表の高さとなるものの、地下室の床下は元々の地表下2メートルを掘削して50センチ厚の砕石を敷設した上部分からとなるから、各地下室の床上から天井までの高さは4メートル前後となる。
一般的には配管は地下室天井に吊具を埋め込んで天井近くに吊る状態で設置する。高さは4メートル前後の高さなど必要ない。
但し水産卸売場棟と水産仲卸売場棟では地下室天井から2メートル以上もある長い吊具を使って人の背丈の高さに配管が敷設されているという。
万が一修理しなければならない場合、梯子や踏み台を使わずに修理できて便利な高さとなるが、配管の向こう側に行くためには背を屈めて潜る形にしないと移動できない作業の不便さ、窮屈さを与える。
天井近くに設置した配管の修理は当然、2メートルから3メートル近い高さの作業台を設けなければできないことになる。
こういった不自然さが配管設置のために地下室を設けたとする説明を納得し難くしていた。
多分、こういった疑義が各方面から出されていたからなのか、配管設置のための地下室設置だとしていた最初の説明を覆して、土壌汚染が再び見つかった場合に備えてパワーショベルが作業できる場所とする目的で設けたのだと説明を変えた。
説明を変えること自体が地下室を設けたこと自体の利益の入手者が正当な対象者であるか否かを疑わしくさせることになる。
各マスコミは配管が人の背丈の高さに設置されている地下室では重機が自由に動くためには一旦配管を外さなければならない矛盾を指摘した。
もし事実重機の移動を計算した地下室設置だったなら、配管はわざわざ吊具を長くして人の背丈程の高さに設置しないはずだ。例え修理に2メートルから3メートル近い高さの作業台を設けなければならなくても、一般的な方法で天井近くに設置しなければならなかったはずだが、そうしていない棟が存在する。
棟によって配管の仕様が異なることも、準備した設計に基づいているとは言い難く、不純な動機を感じる。
またパワーショベル作業を前提とした地下室設置は、土壌汚染の再発をも前提とした工事ということになる。
しかもパワーショベルの搬入口は建物傍の普段はコンクリート蓋をした場所で、クレーン等で地下室に吊り降ろす仕掛けだという。
土壌汚染が発見された場合、パワーショベルを地下室に降ろして土を掘削することになる。その土は当然汚染土ということになるから、そのまま埋め戻すことはできない。パワーショベルの搬入口からダンプに積んで、捨てていい場所に捨てるという手間も生じる。
なぜ分厚い防水コンクリートで地下室の床一面を覆ってしまわなかったのだろう。土壌汚染防止の4.5メートルの盛土をしない以上、それに代わる土壌汚染防止の方策を講じなければならなかったはずだが、地下室床の一部をコンクリートで覆わずに地下水が滲み出る状態にしておいた。
矛盾だらけである。
これらの矛盾を正当化している都の元局長級幹部の声を「毎日新聞」が伝えている。
(中央卸売市場が事実を公表しなかった背景について)「『パワーショベルを入れるため』と明かせば、『土壌汚染対策は万全ではないのか』という話になる。問題が広がらないようにと考えるのは、事務方特有の発想だ。
盛り土よりコストが高いとも考えられ、手抜き工事とかコスト削減目的とかではなく、真剣に検討した結果だったのではないか」――
土壌汚染対策を万全とするための4.5メートルの埋土だったはずである。それを省いて埋土に代わる地下室を設け、しかも地下室の床一部をコンクリートで覆わないままにしておいた。
設計図通りに埋土をしなかったことが露見したときの弁解の用に供するための口実にしか見えない。地下室の床一面を分厚いコンクリートで覆って土壌汚染対策を万全とした場合、設計図に反して地下室を設けたことの口実がなくなる。
このように疑った方が不満足な地下室を設けたことの整合性を見い出すことができる。
「盛り土よりコストが高いとも考えられ」と言って、地下室建設の方が盛土よりもコストが高いから、「手抜き工事とかコスト削減目的とかではない」と地下室建設の正当性を訴えているが、果たしてそうだろうか。
盛土が行われていなかった4棟の建物は以下である。
水産卸売場棟――建築面積49,000平方メートル
水産仲卸売場棟――建築面積66,000平方メートル
(うち管理施設棟4,600平方メートル)
青果棟――建築面積54,000平方メートル
「加工パッケージ棟」(5,100平方メートル)
合計174,100平方メートルとなる。
どのくらいの広さか、キロ平方メートルに直した上で東京ドームの広さと比較してみる。
174,100平方メートル=0.174平方キロメートル。
東京ドームは0,047k㎡。東京ドームの約3.7倍の広さとなる。
また174,100平方メートル✕4.5メートル=69255,000立方メートルの土が必要となるが、埋土しないことによって、これだけの土が浮く。
山土と生コンの値段の違いをネットで調べてみた。
両方共ダンプ運搬で、運ぶ距離によって値段に違いは出るが、大体のとこで山土は1立方メートル3,500円前後。生コンは1立米で18,000円前後。
69255,000立方メートル✕3,500円(1立方メートル)とすると、2423億9250万円のコストが資材だけで浮くことになる
さらに埋土にかかるコストを考えてみる。
東京ドームの約3.7倍の広さの面積を先ず何台もの重機で2メートル掘削して汚染土を取り除き、その土を何台ものダンプで搬出し、掘削できた場所から順次新しい土を何台ものダンプで搬入して4.5メートルの高さの埋土を行うが、問題は埋土した土はふわふわしていて引き締まっていないから、一定程度の盛土(一般的には30センチ)をしたら、20トン等のタイヤローラーと振動ローラー等を併用して地固めをしなければならない。
この手間とコストは相当なものであろう。
また敷地全体に一定間隔で砂杭を設けたそうだが、砂杭とは「地中に多数の穴をうがち,砂を密に充塡して設けた柱を排水路とし,軟弱な粘土層の地盤の強度を高める方法」ということだが、埋土した地盤を固めた後でないと砂杭のための穴を掘ろうとしても、掘った先から土が崩れて穴が埋まってしまう。
いわば埋土せずに地下室を設けた個所は土の搬出のみで搬入の手間も地固めの手間も砂杭の手間が省けて、もし最初の2メートルを掘削した時点で地下室の建設にかかったとしたら、2.5メートルを埋め戻してから改めて4.5メートルの地下室建設分の広さを掘削した場合のH鋼や鉄板パイル等を使った土留めの必要性もなく、単に普通の鉄筋コンクリートの擁壁建設の工法でコンクリート壁で四方を囲むだけで済むから、生コンの量も手間もそれ程かからず、全体的なコストは相当に浮くことになる。
勿論、各棟は地震対策でコンクリートパイルを何本も地中深く埋めて建物の支えとしただろうが、このコストは埋土してもしなくても行うことだから、変化はない。
都の調査に対して土壌汚染対策を担当土木部門と建設部門二人のの元幹部らの証言を9月27日付「日刊スポーツ」が伝えている。
土木部門元幹部「基礎工事のため盛り土はしなかった。その後、建築部門が埋めると思っていた」
建設部門元幹部「盛り土がないので、地下構造物を造るしかないと考えた」
記事は、〈都は、土木と建築の両部門の連携が不足した結果、地下空間を設置することになった可能性があるとみて経緯を調べている。〉と解説し、〈土壌汚染対策工事の詳細設計を受注した地質調査会社「応用地質」(千代田区)が2011年3月、敷地全体で盛り土を実施すると記載した報告書を都に提出。ただ報告書には、基礎工事のために掘削する部分は除くとも記されていた。〉と付け加えているが、土木工事にしろ建設工事にしろ、設計に基づいて行うのだから、例え埋土は「基礎工事のために掘削する部分は除く」となっていたとしても、埋土なしは基礎工事用であって、建設部門元幹部が言っているように「盛り土がないので、地下構造物を造るしかないと考えた」と言うことは決してあり得ない。
埋土してないことがなぜ地下構造物につながるのか、そう発想すること自体も奇々怪々としか言い様がない。
また、基礎工事用に4.5メートルの深さが必要とは考えることはできない。建物の支えに何本ものコンクリートパイルを土中に打ち込み、地表近くのパイルの頭を固定するためにその頭を埋め込む形で鉄筋を配した1メートル前後の厚さの基礎コンクリートを打設するだけだから、少なくとも3メートル前後は埋め戻して地固めしていなければ、パイルを打設するたびに地下水が打設の振動で浮き上がってきて、汚染水を周囲に撒き散らすことになる。
地下室を造るために最初から「基礎工事のために掘削する部分は除く」としていたとしか見ることができない。
誰を対象とした利益から地下室を設けたのかを考えるとき、最大の問題点は土壌汚染対策の盛り土が行われていなかった水産卸売場棟など主要3施設の建設工事の再入札の平均落札率が99・9%だったと「産経ニュース」が伝えていることである。
しかも各工事の入札にはそれぞれ1つの共同企業体(JV)しか参加していなかったという。
明らかに談合が疑われる。談合が誰のための利益なのか、当然、ゼネコンばかりではない、よくあることだが、官僚が、この場合都の役人ということになるが、談合に手を貸すことで、その見返りに自分たちの天下り先を確保する利益からであろう。
手を貸すことを代々受け継いで、天下りの流れを滞りなく維持する。テイク・アンド・テイクである。
談合の疑いが濃厚であること、地下室建設を隠していたこと、その事実が明らかになると、建設の最初の理由を覆して、別の理由を持ち出したこと。その理由にも様々な矛盾が存在すること。汚染土壌の再発を前提とした地下室の構造となっていること。役人たちの説明にも様々な矛盾があること。
矛盾はゴマカシによって生じる。どこにもゴマカシがなければ、その建設方法が妥当性を欠いていたとしても、構想したとおりの建設まま終わる。
様々にゴマカシが存在する以上、地下室建設が正当な利益を目的していたとは考えられないことになる。
最も疑うことのできる利益は埋土せずに地下室を造ることでコストを浮かし、浮かしたカネを都の役人が懐することだろう。役人ばかりでは露見した場合の不都合から、建設業者を巻き込むこともある。
もし埋土よりも地下室建設の方がコストがかかっているとしたら、余分な仕事を作ることで建設業者に計算外の利益(=余録)を与えて、見返りにそのお裾分けを現ナマの形で都の役人が受け取るという手もある。
いずれにしても、埋土をしないままの地下室建設は都の役人かゼネコンの利益のための建設の疑いが極めて高いと見た。
皆さんはどう考えるかである。