日本の農業従事者の平均年齢は65歳。農業従事者数は約300万人で、日本の人口の3%未満。うち米専業農家(稲作農家)は2005年に於いて全農家の69%に当たる196万戸(全農家の69%)。
その196万戸の稲作農家のために専業農家であろうと兼業農家であろうと全農家を対象に戸別補償で保護し、1キロ当たり341円の高い関税をかけて外国の安いコメから保護し、高いコメを残る1億2000万人近い国民に買わせている。
この341円の関税は793%に相当するとテレビで言っていた。
793%もの高い関税をかけないと守ることができない日本のコメとは国際標準から見て高過ぎるであって、日本農業が高価格体質となっているからなのは断るまでもないはずだ。
なぜこうも高くなったのだろう。歴代自民党が農村を選挙の票田としていたために1995年(平成7年)に廃止された食糧管理法に則って稲作農家が都市労働者と同程度の収入となるよう、政府買入価格を設定、米価を下支えしてきた伝統的政策が稲作農家の農業の集約化・大規模化を遅らせ、コストの掛かる小規模経営に甘んじさせてきた一つの要因となっていたはずだ。
《耕作放棄地の現状と課題》(農林水産省/平成20年7月1日)の記事に次のような記述がある。
平成17年 耕作放棄地面積
(総農家) ――22.3万ヘクタール
(土地持ち非農家)――16.3万ヘクタール
耕作放棄の発生要因
高齢化等により労働力が不足――地域別平均45%
生産性が低い ――12.8%
農地の受け手がいない ――11.4%
土地条件が悪い ――9.8%
離農 ――6.5%
・・・・
相続による農地の分散化 ――2.9%・・・・
「地域別平均」とは都市的農業地域・平地農業地域・中間農業地域・山間農業地域、それぞれ統計を取った合計の平均値である。
いわば高齢化等による労働力不足を主原因として耕作放棄が生じている。
2009年の高齢農業就業者の就業形態を見てみる。《高齢農業者の活動状況》(農林水産相HP)
65歳以上――6割
「自分1人で行っている」
65~69歳12.7%
70~74歳10.7%
75歳以上10.2%
「自分が中心となって行っている」
65~69歳61.1%
70~74歳54.8%
75歳以上39.8%
「自分は補助で、息子や嫁、配偶者の補助をしている」
65~69歳17.6%
70~74歳25.8%
75歳以上31.6%
全体的には後継者不足と言うよりも、後継者不在を物語っていないだろうか。
一方、稲作農家での稲作付面積はどのくらいなのだろうか。《稲作に対する戸別所得補償政策の課題》
2005年に於ける稲作農家での稲作付面積
1戸当たりの平均稲作付面積――0.87ha
0.5ha未満――57.4%
1.0ha未満――80.8%
3.0ha以上――3.4%
また、《農業の現状と課題》には次のような記述がある。
〈1960年から今日までGDPに占める農業の割合は9%から1%に減少した。一方、65歳以上の高齢農業者の比率は1割から6割へ上昇した。専業農家は34.3%から19.5%へ減少し,第2種兼業農家は32.1%から67.1%へと大きく増加した。53年まで国際価格より低かった米は800%の関税で保護されるなど国際競争力は著しく低下した。食料自給率も79%から40%に低下した。〉・・・・・
テレビで言っていたことだが、「兼業農家の割合7割のうち、農業よりも収入が多い家庭は8割」だと。
他のHPの記述だが、「数年前のデータでは稲作兼業農家年間所得は800万円」だというのがある。
10月29日(2011年)放送のNHK「週刊ニュース深読み」で出演者が次のようなフリップを示していた。
●35歳未満の若者の雇用状況
無職 ――約200万人
非正規労働者――約400万人
●2003年 高齢者の貧困率――22%
実質的な年間所得117万円未満
《非正規雇用の拡大が意味するもの》によると、「正社員の平均年収(2005年)454万円に対してパートタイム労働者111万円、派遣社員204万円、契約社員・嘱託250万円」となっている。
一昨日だったか、当ブログに書いたが、10月30日日曜日の朝日テレビ「報道ステーションSUNDAY」でのTPP参加派古賀茂明氏の発言。
古賀茂明元改革派経産官僚「私は、あのー、消費者の立場に立ってみるとですね、とにかく今、何だかよく分からないんですが、例えばワーキングプアでね、一生懸命働いている、年収200万しかないなんていう人がたくさんいるんですよ。
で、そういう人たちは可哀相だって、何か貰えるわけじゃないんです。だけど、農家は可哀相だからとゆって、関税を物凄く高くしてね、ものすごい高いコメを買わされていてですね、ものすごーく高い小麦を買わされ、ま、小麦は買わないけど、パンを買わされ牛乳も高い。
で、もうギリギリの生活をしてるんですよ。で、えー、今度ね、交渉をするっていうと、その関税をね、下げるのは困るって言うと、我々から見れば、下げてくださいと。とにかく下げてくれないと、もう生活できませんよと。
で、しかもそこでね、またたかーい物を買わされて、払った消費税の一部が、またね、戸別所得補償で、しかも強い農家も弱い農家もね、一緒くたになって、えー、兼業農家でね、あのー、ちょっと片手間にやってるなんていう人でも、おカネ、配っちゃうわけでしょ。
で、それはね、もう続かんですよ。もうおカネないんですから、我々は。あのー政府は。
で、それをね、ずうっと続けてくれって。で、もう、今始めるという段階で、始めたら、もうこれだけ、じゃあ、これだけカネを寄こせみたいな話になってるでしょ?
で、先ず、関税も下げて、安くして貰って。そうすると、今だって、あの、(米60kg当たり)1万3千円とか言ってますけど、6500円で作れる農家も一杯いるんですよ。だから、そういう農家を育ててもらって、で、どうしても守んなきゃいけないところについては税金でやってほしいんですね。税金だったら、ワーキングプアの人たち、そんなにたくさん払わなくてもいいですよ。お金持ちが払えばいいんだから。
で、ちゃんと目に見える形で、そういうね、どうやって農業を強くするとか、ちゃんとやって欲しいんだけど、反対する人たちは、そういうことを全然言わないですよね」――
一方で大勢のワーキングプアを抱えながら、一方で農業の再生を名目にしているが、再生は口先だけで終わっている、単に政府の過保護に対する依存体質を助長するだけの補助金を出す。
その結果としてのいつまでも競争力をつけることができない日本の脆弱な農業ということであろう。
確かに自民党政権の選挙利害からの農業過保護が日本の農業のコスト体質を脆弱なまま推移させることとなった面もあるだろう。前のところで、〈歴代自民党が農村を選挙の票田としていたために1995年(平成7年)に廃止された食糧管理法に則って稲作農家が都市労働者と同程度の収入となるよう、政府買入価格を設定、米価を下支えしてきたことが稲作農家の農業の集約化・大規模化を遅らせ、コストの掛かる小規模経営に甘んじさせる一つの要因となっていたはずだ。〉と書いたが、もう一つの大きな要因として、農家自体が「先祖代々受け継いできた土地」だと自身の農地を誰の侵害も許さない聖地としたことが農地の集約化・大規模化を遅らせ、前近代的な農業経営に推移させたことを挙げることができるのではないだろうか。
自分の土地であることを証明する畦道の管理にエネルギーを費やしたことが、農業の集約化・大規模化への意識を芽生えさせる阻害要因として作用し、農業の機械化時代を迎えても、共同で大型機械を買えばコストを下げることができるのに畦道が農家ごとに機械を買わせ、却ってコストを高くする農業へと進むこととなった。
先祖代々の農地を守ることは政府の手厚い補助を受けて自分の農業を助けたとしても、日本の農業を守ることにはならなかったことは現状が証明している。
政府の補助金政策が日本の農業を守り、その高コスト体質を磐石のものとした。
後継者のいない、高齢者が細々と経営する零細小規模農家、あるいは集約化・大規模化が向かない山間部等の農地、非高齢者経営の農業であっても、自立できない農家は農家自体の自給自足農業に特化させるか、転業・廃業を勧奨するかの“清算”をあ政府支援の元行わせて、政府が補助する農業の対象から外し、集約化・大規模化を認める農家のみを政府が補助する農業の対象に入れて、集約化・大規模化に向かわせ、それを果たすことができたなら、経営体質も強化できて、政府の補助も少なく持っていけるのではないだろうか。
そのためにはコメの自給率に拘るよりも、先ずは国際競争力を確保できるコストダウンを目指すべきだと思うが。 |