年金問題を含めた社会保障給付費圧縮は根本的な原因療法に目を向けるとき

2011-11-02 12:54:27 | Weblog

 2010年11月21日の当ブログ記事――《社会保障費圧縮のための全国民対象の健康履歴導入を - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》の冒頭、次のように書いた。

 〈平成20年度に年金、医療、福祉等で支払われた社会保障給付費が過去最高を更新したと11月12日(2010年)の報道が伝えていた。《社会保障給付費 過去最高を更新》NHK/2010年11月12日 16時49分)

 前年の平成19年度も過去最高で、2兆6500億円余りの増加、率にして+3%近く、94兆848億円と記録を伸ばしている。この約2兆6500億円の増加は消費税1%分の税収が約2兆円だそうだから、1%税収以上の負担となる。

 尤もこの過去最高の更新は毎年過去最高の更新を繰返していて、その流れを受け継いだ過去最高だというから、今後とも過去最高の更新が年々繰返されていく傾向を示すことになる。

 世代別では当然と言うべきか、平成20年度分94兆848億円のうち、高齢者への支払いが全体の7割近くを占める65兆3597億円と圧倒的金額となっている。

 当然このことは部門別統計を見ても、高齢者がより関与する年金、医療、介護の分野の社会保障給付費にも現れることにる。
 
▽年金――49兆5443億円(全体の半分以上)
▽医療――29兆6117億円
▽介護や失業給付などを含む「福祉その他」――14兆9289億円

 国立社会保障・人口問題研究所「今回の社会保障給付費の伸びは高齢化の進展に加え、雇用情勢の悪化によって、失業給付を受ける人が増えたことも要因だ」〉云々と。――

 2010年11月12日から約1年後の2011年10月28日の同じ「NHK」記事は平成21年度もご多分に漏れず、毎年過去最高の更新を繰返す慣例化した状況を伝えている。

 尤も不況の影響から雇用情勢が悪化、失業給付金受給者の急増も追い打ちをかけた“更新”らしい。

 《社会保障給付費 過去最高に》NHK NEWS WEB/2011年10月28日 17時5分)

平成21年度社会保障給付費

年金   ――51兆7246億円(平成20年度49兆5443億円)
医療   ――30兆8447億円(平成20年度29兆6117億円)
福祉その他――17兆2814億円(平成20年度14兆9289億円)

 合計――99兆8507億円(過去最高)(平成20年度+5兆7659億円)

 合計額は+6.1%の伸びと書いてある。

 以下――
●伸び率は平成8年度以降で最高。
●国民1人当たりの給付額――78万3100円(平成20年度+4万6300円)
●高齢者への支払い額――68兆6422億円(平成20年度65兆3597億円)

 高齢者への支払い額は(平成20年度+5%。全体の69%。)

 高齢者の独壇場となっている。

 社会保障給付費全体額99兆8507億円-高齢者支払い額68兆6422億円=高齢者以外の給付費31兆2085億円。

 社会保障給付費が毎年“過去最高”を繰返す状況とは、高齢者が増える高齢化による年金受給者の増加と身体劣化からの治療患者や介護被支援者の増加が主たる要因となっている状況であろう。

 そこで厚労省は新たな手を打とうとした。報道番組が軒並み取り上げている年金受給年齢の引き上である。現在60歳の厚生年金支給開始年齢を男性は2025年までに、女性は2030年までに60歳から65歳までに引上げる現在の予定表を前倒しして、68歳から70歳程度への引き上げを検討するということと、高額年金受給者の基礎年金の減額である。

 高額年金受給者の基礎年金の減額は全体に関係しないゆえに難しい問題とは言えないが、厚労相は来年予定していた年齢引き上げ法案の国会提出を断念した。

 小宮山厚労相「来年度は法案提出しない。中長期的にはいろいろな仮定を置いて検討しなければならない」(毎日jp

 「いろいろな仮定」とは受給年齢引き上げだけでは解決できない諸問題を仮定しなければならないことを指すのだろう。68歳~70歳までの定年延長を主たる手段とした高齢者の雇用の確保の解決との一体化と、一体化による人件費の高止まりと若者の新規雇用への圧迫等、色々と「仮定」しなければならない問題が横たわっている。

 だが、早急には解決できない難問題ということで来年予定していた法案提出を断念した。

 厚労省の調査では希望定年年齢が65歳の企業は半数にとどまっていると、2011年10月13日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えていた。大企業に務めていて、たくさんの給与を貰い、預貯金もたっぷりという勤労者は定年60歳であっても、68歳~70歳までの8~10年程度は収入がなくても悠々自適の生活を送ることができるかもしれないが、2006年の企業の割合は大企業0.3%、中企業12.7.0%、小企業87.0%となっていて、中小企業合わせた99.7%のうちの大半の勤労者は年金受給年齢と定年を限りなく近づけて貰わなけれ、生活そのものが成り立たないケースが生じる恐れがある。

 希望者全員が例外なく65歳定年を獲得できるよう、厚労省は高年齢者雇用安定法の改正を検討しているというが、果たしてこの不景気状況下で企業側が定年延長することによる人件費の高止まりと雇用者の入れ替わりが抑制されることからの若者の新規雇用の阻害化を問題外とするだろうか。

 若者の採用は人件費の抑制という面もあるはずである。小宮山厚労相が言っていた「いろいろな仮定」は定年延長を課題とするのみでは片付かない「仮定」であるはずだ。

 以上の経緯を見ると、厚労省は社会保障給付費の年々繰返される過去最高となる更新に関して増税や支給開始年齢の変更等を手段として減額することは考えても、国民の社会保障給付に対する初期的な必要性の抑制には手をこまねいてきたことを示しているはずだ。

 いわば泥縄式の制度維持となっている。例えば病気になって病院で診療を受け、社会保障費の一部負担を受けるという、その必要性を病気にかからないように仕向けて初期的段階で抑制すべきを、そのような原因療法を機能させることができていないことからの泥縄式であるはずだ。

 もう一つ例を挙げると、現在の年金制度の揺らぎは人口の少子高齢化によって年金制度を支える現役世代の減少が主たる原因であるが、政府は少子高齢化の阻止の原因療法となる有効な解決方法を見い出すことができないできた。

 前々から根本的な解決方法として出生率の向上とは別に外国人労働者の移入の進言を日本人優越意識から無視してきた。外国人の日本国籍取得でも、一昔前は色々と手続きを面倒にして、国籍取得を諦めさせ、可能な限り日本民族の純粋性を守ろうとしてきた。

 いわば原因療法に向き合おうとせず、殆どが泥縄式の対処療法でその場凌ぎの手直しで誤魔化し誤魔化しやってきた。外国人看護師や介護士の受入れを行なっているものの、日本語の難しい試験を課すことで、合格して実際に仕事に従事する外国人は少数にとどまっている。

 看護師不足や介護士不足を理由とするだけではなく、少子高齢化を解消する原因療法を目的の一つに入れた外国人受入れでなければならないはずだ。

 2006年9月17日の当ブログ記事――《『ニッポン情報解読』:少子化で赤紙時代到来?》に少子高齢化と外国人受け入れによる労働人口不足のクリアとそのことが有効に機能しない自民族優越意識からの日本人の閉鎖性について新聞記事を頼りに書いた。

 いよいよ壁にぶち当たったということなのだろう、前原誠司民主党政調会長が10月31日夜の名古屋市内でのホテルの講演で外国人労働者の受入れ拡大を発言している。《前原氏、外国人労働者受け入れ拡大検討》 

 前原誠司(外国人労働者の受け入れについて)「将来拡大するのかどうかについても国民的な議論で考えていかないといけない。人口も減って経済活動が縮小していく中で本当に借金を返せますかということも考えなければならない」 

 このように望んだとしても、日本人が外国人に対して現在かなり薄れているとは言うものの、日本人優越意識を捨てて、対等な人間関係意識を当たり前の意識としなければ、思うようには外国人労働者受入れは進まないに違いない。

 外国人受入と併行させて、この記事の冒頭に紹介した当ブログ記事――《社会保障費圧縮のための全国民対象の健康履歴導入を - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に書いてあるように生後1~3ヶ月の乳幼児健診に始まって、幼稚園での健康診断、小中高の健康診断と社会人となった場合の会社による健康診断、失業者であっても、毎年健康診断を義務付け、死亡するまでの健康診断値を「国民総背番号制」を導入して国が各個人の“健康履歴”として管理し、不摂生からの病気・ケガに対しては自己責任として診療費の自己負担を増やすことしたなら、分別がつく頃から自然と健康維持に気をつけ、親も子どもに対してばかりか自身に対しても気をつけることになり、医療費の増加の抑制に役立つばかりか、介護予備軍の抑制にもつながるはずである。

 政府は2006年(平成18年)4月改正介護保険法の一環として介護予防を市町村を実施主体として開始し、5年以上が経過するが、平成21年度(2009年度)の介護対策費は71,162億円で、対前年度伸び率は6.7%であるから、介護予防が殆ど効果を出していないことの証明にしかならないということだけではなく、役に立っていない泥縄式の対処療法にしかなっていないことの証明でもあろう。

 “健康履歴”が役に立つかどうか分からないが、少なくともそろそろ原因療法に目を向けるときがきているはずである。


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