安倍晋三のエジプトでのスピーチの言葉の軽さが招いた邦人人質とそのことに今以て気づかない軽い認識能力

2015-01-23 09:10:04 | 政治


 安倍晋三がエジプトを訪問、日エジプト経済合同委員会で「中東政策スピーチ」を行ったのは1月17日だと首相官邸サイトに何の断りもなく書いてあるから、日本時間なのだろう。  

 演題を「中東政策スピーチ」としてあるから、安倍内閣の中東政策のお披露目を行ったことになる。

 このスピーチについては既に一度ブログに取り上げているが、安倍晋三はここで「中庸が最善」(不偏・中正であること)なる高尚な哲学を、多分、素晴らしい政治家になったような気分に浸っていたのだろう、披露した。

 そしてこのような高尚な哲学の必要性を次の点に置いた。

 安倍晋三「この叡智(「中庸が最善」)がなぜ今脚光を浴びるべきだと考えるのか。それは、現下の中東地域を取り巻く過激主義の伸張や秩序の動揺に対する危機感からであります。

 中東の安定は、世界にとって、もちろん日本にとって、言うまでもなく平和と繁栄の土台です。テロや大量破壊兵器を当地で広がるに任せたら、国際社会に与える損失は計り知れません」――

 要するにエジプト政府と反対勢力、イスラエルとパレスチナ、アフガニスタン政府とタリバン、シリアのアサド政権と反アサド勢力、その他中東の政府と、その政府と対立するアルカイダだとかボコ・ハラムといった過激派集団とかが「中庸が最善」なる哲学で和解して、それぞれが治安と秩序を回復することで「テロや大量破壊兵器」の根絶を図ろうと呼びかけた。

 それぞれの相互の利害が全く以って相容れない様相で鋭く対立させて複雑に絡み合い、早々には簡単に解(ほど)くことはできない故に、特にそれぞれ過激派集団からしたら薬にもしないし、聞く耳を持つ可能性があるとは思えない(事実、持たなかったから拘束日本人の身代金を要求した)「中庸が最善」の哲学であるにも関わらず、「先の大戦後、日本は、自由と民主主義、人権と法の支配を重んじる国をつくり、ひたすら平和国家としての道を歩み、今日にいたります」とさも日本の戦後の歩みが模範になるかのように呼びかけた。

 この安易な考え、楽観主義、いわゆる言葉の軽さは、「エジプトが安定すれば、中東は大きく発展し、繁栄するでしょう」と言っている言葉にも現れている。エジプトに渦巻いている利害とイスラエルとパレスチナが掲げている利害、アフガニスタンやシリアに於ける利害、その他様々な利害は内容も質も異にするはずである。

 そして「中庸が最善」という哲学の具体化を担わせる資金提供の申し出を行っている。

 安倍晋三「ここで私は再び、お約束します。日本政府は、中東全体を視野に入れ、人道支援、インフラ整備など非軍事の分野で、25億ドル相当の支援を、新たに実施いたします」

 25億ドルのうちの2億ドルの使い途を次のようにスピーチしている。
 
 安倍晋三「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」――

 ここで初めて「ISIL」(「イスラム国」)を名指しして、中東の「脅威」は「ISILがもたらす」との趣旨で、邪悪な敵、邪悪な存在と位置づけ、その脅威の阻止を主導する国の一つに日本がなることを宣言した。

 例えそれが人道支援を目的にしていても、結果を招いている原因を断つことを本質的な意図としている。安倍晋三はそのように発言した。

 このことは「ISILと闘う周辺各国」への支援だとわざわざ断っているところにも現れている。

 これが「イスラム国」に対する宣戦布告に相当する。少なくとも「イスラム国」はそう受け取った。

 だから、「イスラム国」は日本人人質に対してそれぞれ1億ドルずつ、合計2億ドルを身代金として要求した。

 身代金要求の動画での「イスラム国」の発言を見れば、宣戦布告と受け取ったことが簡単に理解できる。
 
 「日本の総理大臣へ。

 日本はイスラム国から8500キロ以上も離れたところにあるが、イスラム国に対する十字軍に進んで参加した。我々の女性と子どもを殺害し、イスラム教徒の家を破壊するために1億ドルを支援した。

 だから、この日本人の男の解放には1億ドルかかる。それから、日本は、イスラム国の拡大を防ごうと、さらに1億ドルを支援した。よって、この別の男の解放にはさらに1億ドルかかる。
 
 日本国民へ。日本政府はイスラム国に対抗するために愚かな決断をした。2人の命を救うため、政府に2億ドルを払う賢い決断をさせるために圧力をかける時間はあと72時間だ。さもなければ、このナイフが悪夢になる」――

 安倍晋三が「イスラム国」を邪悪な敵、邪悪な存在として名指ししたことを「イスラム国に対する十字軍に進んで参加した」と見做された。その上、「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援」を、「我々の女性と子どもを殺害し、イスラム教徒の家を破壊する」行為だと解釈された。

 「中庸が最善」なる高尚な哲学は高尚過ぎて全く以って聞く耳を持っていなかったのである。

 そして人道支援が「ISILがもたらす脅威を少しでも食い止める」ことを目的としたことを、「日本は、イスラム国の拡大を防ごうと、さらに1億ドルを支援した」こととされた。

 勿論、このような解釈を「イスラム国」が勝手に意図をねじ曲げた読み間違いに過ぎないと非難できる。だが、「イスラム国」と同じように宣戦布告、もしくはそれに近い内容と解釈したと思われる二人の国家指導者がいる。

 一人はアブドラ・ヨルダン国王。《殺害警告、首相を直撃=各国首脳の懸念的中》時事ドットコム/2015/01/20-22:30)  

 パレスチナのエルサレムに滞在中の安倍晋三に現地時間の1月20日午前7時50分頃事件の一報が入り、〈首相に同行していた中山泰秀外務副大臣は現地での政府対応の指揮を執るため、ヨルダンのアンマンに急きょ飛んだ。首相が18日に同国のアブドラ国王と会談した際、日本人の人質事件など不測の事態を想定した国王から、情報提供や人質救出を含め「何でもやるから言ってほしい」と申し出を受けていたためだ。〉と記事は書いている。

 安倍晋三がエジプトで「中東政策スピーチ」を行ったのは1月17日。同じ17日にヨルダンを訪問、翌1月18日に国王と首脳会談を行っている。 

 ヨルダン国王が「日本人の人質事件など不測の事態を想定した」のは「中東政策スピーチ」を受けてからだろう。前々から想定していたなら、外交ルートを通じて中東訪問前に警告を発していたはずだからだ。

 安倍晋三のスピーチの中の文言が「イスラム国」に対する宣戦布告と取った。少なくとも刺激したと懸念したからこそ、「不測の事態を想定した」。

 記事はもう一人、ネタニヤフ・イスラエル首相を挙げているが、次の記事に譲る。
 
 《ネタニヤフ氏「日本もテロに巻き込まれる恐れ」》YOMIURI ONLINE/2015年01月19日 12時36分)    

 安倍晋三がイスラエル訪問したのは1月18日。翌1月19日(現地時間1月18日)にネタニヤフ首相と会談。

 安倍晋三「卑劣なテロは、いかなる理由でも許されない。国際社会と緊密に協力し、テロとの戦いに引き続き取り組む」

 勇ましき宣言を行った。

 ネタニヤフ首相「世界的にテロの動きに直面している。日本も巻き込まれる可能性があり、注意しなければいけない」――

 安倍晋三の「中東政策スピーチ」を関心を持って聞いていたはずだから、「日本も巻き込まれる可能性」はスピーチとは決して無関係とは言えない。もしイスラエルから前以て外交ルートを通して「日本も巻き込まれる可能性」を伝えられていたら、ここでの発言も、「中東政策スピーチ」での発言も、もう少し違った文言を使ったはずだ。

 ネタニヤフ首相が最低限、スピーチの文言に懸念を持ち、「日本も巻き込まれる可能性」を伝えたと読んだとしても、さ程無理はないはずだ。

 確かに人道支援を目的としている。だが、安倍晋三は中東の治安を悪化させ、秩序を乱して平和を損なっている、そのような結果を招いている原因と目した「イスラム国」、あるいは他のテロ集団を断つことを本質的な意図とした人道支援に位置づけていたのである。

 勿論、その意図が間違っていると言うわけではないし、言うつもりもない。

 結果的に「イスラム国」に対する宣戦布告となっていたことを一国の指導者として認識しなければならないし、認識するだけの頭を持たなければならないはずだ。

 にも関わらず、2人の早期解放の協力を得るための各国首脳との電話会談や閣僚の会談等を通じて支援はあくまでも人道目的だとする発信を行っている。

 1月22日御前の記者会見。

 菅官房長官「関係諸国、さらには部族や宗教の代表者の方々に対して、ありとあらゆる手段を行使しながら、日本が表明した支援は、難民、避難民、そうした中東の人々の生活の向上のための支援であり、非軍事支援であるということを積極的に発信している。

 犯人が主張するような、イスラム世界の人々を殺傷することでは全くないということを発信し、厳しい状況だが、人質の早期解放に向けて最大限努力しているところであり、日本としては、テロに屈することなく、国際社会によるテロへの取り組みに貢献していきたい」(NHK NEWS WEB)――

 1月22日の安倍・アボット豪首相殿電話会談。

 安倍晋三「人命を盾に脅迫することは許しがたい行為で、強い憤りを覚えている。私が先の中東訪問の際に表明した2億ドルの支援は、難民支援をはじめ非軍事の分野でできるかぎりの貢献を行うためのものだ。日本はテロに屈することなく、国際社会によるテロとの戦いに貢献していく」(NHK NEWS WEB)――

 当然のことを言うが、自分の発言がどのような影響を与えるか、一国の首相は認識しながら発言しなければならない。だからこそ、一国の首相の発言は重いと言われる。だが、重いはずの発言を軽くしたことを満足に理解できない程度の低い認識能力を現在、曝け出している。

 「イスラム国」が安倍晋三のスピーチを悪意ある受け止め方で捻じ曲げて解釈したものだと批判したとしても、ここが「イスラム国に対する十字軍に進んで参加した」こと(=宣戦布告)を宣言する文言だと指摘されたなら、反論できない言葉使いをしていることは間違いはない。

 多分、「テロとの戦い」を宣言することで勇ましいところ、強い首相であることを見せたかったのだろう。各支援が間接的にテロとの戦いに役立つなら、間接的な目的は隠して、生活の安定、生活の向上といった直接的な目的だけに言及してもよかったはずだ。支援の着実な具体化が間接的な目的を実現していくことになるはずだからである。

 だが、勇ましいところ、強い首相であることを見せようとしたことが却って災いとなった。

コメント (1)
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