シリア・アサド政権が8月21日(2013年)、首都ダマスカス近郊で化学兵器を使って一般市民を攻撃、数百人が死亡したとされていることを受けてアメリカが軍事攻撃による報復の構えを見せたことに我が日本維新の会共同代表の橋下徹が疑義を示した。
《「懲罰的介入では解決しない」橋下氏、米のシリア軍事介入に否定的発言》(MSN産経/2013.9.5 20:58)
9月5日、大阪市役所で記者団に対する発言。
橋下徹「国内の紛争などに懲罰的に介入しても解決しない。
(アサド政権側の化学兵器の使用について)僕は確信を持っていない。米政府の安全保障の専門家らが総力を挙げて確認しなければいけない。(軍事介入で)今のシリア情勢を解決できるのか。もうちょっと冷静に議論した方がいい」
断っておくが、アサド政権の化学兵器の使用・不使用の確認と対処はアメリカや国連の任であって、「僕」の「確信」は基準とはならない。つまり、「僕」の「確信」は二の次である。
橋下徹が「国内の紛争などに懲罰的に介入しても解決しない」と言っていることは、アメリカを主体とした多国籍軍が、不保持を義務づけられていた大量破壊兵器を隠し持っているとの理由で2003年3月20日から独裁者サダム・フセインのイラク攻撃を開始したイラク戦争や9・11(2001年9月11日)アメリカ同時多発テロ事件の首謀者として指定されたアルカイダのオサマ・ビン・ラディンの引き渡しに応じなかったタリバン・アフガニスタン政権に対してアメリカ、その他が2001年10月7日に報復攻撃を開始したアフガニスタン紛争、最近では2011年1月の民衆による大規模デモによって23年間の独裁政権に終止符を打ったチュニジアのジャスミン革命に触発されてエジプトでも、2011年1月25日より民主化を求める一般民衆の大規模な反政府デモが発生、2月11日に独裁者ムバラク大統領を退陣に追い込み、30年に及ぶムバラクの独裁政権に終止符を打ったエジプトの民衆革命などのその後の民主化とは程遠い混乱が頭にあったはずだ。
そのような民主化とは程遠い混乱を以って、「国内の紛争などに懲罰的に介入しても解決しない」と。
イラク戦争ではサダム・フセインを独裁者の地位から放逐、イラクに民主化が訪れると多くの人間が確信したはずだが、それも束の間の希望で終わり、宗派間闘争テロやイスラム過激派の武力テロで市民の間でも多くの死者を出すようになって治安は最悪の状態と化し、現在に於いてもテロに終止符を打てないでいる。
しかしイラク戦争では24年に亘るサダム・フセインの独裁政権に終わりを告げることができたことは一つの画期的な歴史的事実である。
アフガニスタン紛争では女性の就労も教育の機会も禁止し、音楽その他の娯楽を禁止していた悪名高かったタリバン独裁政権を政権の座から放逐し、女性に就労の機会と教育の機会への道を開いた。
エジプトでは独裁者ムバラクが大統領就任当初からエジプト全土に非常事態宣言を発令し続け、強権的な統治体制を敷いていたというが、政治的意図からの非常事態宣言は憲法の停止や国民の政治活動の制限等のケースを伴わせる。政治活動の制限だけでも、思想・言論の自由の制限、集会の制限等を意味する。
そのようなムバラクの独裁に終止符を打つことができた歴史的事実は消すことはできない。
だが、各国に於ける独裁という矛盾と混乱の外国からの軍事攻撃による、あるいはその国の民衆自身による民主化要求の大規模デモによる終止符に替わる新たな矛盾と混乱の発生という経緯は、一見、特にイスラム世界に於いては欧米風の民主化を望むことは絶望的であるように思わせ、そのことがオバマ・アメリカ大統領がシリア・アサド独裁政権による化学兵器使用に対して、「何もしなければ独裁者に誤ったメッセージを与えることになる」と軍事攻撃の構えを見せたものの、そのことへの国民の反応が、化学兵器使用が確認できたことを前提としても、軍事攻撃に賛成25%に対して反対46%といった世論調査の数値となって現れているはずだ。
キャメロン英国首相がアサド政権への武力行使に道を開く政府提出の動議を緊急招集した英国議会で反対多数で否決され、世論調査でも軍事行動に反対が半数を占め、賛成が反対の半数といった傾向も、イラクやアフガン、エジプト等の前例を学習して得た知識が判断させた賛否の傾向でもあるはずだ。
橋下徹の「国内の紛争などに懲罰的に介入しても解決しない」という懐疑と重なる態度表明と言うことができる。
アメリカが一旦は意図した軍事行動はロシア提案の化学兵器国際管理をアメリカが受け入れることによって、遠のく結果となっている。
後はシリア・アサド政権の誠実な実行にかかっているが、化学兵器を各地に分散して隠していて、すべてを国際管理に移すか疑わしいとする見方や、シリアの研究者の頭の中にある化学兵器製造のノウハウは国際管理ということはできない。
研究を続け、いつでも製造できる設備建設の準備にかかっていることはできる。あるいはホトボリが冷めてから密かに隠れて製造することもできる。
だが、何よりも問題なのはアメリカの軍事攻撃回避で政権側が反政府勢力の支配地域奪還等の攻勢を強めているといることから、反政府勢力が鎮圧されてアサド独裁政権が延命した場合のシリア国民の人権状況の矛盾と混乱は、あるいはシリア社会の矛盾と混乱は最初から変わらないことになるか、あるいは再度の反政府勢力蜂起を前以て抑えるために徹底的に政治活動を制限した場合、シリア国民のそれらの矛盾と混乱は却って悪化の一途を辿ることになる。
ということなら、各国に於ける独裁という矛盾と混乱の外国からの軍事攻撃による、あるいはその国の民衆自身による民主化要求の大規模デモによる終止符が例え新たな矛盾と混乱を生み出すことになったとしても、後者の矛盾と混乱を前者の矛盾と混乱よりもマシな状況として受け入れて、前者の矛盾と混乱を一旦は断ち切ることを優先させて反政府勢力に軍事援助を与えたり、直接的な軍事行動に出る道を選択するか、あるいは例えその国の国民自身による独裁政権に対する反政府大規模デモが発生しても、あるいはデモ隊が武器を取って政府に軍事的に対抗する戦いに出ても、前者の矛盾と混乱が引き続くか、悪化の一途を辿ることになったとしても、独裁政治が国民にもたらす矛盾と混乱に目をつぶって如何なる軍事援助も与えず、如何なる軍事行動にも出ずに政府とその対抗勢力との闘争の成り行きに任せる傍観の道を選択するのか、二者択一いずれかということになる。
前者の選択ということなら、軍事行動に出る理由の、あるいは軍事援助を与える理由の一つの基準となり得る。
橋下徹が「国内の紛争などに懲罰的に介入しても解決しない」と言っていることに対して矛盾と混乱の漸進的解決を意味する選択だと言うこともできる。