2013年3月17日、安倍晋三は自民党大会大会でアベノミクスに対する自身を見せた挨拶を行なっている。
安倍晋三「民主党政権の末期、経済が低迷し、私たちは成長できるという自信すら失っていた。教育の危機が叫ばれ、日米同盟の絆は揺らいでいた。今、日本を覆っていた雰囲気が大きく変わった。今確実に景気は回復しつつある。情熱と努力によって日本経済は成長する」(時事ドットコム)――
首相就任3カ月で民主党政治を厳しく批判し、「今確実に景気は回復しつつある」と請け合ったのだから、アベノミクスに対する自信は些かも揺るぎがない。
そして4カ月後の7月22日、前日7月21日の参院選大勝利を受けた記者会見でもアベノミクスの着実な成果を発言している。
安倍晋三「昨年、総選挙の勝利について、この場で民主党の間違った政治に国民がノーを突き付けたものであり、国民はまだまだ厳しい目で、自由民主党を見つめている。私はこのように申し上げました。その認識の下、私たちは高い緊張感を持って経済の再生、復興の加速、外交・安全保障の立て直し、教育再生などに全力を尽くして参りました。GDP(国内総生産)や雇用といった実体経済を表す指標は好転し、確実に成果はあがっています。この道しかない、この思いを選挙戦で訴えて参りました。そして、昨日、決められる政治によって、この道をぶれずに前に進んでいけと、国民の皆様から力強く背中を押していただいたと感じております。まず自由民主党を応援をしていただきました国民の皆様に心よりお礼を申し上げたいと思います」――
アベノミクスによって実体経済は確実に成果が上がっている、アベノミクスの道しかないと景気回復への保証を謳っている。
そして言葉通り、アベノミクスと日銀の異次元の金融緩和一体の政策が円安と株高を演出、大手企業は本業の儲けを示す営業利益を過去最高とか、リーマンショック前に近い水準の回復だとか、軒並み好成績を上げるに至っている。
個人消費にしても、株の値上がりによる資産上昇や資産効果への期待から高額商品が売れ、大手百貨店はその恩恵を受けて、例年にない販売好調の波に乗っている。
確かに安倍晋三が4月19日の日本記者クラブ講演「成長戦略スピーチ」で、「4か月前と比べて、どうでしょうか。世の中の雰囲気は、明るくなってきたのではないでしょうか」と言っているとおりに世の中は明るくなった。
明るくなった国民の雰囲気・心理が7月21日の参院選自民党大勝利の形を取ったはずだ。言ってみれば、アベノミクスに対する国民の信頼度が直結した参院選自民党大勝利と言うことができる。
アベノミクスを信頼して自民党に一票を投じた国民は信頼のあまり、大船に乗った気分でいるに違いない。
「確実に景気は回復している」
アベノミクス、「この道しかない」
そして厚労省8月8日公表の今年5月時点での生活保護受給約158万世帯は過去最多更新という事態もアベノミクスの成果としてある一風景でなければならない。
なぜなら、「今確実に景気は回復しつつある」中での、あるいは「確実に成果はあがってい」る中での、それらの回復傾向、上昇傾向と併行した、過去最多だった今年3月を上回り、前4月より4034世帯増えた過去最多更新の約158万世帯だからである。
決して別次元の生活実態ではない。
次の記事――《生活保護受給の世帯 過去最多更新》(NHK NEWS WEB/2013年8月8日 13時42分)から、「過去最多更新」の実態を見てみる。
5月に生活保護を受けた世帯の数は全国で158万2066世帯(前月比+4034世帯)。
世帯の内訳。
「高齢者世帯」――45%(最多)。
「その他の世帯」(働くことができる世代を含む)――18%
「傷病者世帯」――18%
生活保護受給者数――215万3816人(前月比+1973人)
この受給者数は昨年5月前月比+8700人と比較すると、増加幅は縮小しているそうだが、増加幅縮小を以って、生活の改善が進んでいると言えるのだろうか。
厚生労働省「年金だけでは暮らせない高齢者が増えるなど受給世帯は依然として増加傾向にあるが、雇用情勢の改善などから受給者の増加ペースは落ち着いてきている」――
「年金だけでは暮らせない高齢者」とは働いていたとき、低所得であった者であろう。アベノミクスが登場して7ヶ月が過ぎたが、正規社員が依然として減少傾向を続け、その傾向と共に非正規社員が増加傾向にある流れは「年金だけでは暮らせない高齢者」を増加させていく流れでもあり、この流れは低所得勤労者者から「年金だけでは暮らせない高齢者」へのバトンタッチが今後共続く皮肉な保証でもあって、「雇用情勢の改善」が生活保護改善の約束に直結するとは限らないはずだ。
いずれにしても、低所得層であっても政治が一つ社会に於いて恩恵を施すべき対象の一つであることに変わりはないはずであるにも関わらず、そのことに反してアベノミクスの恩恵が一部分のみで遍(あまね)く波及していないゆえの過去最多でもあることは間違いない。
だとすると、一方でアベノミクスによって大きな恩恵を受けて資産上昇や資産効果への期待を膨らませている層が存在しているのに対して、その一方でアベノミクスによって何ら恩恵を受けていないばかりか、逆に生活保護受給世帯増加傾向に歯止めがかからない状況が示しているように自立状態から生活保護受給世帯入りしている個人・家族が存在して、それが過去最多を更新したということは、正規社員が減少し、非正規社員が増加している傾向等々と併せて、社会の格差拡大がなお一層進んでいることを示していて、この格差拡大はアベノミクスが一つの到達点としていることの証明ともなる。
この現実から目をそむけてはならない。