昨9月5日日曜日のテレビ朝日『サンデーフロントライン』に菅首相が出席した。そこでマニフェストについて変更を正当化する新たな騙しのテクニックを披露していた。
小沢候補が掲げている国の補助金の地方への一括交付金化に対する反論から入ることにする。
菅「補助金は21兆の中で15兆、16兆は実は社会保障費の関係、例えば生活保護とか。ですから国がやればかかるけれども、地方へ移せばもっと少なくて済むというにはなかなかできないところもあります。そういう意味では、必ずしもマニフェストで謳ったところまで、初年度もそこまで一遍にはいきませんでしたけど、完全にいくことはなかなか難しい面があります」
もし菅首相が言っていることが事実なら、最初から分かっていたシナリオとなり、マニフェストに地方への一括交付金化を掲げたこと自体が誤魔化しだったことになるが、「必ずしもマニフェストで謳ったところまで、初年度もそこまで一遍にはいきませんでしたけど、完全にいくことはなかなか難しい面があります」と軌道修正を計ることのみを正当化し、その誤魔化し自体はカエルの面にショウベンとしている。
このことだけでも、民主党のマニフェストの程度が知れる。
星浩(朝日新聞)「マニフェストの行程表ですと初年度、7.1兆円。2年目は確か12兆3千億円。そうなると、どうも初年度(ムダを削ったのは)3兆円そこそこですから、2年目の12兆というのはなかなか難しいとなると、マニフェスト全体の行程表を少し見直していくしかないかなと気がするんですけれど、その辺如何ですか」
菅「それも含めて、来年度の予算をつくる中で、例えば子ども手当ですね、1万3千円を超える部分は現金でいくのか、保育園の拡大でいくのか、どの規模するのか(ママ)、そういうことがありますので。
あの、基本は昨年のマニフェスト通りにやるということは誠心誠意頑張りますけれども、あくまでマニフェストはおカネをこちらを削って出したもので、これをやるという、両方がマニフェストですので、そういう意味では、ギリギリのところでできないときにはちゃんと説明をしなけりゃいけないと、こう思います」
「誠心誠意」という言葉を使っているのだから、「あくまでマニフェストはおカネをこちらを削って出したもので、これをやるという、両方がマニフェストです」が、こちらを削ることができなければ、これはできないという意味で言ったわけではあるまい。
なぜなら、政策は常に財源の裏付けを一体としていなければならないからだ。政策作成の初歩であろう。ムダを削減して、マニフェストに掲げた政策の財源とすると謳った。政策と財源の裏付けとの一体化である。
そうでなければ、若い男が財源の裏付けもないのに若くて綺麗な女の子にブランド物の時計や靴やバッグや衣服を買ってやると約束したことと同じになる。
ムダの削減が当初計画していたようにはうまくいかなかったから、できないでは、財源の裏づけが甘かったことになり、そのことの責任を取らなければならないはずだ。
玄葉政調会長が6月17日の参院選民主党マニフェスト発表記者会見でマニフェストについて次のように発言している。
玄葉「マニフェストと言うのは生きものであり、常に手入れが必要なものだというふうに認識をしております。従って、環境や状況の変化に柔軟に対応することが重要だということで、改めるべきは改めると言う観点から書かれているということです」
マニフェストに掲げた政策が環境や状況次第で常に手入れを受けて変化する性格を有するなら、鳩山前首相が普天間移設で当初掲げた「国外、最低でも県外」から県内辺野古移設案への大変化にしても何ら非難されることはなく、辞任することもなかったことになる。
「手入れをいたしました」、あるいは、「環境や状況の変化に柔軟に対応」しましたで片付いたはずである。
尤も鳩山前首相は辞任したが、「国外、最低でも県外」から県内辺野古移設案への大変化を受け継いで、菅政権は着々と実行しつつある。
マニフェストを環境・状況次第の変数としたと思ったら、菅首相が今度は、「あくまでマニフェストはおカネをこちらを削って出したもので、これをやるという、両方がマニフェストです」とマニフェストを財源次第の変数に変えた。
いわば一体であるべき財源の裏付けからマニフェストを解放したとも言える。財源が出できた分の政策を実行する、出てこなければ、出てこない分、政策を縮小する。そういうことであろう。
と言うことなら、財源の裏付けなくして政策を掲げることも自由となる。
「誠心誠意」の言葉の実質が知れるというものである。
だったら、国の経営も税収分のみを出てきた財源として、その範囲内で賄い、赤字国債発行はやめるべきだが、二重基準を平気で設けている。
政権担当は政策の優位性を訴え、国民にその政策の優位性を認められた結果として選挙で獲得した、例え連立を組むことになったとしても他党に優る議席の優位性を基本的条件とするはずである。
だが、マニフェストに掲げた政策が環境や状況の変化次第で手入れ自由、財源の裏づけと一体とすることから解放することができるとなったなら、政策の優位性は何を基準として国民に提示するのだろうか。あるいは国民は各党の政策の優位性を何を基準に見届けたらいいのだろうか。
いや、何を基準としようとも、他党に比較した自党の政策の優位性を訴えること自体がマヤカシとなる。
だが、半数以上の国民がこのマヤカシ、騙しのテクニックを許している。
9月6日、今日の日付の「朝日新聞」世論調査にそれが出ている。(部分的参考引用)
実施日は9月4、5日。
◆民主党の代表選挙が始まり、菅直人さんと、小沢一郎さんが立候補しました。民主党の代表は次の首相になります。どちらが首相にふさわしいと思いますか。
菅さん 65 小沢さん 17
■実行力の面
菅さん 34 小沢さん 49
◆民主党が昨年夏の衆議院選挙で掲げたマニフェストについてうかがいます。菅さんは、「実現困難な場合は修正する」という立場です。小沢さんは「約束したことは実行する」という立場です。どちらの立場を支持しますか。
菅さん 63 小沢さん 24
◆菅首相のこれまでの仕事ぶりをどの程度評価しますか。(択一)
大いに評価する 2
ある程度評価する 45
あまり評価しない 42
まったく評価しない 8
63%の国民が結果として政策と財源の裏付けとの一体化を問題としないことによって国民に提示する政策の優位性の基準が無化するのを認めている。
世論調査全体を見ると、どう見ても消極的理由の菅評価にしか見えない。内閣支持率上昇も反小沢意識が押し上げた相対的上昇に過ぎないのだろう。
番組でキャスターの小宮悦子が、菅首相の「一に雇用、二に雇用、三に雇用が経済成長につながる」という主張を取り上げて、普通は経済成長が雇用をつくり出すのではないのか順序を問うと、このことにも巧妙な騙しのテクニックで対応している。
菅「まさに双方向なのです」
「双方向」などという言葉は共同記者会見でも公開討論でも言っていなかった。雇用が経済成長の原動力となるといった意味での言葉の使い方であった。
菅「まさに双方向なのです。例えばですね、内需の拡大を考えたときに、介護の分野は需要があるにも関わらず、供給がない。で、なぜかと言うと、介護に携わる人の給料が安いから供給がない。
そうするとそこに財政的な裏づけがあれば、雇用が生れて、仕事が生れて、そこにサービスが誕生しますから、経済が成長していく。さらに言えば、給料貰って、税金を払えばですね、それで財政的にも良くなる。また、需要が増えるということはデフレギャップにも、これを解消することにつながっていく」
菅首相は雇用創出による経済成長を介護を主体的に取り上げて主張しているが、介護の市場規模は7兆円程度で、自動車産業は44兆円程度であることからすると、いくら介護に「財政的裏付け」を以ってして雇用を創出しても、主要産業自体の経営が活発化しないことには経済成長自体見込むことができないように思えて仕方ない。
小宮悦子「財政的裏付けがあってということでしたが、具体的にどういうことを考えればいいんでしょうか?」
菅「ですから、今申し上げたような雇用の創出について、新たな雇用をつくるには、これは今申し上げたような介護とか、医療とか、保育とかの分野。外国に企業が出てしまって、雇用が失われるものをしっかりと国内でも雇用を確保するため、例えば先日も見てきました、炭素のリチウムなど造っている会社が国内立地することの応援をしています。ま、そういう形で、経済成長、そして立地を残すことで、雇用が生れる。
それからもう一つ、雇用という面で言うと、例えば大企業は求人倍率が0.5ぐらいで、中小企業全体だと、実は4ぐらいあるんです。ですから、そういったみなさんにですね、あの、高校生、大学生の卒業した人がきちんとこの企業の方を望めばいいじゃん。卒業生なら、こういうことなら、いいやという、ミスマッチを、こう解消することによって、雇用が生れます。
そういう点を含めた、新成長戦略、勿論新成長戦略には、あの、もっと幅広くですね、例えば環境問題に於けるクリーンイノベーション。例えば医療・介護とかのライフイノベーション。さらにアジアとの関係のアジアの成長を日本の成長につなげていくという、まあ、例えば一つの例を、中国からの観光客を多くしようということで、ビザの緩和をしましたけど、これは非常に大きな効果を常に上げています。
まあ、こういったことを網羅した項目の新成長戦略を6月末に発表して、いよいよこれを具体的に実現するための新成長戦略実現会議を、これは経済界、労働界からもいろいろな方が出てきてもらって、それをつくり、具体的な・・・・(聞き取れない)ではなくてですね、例えば新幹線を外国に売り込もうとかですね、いろんな問題で実践活動にいよいよ入っていく。
こういう段階にきています」
最後まで小宮山悦子の「財政的裏付けがあってということことでしたが、具体的にどういうことを考えればいいんでしょうか?」の、「財政的な裏付け」について一言も答えていない。
答えることができなかったから、雇用の例やその他の政策を長々と喋ってゴマカす必要があったのだろう。
菅首相が「大企業は求人倍率が0.5ぐらいで、中小企業全体だと、実は4ぐらいある」、このような「ミスマッチを、こう解消することによって、雇用が生れます」とさも簡単に雇用創出が可能であるかのように安請け合いしているが、このミスマッチは一面的には「介護の分野は需要があるにも関わらず、供給がない。で、なぜかと言うと、介護に携わる人の給料が安いから供給がない」雇用状況と重なるミスマッチであろう。
簡単な安請け合いでは解決できないミスマッチだということである。簡単に解決できないからこそ、不景気で失業者が巷に溢れることになっても、求人倍率が3.5に開いたままでいることになる。
菅首相は介護の場合のミスマッチは「財政的な裏付け」で解決するという。だが、どのような「財政的な裏付け」かは誠心誠意を示す男だから、言わない。
2009年4月からの+3%の介護報酬改定が行われた。この改定は介護労働者の賃金アップを目的としていたが、この3%分は介護企業に支払われるために必ずしも賃金に反映しなかった。企業が人件費に回す余裕がなかったからなのは言うまでもない。
問題はこの3%の財源だが、HP《介護労働者の処遇は改善されるか》によると、介護保険支払い者の負担を避けるために+3%上昇分は約1154億円の国費投入で賄っているという。但し国費投入は2年間の暫定措置であって、2011年度から国民が払う介護保険料に撥ね返ってくるという。
〈民主党の医療・介護改革作業チームはこの3%に加えて一般財源から7%上乗せする案を検討している。7%分の財源規模は4400億円と想定し、これが全額人件費に回った場合、介護労働者の賃金は月額4万円の引き上げが可能になると推計している。しかも、暫定的に財源は全額を税財源とし、介護保険料の引き上げはしないという。
だが、暫定的に税財源にするとしても、最終的には介護労働者の賃金引上げを含む介護保険財政を誰がどのように負担し、支えていくかの問題が残る〉――
要するに菅首相が言っていた「そこに財政的な裏づけがあれば」とは、4400億円規模の国費投入を言っていることになる。
但し人件費が実質アップするかと言うと、あくまでも〈全額人件費に回った場合〉である。
また、毎年4400億円で済まない、年々増えていくであろう4400億円+αの税財源はあくまでも暫定措置と言うことなら、一度にではなく、少しずつ国民負担にまわすとしても、十分に支払い能力を有する生活者なら構わないが、そうでない場合、迫りくる消費税増税と併せ考えた場合、当然のこととして消費の抑制が起きることになる。
介護労働者が「給料貰って、税金を払えばですね、それで財政的にも良くなる」にしても、介護保険料アップからの消費抑制を差引いた場合、丸々「財政的にも良くなる」わけのいいこと尽くめではないことになる。
菅首相は消費税増税発言をしたとき、税収分を社会保障費に回すと言っていたのだから、4400億円+αの税財源自体、増税した消費税の税収分の一部を充てる予定でいるのかもしれない。
参院選大敗の失敗に懲りて、ここで消費税を財源に予定していると言うわけにはいかないとの理由で小宮山悦子の「財政的な裏付け」についての質問に一言も答えなかったのかもしれない。
そうだとしたら、素晴らしい「誠心誠意」に満ちた騙しのテクニックとなる。
菅首相の言う、“国民が参加する政治”とはこういったことを指すのだろう。