《アーミテージ氏「知事選次第で県内不可能に」 「普天間」移設》(琉球新報/2010年9月16日)
記事はブッシュ政権下で国務副長官を務めたリチャード・アーミテージ氏が9月15日、日本記者クラブで会見し、沖縄の米軍基地移設問題で自身の考えを述べたことを伝えている。
アーミテージ「当事者の意志と善意さえあれば、もともとの目標である普天間の全面移設には到達しないかもしれないが、日米同盟を維持する解決策があるはずだ。他の米軍再編問題はうまくいっているので、(普天間問題についても)次善の策を話し合わないといけない」
新たな解決策の模索を訴えている。しかし世界一危険とされている普天間の全面移設だけは守らなければならないはずだ。日米同盟を維持しつつ、県外・国外移設を解決策とすべきだろう。
現在の沖縄の政治状況についての発言。
アーミテージ「日米合意は国際合意なので拘束力を持つことは事実だが、去る名護市議会議員選挙や11月の知事選挙の結果によってはその実施が不可能になるかもしれない。『難しい』と『不可能』は違う。今はまだ『難しい』という状況だ」
「不可能」となれば、「日米合意」という拘束力は形骸化する。「日米合意」という交渉の前提が無意味化する。
前原新外相が岡田前外相に代って外務省の立場から沖縄基地問題に関わることになった。9月17日に外務省で就任記者会見を行い、基地問題について発言している。会見記録を外務省HPが《前原大臣会見記録(要旨)》として載せている。沖縄の基地問題に関する箇所のみを抜粋してみた。
【冒頭発言】
前原外相「21世紀にふさわしい形で日米同盟を深化させる。普天間飛行場の移設と沖縄県における基地負担の軽減については、平成22年5月28日の日米合意及び閣議決定に基づき、関係大臣と連携して必要な取組みを速やかに進める」
【米軍再編問題】
岩上「普天間問題についてお伺いしたいと思います。先ほど、リチャード・アーミテージ氏が来日して講演で中国のことについて述べられたという話がありましたが、中国のことだけでなく、普天間問題についてもこの講演の中で言及されたと伺っております。11月の沖縄県知事選で、もし普天間移設反対の候補が知事に当選するようなことがあったら、これは移設が不可能になるという判断を示して、そのまま全面移設は無理でも、部分移設でも何でも次善の策を講じなければならないだろうというように米国側も柔軟な姿勢を見せるというところを示したと伺っております。現時点でこの米国側の姿勢の柔軟化と言いますか、それを受けて大臣はどのようにお考えになられるのか、お考えをお示し頂きたいと思います。
前原外相「アーミテージ氏は私もよく存じ上げております。ブッシュ政権の一期目の国務副長官で、私もそれ以前からも、あるいはその仕事を辞められた後からも何度もお話をしている間柄でございますけれども、現在は政府の方ではございません。私も実際、本日、外務大臣を拝命して、米国の現在の政権内部におられる方と具体的な話をした訳でございませんので、そういう意味においては、今後話し合いをしていく中で、米国の考え方というものをしっかりと私も感じ取らなくてはいけないと思っております。
しかし、私が今思っているのは、米国はやはり日米の合意というものをしっかり尊重して日本にそれを着実に履行することを求めてくるだろうと思いますし、合意をした訳ですから、沖縄の皆さん方に今までの基地の負担を過剰に押しつけてきたお詫びをさせていただくと同時に、鳩山内閣の時には、「少なくとも県外、できれば国外」と言って、また辺野古に戻ってきた訳でありますので、そういう意味のお詫びもしっかりとし、説明責任を果たしながら、ご理解を求めていくための努力をしていくということに私は尽きるのではないかと考えております。
琉球新報 滝本記者「普天間問題についてですが、政権交代の意義として戦略的思考とマネージメントの無さというものが、国民に希望を失わさせているということなのですが、まさに普天間移設について、野党時代に大臣が沖北委員長をされていたときに、琉球新報のインタビューにもお答えいただいて、辺野古への移設というもの、キャンプシュワブに移すという計画がそもそも無理だったと、きれいな海を埋め立てるのは駄目だと環境面からもおっしゃっておられて、まさに辺野古に移すという、県内移設ということ自体が戦略的思考もなく、マネージメント上も問題があるということで、ずっと14年間移設が進んでこなかったと私は考えているのですが、そういう意味からして、またそこに戻ってきたということが、今回の移設反対の世論がこれだけ高まっているという状況も含めて、やはり現実的に無理なのではないかというように思うのですが、その部分、過去におっしゃられた発言の趣旨も踏まえて、大臣は今この日米合意、改めて今あるものをどうお考えかということをお伺いしたいのですが」
前原外相「鳩山さんも含めて、我々民主党は、野党時代に普天間飛行場の、「できれば県外移設、そして国外移設」ということを目指してきた訳です。その中で現実に政権を取る中で、なかなかそれは難しくて、結果として鳩山政権の末期になりますが、普天間の移設先はやはり辺野古にということで戻ってきたということであります。
私は、そのことによって沖縄の皆さん方の期待値を上げてしまって、期待値を上げたにもかかわらず、結果的に辺野古に戻ってしまったことに対する怒り、そういったものがあるということは、私は否定をいたしません。
しかし、さまざまな経緯の中で、私も沖縄担当大臣として、外務大臣や防衛大臣が、あるいは官房長官がご努力をされていた経緯というのは、よく見させていただきましたが、そういった中にあって、結局は、苦渋の選択として辺野古に戻ってきたということでございます。
それをベースに日米間での合意を行って、そして専門家の協議で8月末にある一定の方向が決まった訳でございまして、我々としては、この日米の合意に基づいて、沖縄の皆さん方にそういった紆余曲折をお詫びをしながら、なんとか受入れていただき、基地負担の軽減にも全力で取り組み、トータルとして沖縄の皆さん方の負担軽減に我々は名実共に努力していくということをご理解いただくために、誠心誠意、応対するしかないのではないかと思っております」
前原まで、「野党時代に大臣が沖北委員長をされていたときに、琉球新報のインタビューにもお答えいただいて、辺野古への移設というもの、キャンプシュワブに移すという計画がそもそも無理だったと、きれいな海を埋め立てるのは駄目だと環境面からもおっしゃっておられ」たとは驚きである。野党時代は何を言っても許されることになる。許される条件は「苦渋の選択」ということであろう。しかしこの「苦渋の選択」は民意を一切排除したキーワードとなっている。
民意を一切排除しても許される政治上の「苦渋の選択」とは何を意味するのだろうか。アメリカの外交及び防衛上の意思をより優先させた「苦渋の選択」であった。
外国の意思を優先させて民意排除を前提としているなら、その姿勢を一貫させるべく機動隊を大動員して強権的に基地建設を進めたらどうなのだろうか。建設に反対する沖縄住民のデモ隊を力で排除する。そうすることによって民意排除の姿を誰の目にもはっきりと見える形で曝すことができ、自分たちを正しい場所に置いて民意を合法を装って排除するよりは正直というものであろう。
機動隊を動員して民意排除を具体化させ、政府が傷つけば、民意排除とのバランスが僅かながらでも取れる。場合によっては次の選挙で大敗する全うなバランスを取る可能性も期待できる。
鳩山首相は「国外、最低でも県外」と沖縄県民の「期待値」を上げておきながら、民意として現れたその「期待値」を裏切り、「合意をした訳ですから」と沖縄民意の排除によって成立させた「合意」という内実を無視し、そのような「日米合意」を「米国はやはり日米の合意というものをしっかり尊重して日本にそれを着実に履行することを求めてくるだろうと思います」と絶対視する立場にのみ立ち、アミテージが「日米合意は国際合意なので拘束力を持つことは事実だが、去る名護市議会議員選挙や11月の知事選挙の結果によってはその実施が不可能になるかもしれない。『難しい』と『不可能』は違う。今はまだ『難しい』という状況だ」と指摘してはいるが、現在の沖縄県民の民意からしたら、11月の沖縄県知事選の結果予測は「不可能」に近い状況を示しているのだから、「今後話し合いをしていく中で、米国の考え方というものをしっかりと私も感じ取らなくてはいけないと思っております」と米国の出方を待つ一方の受け身の姿勢を取るのではなく、沖縄県民の民意としての「期待値を上げてしまった」ことの責任を取るためにも日本側から働きかけて沖縄の民意を代弁した日本側の「考え方」を説明すべきではないだろうか。
だが、前原外相にはそういった発想は皆目ないらしく、あるのは「米国はやはり日米の合意というものをしっかり尊重して日本にそれを着実に履行することを求めてくるだろうと思います」、あるいは「今後話し合いをしていく中で、米国の考え方というものをしっかりと私も感じ取らなくてはいけないと思っております」と、沖縄民意排除が成立せしめた「日米合意」をアメリカ次第の実現要素とのみ位置づけていて、新外相としての指導力、リーダーシップがどこ見も見えない。
このような指導力、リーダーシップの欠如とアメリカ次第の姿勢を以て対米追従姿勢と言わないだろうか。これが菅首相の指導力、リーダーシップに対応した前原外相の指導力、リーダーシップだとしたら、限界を感じざるを得ない。