黄元北朝鮮書記訪日を費用対効果の点で事業仕分けすべき

2010-04-09 09:22:21 | Weblog

   

 1997年、チュチェ思想に関する講演のため訪日した直後、帰路の中国の北京で秘書の金徳弘(キム・ドッコン。朝鮮労働党中央委員会資料研究室副室長)と共に韓国大使館に赴き亡命を申請、韓国に亡命した朝鮮民主主義人民共和国思想家でチュチェ思想(主体思想)の理論家であり、金正日側近黄長(ファン・ジャンヨプ)元北朝鮮書記(Wikipedia)がアメリカ訪問、講演後の4月4日に訪日。翌5日午前、都内の宿泊先で中井洽(ひろし)拉致担当相と会談。同5日午後、中井氏、中山恭子自民党参院議員ら約10人の国会議員を前に拉致問題や金正日党総書記の体制について約2時間、非公開で講演と質疑応答。同5日夕に拉致被害者の家族会のメンバーらと面会。

 6日に非公開で拉致被害者家族や警察関係者、防衛省、外務省、米国大使館関係者等を相手に北朝鮮情勢を巡って講演。そして8日夕方、成田空港から離日している。

 来日は訪米後日本に立ち寄る形の非公式のもので、日程も非公開、中井洽拉致問題担当相の招致による形式だそうだ。

 黄氏のワシントンでの講演発言を《拉致「大きな問題とは思わない」 黄・元書記が米で講演》asahi.com/2010年4月1日10時48分)が伝えてる。

 〈日本人拉致問題について、1997年2月の亡命前から「被害者が通訳として使われていたことは知っていた」〉ということだが、〈自らの関与は完全に否定した〉という。

 さらに、〈北朝鮮にいた当時は「多忙で、問題に関与する理由も興味もなかった」と説明。被害者数などの詳細は「知らなかった」と述べた〉上で、〈「率直に言って大きな問題とは思わない」とし、第2次世界大戦中の日本による朝鮮人被害者と拉致被害者の数を比べて「相対的にささいな問題」と指摘。「日本の懸念ももっともだが、国際的な場でより関心を集めるには、北朝鮮の人権侵害問題の本筋と関連づけるべきだ」と強調した 〉と、彼の中では日本人拉致問題は小さな問題に過ぎないということ明らかにしている。

 拉致被害者家族とは、「要請があれば喜んで再会する」が、実現すれば拉致被害者家族との面会は2003年のソウル以来となるが、「大きな違いはないだろう」と語ったそうだ。

 既にここで拉致に関わる新たな情報は持ち合わせていないことを自ら証言している。日本側から言うなら、新たな情報は期待できないことが既に訪日前に分かっていたということである。

 では、何のために訪日したのかというと、「日韓、日米韓の連携強化に役立つため」だとしている。

 黄氏の訪日目的が日本側の訪日要請の趣旨に添って一致しなければ整合性が取れない訪日受諾と訪日要請ということになるが、中井洽拉致問題担当相の招致による訪日であるなら、中井氏自身がそもそもからして整合性を無視していたということにならないだろうか。

 記事は最後にこう結んでいる。

 〈黄氏は金正日(キム・ジョンイル)総書記も学んだ金日成(キム・イルソン)総合大学で総長を務めるなど要職を歴任し、北朝鮮の国家イデオロギー「主体思想」の創始者として知られる。訪米は2003年10月以来で、2回目。 〉――

 中井氏が整合性を無視した黄氏の訪日だったのか、そうでなかったのか、《「拉致」取り組みアピール=黄元書記訪日、冷ややかな目も-中井担当相》時事ドットコム/2010/04/05-17:46)から見てみる。

 記事が、〈「拉致問題で何らかの進展になる」として中井氏が主導〉した訪日だと伝えていることを先ず挙げておく。記事自体は取り上げていないことだが、黄氏の訪日目的と齟齬を来たしていることを伝える指摘となっている。〈昨年10月、ソウルを訪れ、韓国政府高官に黄氏の訪日を要請していた〉もので、その実現だと。

 訪日招請の主目的は拉致問題進展に供する情報を得るためであって、黄氏側が目的としていた「日韓、日米韓の連携強化に役立つため」を日本側は目的としていなかたったということであろう。

 当然、訪日した黄元北朝鮮書記を介して「拉致問題で何らかの進展」を図る情報を手に入れることができなかった場合、黄氏の訪日目的も日本の訪日招請も意味を果たさなかったことになる。

 ところが記事はあからさまに、〈今回の黄氏の訪日で、新たな情報がもたらされる可能性は低い。政府内には「中井氏のスタンドプレー」を冷ややかに見る目もある。〉と、上記「asahi.com」記事が新しい情報を持ち合わせていないことを指摘していたと同様の内容で一刀両断気味に訪日招請の無意味を伝えている。

 理由は、〈思想面から北朝鮮の独裁体制を支えた黄氏は、拉致については詳しく知る立場になかった〉こと、外務省幹部の発言として〈「黄氏が拉致について新しい情報を持っているなら、これまでに日本側に伝えていたはずだ」〉ということを挙げている。

 さらに記事は、〈政府内では、黄氏が訪日しても拉致問題の進展につながる情報は得られない、との見方が多い〉とその効果を伝えた上で、〈黄氏の講演後、中井氏も「(拉致新情報は)あったということではない」と認めざるを得なかった。〉と、中井氏本人の無効果証言を引き出している。

 外務省としても訪日の効果がないことを知っていたからこそだろう、〈外務省幹部は「今回の案件は中井氏が仕切っており、外務省はかかわっていない」〉という立場を取っていた。いわば、中井氏の独り相撲だと言っている。

 ところが中井氏は〈大韓航空機爆破事件の実行犯、金賢姫元工作員の訪日についても積極的で、5月にも実現の方向で調整中だ。〉としている。

 だが、金賢姫に対する日本側の事情聴取は既に2度行われている。麻生前政権の中曽根外相が《09年1月30日の記者会見》で次のように述べている。

(問)金賢姫さんの件ですが、大臣は以前、日本政府としても話を聞きたい、田口さんご家族との面会も進めていきたいということを仰っていましたが、その後の調整状況等如何でしょうか。

 中曽根「私達としては、以前私が申しました通り、この面会が実現できるよう出来るだけの努力を続けております。事情聴取についても過去聴取したことがある訳ですが、引き続いて外務省としては努力している最中です」――

 面会実現努力が同年4月28日の場面に結びついた。《金賢姫元死刑囚の新証言が明らかに》TBS/09年4月30日21:10)
 
 金賢姫に対する事情聴取が09年4月28日、韓国の情報機関の立ち会いのもと日本の外務省、警視庁公安部、内閣調査室の関係者によって午後3時半から2時間以上に亘り行われ、「81年4月から83年3月にかけて、工作員として日本語や日本の習慣に関しての訓練を受けていた時、ピョンヤン市内の招待所で同僚のキム・スクヒ工作員の教育係だった横田めぐみさんと何回も会い、よく話をしていた。めぐみさんとは同僚の紹介で親しくなった」、(めぐみさんについて)「物静かな人に見えた。北朝鮮は『死亡した』と主張しているが、生きている可能性が高いと思う」といった証言を引き出している。

 記事は事情聴取実現の経緯を対北朝鮮融和政策の見直しを進める保守イ・ミョンバク政権が日本人拉致事件に理解を示していることもあるからとしているが、外務省、警視庁公安部、内閣調査室の関係者が雁首を揃えて行った2度目の事情聴取である以上、彼女が保持する日本人拉致に関わるすべての情報を可能な限り引き出したはずである。引き出せない程、バカ揃いではなかったはずだ。

 またこの事情聴取から約1カ月遡る3月11日に金賢姫の日本語の教育係だったという拉致被害者田口八重子さんの兄の飯塚繁雄氏と長男の飯塚耕一郎氏が金賢姫と韓国釜山市で面会している。

 そのときも金賢姫は自身が知り得る日本人拉致被害者についてのあらゆる情報を提供し、帰国後の二人を介してその情報を日本政府は把握しているはずである。

 例え中井拉致担当相の大努力によって金賢姫の訪日実現に成功したとしても、黄元北朝鮮書記の訪日と同様に、「金賢姫が拉致について新しい情報を持っているなら、これまでに日本側に伝えていたはずだ」ということになりかねず、〈「新たな情報がもたらされる可能性は低い。政府内には「中井氏のスタンドプレー」を冷ややかに見る目もある。〉という場面の再演の可能性は高い。

 勿論、黄氏の訪日も彼自身の目的と日本側が求める目的が違っていても、また金賢姫の訪日にしても、新たな情報がなく、単なる「中井氏のスタンドプレー」、中井氏自身を売り出すセレモニーで終わったとしても、拉致問題に関する世論喚起の役には立つかもしれない。

 だが、いくら世論喚起に役立ったとしても、そのことに反して拉致解決に向けた実務の点で進展をもたらすことに何ら役立たない訪日であるなら、世論喚起も当座のみの効果で終わり、真の目的を違えることになる。

 例え「中井氏が仕切っており、外務省はかかわっていない」中井氏主導の黄氏訪日だったとしても、国家予算――国民の税金を使った訪日だったはずである。拉致解決進展に何ら役立たないということなら、「中井氏のスタンドプレー」、中井氏自身を売り出すセレモニーで済ますわけにはいかない。

 その訪日効果だけではなく、訪日を計画した中井氏本人の責任を厳格に問うためにも、また同じ効果のない政治行為を繰返させないためにも、事業仕分けの対象とすべきではないだろうか。

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