《在日米軍再編:普天間移設 首相の「腹案」、閣僚間で検討--外相》(毎日jp/2010年4月1日夕刊)
鳩山首相が3月31日の党首討論で「腹案がある」と基地問題解決の成算があるが如きのように発言したことに対して、日本の岡田外相がハイチ支援国会合に出席中のニューヨークの国連本部で記者団に次のように述べたという。
「閣僚間で検討してきた考え方のことをおっしゃるのだろう」
記事題名は首相の「腹案」を閣僚間で検討しているというニュアンスとなっているが、岡田外相の言い方は逆に閣僚間で検討してきた様々な内容を指しているのではないのかと推測する形となっている。
そもそもからして岡田外相は内閣に於ける立場上、鳩山首相の「腹案」の存在を補強する立場にある。詳しい中身は鳩山首相が党首討論で、「この地域ですよということを申しあげたとたんに、やはりその地域から、やはりこの地域はやはり難しいよ、いろいろなお声を頂戴することは分かっていますから」と言って明らかにしなかったように隠せば済むことで、「腹案」の存在自体は立場上明確に肯定しなければならないはずだ。
だが、それができなかった。岡田外相やその他の関係閣僚にこれが私の「腹案だ」という形で鳩山首相から明確に伝えられてはいなかったということであろう。
また、「閣僚間で検討してきた考え方」ということなら、既にマスコミが取り上げている候補地のことを言っているのであって、特別な案ではないことになる。
岡田外相が知らない「腹案」が別にあるとしたら、昨日のブログで既に取り上げているが、党首討論での首相の発言の「当然のことながら、腹案に関しては関係閣僚で議論をして方向性を決めたのだから、共有している。そして、その考え方に基づいて、今、交渉のプロセスに入ろうとしているのだから、その考え方は1つだ」(「NHK」記事)にしても、「私には今、その腹案を持ち合わせているところでございます。そして、関係の閣僚の皆様方にも、その認識の下で行動していただいているところでございます」(msn産経)にしても矛盾した物言いとなる。
当然、岡田外相にしても関係閣僚の一人として知り得る立場にあり、共有した「腹案」でなければならない。
知り得て、共有し、「その認識の下で行動していただいている」ということなら、少なくともここニ、三日前のことではなく、一定期間前から検討してきた「腹案」ということでなければならない。
だが、ここ数日間の記者会見で鳩山首相は「腹案」について一言も触れなかった矛盾については昨日のブログに書いた。
岡田外相にしても「腹案」の存在を補強するどころか、「閣僚間で検討してきた考え方のことをおっしゃるのだろう」と推測するしかなかった。
それとも岡田外相は関係閣僚の一人に入っていなかったのだろうか。
3月2日に平野官房長官と北澤防衛相がアメリカのルース駐日大使と会談してそれまでの政府の検討状況を伝えている。
《“米大使に提案していない”》(NHK/10年3月4日 12時17分)
平野官房長官「アメリカのルース駐日大使には、5月末までに結論を出すため、政府・与党の検討委員会で作業を進めていると伝えたが、キャンプシュワブ陸上部への移設を提案したなどという話をするわけがない。今後は、必要があればまたお会いするが、アメリカとの対外交渉を誰がやるかについては、担当閣僚で話し合って決めなければならない」
だが現在、政府はキャンプシュワブ陸上部にヘリポートを建設してといった計画を有力な一つの案としている。「5月末までに結論を出すため、政府・与党の検討委員会で作業を進めていると伝えた」だけでは中身のない話しになるということと併せ考えると、「提案したなどという話をするわけがない」とは“狼中年”もここに極まれりではないだろうか。
記者「ルース駐日大使から、さきの日米合意に基づくキャンプシュワブ沿岸部への移設案がベストだという話はなかったのか」
平野官房長官「会話の中にはあったかもしれない」
あったか、なかったかいずれかであって、「あったかもしれない」という推測は成り立たないはずだが、“狼中年”だから、成り立たない推測を平気で使う。内閣支持率の危険水域接近に相当貢献をしているに違いない。
現行案がベストはアメリカ側の終始一貫した基本的姿勢である。当然、ルース大使は口にしたはずである。
日本側平野・北澤とアメリカ側ルース会談に日本側の関係閣僚である岡田外相が加わっていなかったことがマスコミに取り沙汰されることとなった。
《岡田外相が強調「私と官房長官と防衛相は仲良しトリオ」》(asahi.com/2010年3月6日20時3分)
3月6日の岡田外相の札幌市内講演。
岡田外相「外務大臣は外されているのではないかとメディアは書くが、私と平野長官と北沢大臣は昔から非常に仲が良いトリオだ。(平野、北沢両氏と)お互いよく連絡を取り合いながら作業をしている」
(講演後の記者会見)「(2人は)非常に古い友人なので私に負担をかけてはいけないという気持ちがあるのだろう。2人に感謝をしている」
何となく無理した平野、北澤に対するエールに聞こえなくもない。
記事は、〈移設問題での米側の交渉窓口であるルース氏と平野氏らとの会談に、対米交渉の責任者である岡田氏が同席していなかったことには外務省内からも疑問の声が出ている。〉と解説している。
岡田外相が鳩山首相の「腹案」からルース大使との会談のときのように仲間外れにされていために、「閣僚間で検討してきた考え方のことをおっしゃるのだろう」と推測するしかなかったとしたら、岡田外相は「腹案」を知らされないままアメリカを訪問、3月29日にゲーツ米国防長官と会談、29日夜にG8外相会合開催のカナダの首都オタワ近郊の町でアメリカのクリントン国務長官と会談したことになる。
このようなことは可能だろうか。鳩山首相自らが言っているように「現行案と比べて、少なくとも同等か、それ以上に効果のある」「腹案」なるものが実際に存在していて、アメリカ側が後になってそのことを知ることとなった場合、岡田外相との会談は何だったかという問題が発生することになるが、そのことよりも、日本の閣僚間に於ける情報統一や情報共有に関わる感覚、情報形成システム自体に疑いの目を向けられることとなる。大きく言えば、政治そのものが機能していない欠陥の存在が疑われることになる。
「腹案」の中身をアメリカ側に示して内々にでも相手に伝えないことには、いつまでも現行案がベストだとする相手の姿勢を変えることもできないことにもなる。
このように見てくると、鳩山首相が言っていた「腹案」は岡田外相が言っていた「閣僚間で検討してきた」レベルの、いわば既にマスコミが取り上げているいくつかの案に過ぎず、党首討論で首相の言葉上の強がりが言わしめた「腹案」にしか見えない。
もしそうだとしたら、このことは決して小さなことではない。誠意というパーソナリティに関わってくる問題だからだ。