――民主党に衆・参両院過半数のチャンスを――
民主党支持者であるにも関わらず、最近鳩山攻撃のブログ記事を書くことが多くなってしまった。テレビのニュースで聞く一言、あるいは新聞やインターネット記事の見出し、さらに記事の中に書き込まれた発言に矛盾を感じて放っておけなくなってしまう。
今回は昨3月31日に行われた鳩山首相と自民・公明両党首との2回目となる党首討論の中で飛び出した言葉で、多くのインターネット記事の見出しに使われた。
例えば(2010年4月1日0時23分)の「asahi.com」記事では、《「普天間移設先に腹案ある」首相明言 地元理解が前提》となっている。
「腹案」があるが事実としたら、直近の発言と矛盾することになる。まさか強がりではないだろうなと思いつつ、中継を見ていなかったから、どんな遣り取りの中で「腹案」が飛び出したのか、「msn産経」記事を利用することにした。
谷垣自民党総裁が普天間移設先について、「3月26日の記者会見で3月末までに政府案を一本化したいと、こうおっしゃいましたか」と聞いたことから始まった応答の中で口にしている。
《【党首討論詳報(3)】普天間移設案、首相「腹案すでに用意している」》(2010.3.31 17:11)
首相「普天間の件で申しあげれば、私は、確かに3月に、3月をメドに、国民の皆様方には必ずしも、まだ公表する段階ではありませんが、政府としての考え方をまとめて参りたいと、そのようには申したところは事実でございます」
谷垣氏「3月26日の会見で、『3月末までに政府案を一本化したい』といわれたというのは、今、そういうことを言ったというご答弁ですね。それで次に聞きます。3月29日、ぶら下がり会見で、『今月じゃなきゃならない、そういうことは法的に決まっているわけではありません』と言われましたか」
首相「私が申し上げたのは、5月の末までに、かならず政府の考え方を、政府の方針というものを、沖縄を始め日本の国民の皆様方にも理解を求め、さらにはアメリカの皆様方にも理解を求めたものを作るということをお約束をいたしました」
「そのためには、当然、3月末ぐらいまでには、政府としての考え方を決めていく必要があるのではないかという思いで、当然のことではありますが、私には今、その腹案を持ち合わせているところでございます。そして、関係の閣僚の皆様方にも、その認識の下で行動していただいているところでございます。そのような中で、私は3月末をメドにして政府としての考え方というものの、を、一つに、考え方をですよ、決めて参りたいということを申し上げたことは事実でございますが、当然のことながら、法的に3月末までに何かを決めなければならないという状況ではないことは、これは谷垣総裁もおわかりの通り」
「今、大事なことは5月末までに、しっかりとした政府案というものをお認めいただくと。そのためのプロセスを今、行っている最中でございまして、ぜひ国民の皆さんには政府の考え方を任せていただいて、アメリカに対しても、そして、特に地域の皆様方、関係の出てくる地域の皆様方にもご理解を願いたいと思っているところでございます」
「大事なことは、今日まで、特に平和を維持するために沖縄の皆様方が大変に貢献をしてくださったということに、私は全国の国民の皆さんが感謝をすべきだと思います。そして感謝の気持ちの中で、これからは、全国の皆様方が沖縄の今日までの貢献というものに感謝をしていきながら、むしろ、全国の皆様方に、その負担を分かち合うという思いを共有をしていただきたい。今日はあえて国民の皆様方にそのことも申しあげたいと思っています」
谷垣氏「私はね、本当にあなたに聞きたいことは、言ったとか言わないとか、そういうことじゃないんです。そんな3月中に解決しようなんて法律に書いてないなんて、当たり前のことですよ。私が言ってるのはそういうことじゃなくて。いいですか。そのように3月に回答を出したい、まとめたいとおっしゃったのはあなた自身なんですよね。それを、その事実を、総理自身が自分のこととして意識しておられるかどうかと、こういうことを問うてるわけですよ」
「つまり、これは、総理、あなたの総理としての資質にかかわった質問を私はしているわけです。つまり、自分がおっしゃったことを、何か他人ごとのようにおっしゃる、その態度。そして人に転嫁していく。あたかも自分は被害者であるかのように振る舞う。こういう態度が見えてるわけですよ。法律では決まっていない、しかし3月中に方向を出すと、こうおっしゃったわけですよね。今日は3月31日です。いつまでにきちっと決めるんですか」
首相「まず申しあげたいのは、何でこんなに長いこと、本来、普天間の危険性を除去しなければならない、それが先にあったにもかかわらず13年、14年かかってしまっているかと。それだけ大変難しい仕事を今、新政権において果たそうとしているということをぜひご理解をいただきたい」
「私は、決して、自分の責任を他人に転嫁しようなどと、まったく思っていません。新政権を、やはり新政権を担っている以上、だから今まで13年、14年かかったとしても、これから半年の間にしっかりと新しい普天間の移設先を探しますよと。そのためには、アメリカの皆さんにも、あるいは沖縄を始めとする関係のある皆さん方にもご理解をいただかなきゃならない。そのために、腹案というものを用意をしています。そういったじゃありませんか。私としての今の考え方というものはもうすでに用意はしています」
「ただ、それを国民の皆さんに、この地域ですよということを申しあげたとたんに、やはりその地域から、やはりこの地域はやはり難しいよ、いろいろなお声を頂戴することは分かっていますから、だからこそ今、政府がプロセスの中で考え方を一つに取りまとめていきながら、その行程の中で、アメリカに対しても、あるいは関わりのある方々にも、交渉をこれからして参りたいと思っているところでございまして、その、くどいようですが、腹案はもうすでに用意しているところでございます」
「NHK」記事――《“腹案ある 現地了解不可欠”》(10年3月31日 19時21分)では、「腹案」部分は次のような内容となっている。
首相「これまで13年かかって、辺野古の海にくいひとつ打てなかったではないのか。新政権になって、現行案は実現可能ではないとわかったから、新しい移設先を見つける努力をしている最中だ。私の腹案はあるが、問題をしっかり解決していくためには、水面下の交渉も含めて、国民におおっぴらにすることは、まだできない時期だ」
首相「腹案は、現行案と比べて、少なくとも同等か、それ以上に効果のある案だと自信を持っている。さらに、普天間基地の危険性の除去は、さきの日米合意で移設を完了するとしている2014年より遅れることはできず、その前に解決したい」
首相「ある時期になったら現地にお邪魔し、国民の平和を維持するために理解をいただきたいと真剣に対話したい。当然、現地の了解なくして、案を進めることにはならない。現地の了解はとりつけなければならず、そのために全力を傾注することを約束する」
谷垣総裁「もし5月末までに移設先が決められなければ、日米間の信頼も決定的に損なう。そして、沖縄の住民をはじめ、いろいろな人の心をもてあそんで、政治と国民の信頼関係も裏切ったことになる。その時には、退陣しなければならない。退陣しないのであれば、信を問わなければならない。私たちは受けて立つ」
首相「これから、アメリカに強く交渉していく立場の人間として、できなかったらどうするなどという弱い発想では、交渉にも何にもならない。命がけで、この問題に体当たりで行動し、必ず成果をあげるので、国民にも政府を信頼してもらいたい」――
記事は最後に党首討論後の記者会見での首相の発言を伝えている。
首相「できなかったら辞めるなどといった次元の話ばかりが出てきているが、それよりもまずは成し遂げることだ。交渉がうまくいかなかったら、総理大臣は辞めるんだという話を先に言われたら、交渉力を持てるはずもない。その意味では全力を尽くすのみだ」
――「腹案は、鳩山内閣の関係閣僚全員に共有されているのか」
首相「当然のことながら、腹案に関しては関係閣僚で議論をして方向性を決めたのだから、共有している。そして、その考え方に基づいて、今、交渉のプロセスに入ろうとしているのだから、その考え方は1つだ」――
「腹案は、現行案と比べて、少なくとも同等か、それ以上に効果のある案だと自信を持っている」とは、何とも心強い「腹案」であるが、自身を「アメリカに強く交渉していく立場の人間」に擬(なぞら)えているとは、指導力がないという国内評価に反する自信過剰どころか、思い上がりさえ感じる。
尤も指導力のない人間程、指導力があると見せかける強がりが必要となる。
「msn産経」では、「腹案を持ち合わせているところでございます」、「腹案はもうすでに用意しているところでございます」と二度言っている。
谷垣総裁が指摘しているように首相は3月26日の会見で、「3月末までに政府案を一本化したい」と言い、3月29日のぶら下がり会見で、「今月じゃなきゃならない、そういうことは法的に決まっているわけではありません」と発言していて、両日共「腹案」には一言も触れていない。
いわば少なくとも29日の時点で「腹案を持ち合わせてい」たなら、「今月じゃなきゃならない、そういうことは法的に決まっているわけではありません」などと言う必要はない。
「3月末までに政府案を一本化するとしたとおりに腹案はもうすでに用意しているところでございます」と言えば済むことである。どんな腹案かと聞かれたなら、党首討論で述べたことをそのまま前倒しして、「それを国民の皆さんに、この地域ですよということを申しあげたとたんに、やはりその地域から、やはりこの地域はやはり難しいよ、いろいろなお声を頂戴することは分かっていますから、今ここで申し上げるわけにはいきません」と片付けることもできる。
このような展開を経ていたなら、当然、3月中に政府案を一本化すると言ったことに関して党首討論でこのことで追及されることもなかったはずである。
次の日の30日朝の首相公邸前の記者との遣り取りの中でも、首相は「腹案」に一言も触れていない。《“数日ずれ 大きな話でない”》(NHK10年3月30日 11時36分)
29日の3月一杯からずれ込む可能性に言及した「今月中でなければならないと法的に決まっているわけではない」の発言を再度尋ねられて――
「3月中にまとめたいというのは、5月に政府として、沖縄をはじめ国民に理解をいただき、さらにはアメリカの理解もいただく案として認めてもらうには、大体このくらいが目安だと思ったからだ。1日、2日、数日ずれるということが何も大きな話ではない。大事なことは、5月にしっかりとした案を理解いただくということだ。5月末にしっかりとしたものを皆さんにみてもらうための努力を、今、一日一日頑張っているところをご理解願いたい」
このように答えているが、29日に持ち合わせていなかったとしても、もしこの時点で「腹案を持ち合わせてい」たなら、「1日、2日、数日ずれるということが何も大きな話ではない」などと言う必要も生じない。
しかも昨年内決着を先送りした上に3月末以内政府案一本化だと3ヶ月間の猶予期間を設けているのだから、小じっかり約束を果たすべきを1日、2日のずれなど「何も大きな話ではない」とは小馬鹿にした言い草となる。
また「NHK」記事の「当然のことながら、腹案に関しては関係閣僚で議論をして方向性を決めたのだから、共有している。そして、その考え方に基づいて、今、交渉のプロセスに入ろうとしているのだから、その考え方は1つだ」の首相発言に矛盾する、31日の党首討論以前には一切触れなかった「腹案」となる。
自らが編み出した「腹案」に従って、「関係の閣僚の皆様方にも、その認識の下で行動していただいているところでございます」(msn産経)とも矛盾することになる。
「腹案」を前々から準備していなければできない、「関係閣僚で議論をして方向性を決め」るであり、「その認識の下で行動していただ」くだからだ。
それとも党首討論で明かすつもりで、大事にしまっていたのだろうか。だとしても、「腹案」を隠して「今月じゃなきゃならない、そういうことは法的に決まっているわけではありません」、あるいは「1日、2日、数日ずれるということが何も大きな話ではない」と言っていたとしたら、回りくどいだけではなく、手が混み過ぎている。大体が沖縄県民に対して失礼になる。
「腹案」とは「大辞林」(三省堂)によると、「予め心の中に持っている考えや計画」と書いている。つまり、こういった案が腹にある、既に存在させているということであろう。未完成の場合もあるかもしれない。煮詰めて完成したアイデアに持っていくと言うこともあるだろう。だが、基本的な形は頭の中で描いていなければならない。
と同時に、「腹案」は成算ある“案”でなければならない。いわば成功する見通しの立つ案だということである。成功する見通しがあるかどうかも分からないのに「腹案」とは言えないはずだ。
成算ある“案”だからこそ、「腹案は、現行案と比べて、少なくとも同等か、それ以上に効果のある案だと自信を持っている」と胸を張ったのだろう。
だが、「腹案は、現行案と比べて、少なくとも同等か、それ以上に効果のある案だ」と言うからには、アメリカの要求に応えるだけではなく、沖縄県民の国外移設・県外移設の要求にも十分に応える「効果のある案」でなければならない。
首相自身がそう訴えてきたからだ。
当然、「ある時期になったら現地にお邪魔し、国民の平和を維持するために理解をいただきたいと真剣に対話したい。当然、現地の了解なくして、案を進めることにはならない。現地の了解はとりつけなければならず、そのために全力を傾注することを約束する」としたこの「現地」は沖縄以外を指しているはずである。
もしこの「現地」に沖縄を加えているとしたら、首相自身が言ってきたことを自ら裏切る
努力目標と言うことになる。
党首討論では様々に立派な言葉を吐いていたようだが、言葉がどれ程の成果を生むか期待できるかと言うと、唐突に持ち出した「腹案」がそれ以前の首相の言動に一切反映されていない矛盾からすると、強がりばかり感じるのみで、たいした期待はできないように思えて仕方がない。
信用できないと言うことである。