麻生の言う「経済を成長させてパイを配分する」は戦後最長景気と景気循環の法則が否定するインチキセールス

2009-08-20 12:21:39 | Weblog

 18日夕方、NHKテレビが《2009衆院選 党首に聞く》と銘打って、6政党6党首の主張を展開させた。自民党と民主党の国民生活に関わる箇所のみを取り上げた。

 ――麻生総理、経済成長戦略について伺います。経済全体のパイを大きくする成長戦略を重視されていますが、民主党は家計を直接支援し、内需主導の経済を創り出すとしています。これをどう評価しますか。

 麻生「これは自民党は間違いなく、健全な保守主義だと思っています。即ち、経済を成長させて、その上で、そのパイをみんなに分配する。健全な保守主義の基本だと思っております。民主党の方は、これはバラ撒き、社会主義、という性格なのではないかと、簡単に言えば、そうだと思います。

 少なくとも成長戦略、というものが、もしくは、成長政策が、全く書かれていない、と思っております。何となく、バラ撒き政策をして、成長政策と名付けておりますけれども、あれは成長政策と言わない。少なくとも、高速道路をタダにして、もしくは子供手当てをして、それが成長に、政策と言えるかと言えば、その財源はどうされるんですかと。

 また、子供は、みなさん平等に2万6千円ずつですか、払われるということになるんですが、その財源はどうされるんですか。みんな一律にされると言っておられるんですよ。その財源はどうするんですか。5兆数千億かかる、と言われております。

 また、小さな子供がいないご家庭に於いては、これは子供手当てというものの点から、いくと、これは、扶養控除などなど、、多分切られる、と言うことになると思いますんで、その点は増税になるんだと思っております。

 それに対して自民党の成長戦略、というのは極めてはっきりしていて、先ず、戦略分野、分野ですよ、伸ばすべき分野としては、低炭素革命、そして二つ、二つ、二つ目がぁー健康長寿社会。そして、三つ目は、国民の魅力(こう聞こえたが)の発揮という戦略分野を立てて、その上で具体的な目標としては、向こう3年間で40兆円を超える需要をつくり出して、200万人の雇用を創出する。

 太陽、光発電と言うんですが、まあ、天井についている、屋根についている、あれは今後20倍にします。いうような目標を掲げる。実現するための政策、ということでは、エコカーの買い替え、には大幅に支援をし、また太陽光発電、などというものについては、買取りの制度、なんていうもの、こういったものをきっちり示していく。我々はそういったものをきちっとして成長戦略、政策を示しているのが一番の違いではないかと、そう思っております」・・・・・

 次いで鳩山民主党代表

 ――自民党との違いについて伺います。先ず経済運営についてなんですけれども、民主党は子供手当てなどで、家計を直接支援して、内需を拡大をしようと、いわゆるそういう内需拡大を通じて、まあ、自民党は来年度後半に2%の経済成長をと言ってますが、そうした内需拡大を通じて、どのくらいの成長が見込めると、いうふうにお考えですか。

 鳩山「私たちはですね、先ず、今お話がありましたように子供手当て、これは1年目は半額ということであります。2年度目が2万6千円、毎月お支払いさせていただくということを行います。

 さらに、いわゆる年金の問題についても国家プロジェクトで一生懸命、努力をして消えない年金に導いていこうと、いうことを行っていきたい。さらには高速道路の無料化とか、あるいは暫定税率の撤廃とか。こういうことを丹念に行っていきたい。

 既に今お話がありましたように、家計をですね、直接刺激をする。内需拡大をする。国民のみなさんの財布を厚くしない限り、いくらですね、経済政策を打った、打ったと言っても、今までの10年間で100万円程も、収入を減らしてしまっている制度でありますから、そう簡単に内需というものを刺激することはできない。

 私たちはその意味で、直接的な内需刺激、いうものを取っていきたい、いうことを考えています。

 1年目ではですが、今申し上げましたようにすべてが全部行うということではありません。従いまして、刺激ができる、という意味に於いては1%程度ではないかと思っておりますし、また様々な他の要因というものがこれから出てくる可能性もありますので、簡単なことは申し上げることはできないと思いますが、そのぐらい1%から2%ぐらい、我々とすればですね、この全額を行ったときには、それぐらいの効果、は十分にあると、そのように思っています」

 ――鳩山さん、その子供手当て、高速道路の無料化、それから農家への個別所得補償。こうした民主党の掲げる政策に魅力を感じる有権者たちも、果して本当に実現するんだろうかということを見極めようとしています。政権を取ったら、ホント-ニ、実現すると約束できます?

 鳩山「これはですね、今までの政権与党lがマニフェストを色々といいことを書いて、殆んど何も実現してこなかったのに、マニフェストというものの信頼性が薄いのかもしれません。でも、私たちは国民のみなさんとの契約として、マニフェストを真剣に議論して、つくり上げたものであります。

 従いまして、マニフェストに書いたものが(ママ)、必ず実現を致します。それは安心をして頂きたい。財源の問題は一切気にする必要はありません。端的に言えば、優先順位の高いものから行わせていただく。我々、16兆8千億円、全部行うと、かかると試算しております。

 その16兆8千億円を最優先させて頂きますので、その結果、今まで政府がやっている仕事の中で、事業の中で、できないものも出てくるのも止むを得ません。タダ、その殆んどが私共から言わせると、ムダ遣いのものであるから、できなくてもしょうがない。あるいは不要不急の仕事である、1年2年待っても構わない、そのように思っていますので、どうぞマニフェストの信頼性に関しては安心して頂きたい」

 ――財源についてですが、消費税率についてなんですが、まあ、今後4年間は引き上げないと言いますが、一方、先日麻生さんとの討論の中で消費税はいつまでも上げないで済まないことは認識していると、おっしゃいました。消費税をいつ、どのくらい引き上げることが必要になるんでしょうか。

 鳩山「私共はですね、先ず、消費税の増税などはという議論は、政治に対する国民のみなさんの信頼というものがなければ、絶対にできない話だと思っております。即ち、今の麻生政権、景気がよくないで、すぐにも消費税増税するみたいなことをおっしゃっていますが、こんなに支持率の低い政権で消費税の増税などできる話ではありません。

 先ず、ムダ遣いをなくすということを、徹底的に行って、国民のみなさんが政権はよくやっているなと、これならば信頼できるよと、言うことを聞くよという状況に先ずすることが大事であります。まだその状況になっていない。

 我々が政権を取って4年間、必死にムダ遣いというものを削減を致します。できるならば、一掃したい。そのように思っています。そのようにして一つには国民のみなさんの政治に対する信頼を戻す、いうことが不可欠であります。それから我々、社会保障、即ち、最低保障年金と言っておりますが、最低保障年金は税額、全額税で賄う、いうことを決めております。

 そのために将来20年かけて、徐々に徐々に移行させていくことにしたいと思っておりますが、20年後には当然、消費税率を上げなければならないということになります。考えてみれば、その中間ぐらいところで、消費税の議論というものを大いに行わなければならなくなる、そのように考えております。10年ぐらいの話だと思っております」

 ――今おっしゃいました最低保障年金の話なんですが、すべての人がですか、一定額の年金を受け取れるようにすると、いう制度で、その部分はですね、全額消費税で賄うと、今おっしゃいましたですねえ。そうしますと、医療や介護に当てる分が不足してしまうのではないかというふうな批判が与党側から出てるんですけども、これに対してどのようにお考えになりますか。

 鳩山「私共は医療に対しても2兆円、介護に対しても1兆円、さらに増やす必要がある。そのように試算をしております。なぜならば、医療もご案内のとおり、地域に於いてはお医者さん、いなくなる。あるいは看護師さんがいなくなる。介護の報酬があまりに低いものだから介護労働する方がいなくなってしまうと、いうことになってしまうんです。

 従って、私共は医療・介護に対しても、充実をさせていかなければならない。そのように考えています。そしてその財源は、既にその16兆円8千億円の中に入っておりますので、私共がいわゆる、ムダ遣いというものを一掃する。あるいは埋蔵金と言うものの手当てをする、と言うようなことによって、賄うことができる、そのように考えています」(以上)――

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 麻生は最初に「経済を成長させて、その上で、そのパイをみんなに分配する」と言っている。それが「健全な保守主義の基本だ」と。そして民主党の経済政策を「これはバラ撒き、社会主義、という性格なのではないかと、簡単に言えば、そうだと思います」と。

 だが、02年2月~07年10月のいざなぎ景気を超えた戦後最長景気では米国の過剰消費景気と中国の金融景気を受けた外需によってトヨタ、キャノンといった大手企業が軒並み戦後最高益の企業利益を弾き出したが、その利益が個人に還元されず、逆に奪って、雇用者所得は僅かにマイナスを記録するところにまで落ち込み、その影響を受けて個人消費は低迷して、麻生の言う経済成長に応じた「パイ」は個人には一切還元されることがないまま、「実感なき景気」と言われた。そして「100年に一度と言われる金融危機」の直撃が特に低所得者に打撃を与え、なお一層の個人消費の冷え込みを誘っている。

 戦後最長景気に於いてパイが「パイ」としての役目を果たさなかったのは世界を舞台とした世界各国の企業との企業間競争が激化して、それぞれが競争力を確保するために製品単価を下げる必要上、人件費を抑えたことによる雇用者所得の伸び率の減少が影響したということだが、経済成長が必ずしも利益配分の「パイ」につながらない例として記憶しておくべきだろう。

 となると、例え今後景気が回復することがあっても、企業間競争はさらに激しくなることを考えると、人件費の伸びは依然として期待しにくいという局面が続く恐れがあり、戦後最長景気時と同様、麻生たちが唱える経済成長が約束するというパイの保証は揺らぐ。

 また景気循環の法則から言っても、バブルの崩壊、そして今回の金融危機が証明しているように常に経済成長が保証されるわけではないから、麻生は保証のない経済成長を保証して、パイの分配を言うインチキセールスを国民に約束している過ぎないとも言える。

 常に経済成長は約束されない、経済成長を果たしたとしても、人件費を抑制したままの経済成長であったなら、戦後最長景気に於ける個人所得が証明しているように、自民党マニフェストが謳っている10年で手取り100万円増、1人当たりの国民所得を世界トップクラスといった「パイ」にしても、鳩山代表が言っていたように、「今までの10年間で100万円程も、収入を減らしてしまった」地点から100万円増の差引きゼロの地点に漕ぎつけることができるならまだしも、単に幻想を振り撒いただけのことで終わって、「100万円程も、収入を減らしてしまった」元々の地点に佇み続けることになりかねない。

 麻生は「自民党の成長戦略」の具体像として「低炭素革命」と「健康長寿社会」、「国民の魅力の発揮という戦略」の3つを掲げたが、麻生自身も一枚噛んで推し進めてきた小泉改革で社会保障費の自然増を毎年2200億円抑制しておきながら、「健康長寿社会」を謳うとは恥知らずもここに極まれりであろう。

 2006年度施行の障害者自立支援法で決めた障害者が福祉サービスを受ける際の利用料のほぼ無料から原則1割負担への変更、要介護認定基準の一時的改正で従来のサービスが受けられなくなった事態がどれ程障害者の負担を強いたか。いくら「健康長寿社会」を声高らかに謳ったとしても、過去の様々な改悪を払拭することはできないだろう。

 麻生は「低炭素革命」ということで「太陽光発電」を挙げたが、政府は家庭用太陽光発電設備に向けた補助制度を06年3月で打ち切っている。その結果、日本の2008年末の太陽光発電の累計導入量が200万キロワット弱にとどまり、スペインに抜かれて世界2位から3位に後退(「msn産経」)するという成果を挙げたのだが、地球温暖化防止が世界的に騒がれて、二酸化炭素の排出防止だと言うことで、今年(09年)の1月に復活、その見通しの悪さ、将来予測の見劣りからしたら、「あれは今後20倍にします」と自慢げに言う資格はない。

 しかも「太陽、光発電と言うんですが、まあ、天井についている、屋根についている」と誰もが知っている余分なことまで言っている。太陽光発電の知識に関して国民を知らない場所に貶める思い上がりが見て取れる。欧米では既に行っている家庭での太陽光発電の余剰電力を一定価格で電力会社が買い取ることを義務づける「固定価格買い取り制度」の導入を発表したのは今年の2月になってからのことで、「買取りの制度、なんていうもの、こういったものをきっちり示して」いなかった、世界的潮流に後追いしているだけのその後手後手の対策に過ぎない。

 以前テレビでやっていたが、アメリカでは巨大風車をまわす風力発電の電気を電力会社が買い取るそうで、広大な土地に何本も建てた風車の持主は「風がカネを生む」と笑いが止まらないといった嬉しさを隠しもせずに言っていた。尤も農作をやめて風力発電に代えたなら、持主に収入を保証したとしても、社会的には一長一短となる。

 「太陽光発電」は代替産業である。自民党はマニフェストで今更ながらに「太陽光発電の導入量を20年に20倍、30年には40倍を目標とし、太陽光世界一を目指す」としているが、増えた分、火力発電等の既存の発電施設の稼働率を下げることになり、最悪停止ということもあり、当然、人員の削減へと向かう。麻生は「向こう3年間で40兆円を超える需要をつくり出して、200万人の雇用を創出する」としている「需要」に関しは既存産業の需要減、「約200万人の雇用」に関しては労働力の移動を計算した差引きが行われなければならない。

 計算を含んだ「向こう3年間で40兆円を超える需要をつくり出して、200万人の雇用」だと言うかもしれないが、赤字国債大量発行の財政出動と中国向け輸出の好調で景気の下げ止まりをどうにか実現したが、景気先行きの懸念材料とされる完全失業率の高さや雇用者報酬のマイナス、個人消費の低迷を解消するところまでいっていない現在の状況は「今後3年間」も信用できないのだから、とても計算済みとは思えない。ハッタリ麻生の言うことだと、そこまで考えると、話半分で聞く程度の信用性しかないように思える。

 このように自民党の「経済を成長させて、その上で、そのパイをみんなに分配する」にしても、世界的に後手に回っている太陽光発電の普及やその買取り制度にしても、全幅の信頼が置けないのに対して民主党の「家計を直接刺激して内需拡大する」は既に触れたように少なくと景気の懸念材料となって個人所得を一部を除いて増やす政策であって、「経済成長のパイ」が確たる保証がない以上、より確かな保証となり得るのではないだろうか。



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