麻生の景気対策は「当たった」と言う薄汚い欺瞞

2009-08-19 12:21:33 | Weblog

 昨18日の衆議院選挙公示日、自民党総裁麻生首相は第一声の場所に八王子市を選んだ。その理由を〈若者が学ぶ大学が多く、「成長戦略を重視する党として未来を意識した」(周辺)ためだ。公明党との選挙協力も重視し、同党の支持母体・創価学会が創価大学など関連施設を同市内に置いている点も考慮。〉と「asahi.com」記事(《「景気策を最優先」「新しい政治興す」 総選挙公示》・2009年8月18日12時19分)が伝えていた。

 アキバのアイドルを自任、若者にこそ人気があると頭から信じ込んでいるらしいことも八王子を第一声とした理由にあるのではないだろうか。なら、なぜアキバにしなかったということになるが、柳の下に2匹目のドジョウを狙った、二番煎じ、三番煎じと批判されかねない恐れを避けたといったところだろう。

 大体が政治指導者は特に政治情報の経験を積んだ人間の批判に耐え得る政策、指導力を必要条件とするだろうから、そのことを基本に置いて若者であろうとなかろうと年齢、職業に関係なく誰が情報伝達の対象であっても、その批判に耐え得る情報を発信しなければならないはずで、そのことを考慮に入れた場合、「若者」を重点対象とする必要性は必ずしも重要とは言えない。

 大体が情報社会である。新聞・テレビ・インターネットで1日と時間を置かずに日本中にその映像と共に情報が伝えられる。その時点で情報伝達対象は不特定化する。

 ホームレスにしてもラジオを持っている者もいる。街路灯等から電気を盗んで見れるようにしたテレビを持っている者もいるかもしれない。ラジオを聴きながら、あるいはテレビを見ながら、「麻生め、相変わらずお為ごかしをほざいている」と呟いているホームレスもいるかもしれない。

 マスメディアを介した情報伝達対象の不特定化を逆説するなら、例え大学の講堂での大学生相手の「大学生生活」をテーマとした講演であっても、情報を発信する最初の時点で情報伝達対象を不特定化して、誰の批判にも耐え得る情報発信が条件となるということであろう。特にマスメディアがその情報を日本全国に向けて仲介する場合はすべての人間の批判に耐え得る情報発信が必要になる。

 だとすると、〈若者が学ぶ大学が多く、「成長戦略を重視する党として未来を意識した」〉は単なる体裁、あるいはタテマエということにならないだろうか。ならないとしたら、では少ない年金や介護で苦労している高齢者の「未来」では間に合わない今ある“現実”はどうしてくれる、考えていないのか、対象に入らないのかという批判が起こりかねない。

 麻生の第一声を「NHK」記事の動画から文字化してみた。

 麻生「100年に一度と言われる、あの経済情勢の中に於いて、我々は政策より、政局より経済対策、景気対策を優先すべきだと確信しました。私共がやりました、経済対策は当たったんだと。無策だと言われた。色々言われましたが、結果がそれを示しています。景気対策はまだまだ道半ば、我々自由民主党は引き続きこの経済政策を継続します。

 民主党のマニフェストの中にどこに経済成長が書いてあります。経済成長なくして、ただただ高速道路はタダにします。子供手当てはタダにします。こういうようなことはバラ撒きと言うんです。政権を選択するんじゃありません。政策を選択してください。日本を守るのは自由民主党です。そしてぇー、みなさん方の国民の生活を守るのは自由民主党。――」


 最後に「みなさん方の国民の生活を守るのは自由民主党」ときっぱりと言い切っていたが、現在の年金や介護・医療、幼児を預ける保育施設の不足といった子育て問題、少子化は「100年に一度と言われる」経済危機に影響を受けた諸問題ではなく、自民党政治が「みなさん方の国民の生活を守る」ために長年に亘って積み上げてきた「みなさん方の国民の生活」という逆説であって、それを「みなさん方の国民の生活を守るのは自由民主党」と宣言するのは薄汚い欺瞞そのもの、ゴマカシそのものであろう。

 いわば麻生はゴマカシを平気で口にしている。

 麻生は「私共がやりました、経済対策は当たった」と言っている。「当たった」は的中したということで、成功の意味を含む。そして「結果がそれを示しています」と「結果」を成功の証拠として提示している。上記「NHK」動画記事は株価や経済成長率の数字が上がったことを成功の証拠として挙げたと伝えているが、17日の主要6政党党首討論会でも言っていた「経済成長率は1年3ヶ月ぶりにプラスになりました」といったことを再び繰返して、成功の傍証としたのだろう。

 しかし株価はアメリカの株価を反映させた上下動で、日本発の主体的株価の動きとはなっていない。

 にも関わらず麻生内閣の経済対策は成功したと遊説第一声で宣言した。だが、成功したと自ら宣言したにも関わらず、続いて「景気対策はまだまだ道半ば」と、自らの宣言に反して成功に至っていないことを自ら証言している。

 「景気対策はまだまだ道半ば」――実態はそれ以下と見ている者が多いと思うのだが、どちらにしても到達していないことは誰の目にも明らかなことで、そのことからすると、「私共がやりました、経済対策は当たった」=成功したは薄汚い欺瞞と化す。ゴマカシそのものとなる。

 野球ではプロ野球でも高校野球でも、9回裏逆転打を浴びて逆転負けといった失敗はいくらである。9回が終わるまで、投手起用にしても選手起用にしても、監督の采配が「当たった」、成功したとは言えない。

 経済の実情はどうなのか、新聞等から見てみる。

 主要6政党党首討論会でも言っていたように09年4~6月期の物価変動の影響を除いた実質GDP(季節調整済み)は前期比0.9%増、年率換算で3.7%増で、GDPがプラス成長となるのは08年1~3月期以来、5期ぶりだそうだ。(《GDP、5期ぶりプラス成長 年率3.7%増、4~6月》asahi.com/2009年8月17日10時23分)

 麻生はテレビで「先進国の中で一番高い数値だ」といったことを言って自慢していたが、中国で中国政府が大型の景気刺激策として日本円で総額50兆円を超える規模の内需拡大策を打ち出して引き出した国内経済の回復を受けた日本の中国外需の恩恵も無視できない量で入っている「プラス成長」でもある。

 但し中国でも内需拡大策が功を奏しつつも、元々は日本と同じ外需依存型経済構造を取っているために経済成長の大きな原動力となってきた輸出や海外からの直接投資が欧米の景気が好転しないことから改善しておらず、大きな懸念材料となっていると「NHK」記事が伝えている。

 いわば中国の本格的な景気回復にしても欧米の本格的な景気回復待ちということで、その条件を欠いた場合、中国の内需恩恵を受けた日本の中国外需にしてもその継続性の保証を失うことになる。

 と言うことは、中国の国内景気回復とそのことによる日本の中国外需の助けを一因とした「GDP3.7%」でもあるのだから、決して「私共がやりました」とは言えず、当然のこととして、現時点で「私共がやりました、経済対策は当たった」と言える状況にはないことになる。

 GDP3.7%プラス成長に関して、上記「asahi.com」記事は次のように解説している。

 〈ただ、本格回復は遠い。プラス成長に転じたとはいえ、4~6月期の実質GDPの実額は年換算で526兆円と、直近のピークの08年1~3月期の569兆円を大きく下回る。物価変動を反映し、実感により近いとされる名目GDP(季節調整済み)は、4~6月期も前期比0.2%減、年率換算で0.7%減で、5期連続のマイナスだった。 〉――

 選挙遊説で「経済対策は当たった」と自慢して宣伝する程のことではないということである。

 同記事は「GDP3.7%」の貢献項目に「輸出と個人消費の持ち直し」を挙げている。「輸出」は「NHK」が伝えていたように中国外需が中心だとしている。「個人消費」はGDPの5割超を占めていて、3期ぶりにプラスに転じたそうだが、その原因を政府が景気対策で導入した家電購入補助のエコポイント制度やエコカー減税を受けた薄型テレビや自動車の販売が主として下支えしたものだとしている。

 記事は〈景気の先行きが不透明で企業が工場設備の増強を抑えていることから、設備投資は08年4~6月期から5期連続でマイナス。住宅投資は2期連続で減少した。〉と懸念材料を伝えているが、「個人消費」が主としてエコポイント制度・エコカー減税等の政府の景気対策を受けたものであるなら、車や家電製品を買い替える余裕のある高額所得者、あるいは比較高額所得者のみの「個人消費」の傾向が強く、絶対多数を占める中小所得者には無縁の現象だったと言うことではないだろうか。高額所得者、比較高額所得者の「個人消費」にしても、一通り買い換える先食いが終わったとき、その反動を受けた消費低迷を受けない保証はない。
 
 主として高額所得者、あるいは比較高額所得者が貢献した「個人消費」であることは「毎日jp」(09年8月18日)記事――《トヨタ:レクサスのハイブリッド車 受注1カ月で1万台》が証明してくれる。

 〈トヨタ自動車は18日、高級車ブランド「レクサス」初のハイブリッド専用車「HS250h」の受注台数が、7月14日の発売から約1カ月で1万台に達したと発表した。当初の月間販売目標(500台)の20倍で、同社は「現在受注しても、納車が来年2月下旬になる」と説明している。

 HS250hは、ガソリン1リットル当たりの走行距離が23キロで、高級セダンながらコンパクトカー「ヴィッツ」並みの燃費性能を持つ。最廉価モデルが395万円とレクサスでは最も安いことも顧客獲得につながっている。発売時点で受注台数が3000台に達していた。【坂井隆之】〉――

 「最廉価モデル」で「395万円」――いくら36ヶ月のローンでも、1千万人を超える年収200万円以下の人間には手が出ないだろうし、派遣切りに遭った、会社が倒産して職を失った、ローンが払えなくてマンションや持ち家を手放すことになったと言った人間にはよその国の「個人消費」であろう。 

 昨18日の「NHK」記事――《所得の下落が景気の懸念材料》が上記「asahi.com」記事とは別の、景気の先行きに対する題名どおりの懸念材料を伝えていて、「個人消費」が所得に関係していることの補強材量となっている。
 
 GDP・国内総生産の速報値は物価の変動を除いた実質で1年3か月ぶりのプラス成長したものの、雇用者の所得を示す指数は7年ぶりに大幅に落ち込み、景気の先行きに対する懸念材料となっているとしている。

 具体的には、〈速報値と合わせて発表された雇用者の給与所得の総額を示す「雇用者報酬」は1.7パーセントのマイナスと前の3か月に比べて1.2ポイント悪化し、失業率が過去最悪の5.5パーセントを記録した平成14年以来、7年ぶりの大幅な落ち込みとなってい〉て、その原因として〈企業業績の悪化によるボーナスの大幅な減額や、失業率が過去最悪に迫る水準となるなど雇用情勢が悪化したため〉で、〈雇用情勢の悪化や所得の大幅な落ち込みは消費者の節約志向に拍車をかけるため、今回プラスに転じた個人消費を再び冷え込ませかねず、景気の先行きの大きな懸念材料となってい〉るとしている。

 「今回プラスに転じた個人消費」が所得に十分に余裕のある者の消費動向だということだろう。首切りに遭って収入を限りある失業手当に変えた者、あるいは企業業績の悪化から給与やボーナスを減らされた一般所得者の殆んどが関与しなかった「個人消費」と言うことなら、高・比較高所得者が一通り高額諸品を買い換えた局面を迎えた場合、ほぼ必然的に消費低迷の局面に入ることが予想される。

 こういった内実的な状況を考えると、やはり「私共がやりました経済対策は当たった」は薄汚い欺瞞、ゴマカシとしか言えなくなる。

 「asahi.com」記事――《にっぽんの争点:財源》消費増税か 予算見直しかasahi.com/2009年8月18日8時13分)が記事の最後で次のように書いている。

 〈自民党は「10年度後半に年率2%」の経済成長を目指している。平均的な民間予測に比べて楽観的な目標だ。経済成長による税収増もなく、財源が増税頼み(消費税増税)になれば、国民負担はどんどん大きくなり、「中福祉・中負担」もおぼつかない。(福間大介、山口博敬) 〉――

 この「asahi.com」記事が伝えているように自民党はこれまでも赤字国債依存の財政運営を行っている。「国と地方の『借金』は09年度末で816兆円(国619兆円、地方197兆円)」(同記事)にのぼるそうだ。

 赤字付けまわしでムダな道路、ムダな予算付け、天下りに向けたムダな報酬等々のムダ遣いを散々に続けてきた。ムダ遣いの綻び(ほころび)を繕うために医療費や介護、生活保護費などの社会保障関係予算を情け容赦なく削ってきた。地方にまわすカネも削った。弱者を殺して、政治家・官僚等の強者を生かす政治を自民党は専ら行ってきた。

 その責任も取らずに、麻生は「私共がやりました、経済対策は当たった」と言う。弱者を殺して、強者を生かす政治を行ってきたことは棚に上げて、経済政策が成功したからと、「景気対策はまだまだ道半ば、我々自由民主党は引き続きこの経済政策を継続します」と言う。

 政権にしがみつく口実としか聞こえない。政権にしがみつく口実に「経済対策は当たった」と言い、「我々自由民主党は引き続きこの経済政策を継続します」と言っているとしか受け取ることができない。

 これまでの自民党政治の責任を取ろうとしないのだから、麻生が言っていることの何から何まで薄汚い欺瞞、ゴマカシしか見ることができない。

 最後に大阪市で行った民主党鳩山代表の第一声。

 「日本の歴史を塗り替える日がやってきた。4年前の選挙では『小泉旋風』が吹き荒れ、『郵政民営化で政治もよくなる、地域もよくなる、社会保障もよくなる』と、公約でうたったが、その公約はまったく果たされておらず、惰性の政治に終止符を打たなければならない。麻生総理大臣が『責任力』と言うなら、皆さんの一票の力で責任を取ってもらい、国民が主役になる新しい政治を、勇気をもっておこそう。冷たい政治ではなく、温かい政治をつくり出すために、民主党に政権交代の力を与えてほしい」《衆院選が公示 焦点は政権選択》NHK/09年8月18日 14時31分)

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